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年度 骨・運動器疾患研究室活動状況報告

ドキュメント内 平成26年度業績集 (ページ 36-109)

<人工股関節の擢動面摩耗の研究>

1. 耐摩耗性を向上させるためガンマ線照射された”Cross-Linked Polyethylene”を使用 した人工股関節の摩耗量について、骨頭径の違い(26mm/32mm)が摩耗量に与える影 響をin vivoで経時的に計測している。これまでに手術後5年経過しても26mm群、32mm 群で摩耗量に有意差は無いことを報告した。現在、術後10年目のデータを収集し、長 期的な摩耗量についての評価を行っている。

2. 関節擢動面にセラミックを使用した人工股関節は、低摩耗であるが、合併症としてセラ ミックの破損が報告されている。それを解決すべくセラミックの耐摩耗性と破損予防を 兼ね備えた材料”オキシニウム”が臨床応用されつつあるが、まだ詳細な合併症・摩耗 量の検討は少ない。当センターでは一昨年より、多施設共同研究としてオキシニウムヘ ッドとCross-Linked Polyethyleneの組み合わせによる人工股関節手術の臨床データを 収集している。今後、収集したデータをもとに合併症・摩耗量の計測を行いその臨床的 有用性について検証する。

<人工股関節置換術後の体幹・下肢の動作解析>

人工股関節手術後の重篤な合併症の一つに脱臼がある。安全な股関節可動域は患者毎に 異なるにもかかわらず脱臼を予防するために一律に過度の動作制限を患者に強制している のが現状である。当センターでは人工股関節手術を行った患者に対して個別の安全可動域 を検討し、患者のADLの拡大を図ることを目的として、赤外線位置センサーを用いた三次 元位置計測システムを用いて動作解析を継続している。これまでの研究成果として、①靴 下着脱動作に着目して自宅で高頻度に行われている靴下着脱動作パターンを聞き取り調査 にて明らかにし、その動作パターンに対して術後患者(n=20)を対象に三次元位置計測シ ステムにて検証を行ったところ、股関節の動きは健常者(n=10)と比較してもほぼ同等で あり、脱臼しない安全範囲内(20度以上の安全可動域)でおさまっていることを定量的に 解明した。さらに②術後7日目の患者(n=20)に対して起居動作の検討を行ったところ、

ベッドから起き上がりに際して手術側へ介助なしに起居する動作が最も自覚的な困難感や 疼痛が少なく動作時間も短時間にて達成され、股関節角度も脱臼しない安全範囲で動作さ れていることを明らかにした。③現在、同じ患者に対して術後半年以上経過した時点で同

④さらに新たな取り組みとして術後患者(n=300)に対して各種ADL動作をどの時期からで きるようになったか、アンケート調査を開始している。

この結果をもとに、当院におけるリハビリ指導はこれまでの一律な過度の動作制限を解 除して、患者ADL 向上につながるように変更している。今後の計画として各種ADL動作の 解析をすすめ、患者指導をよりよきものへと変えていく予定である。

<低侵襲脊椎前方固定術(XLIF)の導入による手術低侵襲化に向けた取り組み>

近年,腰椎変性側弯症は高齢者のADLや QOL へ大きく影響を与える疾患として注目されて いる。腰椎変性側弯症に対する従来の手術術式は,その手術侵襲の大きさが問題視されて きたが,当センターでは大阪大学と連携し従来の手術術式にXLIFを組み合わせたハイブリ ッド手術に取り組んでいる。今年度は,その手術適応や低侵襲化の実現の可能性について,

当センターでの臨床成績を中心に日本整形外科学会認定研修講演で公表した.今後症例数 を重ね,本術式の利点・欠点について検討する。

<腰椎術後患者の円滑な早期離床にはどのような動作指導が必要か>

早期離床訓練の必要性は言うまでもないが、術直後は創部痛が強く苦痛を伴うため円滑に 離床訓練へ誘導できないことが多い。今年度は,起き上がり動作に強い疼痛を伴う後方進 入腰椎椎体間固定術(PLIF)施行患者に対して,3種類の起き上がり動作を術前に指導するこ とで,術後の円滑な離床訓練への誘導が可能かどうかをリハビリテーション科と連携し検 討した。本検討により,疼痛を最小限に抑えて起き上がる動作方法の選択肢を見出し,そ れを術前に患者に獲得させることにより,術後の円滑な離床訓練への誘導が可能であるこ とがわかった。今後は,疼痛の少なかった 1 種類の起き上がり動作に限定して指導し、そ の有効性を検討する。

<ケアに難渋する腰椎手術患者の自我状態を踏まえたケアの類型化>

脊椎疾患患者は,器質的異常や身体機能の問題にとどまらず,しばしば精神医学的要因,

心理社会的要因が関与し,痛みやしびれが遷延化することが多い。また手術症例において は,各患者個人の神経機能回復予後,またそれに要する期間は異なり,患者によって遺残 症状の訴えも様々である。今年度は,術後急性期に多くの時間を患者と共有する看護師と 連携し,術前の「各患者個人の自我状態」に着目し,患者に対する看護師の対応と患者側 の反応を後ろ向きに調査し,「各患者個人の自我状態」に応じた適切な看護を実践すること が可能か否かについて検討した。本検討により,看護師が対応に難渋した患者の「自我状態」

が明確となったため,病棟看護師全員がその情報を共有することで,より適切な看護を実 践することができる可能性が示唆された。今後は,前向き研究することによりその信頼性・

妥当性について検討する。

( 5 )再生医療研究室

室長 幸原 晴彦

副室長 大屋 健

平成26年度再生医療研究室研究報告書

脂質は三大栄養素の一つであり、単位重量当たり変換可能なエネルギーが最大となる貯蔵 に最も適した物質である。また、生命の単位である細胞を成り立たせる“膜”そのもので あり、ステロイドホルモンやビタミンDなど多数の生理活性物質の原材料となる。

脂質は、脂肪酸の化合物であるリン脂質や中性脂肪と、加水分解されないコレステロール やステロイドに大きく分けられる。高コレステロール血症が動脈硬化性疾患の促進因子で ある事は、数多くの研究により裏付けられて来た。一方、近年、脂肪酸においてもインス リン抵抗性惹起の原因として多くの研究がなされている。

飽和脂肪酸の過剰摂取が心血管系疾患発症・進行を促す事は明白である一方で、EPAやDHA などω3系脂肪酸の摂取が動脈硬化に対し抑制的に働くことは古くから知られている。こ れは脂肪酸が単にエネルギー源として利用されるだけでなく、別の生理活性を有する事を 示している。脂肪酸はリン脂質の構成素因となり、形質膜や細胞内小器官の膜の柔軟性や 生理活性に影響を与える。また、脂肪酸からはプロスタグランジン類やトロンボキサン類 などの生理活性物質が作られ、血行動態や血小板凝集などを制御している。更に、脂肪酸 はそれ自身が脂質代謝に関する遺伝子転写因子のligandであり、あるものは脂肪酸から中 性脂肪を合成して脂質の細胞内貯留を促し、あるものは中性脂肪の分解、脂肪酸の燃焼を 促進させるという様に、多様性が見られる。脂肪組織を取り巻く遊離脂肪酸の組成や濃度 が、脂肪細胞の分化、増殖、肥大化を促すと同時に、脂肪酸放出、組織縮小、細胞死にも 影響を与えていると考えられている。

コレステロール、中性脂肪、脂肪酸いずれにしても過剰に摂取すれば機能異常を来すわけ であるが、体全体で脂肪が蓄積すれば肥満といい、細胞内に脂肪が蓄積すれば泡沫化や脂 肪変性、あるいは肥大化という。両者はかなりの部分で共通の現象を表しているはずであ るが、実際の臨床の場と研究の場では大きくかけ離れ、両者を繋ぐメカニズムの研究はあ まり行われていない。

また、脂肪を蓄積するためその体積を3~6倍にも拡大し得る脂肪細胞と、それほどの余力 を持たない肝細胞や筋細胞が脂肪を蓄積するのでは、自ずと意味が異なって来る。

多くの細胞・組織で脂質蓄積と機能異常は関連を持つと推察され、その機序の解明は幅広 い臨床像の理解に資すものと考える。

1)脂肪細胞におけるサイトカイン分泌経路と調節機構の解明 脂肪組織は体内最大の内分泌器官である。

かつては単なるエネルギーの貯蔵庫、体温維持のための発熱器官と考えられていたが、こ の20年の間に脂肪細胞由来のホルモンが多数発見され、内分泌器官としての地位が定着し た。脂肪細胞では脂質代謝に関する分子を始め、ステロイド代謝、免疫関連、線溶系関連 因子などの発現が認められ、更に炎症性のサイトカインとして Leptin、Resistin、TNF 、 IL-6が、抗炎症性サイトカインとしてAdiponectin(APN)、IL-10、TGF-βが挙げられる。

また、これら自身も含め、インスリン、グルカゴン、GH など多岐にわたるサイトカインに 対する受容体が存在し、脂肪組織は実に多数のホルモン産生器官であり、同時に感受性器 官でもある。

APNは脂肪細胞が分泌する主要な抗炎症性サイトカインであり、低APN血症が動脈硬化性疾 患の危険因子である事は多くの報告がある。また、μg/ml オーダーのサイトカインとして は極めて高い血中濃度を有しているが、部分欠損体も含めた四種類の多量体が存在してお り、それぞれ活性は均一では無く、分泌調節機構も異なるとされている。未だその作用機 序は十分に解明されていないが、その最大の問題点は有効な再合成蛋白が存在しないため、

最終的な証明が得られずにいる事である。現時点では薬剤として体外から投与することも できず、生体自身の分泌を亢進させる方法が望まれ、それ故に分泌のメカニズムを知るこ とが重要性と考える。

APN は細胞内小胞輸送で分泌され、細胞内にプールを形成していることが報告されている。

また、インスリン応答性に分泌する経路と恒常的に分泌する複数の経路が想定されている。

細胞内小胞輸送は SNARE 蛋白と呼ばれる膜蛋白質によって制御されている。小胞と標的器 官の相対する両膜上に存在するSNARE分子の4ドメインが強固な複合体を形成することで、

膜を十分に近づけ、もって膜リン脂質を融合させて内部の積荷を輸送する。その 4 つの組 合せは各膜融合ステップで特異的に決まっている。更に、Rabと呼ばれるG蛋白とその関連 分子群による複合体が標的までの輸送と接続を司っており、RabとSNAREの組み合わせでよ り高度な特異性と生理的な反応速度を実現している。

低 APN 血症の病的意義に関する研究は多数見られるにもかかわらず、これら調節機構は現 時点でほとんど解明されておらず、本研究はそれらを同定する事で、病的状態での分泌低 下の理解とより効果的な分泌促進の開発を企図するものである。

そこで我々は、脂肪細胞の分化と共に発現量が増し、分泌小胞上に存在していると考えら れるSNARE蛋白であるVAMPのアイソフォームVAMP2、VAMP3、VAMP5、VAMP7をsiRNA法で発現 を抑制し、APN分泌への影響を検討することで、APN分泌経路の同定を試みた。

ドキュメント内 平成26年度業績集 (ページ 36-109)

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