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小学校(高学年)の授業における教材としてのムック リ (口琴)

ドキュメント内 第 2 部 次世代ものづくり教育の「規範」 (ページ 41-52)

第 2 部の第 4 章においては, ムック(口琴)のものづくり教育における意味を明ら かにした 1)。本章においては,小学校(高学年)の授業において実際にムックを教材 として用いることによってムックの教育的な意味を検証した。

ここでは,まず検証した結果としての教育的な意味を記載し,次にその授業における 指導のポイントについて記した。

第 1 節 小学校(高学年)におけるムック(口琴)の授業と教育的な意味

実践は,1997 年 10 月 2 日,北海道阿寒郡鶴居村立下幌呂(しもほろろ)小学校 5・6 年 生 6 名を対象に行った。その結果をもとにムックの教育的な意味を次の五つの視点 から整理した。

1.アイヌの人々の文化や風習への関心

第一の意味としては, これまでの普通教育でほとんど取り上げられなかったアイヌ 民族の伝統的な楽器を通して,アイヌの人々の文化や風習への関心を高め得るという ことができる。

事前調査では北海道に住みながらもムックについて知っていると答えた子どもは ほとんどいなかった。知っていると答えた子どもでもその内容は「ムックリという名 前は聞いたことがある」(1 名,事前調査での「ムックリ」と記された表記はそのまま 記載した)「テレビで見たことがある」(1 名)という程度のものであった。しかし,今回 のムック製作の授業によって,子どもたちはアイヌ民族の伝統的な楽器を知ることに なったばかりではなく, ムックの材料である竹を森の中で採取するときに「材料を 少しいただきます」と感謝するアイヌの人々の自然に対する考え方や風習などに子ど もたちは強い関心を示した。このような子どもたちの関心の高まりは,アイヌの人々の ことばや衣服,食事,住居,子どもの遊び,歴史などの学習ヘと発展することにもなった。

学習の成果は学芸会の劇として発表され, ムックの演奏も劇の中で行われることに なった。これらの体験は子どもたちのアイヌ文化に対する理解をより深めるものにな ったと考える。多様な文化の共存共栄を図るための教育は,ものづくり教育だけではな く他の教科の学習などでも今後いっそう積極的に取り上げる必要がある。

1998 年 6 月 22 日に公表された教育課程審議会のまとめには,「国際化が急速に進展 する中で,国際社会に生きる日本人の育成という視点に立った教育の展開は,今後一層 重要なものとなってくる。国際化の進展に対応した教育は,広い視野をもって異文化を 理解し,異なる文化や習慣をもった人々と偏見をもたずに自然に交流し共に生きてい くための資質や能力の育成を図ることをねらいとするものであるが,そのためには, 我々はまずわが国の歴史や文化・伝統に対する誇りや愛情と理解を培う教育が重要で あると考える」1)ということが基本的な考え方として述べられている。これは 1997 年 7 月 1 日に施行されたアイヌ新法の目的である「アイヌの人々の民族としての誇りが 尊重される社会の実現を図り,あわせてわが国の多様な文化の発展に寄与する」2)とい うことと大きく関わるものである。わが国を始めとして世界各地に多様な文化が存在

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することを認め,互いに尊重し合いながらその共存共栄を図ることは,今後の地球全体 の文化をよりよいものにしていくための極めて重要な課題でもある。このような考え 方を理念のみに終わらせるのではなく教育を通して具体的な姿として提示することは, いまだに宗教や人種などの違いによってさまざまな対立が続く世界の国々に対して極 めて説得力のある行動となるだろう。

2.ムック(口琴)の製作とアイヌの人々の自然に対する考え方

第二には,自然の恵みに感謝し自然素材の特性を最大限に生かしてきたアイヌの 人々の自然に対する考え方を学び得るということができる。

アイヌの人々は恵まれた自然環境のなかで生活してきたにもかかわらず,竹一本取 っても感謝し,小さな容器の材料となる樹皮を少し取るときにも自然に対して感謝し てきた。ありあまるほど取るのではなく必要な分だけを取ることによって自然を壊さ ないようにしてきたのである。北海道に多くの森が残っているのはそのようなアイヌ の人々の考え方と生活の仕方の証しでもある。

現在, ゴミ問題や自然破壊などの環境の悪化はわが国のみならず地球規模の大きな 問題となっている。教育課程審議会のまとめにも「環境問題に対する社会の関心が一 層高まる中で,環境や資源エネルギーについての理解を深め,環境を大切にする心を育 成するとともに,環境の保全やよりよい環境の創造のために主体的に行動する実践的 な態度や資質,能力を育成することは今後ますます重要なものとなってくる」3)とある ように,環境問題への対応が今後の学校教育の重要課題の一つとして位置づけられて いるのである。

そのような状況を踏まえれば,「自然の恵みに感謝し,必要な分だけを使うとともに, それらが無駄にならないように心を込めてつくっていく」というアイヌの人々の精神 文化をものづくりの基本的な考え方として次代を担う子どもたちにぜひ伝えていきた いものである。

ムック製作の授業の初めに配布した資料「ムックにこめられた自然に感謝する心」

は, アイヌの人々の自然に対する考え方を学ぶ手がかりにするために作成したもので ある。その内容は, ムックがアイヌ民族の伝統的な楽器であること,以前ムックは 森の中で育つ根曲がり竹(チシマザサ)やサビタ(ノリウツギ)の木,オンコ(イチイ)の 木などでつくられたこと,それらの竹や木を切るときには「ムックをつくるために材 料を少しいただきます」と自然の恵みに感謝したこと, さらには,アイヌの人々が自然 の恵みによって人間は生かされていると考え自然に感謝して暮らしてきたことなどで ある。

子どもたちの感想やその後の学芸会の劇の中で紹介されたアイヌの人々の歴史や暮 らしぶりなどを見ると,授業のねらいの一つであるアイヌの人々の自然に対する考え 方に触れるという意図はほぼ達成されたものと考える。また,授業のなかで鈴木氏のム ック製作の様子を間近に見たことは, 材料(自然素材)を無駄にしないように, さら には使う人に喜んでもらえるようにと,音色に細心の注意を払いながら形を美しく整 えていく製作者の思いや技を知る貴重な機会となった。子どもの感想に鈴木氏のムッ クに込める気持ちや丁寧にムックを製作する様子,製作者に直接指導を受けてよい 音色のムックリをつくることができた喜びや感謝の気持ちなどが記されていた4)

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3.アイヌの人々の伝統的な楽器の特質を実感として学ぶこと

第三には,材質や形態と音色が密接に関係する楽器の特質を実感として学び得ると いうことができる。

よい音色のムックをつくるためには乾燥した竹を使うことが第一に大切になる。授 業の中では,材料となる竹を二つ割りにして一年間以上乾燥させること,水分をできる だけ抜くために乾燥した後も油で揚げて使うこと,雨の日には湿気が多いので制作し ないことなどを鈴木氏の話から知ることができた。また,竹の削り方ひとつで音色が大 きく違ってくることも学ぶことができた。特に弁を削る段階では,弁が厚すぎると音が 伸びず薄すぎると張りのある音にならないので,子どもたちは弁の先をはじいて振動 を確かめながら慎重に削っていった。音の出なかったムックリでも鈴木氏が削り直す とよい音色が出るようになったこともあり,それを通して,子どもたちは音色と形態と の関係をいっそう理解することができた。

竹の材質や形と音の微妙な関係を単なる知識としてではなく実感として学ぶことが できたわけである。端的に言えば,造形と音の関係を子ども自身が自分で検証できたと いうことである。いい音が出るまで何度も手で竹を触り耳で音を確かめるなどの五感 を通して検証したのである。「なぜいい音が出ないのか」,「どうすればいい音が出るの か」ということを自問自答しながらつくっていくという体験は能動的な知識を育成す ることであり,このことは同時に,材質や形,音を通しての問題を解決する能力を育成 することでもある。また,いい音が出たときの満足感や喜びは次のものづくりの活動へ の意欲や自分自身への自信に結びつくものである。

第 15 期中央教育審議会第一次答申にもこのことは述べられている。そこでは「これ からの子供たちに必要となるのは,いかに社会が変化しようと, 自分で課題を見つけ, 自ら学び, 自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力で あり, また, 自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心な ど,豊かな人間性である」とされ,こうした資質や能力が「生きる力」と称されている。

さらにこの「生きる力」をはぐくむためには,「自然や社会の現実に触れる実際の体験 が必要であるということである。子供たちは,具体的な体験や事物とのかかわりをより どころにして,感動したり,驚いたりしながら『なぜ, どうして』と考えを深める中で, 実際の生活や社会, 自然の在り方を学んでいく。そして,そこで得た知識や考え方を基 に,実生活の様々な課題に取り組むことを通じて, 自らを高め,よりよい生活を創り出 していくことができるのである」として,直接体験の機会を豊かにすることが重要であ ると述べている。形や材質と音との関係を自ら検証するムックリの制作は, まさにこ のような直接体験であり,「生きる力」を育むための基盤を形成するものである。しか も,今回の授業実践では, ムックの熟達者による直接的な「手渡し」の教育が行われ たことにも意味がある。すなわち,そこには,人間と人間との直接的な教育実践があっ たといえる。それは,かつて親から子へ,子から孫へと受け継がれていったものづくり を通しての文化の伝承形態であり,現在の教育の中で我々がその価値を見失いがちの ものである。

4.材料(自然素材)の特性,道具を扱う技術,形態に対する美意識

第四には, 自然素材の特性を知り,道具を扱う技術を高め,形態に対する美意識を育

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