63 高い方の 金額
4 小括 小括
本章の意図したわが国の減損会計の必要性とその基礎構造について、まとめることで、
終わりとしたい。
「金融ビック・バン」から派生し、フリー(自由)、フェア(公正)、グローバル(国
際化)の下、会計基準改革としての「会計ビック・バン」が行われ、わが国において数多 くの新会計基準が作成され、実施されるなかで、その総仕上げとして導入されたのが、固 定資産の減損会計基準であった。
わが国では、1980年代後半から始まった高度経済成長によって固定資産の価格や株価が 著しく高騰した。その原由は、金融緩和を背景として、第二次世界大戦後、不動産価格、
とりわけ地価は絶えず上昇し、その資産価格が値下がりすることは考えられず、土地を所 有しているだけで利益を生むという「土地神話」に求められる 59 。このような状況下では、
固定資産の収益性の低下に関する会計処理基準を明確化する必要もなく、また固定資産の 帳簿価額は取得原価主義に依拠して、当該取得価額から基本的に減価償却累計額を控除し て表示されていた。そして、こういった会計制度の下でバブルが崩壊し、固定資産の価格 が急激に下落したのである。
固定資産の価格や収益性が長期にわたり著しく低下したバブル崩壊後において、企業は 固定資産に多額の含み損を抱えたまま、財務諸表上、固定資産を過大に表示することとな り、財務諸表の適正な表示を損ねる結果となった。減損損失に係る明確な会計基準が存在 しなかったことにより、各企業はそれに対し裁量的な会計処理を実施することとなった。
これに伴い、財務諸表への社会的な信頼を損ねるという好ましくない結果を招来すること となったのである。
かかる状況下において、第一に財務諸表の適正な表示の観点から、固定資産の減損を認 識する必要性=財務諸表の適正な表示という視点、第二に財務諸表の適正な表示を行うこ とにより、投資家に的確な財務情報を提供する必要性=投資家への的確な投資情報の提供 という視点、そして第三に、会計基準の国際的調和を図る観点からの必要性=国際会計基 準との調和という視点といった三つの視点から、わが国において固定資産の減損に係る会 計基準を設定することが必要とされたのである。
わが国における固定資産の減損会計は、固定資産に係る収益性の低下により、当初の投
資額の回収が見込めなくなった場合に、一定の条件の下でその回収可能性を反映させるよ
うに帳簿価額を減額する会計処理であった。「意見書」では投資期間全体を通じた収益性
に着目して減損処理を判断しており、この考え方に依拠する減損会計は、期間的な投下資
本回収余剰計算の思考を基軸とした原価・実現による利益計算システム、そしてそれに連
動した資産評価システムの枠組みの中で、投資原価の回収可能性の低下を帳簿価額に反映
させる会計処理である。したがって、資産の時価評価を企図したものではなく、取得原価
主義会計に依拠した会計処理と解されている。
これに対し「減損会計基準」では、固定資産の減損処理において、将来の稼得しうるキ ャッシュ・フローのみを考慮し、過去のキャッシュ・フローを考慮しない。つまり、「意 見書」で示されている「投資時点に遡って(投資期間全体を通じて)投資の成果を捉え直 す」という考え方が採られていなかった。その理由としては、過去に遡って使用価値を見 積もり直すことが困難であり、その見積もりを強いると、企業に多大な負担を負わせるこ とになることを考慮した結果と解され、それは会計理論から求められた結果ではなかった。
実務的には、過去のキャッシュ・フローを考慮し、投資期間全体を通じた投資額の回収可 能性の評価は減損処理の適用にあたって行われない。しかし、それはあくまで実務上の困 難性及び実行可能性を考慮した結果であり、「減損会計基準」における基本理念は、「意 見書」における「投資期間全体を通じた投資額の回収可能性を評価する」という理念に依 拠するものであると考えられる。
確かに、収益性が低下して帳簿価額の回収が見込めなくなった特殊な事態に限定される とはいえ、時価のような観察可能ではない「価値」を、開示する側が推定して貸借対照表 に反映させるということは、やはり例外的なことと考えられる。本来は投資家の判断に俟 つべき領域に、遠い将来にわたる経営者の主観的な見積もりを介入させたのは、回収不能 な帳簿価額を資産として繰り越すことによる貸借対照表への不信を懸念し、その場合に限 り固定資産に係る将来キャッシュ・フローの回収可能性という内部情報の開示を求めたと 理解すべきと考えられる。
1
「固定資産の減損に係る会計基準」(平成 2002年 8月 9日)の中には固定資産の一種として「のれ んの減損」も含まれるが、 本論文においては、「投資不動産」を除く「有形固定資産」に係る減損会 計を中心に論考を展開していく。2
企業会計審議会(2002a)二参照。3
杉本(2008)4頁。4
斎藤(2010)365頁。5
金融庁「我が国金融システムの改革-2001年東京市場の再生に向けて」、金融庁ホームページ、
http : / /www .fsa .go . jp /p_mo f /b ig-bang /bb7 .htm、(2011年 8月 11日参照)。
ドキュメント内
現代企業会計としての減損会計の特徴
(ページ 31-34)