第 1 章 多変数関数の積分 ( 重積分 ) 12
1.7 広義積分
1.7.7 広義積分の計算の手引き
余談 1.7.1 (絶対収束=広義積分可能?) こうして「絶対収束ならば広義積分可能」であるこ とが分かったが、絶対収束と広義積分可能の違いはどの程度あるのだろう?(つまり絶対収束 はしないが、広義積分可能である場合はどのくらいあるのか?) 実は両者には差がないという 見解がある38。残念ながら筆者は証明を見たことがないが、状況証拠は色々あるし(級数が可 換収束することは絶対収束することと同値、ルベーグ積分ではf が可積分であることと |f|が 可積分であることは同値)、証明のあらすじも思い描ける。ただ厳密な証明を書き下すのは骨 が折れそうなので、ここでは断定を避けておく。
(2009年9月2日加筆) 稲葉[3]で紹介されている
E. V. Hobson, The Theory of Functions of a Real Variable, third edition, Cam-bridge (1927), pp. 518–533
は、今ではパブリック・ドメインにおかれているようで、ネットから無料で入手可能である(http:
//ia310142.us.archive.org/2/items/theoryfunctreal01hobsrich/theoryfunctreal01hobsrich.
pdf)。読んでみるとよいかもしれない…と思ったのだが、やり始めて「はてな?」。ずばり書 いてあるわけではなさそうだ。[3]でもう一つあげられている
福原満州雄, 微積分学 (数学解析第一巻),至文堂 (1952), pp.398–400.
を見てみるかな…
(b) 具体的な極限値が計算できなくても、無限大に発散するかどうかだけチェックすれ ば十分である。そこで|f| ≤φなる関数φで、
∫
Kn
φ(x)dx が収束するものがない かどうか調べる。
3. Ω\N のコンパクト近似列 {Kn}n∈N を一つ選んで、
∫
Kn
f(x)dx を計算する。有限の値 に収束すれば、それがこの広義積分の値である。
例 1.7.20 (被積分関数が非有界) すでに計算済みの広義積分 I =
∫∫
x2+y2≤1
dx dy
√x2+y2 を見直してみよう。Ω = {(x, y);x2 +y2 ≤ 1}, f(x, y) = 1
√x2+y2, N = {(0,0)} である。
f ≥0であるから、コンパクト近似列を一つ取って計算すればよい。
Kn ={(x, y); 1/n2 ≤x2+y2 ≤1}
により定まる {Kn}n∈N は、確かに Ω\N のコンパクト近似列である。極座標変換 x=rcosθ, y=rsinθ (r≥0,θ ∈[0,2π])
によって Kn に対応するのは
Dn={(r, θ); 1/n≤r ≤1, θ ∈[0,2π]} である。よって、
∫∫
Kn
f(x, y)dx dy =
∫∫
Dn
1
r ·r drdθ =
∫ 2π
0
dθ
∫ 1
1/n
dr = 2π (
1− 1 n
)
→2π (n→ ∞).
ゆえに I = 2π.
例 1.7.21 (被積分関数が正負両方の値を取る) 広義積分
∫∫
x2+y2≤1
y
x2+y2 dx dy
については、被積分関数が正にも負にもなるので、厳密には、まず
∫∫
x2+y2≤1
|y|
x2+y2 dx dy
を調べることになる(つまり、絶対収束かどうか)。これが存在することはKn={(x, y); 1/n2 ≤ x2+y2 ≤1} として、
∫∫
Kn
|y|
x2+y2 dx dy =
∫∫
1/n≤r≤1 θ∈[0,2π]
|rsinθ|
r2 ·r dr dθ = 4(1−1/n)<4
から簡単に分かる。それから後は、上の例と同じである。答は 0. これは対称性に気づけば明 らかである(積分が存在することのチェックはサボるわけにはいかない—
∫
R
x dxなどを考え
例 1.7.22 (積分範囲が非有界) α を正の定数とするとき、広義積分 I =
∫∫
x2+y2≥1
dx dy (x2+y2)α については、Ω ={(x, y);x2+y2 ≥1}, f(x, y) = 1
(x2+y2)α,N =∅ (空集合) である。f ≥0 であるから、一つコンパクト近似列を取って計算すればよい。
Kn={(x, y); 1≤x2+y2 ≤n2} とおくと、{Kn}n∈N は Ω のコンパクト近似列で、極座標変換
x=rcosθ, y=rsinθ (r≥0,θ ∈[0,2π]) によって Kn に対応するのは
Dn={(r, θ); 1 ≤r≤n, θ∈[0,2π]} である。よって、
∫∫
Kn
f(x, y)dx dy =
∫∫
Dn
1
r2α ·r drdθ =
∫ 2π
0
dθ
∫ n
1
r1−2αdr
= 2π×
[ r2(1−α) 2(1−α)
]n 1
= n2(1−α)−1
2(1−α) (1−2α ̸=−1) [logr]n1 = logn (1−2α =−1)
→
{ π
α−1 (α >1)
∞ (α≤1)
(n → ∞).
ゆえに α >1 のとき広義積分は収束して値は π/(α−1), 0 < α≤1 のとき広義積分は発散す る。
例 1.7.23 (確率積分) 確率論の正規分布39の話などに現れる
∫ ∞
0
e−x2 dx について考える。まず
Ω ={(x, y)∈R2;x≥0, y ≥0}, f(x, y) = e−x2−y2
として、 ∫∫
Ω
f(x, y)dx dy
を考えよう。次式で Ωのコンパクト近似列 {Kn},{Cn} を定義する:
Kn = [0, n]×[0, n], Cn={(x, y);x≥0, y ≥0, x2+y2 ≤n2}.
39平均m, 分散σ2の正規分布の密度関数はf(x) = 1
√2πσ2exp
[−(x−2σm)2 2
]であるが、これを R全体で積分 すると1 であることの確認等に必要である。
まず f は Cn で積分可能で、
∫∫
Cn
f(x, y)dx dy= π
4(1−e−n2)→ π 4.
f ≥0に注意すると、これから f は Ωで絶対収束していることが分かる。従って π
4 = lim
n→∞
∫∫
Kn
f(x, y)dx dy= lim
n→∞
(∫ n 0
e−x2 dx )2
.
ゆえに ∫ ∞
0
e−x2dx=
√π 2 . 問
∫∫∫
x2+y2+z2≤1
dx dy dz
x2 +y2+z2 を求めよ。
問 α を正定数とする。
∫∫∫
x2+y2+z2≥1
dx dy dz
(x2+y2+z2)α が有限であるための条件と、そのとき の積分の値を求めよ。