第 2 章 力学の基本法則 15
2.5 座標変換と見かけの力 ( 慣性力 ) *
自然は合力の向きを2つの力のベクトル和の向きに選んだ
(
図2.19)
。この合力の 向きにはどのような意味があるのだろうか。その幾何学的な意味をもう少し考えて みよう。F
1F
2F
2F
3F ˜
3F
1の作用F
2の作用図
2.20
力F1,
F2の合力の向き の意味は?F1,
F2の作用の大き さの和を長さとするベクトルはあ らゆる方向に作ることができる。力
F
1およびF
2の,力F
3と直交する方向へ の作用をそれぞれF
⊥1,F
⊥2 とおくと図2.21(a)
のようになり,その大きさは互いに等しく逆向 きである(F
⊥1= − F
⊥2)
ことがわかる。つま り,2つの力の合力の向きというのは,その向 きに直交する成分が違いに等しくなる向きで ある。さらに別の視点で合力の向きを考えること もできる。
F
1と角度ϕ
をなす向きへのF
1とF
2 の作用の和を考えてみよう(
図2.21(b))
。 その作用の和をF ˜
3とおくとF ˜
3= F
1cos ϕ + F
2cos(θ − ϕ) (2.64)
となる。ここで,θ
はF
1とF
2がなす角であり,F
1= | F
1| , F
2= | F
2| , ˜ F
3= | F ˜
3|
である。F ˜
3が最大になるような角度ϕ
を求めてみよう。このような角度は次式を 満たす角度である。d F ˜
3dϕ = − F
1sin ϕ + F
2sin(θ − ϕ) = 0 (2.65)
さて,特にϕ
がF
1 とF
2 の合力F
3 の向きを表す角度であれば前述の通り| F
⊥1| = | F
⊥2|
なので,F
1sin ϕ = F
2sin(θ − ϕ) (2.66)
である(
図2.21(a))
。この式は式(2.65)
をちょうど満たすことがわかる。すなわち 2つの力の合力の向きとは,2つの力の作用の和が最大になる向きであることがわ かる。F
1F
2F
3F
⊥1F
⊥2θ ϕ
(a)
θ ϕ F
1F
2F
3F ˜
3(b)
図
2.21
合力の向きの意味。(a)
2つの力F1,F
2の,合力と直交する方向への作用F⊥1 と F⊥2 は逆向きで大きさは等しい。(2)
2つの力F1,F
2の作用の和が最大になる方向が,合 力の方向である。2.5
座標変換と見かけの力(
慣性力)
*39
O
O
s(t) x
˜ x A
図
2.22
地上に固定した座標系x(t) と電車に固定した座標系x(t)˜
地上に固定した一次元座標を考え,ある物体
A
の位置をx
で表す。そして,この座 標系は慣性系であるとみなすその一次元座 標に沿って走る電車の位置をs(t)
,電車か ら見た物体の位置をx ˜
とすると次式が成立 する。x = ˜ x + s(t) (2.67)
電車が等速度で走っているならば定数
a, b
を用いてs(t) = at + b (2.68)
とかけるので,これを式
(2.67)
に代入すると次式が得られる。x = ˜ x + at + b (2.69)
このように,互いに等速度運動を行う座標系を結び付ける座標変換をガリレイ変換
(galilean transformation)
という。[
例題2.8]
物体A
を地上からみた位置をx
,等速度で走る電車から見た位置 をx ˜
とおく。物体A
に力F
が働くとき,地上からみた物体A
の運動は,運 動方程式m¨ x = F (2.70)
で表すことができる。等速度で走る電車から見た座標系でも,同様に次式で 表されることを示しなさい。
m x ¨ ˜ = F (2.71)
[
解説] x
とx ˜
の間には関係式(2.69)
が成り立つ。この両辺を時間で2回微分する と次式を得る。¨ x = ¨ ˜ x
′ 式(2.70)
に代入すると、m x ¨ ˜ = F
式(2.71)
を得る。前問の結果から,運動方程式は,互いに等速度運動を行う座標系を選ぶ限りどの 座標系においても同じ形で書くことができる,つまり,ガリレイ変換によって関 係付けられる2つの座標系において,物体の運動はまったく同じ物理法則に従う ことがわかる。もちろん,座標系間の速度が
0
の時(
式(2.69)
でa = 0
のとき)
, すなわち原点が異なるだけの場合についても同様である。これがいわゆる物理法 則における対称性の一つであり,ガリレイの相対性原理もしくはガリレイ不変性(galilean invariance)
という。ニュートンの運動方程式は多くの実験の結果より経験的に導かれたものであっ た。言い替えると,経験上これに反する物理現象は無いとされ,物理世界の真理を 表す式として確立されたものである。身の回りの力学的現象の全てを,このように 単純な式で説明できるということは大変な発見である。
しかし,本節で示したような座標変換によるニュートン力学の不変性は後に否定 され,アインシュタインの相対性理論によって書き直されることになった。座標変 換は時間を含む形に修正され,さらに質量は速度の関数になるなど,ニュートンに よる古典力学は大きく修正された。
ガリレイやニュートンは,「定量的な表現と論述」を可能とする「数学」という 言語を開拓し,多くの実験結果をこの新しい言語でまとめあげていった。これによ り,それまでの時代の「定性的表現」による方法よりも深い洞察を可能とし,自然 法則を浮き彫りにしていった。しかし,彼らの手法はあくまで実験結果をもとに背 後の真理を洞察する方法であった。
一方,アインシュタインはまったくの想像の世界からわいたようにも思える仮定
(
光の速度はどんな座標系で測っても同じとする光速度不変の原理)
を出発点とし,さらにその仮定に基づく思考実験という一見現実世界とどう結び付くかわからない ようなプロセスによって,「動いてる棒は縮む」やら「動いてると時間がのびる」や らといった,これまた当時の実験では検証不可能な物語を作ることによって,力学 に関する従来の常識を打ち破った。そこには日常観察される力学現象と理論の間に 非常に大きな隔たりができている。
にも関わらず相対論が受け入れられていったということはおそるべき話である。
一つ間違えば「宇宙の真理は光です」とかなんとか口走るチマタの教祖様と変わら ない。それがトンデモ系で終らなかったということは,その新しい考えに魅力が あったのみならず,アインシュタインが自分のアイデアを説明するための表現力が 非常に優れていたということだろう。
なにはともあれ,我々が日常経験する物理現象については,ニュートンの運動方 程式でその本質を十分表現することができる。
[
例題2.9]
電車が加速度a
で等加速度運動を行ってる場合,例えば次式が成立 する場合を考えよう。s(t) = a
2 t
2(2.72)
この場合,電車から見た座標系での物体の運動方程式は,
m x ¨ ˜ = F − ma (2.73)
となることを示しなさい。
[
解説]
式(2.67)
に式(2.72)
を代入して,両辺を二階微分すると,¨
x = ¨ x ˜ + a (2.74)
これを物体を地上から見たときの運動方程式