第5章 共犯と身分
第4節 小括
本章の内容を要約するならば、以下のようになる。
まず、刑法 65 条は、その沿革からしても、1項では構成的身分について、2 項では加減 的身分について規定していると解さざるを得ない。しかし、その立法趣旨に照らせば、刑 法65条1項は、構成的身分のうち行為の不法に関係するものについて規定するものであり、
同 2 項は、加減的身分のうち行為者の責任に関係するものについて規定するものである。
したがって、構成的不法身分には刑法65条1項が適用され、加減的不法身分および阻却的 不法身分には刑法65条1項が準用されるべきであり、加減的責任身分には刑法65条2項 が適用され、構成的責任身分および阻却的責任身分には刑法65条2項が準用されるべきで ある。しかしながら、不法身分は、関与者の誰か一人に存在するからといって、必ずしも 刑法65条1項の適用ないし準用によって他の関与者に対して連帯的に作用するわけではな い。つまり、問題となる犯罪類型が直接実行型不法身分犯である場合には、当該不法身分 を備える者が(当該不法身分を備える者による直接実行が要求される)一定の行為を直接
363 Siehe Kienapfel/Höpfel/Kert, a. a. O. (Fn. 55), E 7 Rn. 31; Triffterer, a. a. O. (Fn. 6), AT2, Kap.
14 Rn. 29.
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実行している限りにおいて、当該不法身分は連帯的に作用することとなり、問題となる犯 罪類型が特別義務違反型不法身分犯である場合には、当該不法身分を備える者が当該犯罪 類型において要求される義務違反的行為を自律的にかつ故意をもってなしている限りにお いて、当該不法身分は連帯的に作用することとなる。
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終章 おわりに
本稿では、複数人が事実的に共働することにより、少なくとも表見的には身分犯が実現 された場合における各共働者の罪責につき包括的な検討を行ってきた。最後に、本稿によ って得られた成果を要約すると、次の通りである。
第 1 章では、本稿の基礎となる正犯概念と共犯概念についてあらかじめ提示した。そこ では、自己答責性の原則に基づくわが国の共犯体系のもとでは、正犯とは、他人の自律的 な行為を介在させることなく構成要件を実現する関与形式として、共犯とは、他人の自律 的な行為を介在させて構成要件を実現する関与形式として理解されるべきであり、他人の 自律的な行為は正犯としての客観的帰属を不可能にする効果を有することから、正犯と共 犯はいわば客観的帰属の質的相違であるということが確認された。
第 2 章では、そもそも不明確のままであった身分犯概念を再検討し、その具体的な内容 についても検討を行った。その結果、まずわが国における身分犯は、直接単独正犯として の行為主体に一定の特徴が要求される犯罪を意味する概念であり、それゆえ身分犯を標識 する身分とは、構成要件該当行為そのものではなく直接単独正犯としての行為主体を特徴 づける構成要件要素であるということが明らかとなった。そして、わが国における身分犯 概念自体は、正犯者範囲の制限までをも含意するものではないため、ドイツやスイスにお ける特別犯概念とは異なる概念であり、むしろ従来その異同が検討されてこなかったオー ストリアにおける特別犯概念と定義上同一であることも明らかとなった。さらに、そのよ うな身分犯概念を基礎として、従来その身分性が不明確であった個別具体的な構成要件要 素についての身分性の基準が提示された。
第 3 章では、オーストリアにおける特別犯論の検討を通じて、不法身分犯における固有 の無価値発生機序について分析した。その結果、不法身分犯においては、身分者が一定の 行為を直接的に実行することによって不法を基礎づける無価値が発生するもの(直接実行 型不法身分犯)と身分者が自己に課せられた刑法上の特別の義務に自律的にかつ故意をも って違反することによって不法を基礎づける無価値が発生するもの(特別義務違反型不法 身分犯)の 2 種類が存在していることが明らかとなった。さらに、このことを踏まえ、わ が国の刑法上の個別具体的な身分犯が、直接実行型不法身分犯、特別義務違反型不法身分 犯、および責任身分犯のいずれに分類されるかについて各論的な検討を行った。
第 4 章では、第 3章までの検討を踏まえ、身分犯の間接正犯の成否および成立要件につ
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いて検討を行った。その結果、直接実行型不法身分犯においては、非身分者が身分者を道 具とすることによる間接正犯は成立し得るのに対して、身分者が非身分者を道具とするこ とによる間接正犯はおよそ成立し得ないことが明らかとなった。また、反対に、特別義務 違反型不法身分犯においては、非身分者が身分者を道具とすることによる間接正犯はおよ そ成立し得ないのに対して、身分者が非身分者を道具とすることによる(直接)正犯が成 立し得ることが明らかとなった。なお、こうした結論は、従来の判例の立場とも整合的で あることも確認された。
第 5 章では、同じく第 3 章までの検討を踏まえ、身分犯の共犯の成否および成立要件に ついて検討を行った。まず、身分犯の共犯をめぐっては刑法65条という実定法上の規定が 存在するため、刑法65 条の基本的な解釈について再検討を行ったところ、刑法 65条の複 雑な沿革を考慮すれば、刑法65条1項は構成的不法身分に関する規定であり、同2項は加 減的責任身分に関する規定であるということが明らかとなった。そして、加減的不法身分 および阻却的不法身分については刑法65条1項が、構成的不法身分および阻却的責任身分 については同2項が準用されるべきであるということも明らかとなり、さらに、刑法65条 1項の「共犯」には共同正犯も含むという判例・通説の立場の妥当性も確認された。ただし、
第3章で示された不法身分犯における固有の無価値発生機序に鑑みれば、刑法65条1項の 適用ないし準用による不法身分の連帯的作用には、一定の内在的制約があるはずであり、
具体的には、直接実行型不法身分犯であれば身分者が一定の行為を直接的に実行している 限りにおいて不法身分が連帯的に作用し、特別義務違反型不法身分犯であれば身分者が自 己に課せられた刑法上の特別の義務に自律的かつ故意的に違反している限りにおいて不法 身分が連帯的に作用するという内在的制約があるということが明らかとなった。
わが国においては必ずしも意識されてこなかったように思われるが、オーストリアにお いて明確に指摘されているように、身分犯をめぐる問題は、身分犯に分類される犯罪類型 そのものに内在するものであり、特定の関与規定が採用されたことによる産物というわけ ではない364。(不法)身分犯は、その固有の不法が、身分者の関与方法に依存しているとい う点で、他の犯罪と決定的に異なっている。そうした固有の不法を基礎づける身分者の関 与方法が各論的に解明された後に、はじめて各種身分犯の間接正犯ないし共犯の成否が帰 結されることになるのである。こうした知見が刑法総則において明確に取り入れられてい
364 Kienapfel/Höpfel/Kert, a. a. O. (Fn. 55), E 7 Rn. 2: „Die bei den Sonderdelikten auftretenden Probleme sind dieser Deliktsgruppe immanent und keine Konsequenz einer bestimmten Beteiligungsregelung.“; vgl. auch EBRV 1971, S. 79.