各サービスにおいて結果提供の際に行われる著作物の表示等に関し,これに対応するラ イセンス市場が形成されている場合に権利者に及び得る不利益についてどのように評価す べきか,具体的にはライセンス市場が形成されている場合にこれを権利制限に優先させる べきかという点が問題となる。
この点については,以下のように,少なくとも一律にライセンス市場への配慮を行うこ とには消極的な意見があった。
・両サービスのように「道しるべ」等として軽微な範囲で利用する場合は,ライセンス 市場に対しコンテンツそのものの享受のために利用する場合と同様の配慮を行う必要 はないのではないか。
・契約による対応困難性は正当化根拠の一つにはなるが主要なものではないので,仮に ライセンス市場に対する考慮を行うにしても「権利者の利益を不当に害することとな る場合」には権利制限規定を適用しないとするただし書の解釈で処理するべきではな いか。
・権利制限により利用できる範囲を超えた著作物の利用を許諾することで権利者はライ センスビジネスを継続することも可能であると考えられ,その点にも注意して議論す る必要がある。
・権利者から許諾を得て独占的にサービスを提供していた事業者が,権利制限規定の創 設により市場を独占できなくなることは権利者の不利益として考慮すべきではない。
これらの意見を踏まえれば,明文上一律にライセンス市場が優先するような仕組みを設 けることは適当ではなく,個別の事情に応じて権利者の保護すべき利益への配慮がなされ るような制度設計を行うことが望ましいと考えられる。
ウ.著作者人格権や著作権法で保護される権利以外の権利について
「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会中間まとめ」(平成29年2月)に 対する意見募集(以下「意見募集」という。)に応じて提出された意見においては,所在 検索サービスにおけるスニペット表示のように著作者の意向の及ばないところで機械的に 情報が分断された情報は利用者に間違った理解を引き起こしかねず,著作者人格権の問題 が生じる可能性があるとの懸念が示された。
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また,WTが実施したヒアリングにおいて,放送関係者からは,将来の取材活動が制約 されることとならないよう,人権やプライバシー上の配慮からニュース番組等の二次的利 用の管理を慎重に行う必要がある旨の意見が示された77。
この点,今回本分科会が提言する権利制限規定の整備によって,著作者人格権や,パブ リシティ権を含む肖像権やプライバシー権など著作権法上の保護を受ける権利以外の権利 の侵害が認められることとなるものと解してはならない。第2層に係る権利制限規定の適 用を受けて所在検索サービスや情報分析サービスを提供する者にあっては,当該規定の整 備前と同様に,これらの権利を適切に保護することが求められることに留意する必要があ る。
77 平成28年度WT(第1回)における一般社団法人日本民間放送連盟,日本放送協会発表意見
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(3)公益的政策実現のために著作物の利用の促進が期待される行為類型 [第3層]
著作物の本来的利用を伴う場合も含むが,文化の発展等の公益的政策の実現のため権 利者の利益との調整が求められる行為類型であり,現行権利制限規定では,引用,教 育,障害者,報道等の様々な場面に係る権利制限規定がこれに該当する。この類型は,
基本的には公益的必要性や権利者の利益との調整に関する政策判断や政治的判断を要す る事項に関するものである。このため,一義的には立法府において,権利制限を正当化 する社会的意義等の種類や性質に応じて,権利制限の範囲を画定した上で,適切な明確 性と柔軟性の度合いを検討することが望ましい。
ア.第3層の考え方
権利制限規定により認められることとなる行為が著作物の本来的利用を伴うものである 場合,仮に権利制限規定がなかったとしたならば許諾権の行使により権利者に確保される はずであった本来的市場における対価回収機会等が失われることとなり,権利者に相当の 不利益が及ぶこととなる。著作権法が求める権利保護と公正な利用との均衡の要請に鑑み れば,このような場合において権利制限が正当化されるためには,権利者に及び得る不利 益に優先して実現すべき社会的利益の存在が説明される必要があり,さらに,権利制限が 認められる範囲や条件の決定は,実現すべき社会的利益の性質や内容を踏まえ,これと権 利者に及び得る不利益との比較考量を経て行われる必要がある。
したがって,本来的利用を伴う場合をも射程に入れた権利制限規定の整備は,原則とし て,実現すべき社会的利益の種類ごとに,その性質や内容を踏まえた適切な範囲について 行うことが求められる。その際,権利者の利益と社会的利益との比較考量は,基本的には 政策判断や政治的判断を要する事項であることから,一義的には立法府においてこれを行 った上で,権利制限の範囲を画定し,適切な明確性と柔軟性の度合いを検討することが望 ましい78。
なお,第3層に該当する各権利制限規定に確保されるべき柔軟性の度合いは,実現しよ うとする社会的利益の性質や内容に応じて決定されるものであるから,各規定の趣旨に応 じて,柔軟性の高いものが馴染む場合もあれば,個別具体的に要件を定めた方がより望ま しい場合もあることに留意が必要である79。具体的な制度設計の検討に当たっては,権利 制限の趣旨に応じ,3.(2)で述べた立法府と司法府の役割分担や特質も踏まえ,適切 な柔軟性の在り方を検討することが求められる。
78 例えば,法第35条では,主体を非営利目的の教育機関に限定しているほか,授業の過程における利用に限定して いる。こうした要件設定は,教育活動に一般的に公益性が認められるとしても,権利者に及び得る不利益に優先する ことが正当化されるのは,これら一定の条件を満たす場合に限られるとの判断がなされた結果であると考えられる。
79 例えば,現行著作権法では,引用(法第32条)や報道目的(法第41条)の権利制限規定は相対的にみて柔軟性 が高い規定であると言える。
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イ.優先的に検討すべきとされたニーズについて
翻訳サービス
WTにおいて優先して検討すべきとされたニーズのうち,「翻訳サービス」については,
著作物の本来的利用を伴う場合があることから,公共的政策の実現のため権利者の利益と の調整が求められる行為類型(第3層)に当たる。そのため,サービスの目的・態様等を 踏まえ,当該サービスの社会的意義や,著作物の利用により権利者に及び得る不利益の度 合い等を慎重に検討した上で,権利制限の範囲や規定の柔軟性の程度を判断する必要があ る。
「翻訳サービス」については,観光政策を含む産業政策上の意義があることが認められ る。具体的には,日本再興戦略2016は観光を「『地方創生』への切り札」「GDP6 00兆円達成への成長戦略の柱」と位置付け,観光を我が国の基幹産業へと成長させるた めの具体的な施策の一つとして,多言語音声翻訳システムの認知度向上と更なる普及拡大 を挙げている。このほか,日本再興戦略2016は,第4次産業革命の下での熾烈なグロ ーバル競争に打ち勝つためには高度外国人材のより積極的な受入れを図り,我が国経済全 体の生産性を向上させることが重要であるとし,外国人受入れ推進のための生活環境整備 の一環として,医療機関,銀行,電気・ガス事業者等に対して, 外国語対応が可能な拠 点等に関する分かりやすい情報発信を行うよう関係省庁から働きかけることとしている。
この他,「明日の日本を支える観光ビジョン」(平成28年3月30日明日の日本を支え る観光ビジョン構想会議)80においても,外国人の受入れ環境の整備について指摘されて おり,その一環としての言語面での対応については,病院・商業施設等における多言語音 声翻訳システムの社会実装化や,ウェブサイトの多言語化,防犯・防災等に資する情報の 多言語での提供を可能とする体制を整備することとされている。また,こうした言語面の 対応を含む外国人の受入れ環境の整備の重要性は,上記のような産業政策的な観点だけで なく,外国人の人権保障や我が国の地域政策等の観点からも政府計画において指摘されて いる81。
これらのことから,観光立国,高度外国人材の受入れなどによる我が国の産業競争力の 強化や地方活性化,外国人の人権保障の推進という観点から,我が国の言語の理解が困難 な者に対して翻訳サービスを提供することには社会的意義ないし公益性が認められると考 えられる。
このうち権利制限規定の整備の要請が特に強いのは,ニーズ募集において提出のあった ニーズの内容を勘案すれば,外国人が観光又は一般生活上必要とする著作物に係る翻訳サ ービスであると考えられるところ,こうした著作物は商業的に流通しているものは少ない こと,及び翻訳サービスの提供が権利者の意思に反しない場合も多いと考えられることか
80 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/pdf/honbun.pdf
81 総務省が平成18年に公表した「地域における多文化共生推進プラン」(http://www.soumu.go.jp/main_content/0 00400764.pdf)は,地域における多文化共生の意義の一つとして外国人住民の人権保障を挙げており,多文化共生を 推進する施策として,行政関係情報,教育,労働,医療・保険・福祉,防災関係情報や,その他生活情報について,
行政と民間事業者の連携によって,多言語,多様なメディアを通じて提供することを求めている。