能力を踏まえた対応のあり方に関する調査研究事業 作業部会②(医療・介護等の意思決定支援)
稲葉一人
中京大学
認知症の人に関する場合と、
認知症でない人(患者)の場合
• 倫理的・法的には、認知症の人に関する場合と、
認知症でない人(患者)の場合の意思決定にあたっ て特段異なった取り扱いはない。
• しかし、認知症の人は、症状の進行とともに、次第 に意思決定能力が低下していくので、倫理的・法的 な観点から、認知症の人の心身の特性に則した配 慮のための観点を指摘し、関係者が陥りやすい点 について注意を喚起することで、認知症の人の意思 決定を保護・充実させることが必要である。
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観点 1
認知症の人の尊厳は守られるべきではないか。
解 説 上記は、倫理的には人格の尊重の背景原理として、法的には「個人ないし個人の尊厳の 尊重の原則」から導くことができるのではないか。
参考資料
憲法
第 13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利 については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第24条 2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関する その他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなけれ ばならない。
民法
第2条 この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。
医療法
第 1 条の 2 医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護
師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の 状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリ ハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。
観点 2
認知症の人は、意思決定において差別を受ける べきでないのではないか。
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解 説 上記は、倫理的には正義の原則から、法的には「法の下の平等の原則」から導くことがで きるのではないか。
参考資料 憲法
第 14 条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、
政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
最高裁昭和39年5月27日大法廷判決
憲法 14 条 1 項にいう社会的身分とは、人が社会において占める継続的な地位をいうものと解される から、高令であるということは右の社会的身分に当らないとの原審の判断は相当と思われるが、右各法 条は、国民に対し、法の下の平等を保障したものであり、右各法条に列挙された事由は例示的なもの であつて、必ずしもそれに限るものではないと解するのが相当であるから、原判決が、高令であることは 社会的身分に当らないとの一事により、たやすく上告人の前示主張を排斥したのは、必ずしも十分に 意を尽したものとはいえない。しかし、右各法条は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、
差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質 に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条の否定するところではない。
医療法
第 1 条の 2 医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護
師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の 状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリ ハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。
患者の権利に関するリスボン宣言(世界医師会・2005年修正、日本医師会訳)
1.良質の医療を受ける権利
a. すべての人は、差別なしに適切な医療を受ける権利を有する。
観点 3
認知症の人は、自己決定をする権利を有し、自 己決定をしたことについては、関係者はその決 定を尊重するべきではないか。
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解 説 上記は、倫理的には、自律尊重の原則に基づき、法的には、自己決定権の保護から 導くことができるのではないか。個人にとって自律・自己決定権は重要な権利であり、程 度の差はあっても、認知症の人が自己決定し、意思決定できる可能性を尊重しなけれ ばならず、その意思決定は周囲の者が尊重することが必要である。認知症の人であると いうことで、自己決定をができないと即断するのではなく、自己決定の可能性に配慮す べきではないか。
参考資料
憲法
13 条 すべて国民は個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利について は、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする
(法学者の通説では、憲法13 条を自己決定権の根拠規定と考える。)
医療法
1 条の 2 2 医療は、国民自らの健康の保持増進のための努力を基礎として、医療を受ける者の意
向を十分に尊重し、病院、診療所、介護老人保健施設、調剤を実施する薬局その他の医療を提 供する施設(以下「医療提供施設」という。)、医療を受ける者の居宅等(居宅その他厚生労 働省令で定める場所をいう。以下同じ。)において、医療提供施設の機能に応じ効率的に、かつ
、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。
最高裁平成 12 年 2月 29日判決-エホバの証人である患者への説明義務
1 患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否する との明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重 されなければならない。
リスボン宣言
3.自己決定の権利
観点 4
認知症の人は、意思決定をする上で必要な情報に ついて説明を受けることが必要であり、医療者等は、
医療等を提供するにあたり必要な説明が求められる のではないか。
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解 説 意思決定をするためには情報を提供(説明)されることが必要であり、情報が説明され ることが自己決定権を保証する前提となる(知る権利を認めることになる)。医療等を 提供する者には必要な説明が求められることとなる。
参考資料 医療法
1 条の 4 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第一条の二に規定する
理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない。
2 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な 説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。
最高裁平成12年2月29日判決-エホバの証人である患者への説明義務
1 患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否す るとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊 重されなければならない。
2 医師らとしては、手術の際に輸血以外には救命手段がない事態に生ずる可能性を否定し難いと判 断した場合には、患者に対して、医科研としてはそのような事態に至ったときには輸血するとの方針を 採っていることを説明して、医科研への入院を継続した上、医師らの下で手術を受けるか否かを患 者本人自身の意思決定にゆだねるべきであったと解するのが相当である。
3 本件では、この説明を怠ったことにより、患者が輸血を伴う可能性のあった手術を受けるか否かにつ いて意思決定をする権利を奪ったものといわざるを得ず、この点において、同人がこれによって被った 精神的苦痛を慰謝すべき責任を負う。
ベルモント・レポート(研究対象者保護のための倫理原則および指針・生物医学および行動学研究の対 象者保護のための国家委員会・1979 年4 月18 日)
3.自己決定の権利
b.(略)患者は自分自身の決定を行う上で必要とされる情報を得る権利を有する。
観点 5
説明は、認知症の人が理解できる方法で行われるべ きではないか。
解 説 認知症の人は提供(説明)を受けた情報の理解に時間がかかったり、情報の咀嚼が難
しい場合があり、そのために関係者は説明を疎かにしたり、時間をかけた説明を怠ってしま いがちである。したがって、説明が認知症その人に沿って行われることが必要ではないか。
特に、認知症の人への説明では、その人の意向に沿うことや、雑音・時間帯・明るさ、周囲
にいる人々などの環境要因、文章や言葉使い、専門用語を避けること、情報の量が過大 とならないように配慮する必要があるのではないか。
参考資料
医療法
1 条の 4 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、第一条の二に規定する
理念に基づき、医療を受ける者に対し、良質かつ適切な医療を行うよう努めなければならない。
2 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な 説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。
リスボン宣言
7.情報に対する権利
c. 情報は、その患者の文化に適した方法で、かつ患者が理解できる方法で与えられなければならな い。