NMR の結果において、工業合成された26 のLot. No.0018 は帰属できないブロードのピ ークが確認された。このピークは研究室で合成されたロットでは確認されていないもので あり、DMSO-d6 中、 2.88 ppm (br, 1 H) に確認され、D2O 中では確認されなかった(Figure
4-9)。Figure 4-9 は該当付近のピークのみ記した。
Figure 4-9. DMSO-d6 (左) では帰属できないピーク( 2.88 ppm, br, 1 H,)、及びD2O (右) 中 でのピーク
8.12 (d, J= 3.4 Hz, 1 H): Hj 7.33 (d, J= 8.6 Hz, 1 H): Hh
7.15 (dd, J= 15.5, 10.9 Hz, 1 H): Hf
7.05 (dd, J= 8.6, 2.9 Hz, 1 H): Hi 6.80–6.88 (m, 2 H): Hg, He
6.62 (d, J= 14.9 Hz, 1 H): Hd 4.76 (t, J= 8.9 Hz, 1 H): Ha 3.50 (t, J= 9.5 Hz, 1 H): Hb 3.33–3.37 (m, 1 H): Hc
2.98 (s, 6 H): Hk
本項では、このピークを帰属するために、NMR を用いた種々の検討を行った。以下、この 帰属できないピークを”ターゲットのH” と定義し議論を展開する。
4 . 4 .1 . タ ー ゲ ッ ト の H は 交 換 可 能 な も の か を 検 討
ターゲットの H は、D2O 中で観測されないことから活性プロトンのような交換可能な H であることを想定し、種々のプロトン性と非プロトン性の重溶媒で NMR スペクトルを測 定した(Figure 4-10)。
Figure 4-10. 各重溶媒中でのターゲットピークの様子
左から、D2O, MeOD-d4, Acetonitrile-d3, Acetone-d6, DMSO-d6 の結果。青枠がプロトン性溶 媒、赤枠が非プロトン性溶媒。
ターゲットの H はプロトン性溶媒では観測されず、非プロトン性溶媒で観測された。
Acetonitrile-d3 での 2.76 ppm のピークはDMSO-d6 中でターゲットのH に比べ、シャー プなものであり、これがターゲットの H と同一かは不明である。Acetone-d6 での 2.80
ppm (br) はH2O とのピークと重なっている可能性がある。これらの非プロトン性溶媒で観
測されたピークは、DMSO-d6 中で観測されたようなブロードのピークとは波形が異なるた め、同一ピークと結論付けることは難しく、この結果からは、ターゲットのH は交換可能 なプロトンとは考えられない。
そこで、DMSO-d6 中に少量の D2O を加えることでターゲットの H が消失するか検証し た。
Figure 4-11. DMSO-d6 中にD2O を加えたときのターゲットのH の変化
Figure 4-11 の通り、ターゲットのH はD2O 添加の場合でも完全に消失しなかった。
これらの結果から、ターゲットのH は交換不可能なプロトンであることが示唆され、活性 プロトンではない可能性が高いとわかった。
4 . 4 .2 . タ ー ゲ ッ ト の H は 2 6 の 多 量 体 の プ ロ ト ン で は な い か
ターゲットのH は前項で活性プロトンではないことがわかった。そこで、このターゲット のH は、26 の多量体のプロトンである可能性を検討した。DMSO 中で、例えば、26 が二 量体のようなもの(Figure 4-12) を形成しており、対になる 26 が観測されていると想定し た。
Figure 4-12. DMSO-d6 中における26 の状態。例えば想定される構造状態
そこで、差NOE 測定を用いて、ターゲットのH の近傍の様子を観察した。
ターゲットのH ( 2.86 ppm) にパルスを照射し、空間的に近いH を探索した。ターゲット のH と呼応したプロトンは4種類だった。呼応したそれぞれのピークはFigure 4-13 内に て青で記した。
Figure 4-13. ターゲットピークに呼応した26 のプロトン
便宜上、ターゲットのH をピンクで記し、それに呼応したプロトンを青で記した。
4つのH のうち3つは26 の構造内のH とわかったが、 7.96 ppm のプロトンは26 の 構造とは関係ない帰属できないピークであった。
これらの結果から、ターゲットの H は Figure 4-12 のように、26 が多量体を形成してお り、その一部である可能性も示唆される。
4 . 4 .3 . タ ー ゲ ッ ト の H は 2 6 の C –H 直 接 結 合 の H か
ターゲットのH が26 のC とH で直接結合しているものなのかを調べるため、DMSO-d6
中でのHMQC の測定を行った。
Figure 4-13. HMQC の該当箇所の拡大図
ターゲットのH とのクロスピークは観測された。しかしながら、この部分のピークは溶媒
のDMSO-d6 と重なっており、肝心のクロスピークがそれだと断定はできない。また、そも
そも溶媒ピーク内には26 のNMe2 基のC のピーク( 40.1) が含まれており、このC と ターゲットの H が結合している可能性も否定はできない。HMQC のスペクトルでは C-H 結合の有無からターゲットのH の情報を得ることは非常に困難であった。また、測定溶媒 を変えた場合、ターゲットのH がそもそも観測されづらい(前述4.4.1) ため、C-H 直接結 合を観測するのは困難であると判断した。
4 . 4 .4 . タ ー ゲ ッ ト の H の 温 度 依 存 の 検 討
NMR でのピークがブロードで観測される理由の1つは、対象となるH の平衡反応が遅い
X : parts per Million : 1H
3.8 3.7 3.6 3.5 3.4 3.3 3.2 3.1 3.0 2.9 2.8 2.7 2.6 2.5 2.4 2.3 2.2 2.1 2.0 1.9
Y : parts per Million : 13C 210.0190.0170.0150.0130.0110.090.070.050.030.010.0-10.0
I : 0.74416[mabn]
Y : 40.08353[ppm ] X : 2.84348[ppm ]
(thousandths) -2.0 -1.0 0 1.0 2.0 3.0 abundance 0.10.2
ことである。例えば、Figure 4-14 のような平衡反応が均衡していると、そのH のピークは ブロードに観測され、この平衡反応がどちらかに偏るとシャープなピークが観測される。
Figure 4-14. ターゲットのH の平衡反応
そこで、測定温度条件を変更することで、この平衡反応をどちらかに偏らせ、シャープなH のピークが観測されれば、このターゲットのH は26 と平衡状態を形成しているといえる。
今回の実験では、25 °C と80 °C で実験し、Figure 4-15 には該当箇所を拡大したスペクト ル図を記した。
Figure 4-15. 25 °C と80 °C のときのNMR スペクトルの重ね合わせ
茶色が25 °C のとき、緑が80 °C のときのスペクトル
25 °C と 80 °C でピークが大きくシフトしているものは H2O であり、その他のピークは
さほどシフトしていなかった。ターゲットのH のピークは形に変化はなく、化学シフトも 変化していなかった。
この結果から、ターゲットのH は26 との平衡状態の可能性は非常に低いといえる。
abundance 00.10.20.30.40.50.60.70.80.91.01.11.21.3
X : parts per Million : 1H
4.0 3.9 3.8 3.7 3.6 3.5 3.4 3.3 3.2 3.1 3.0 2.9 2.8 2.7 2.6 2.5 2.4 2.3 2.2 2.1 2.0 1.9