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第5章 共犯と身分

第3節 具体的帰結

以上で示した通り、刑法65条1項は構成的不法身分に関するものであり、それ以外の不 法身分に対しても同項が準用されると解すべきである。また、刑法65条2項は加減的責任 身分に関するものであり、それ以外の責任身分に対しても同項が準用されると解すべきで ある。ただし、刑法65条1項は、不法身分に対して機械的に適用ないし準用され得るわけ

334 島田・前掲注(4)267-268頁。

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ではなく、そこには既述のような書かれざる要件が内在している。このような理解から具 体的にどのような帰結が導かれるのかについて、以下検討を進める。

(1)逃走罪および加重逃走罪の共犯

本罪は直接実行型不法身分犯であり、被拘禁者の身分は構成的身分であるから、本罪の 実現に共犯として関与した非身分者に対しては、刑法65条1項が適用されることになる。

なお、刑法65条1項の適用には、被拘禁者自身が97条または98条所定の逃走を実行する 必要がある。

(2)看守者等逃走援助罪の共犯

本罪は特別義務違反型不法身分犯であり、看守者等の身分は構成的身分である335から、

本罪の実現に共犯として関与した非身分者に対しては、刑法65条1項が適用されることに なる。なお、刑法65条1項の適用には、看守者等が自律的かつ故意的に逃走に関与してい ることが必要である。

(3)秘密漏示罪の共犯

本罪は特別義務違反型不法身分犯であり、医師等の身分は構成的身分である336から、本 罪の実現に共犯として関与した非身分者に対しては、刑法65条1項が適用されることにな る。なお、刑法65条1項の適用には、医師等が自律的かつ故意的に漏示に関与しているこ とが必要である。

(4)税関職員あへん煙輸入等罪の共犯

本罪は前段の罪と後段の罪に区別され、いずれも特別義務違反型不法身分犯であるが、

税関職員の身分は、前段の罪おいては加重的身分であり、後段の罪においては構成的身分 である337。したがって、前段の罪の実現に共犯として関与した非身分者に対しては刑法 65 条1項が準用され、後段の罪の実現に共犯として関与した非身分者に対しては刑法65条1 項が適用されるということになる。なお、刑法65条1項の適用ないし準用には、税関職員

335 浅田和茂=井田良編『新基本法コンメンタール刑法』(日本評論社、第2版、2017)253、

254頁〔小名木明宏〕。

336 浅田和茂=井田良編『新基本法コンメンタール刑法』(日本評論社、第2版、2017)306 頁〔金尚均〕。

337 浅田=井田編・前掲注(336)310頁〔金〕。

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が自律的かつ故意的に輸入に関与しまたは輸入を許可していることが必要である。

(5)収得後知情行使等罪の共犯

本罪は責任身分犯である。よって、身分としての知情が収得後であるという事情が減軽 的身分であるとすれば、本罪の実現に共犯として関与した非身分者については、刑法65条 2項の適用により、偽造通貨行使等罪の共犯としての罪責を負うこととなる。たとえば、A と B が偽造通貨を収得した後、共謀の上、当該偽造通貨を行使したが、当該偽造通貨の収 得時に当該偽造通貨が偽造通貨であることを認識していたのは Bのみであったという場合 には、Aには偽造通貨行使罪(刑法148条)の共同正犯が成立し、Bには刑法65条2項の 適用により収得後知情行使罪(刑法152条)の共同正犯が成立するということになる。

(6)虚偽公文書作成等罪の共犯

本罪は特別義務違反型不法身分犯であり、公務員の身分は構成的身分であるから、本罪 の実現に共犯として関与した非身分者に対しては、刑法65条1項が適用されることになる。

なお、刑法65条1項の適用には、公務員が自律的かつ故意的に虚偽公文書等の作成・変造 に関与していることが必要である。

なお、本罪における虚偽公文書等の作成・変造自体は、非身分者が実行を担うことが可 能であることから、非身分者が虚偽公文書等の作成ないし変造を実行し、身分者はそれに 関与したが、身分者と非身分者との間に共同正犯関係までは認められない場合の擬律が問 題となる。こうした場合には、先述のように、本罪の特別義務違反型不法身分犯性により、

本罪にいう「作成」および「変造」には、他人にこれを行わせることも内在していると解 されることから、身分者が正犯となり、非身分者はその幇助犯ということになる。

(7)虚偽診断書作成等の共犯

本罪は特別義務違反型不法身分犯であり、医師の身分は構成的身分である338から、本罪 の実現に共犯として関与した非身分者に対しては、刑法65条1項が適用されることになる。

なお、刑法65条1項の適用には、医師が自律的かつ故意的に診断書への虚偽記載に関与し ていることが必要である。

なお、本罪における診断書への虚偽記載自体は、非身分者が実行を担うことが可能であ

338 大塚ほか編・前掲注(293)223頁〔任介〕。

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ることから、非身分者が虚偽記載を実行し、身分者はそれに関与したが、身分者と非身分 者との間に共同正犯関係までは認められない場合の擬律が問題となる。ここでも、本罪の 特別義務違反型不法身分犯性より、本罪にいう「記載」は身分者自身による記載のみなら ず非身分者に記載させることも含むと解されるため、身分者が正犯、非身分者はその幇助 犯となろう。

(8)偽証罪および虚偽鑑定等罪の共犯

偽証罪および虚偽鑑定等罪はいずれも直接実行型不法身分犯であり、宣誓証人および宣 誓鑑定人等はいずれも構成的身分であるから、非身分者が偽証罪ないし虚偽鑑定等罪の実 現に共犯として関与した場合には、刑法65条1項が適用されることになる。なお、刑法65 条1項の適用には、偽証ないし虚偽鑑定等を身分者自身が直接実行することが必要である。

(9)監護者わいせつ罪および監護者性交等罪の共犯

繰り返しになるが、監護者わいせつ罪および監護者性交等罪は直接実行型不法身分犯で あり、監護者自身が被監護者に対して直接的にわいせつ行為ないし性交をすることが固有 の不法の前提となっている339。したがって、こうした前提が満たされていない限り、関与 者の誰かに監護者の身分が備わっていたとしても、刑法65条1項は適用されず、逆に、こ うした前提が満たされていれば、刑法65条1項の適用により、正犯者ないし共同正犯者の 監護者たる身分が非身分者に対して連帯的に作用することとなる。そのため、たとえば、

監護者Aと第三者Bが共謀し、Bが被監護者Cと性交したというような事例では、Bにつ いても刑法65条1項により監護者性交罪の共同正犯が成立しそうであるものの、監護者に よる直接的な性交の実行が欠けるため、刑法65条1項は適用の前提を欠くということにな る340

(10)重婚罪の共犯

本罪は直接実行型不法身分犯であり、既婚者の身分は構成的身分であるから、本罪の実

339 Vgl. Hinterhofer , a. a. O. (Fn. 229), § 212 Rn. 55.

340 これに対して、松田哲也=今井將人「刑法の一部を改正する法律について」曹時 69 巻 11号(2017)3450頁は、「身分のない共犯者が身分のある者に加功した場合、すなわち、例 えば、18歳未満の者を現に監護する親とその知人とが共謀の上、18歳未満の者を現に監護 する親であることによる影響力があることに乗じて、両者がそれぞれ実行行為に及んだ場 合はもとより、いずれかが 18 歳未満の者に対しわいせつな行為に及んだ場合であっても、

刑法第65条第1項が適用され、監護者わいせつ罪の共同正犯が成立し得る」とする。

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現に共犯として関与した非身分者に対しては刑法65条1項が適用され、本罪の共犯となる。

たとえば、Aが、偽造された離婚届を提出した Bに対し、Cとの婚姻届を提出するよう勧 めたという場合、Aは刑法65条1項の適用により本罪の共犯となる。なお、当然のことな がら、重婚の相手方は、刑法184条後段の直接正犯となる。

(11)常習賭博罪の共犯

常習賭博罪は、常習者による賭博の場合には賭博罪における保護法益を尊重しない態度 が明白で非難可能性がより高いことを考慮するものであり、その意味で、常習者という身 分を要素とする責任身分犯である。そして、常習者という身分は、単純賭博罪(刑法 185 条)との関係における加重的身分である。したがって、常習者による賭博に対して共犯と して関与した非常習者は、刑法65条2項により単純賭博罪の共犯となり341、非常習者によ る賭博に対して共犯として関与した非常習者は、刑法65条2項により常習賭博罪の共犯と なる342343

(12)公務員職権濫用罪の共犯

本罪は特別義務違反型不法身分犯であり、本罪における公務員の身分は構成的身分であ る344。したがって、本罪の実現に共犯として関与した非身分者に対しては、刑法65条1項 が適用され本罪の共犯となる345。たとえば、私人Aが、警察官Bに対し、被疑者Cに対す る違法な捜査(Cに義務のないことを行わせる捜査)を行うよう勧めたという場合には、A は刑法65条1項の適用により本罪の共犯となる。

(13)特別公務員職権濫用罪の共犯

本罪は特別義務違反型不法身分犯である。「裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又は これらの職務を補助する者」(特別公務員)の身分については、これを加重的身分ととらえ

341 大判大正7年1月16日刑録24輯1頁参照。

342 このような結論を採る判例として、大連判大正3年5月18日刑録20輯932頁、大判大 正7年6月17日刑録24輯844頁、大判大正12年2月22日刑集2巻107頁、名古屋高判 昭和30年5月17日裁特2巻11号522頁。

343 Vgl. Stricker, a. a. O. (Fn. 236), § 168, Rn 115.

344 西田(橋爪補訂)・前掲注(84)506頁も、本罪の「結果の部分の文言は、強要罪と同一 であるが、本罪の方が法定刑が低いのであるから、同罪の特別類型や補充類型と考えるべ きではなく、65条2項の適用はない」とする。

345 大塚ほか編・前掲注(238)111頁〔古田=渡辺=五十嵐〕。