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常磁性体

ドキュメント内 E in SM 最近の更新履歴 物理学ノート (ページ 30-35)

身の周りにある磁石(強磁性体)は,マクロな磁気モーメントを持っている。マクロな磁気モーメントは,固体中 の電子が持つ微小な磁気モーメントの足し合わせである。磁気モーメント M が一様な磁場 H の中に置かれると,

H M の相互作用によって

EZ(M)=−M ·H (4.11)

なるゼーマン・エネルギーを持つ。

素粒子の1つである電子には,有限の質量と電荷*23の他に,スピンと呼ばれる固有角運動量がある*24。そのため 電子はµ0∼ 9.285×1024J T1の磁気モーメントを持つ。スピンに由来するこの磁気モーメントは,スピン磁気モー メント,あるいは単にスピンと呼ばれる。

*23ミリカンの油滴実験および比電荷の実験で測定したように,e=1.602×1019Cme=9.109×1031kgである。

*24電子の固有角運動量の大きさは 1

2である。詳細は量子力学で学ぶ

4 カノニカル分布の基本的な応用 30

4.2.1 独立なスピンから成る系

z軸方向の一様磁場 H = (0,0,H)の中に電子が1つ固定されているとき,電子のエネルギー固有状態にはスピン がz軸の正方向を向いた 上向き状態(↑) とz軸の負の方向を向いた 下向き状態(↓) が存在する。スピンを表す 物理量σˆ

σ =

{ 1, スピンが上向き

−1, スピンが下向き (4.12) と定義すれば,各固有状態におけるエネルギー固有値は

Eσ =−µ0Hσ (4.13)

で与えられる。仮にH > 0なら上向き状態のエネルギーが低く,下向き状態のエネルギーが高い。逆にH < 0なら 上向き状態のエネルギーが高く,下向き状態のエネルギーが低い。このように,スピンは磁場と同じ向きに揃おうと する傾向を持つ。

自習12. 磁気モーメントM と磁場 H のうち,示量変数および示強変数に対応するのはどちらか? また,電場 E 電気分極 P,電位V と電荷qの組でも考えてみよ。

上と同様な電子がN 個ある場合に拡張する。各スピンに j =1,2, . . .N と名前を付け,j 番目のスピン変数σj

σj =

{ 1, スピン jが上向き

−1, スピン jが下向き (4.14)

と定義する。全体のエネルギー固有状態は N 個のスピン変数の組1, σ2, . . . , σN)で指定され全部で2N 通りある。

各スピン間に相互作用がなければ,全系のエネルギーは

E(σ12,...,σN) =

N j=1

(−µ0j) (4.15)

で与えられる。

問題26.1つのスピンσˆ からなる系の分配関数Z(β,H,1)を求めよ*25。さらに σˆ の期待値⟨σˆ⟩β,H を求めよ。

答.分配関数は

Z(β,H,1)=

,

eβEi = eβµ0H +eβµ0H = 2 cosh(βµ0H) (4.16) である。スピンの期待値は

⟨σˆ⟩β,H = 1 Z(β,H,1)

,

σieβEi = (+1)eβµ0H+(−1)eβµ0H

eβµ0H+eβµ0H =tanh(βµ0H) (4.17) となる。

問題27.互いに独立な N個のスピンからなる系において,磁化mˆ を ˆ

m:= 1 N

N j=1

µ0σˆj (4.18)

と定義する。これはスピン1つあたりの磁気モーメントに対応する。

27-1.この系の分配関数Z(β,H,N)を求めよ。

答.いま,σˆj は j 番目の(電子の)スピンを表す。各電子は異なる場所(原子)に束縛されていると考えるので,

互いに区別して名前付け出来る。そのため,分配関数に 1

N! の因子は要らない。よって Z(β,H,N)=[Z(β,H,N)]N = [

eβµ0H+eβµ0H]N

=2NcoshN(βµ0H). (4.19)

*25引数の1は,スピンが1個であることを表す。

4 カノニカル分布の基本的な応用 31 27-2.磁化mˆ の期待値⟨mˆ⟩を計算しグラフで表せ。また,磁化mˆ のゆらぎσ[mˆ]を計算せよ。

答.期待値の定義より

⟨mˆ⟩=

⟨ 1 N

N j=1

µ0σˆj

= µ0 N

N j=1

⟨σˆj

= µ0

N Ntanh(βµ0H)= µ0tanh(βµ0H) (4.20) と計算できる。

磁場の強弱と高温・低温極限を議論する。各スピン磁気モーメントは±µ0で中間の値を取らないことから,以下 のことが言える。

βが有限で一定のとき

• H→ 0 (弱磁場)で ⟨mˆ⟩ →0  (±1のスピンの数が同程度)

• H→ ±∞(強磁場)で⟨mˆ⟩ → ±µ0 (ほとんどのスピンが±1に揃う)

H ≷ 0で一定のとき

• β →0 (高温)で ⟨mˆ⟩ →0   (±1のスピンの数が同程度)

• β → ∞ (低温)で⟨mˆ⟩ → ±µ0  (ほとんどのスピンが±1に揃う)

まとめると

弱磁場・高温ほどスピンは,バラつく・乱雑な状態(S優先),

強磁場・低温ほどスピンは,全体で1つのスピンのように振る舞う(E 優先)となる。

次にゆらぎσ[mˆ]=

⟨mˆ2⟩ − ⟨mˆ⟩2を求める。

⟨mˆ2⟩=

⟨µ20 N2

N j=1

ˆ σj

N k=1

ˆ σk

= µ20 N2

N j=1

N k=1

⟨σˆjσˆk

= µ20 N2

[∑N

j=1 (j=k)

⟨σˆ2j⟩+

N j,k=1 (j,k)

⟨σˆjσˆk⟩]

= µ20

N2[N+(N2−N)tanh2(βµ0H)]= µ20tanh2(βµ0H) − µ20

N [1−tanh2(βµ0H)]. (4.21) 従って

σ[mˆ]= µ0

√N

1−tanh2(βµ0H) ≤ µ0

√N (4.22)

となる。ここで(4.20)より,(H = 0でなければ)⟨mˆ⟩ ∼ µ0程度なので σ[mˆ]

⟨mˆ⟩ = 1

√Nsinh(βµ0H) ∼ 1

√N ∼1012 (4.23)

である。期待値 ⟨mˆ⟩に比べてゆらぎσ[mˆ]が十分小さいので,⟨mˆ⟩は確定値と思って良い。

27-3.磁化率 χ(β)

χ(β):= ∂⟨mˆ⟩

∂H

H=0

(4.24) を計算せよ。また磁化率がどういった量か説明せよ。

答.上の定義と(4.20)より χ(β)= ∂

∂Hµ0tanh(βµ0H) H=0

=

βµ20 cosh2(βµ0H)

H=0

= βµ20= µ20

k T1. (4.25)

磁化率 χ(β)は,H = 0から磁場をかけたときの磁化の起こり易さを表す。つまり χ(β)が大きいほど磁化し易い。

(4.25)より,χ(β)T に反比例し,低温ほど磁化し易いことが分かる。これは,Curieの法則と呼ばれる。

27-4.ヘルムホルツの自由エネルギーF とエントロピーSを求め,断熱消磁について説明せよ。

答.FZ の関係式より F(T,H,N)= −1

βlogZ(β,H,N)=−1 βlog[

2NcoshN(βµ0H)]

= −N kTlog[

2 cosh µ0H kT

]

. (4.26)

4 カノニカル分布の基本的な応用 32 N に比例するので示量性を持つことが分かる。またFとSの関係式より

S(T,H,N)=−∂F(T,H,N)

∂T = N k

{ log[

2 cosh µ0H kT

] +T(

−µ0H kT2 )

tanh µ0H kT

}

= N k {

log [

2 cosh µ0H kT

]

− µ0H

kT tanh µ0H kT

}

(4.27) を得る。S =(⟨Hˆ⟩

−F)/T から求めても良い。

4.2.2 2つずつのスピンが相互作用する系

磁性体が完全に一様ではなく,2つづつの原子がペアになって近い距離にあるとする。そのため,それぞれの原子 の電子軌道に重なりが生じ,スピンの間に相互作用が働く。このような相互作用はハイゼンベルクの交換相互作用と 呼ばれる。

問題28. スピンの総数 N を偶数とし,スピンに j = 1,2, . . . ,N と通し番号を振る。エネルギー固有状態は,スピン 変数の組(σ1, . . . , σN)で指定される。スピン1と2,スピン3と4,一般にスピン2i−1と2iが隣り合って相互作 用しているとする。この系のエネルギー固有値を

E(σ1,...,σN) =−J

N/2

j=1

σ2i1σ2i− µ0H

N j=1

σj (4.28)

とする。Jは交換相互作用定数といわれる物質固有のパラメータであり,物質によって正または負の値をとる。

28-1.隣り合うスピンは平行・反平行のどちらがエネルギー的に有利か? J の符号と合わせて答えよ。

答.系のエネルギー(4.28)で,第1項がスピン間のエネルギーを表し,第2項が外部磁場によるエネルギーを表 す。今,隣り合うスピンの向きに注目するので,第1項−Jσ2i1σ2i が負になった方がエネルギー的に有利となる。

各スピンσ は±1の値をとるので

−Jσ2i1σ2i =

{−J, σ2i1= σ2i

J, σ2i1= −σ2i (4.29)

よってJ > 0ならスピンが平行(同符号)のときがエネルギー的に有利となり,J < 0ならスピンが反平行(異符号)

のときがエネルギー的に有利となる。従って,J > 0ならスピンが同じ向きに揃い易く,J < 0ならスピンが反対向 きになり易い。

28-2.スピン1と2のペアからなる系の分配関数Z2(β,H)を求めよ。

答.全系を独立な部分からなる系として扱うため,基本となる一つの系を考える。この系では,相互作用し合う2 つのスピンによるペアを最小単位の部分系と考えれば良い。このペアのエネルギーは

E(σ12) =−Jσ1σ2− µ0H(σ12) (4.30) である。σ1, σ2がとる±1の値と,(4.30)の2つの項に現れる物理量σ1σ2とσ12の値およびE(σ12) の値を整 理すると下の表の通りになる。

1, σ2) (1,1) (1,−1) (−1,1) (−1,−1)

σ1σ2 1 −1 −1 1

σ12 2 0 0 −2

E(σ12) −J−2µ0H J J −J+2µ0H

この表と分配関数の定義より,スピンペアの分配関数を計算すると

Z2(β,H)= eβJ+2βµ0H+eβJ +eβJ +eβJ2βµ0H = 2{eβJcosh(2βµ0H)+eβJ} (4.31) となる。J =0のとき,スピン系1個からなる系の分配関数(4.16)に一致する。

4 カノニカル分布の基本的な応用 33 28-3. 2つのスピンの和の期待値⟨σˆ1+σˆ2β,H を求めよ。

答.期待値の定義と上の表より

⟨σˆ1+σˆ2β,H = 2eβJ+2βµ0H +0+0−2eβJ2βµ0H

Z2(β,H) = 2eβJsinh(2βµ0H)

eβJcosh(2βµ0H)+eβJ (4.32) を得る。

28-4.全系の分配関数 ZN(β,H)を求めよ。

答.全系は,このペアが独立にN/2個あるので,N/2乗すれば良い。

ZN(β,H)=(Z2(β,H))N/2 = (

2{eβJcosh(2βµ0H)+eβJ})N/2

. (4.33)

28-5.スピン1つあたりのエネルギーの期待値

⟨Hˆ⟩can

β,H

N を求めよ。

答.エネルギーと分配関数との関係より

⟨Hˆ⟩can

β,H

N =−1 N

∂ β logZN(β,H)= −1 N

∂ β log(

2{eβJcosh(2βµ0H)+eβJ})N/2

=−1 2

JeβJcosh(2βµ0H)+2µ0HeβJsinh(2βµ0H) −JeβJ eβJcosh(2βµ0H)+eβJ

=−J{eβJcosh(2βµ0H) −eβJ}+2µ0HeβJsinh(2βµ0H)

2{eβJcosh(2βµ0H)+eβJ} (4.34)

となる。特に,磁場無し H =0では

⟨Hˆ⟩can β,0

N = −J(eβJ −eβJ) 2(eβJ +eβJ) =−J

2 tanh(βJ)= −J

2 tanh J

kT (4.35)

とまとまる。

28-6.磁場が0のときのスピン1つあたりの比熱c(T)を求めよ。

答.比熱の定義と(4.35)より

c(T):= d dT

⟨Hˆ⟩can β,0

N = J2 2kT2

1

cosh2 kTJ (4.36)

と計算できる。

28-7.磁化の期待値 ⟨m⟩canβ,H を求めよ。

答.独立な部分系からなる系の性質と,磁化の定義(4.18),スピンペアの期待値(4.32)を用いて

⟨m⟩canβ,H = 1 N

⟨∑N

j=1

µ0σˆj

= µ0 N

N/2

j=1

⟨σˆ2j1+σˆ2j

= µ0 N

N 2

2eβJsinh(2βµ0H) eβJcosh(2βµ0H)+eβJ

= µ0 eβJsinh(2βµ0H)

eβJcosh(2βµ0H)+eβJ (4.37)

と求まる。

28-8.磁化率 χ(β)を求め,図示せよ。J の符号による違いを述べよ。

答.磁化率の定義(4.24)と磁化の期待値(4.37)より χ(β)= ∂⟨mˆ⟩

∂H

H=0

= ∂

∂Hµ0 eβJsinh(2βµ0H) eβJcosh(2βµ0H)+eβJ

H=0

=

20β

1+e2βJ. (4.38)

4 カノニカル分布の基本的な応用 34

ドキュメント内 E in SM 最近の更新履歴 物理学ノート (ページ 30-35)

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