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アイヌの人々の伝統的なものづくりに関する文献としての『父か らの伝言』(アイヌ文化振興・研究推進機構出版助成図書)

ドキュメント内 第 2 部 次世代ものづくり教育の「規範」 (ページ 52-65)

アイヌの人々の伝統的なものづくりに関する文献として,教員養成学部生向け『芸 術教育文献解題ブックレット』1)に,アイヌ文化振興・研究推進機構出版助成図書『父 からの伝言』(鈴木紀美代著,2007 年発行,図 1)2)を掲載した。

本書の内容は,ムックの製作に関わって「自然に対する認識を深め得る」と考えた からである。「教員養成学部生向け『芸術教育文献解題ブックレット』での文献掲載の

『視点』」,「掲載した 16 冊の文献」,「アイヌ文化振興・研究推進機構における出版助 成の目的」,「『父からの伝言』の内容」を踏まえて,その根拠を述べた。

第 1 節 『芸術教育文献解題ブックレット』における文献掲載の「視点」

アイヌ文化振興・研究推進機構出版助成図書『父からの伝言』の著者は,第 4 章や 第 5 章でも触れてきたムック(口琴)製作の第一人者である鈴木紀美代氏である。主 な経歴を『父からの伝言』から以下に転記した(『父からの伝言』にある「ムックリ」

の表記はそのまま記載した。以下,同様である)。

1947 年:北海道標茶町生まれ

1971 年:父・秋辺福太郎氏のムックリ製作を手伝い始める 1988 年:ムックリ製作者として独立

1995 年:竹工芸科職業訓練指導員の資格取得 2001 年:北海道ムックリ(口琴)演奏大会「優勝」

2002 年:世界口琴会議ノルウエー大会参加 2006 年:世界口琴会議アムステルダム大会参加

2011 年:世界口琴大会製作の部(金属以外)「最優秀賞」受賞

(『父からの伝言』の記載事項に,2011 年の「最優秀賞」受賞を追加した)

『父からの伝言』の「父」とは鈴木紀美代氏の父・秋辺福太郎氏(大正 5 年 3 月,

釧路市に生まれる。昭和 63 年,「アイヌ文化伝承記録映画』に出演。マキリ:小刀を つくる工程を実演)を意味する。

アイヌ文化振興・研究推進機構は,「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関す る知識の普及及び啓発に関する法律」〈通称:アイヌ新法,アイヌ文化振興法。1997(平 成 9)年 5 月 14 日公布,7 月 1 日施行〉に関わる業務を行うための法人であり,出版 助成はその業務のひとつである。

また,教員養成学部生向け『芸術教育文献解題ブックレット』3)は,全体を「起」,

「承」,「転」,「結」という四つの部分に分け,2012(平成 24)年には『芸術教育文献 解題ブックレット起』(英日対訳),2013(平成 25)年には『芸術教育文献解題ブック レット承』(英日対訳)として刊行した。『芸術教育文献解題ブックレット転』(英日対 訳)と『芸術教育文献解題ブックレット結』(英日対訳)は,2015(平成 27)年に刊行

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した。文化芸術振興基本法〈2001(平成 13)年 12 月 7 日:公布・施行〉の具現化を目 的とした「芸術教育文献のアーカイビングに関する還元的研究」(平成 23~26 年度科 学研究費補助金基盤研究A/課題番号 23243078/研究代表者:山口喜雄・宇都宮大学,

研究分担者:筆者を含めて 9 名,連携研究者:10 名)の一環として掲載する文献を選 定した。筆者は,「起」,「承」,「転」,「結」ごとに 4 冊ずつ,合計 16 冊を選定するこ とになった。『父からの伝言』は,第一冊目となる「起」に掲載したものである。

図 1 鈴木紀美代『父からの伝言』(藤田印刷,2007 年)

では,筆者が 16 冊の文献を選定する際には何を掲載の視点としたのか。端的に言え ば,次世代ものづくり教育におけるキーワードとして,本論文で繰り返し述べてきた 次の二つを文献掲載の「視点」とした。

■ 責任

■ ものづくり

その主な検討の状況は以下の構造図に示した(図 2)。また,『芸術教育文献解題ブッ クレット』を,単なる文献の「解説」の場ではなく,第 1 部・第 1 章で述べた「未来 に対する責任」を考える「創造」の場とするために,文献は,上記の視点を踏まえなが ら,全体(新旧など)を俯瞰して選ぶこととした。

132 項目

文 献 掲 載 の 視 点 に 関 す る 検 討

東京電力福島第一原子力発電所事故

■大量の放射性物質の放出による自然環境の汚染

■15 万 7000 人が避難(2011 年 12 月)

■事故後,福島原発周辺は,帰還困難区域・居住制限区域・避難指示解除準備区域 に再編された。

原因は何か ↓

「生命」を守るという責任感の欠如

■直接的原因は「地震・津波」,根本的原因は「生命を守るという責任感の欠如」に ある(国会事故調報告書,徳間書店,2012.9.30)。

「責任」を重視した次世代ものづくり教育

■創造面・技術面とともに「責任」という倫理面をも重視する。

では,「責任」とは何か ↓

福島原発事故とその後の現実を踏まえれば,

「生命」を守る責任 ↓

その基本は,

「自然」

【理由】前述したように,

■大量の放射性物質の放出による自然環境の汚染

■15 万 7000 人が避難(2011 年 12 月)

■事故後,福島原発周辺は,帰還困難区域・居住制限区域・避難指示解除準備区域 に再編された。

それでは,ものづくりの何に対して責任をもつのか ↓

「先端だけ・ある部分だけ」ではなく,ものづくりの「全体」を俯瞰して,

「ものづくりの全体」に対して ↓

原点:手づくり ↓

■世界におけるものづくりの新たな動きも踏まえる。

■原点と先端の併存,新旧の併存,科学・技術・芸術の連携など。

IoT((Internet of Things),デジタルファブリケーションなどを踏まえて ↓

次世代ものづくり教育の構造 |

ものづくり(全体を視野に入れて)

責任

図 2 『芸術教育文献解題ブックレット』における文献掲載の視点に関する構造図

第 2 節 「起」,「承」,「転」,「結」に掲載した 16 冊の文献

文献掲載の「視点」(責任・ものづくり)に基づいて,何を『芸術教育解題文献ブッ

133

クレット』で取り上げたのか。起(2012)・承(2013)・転(2015)・結(2015)ごとに 取り上げた文献を図 3 に示した。それらは次の四つに分けることができる。

1.アイヌの人々の伝統的なものづくりや自然に対する考え方 2.エレン・リチャーズのヒューマンエコロジー思想

(ヒューマンエコロジー:生命に与える影響に配慮して人間の生活を研究する学問)

3.IoT(Internet of Things)やデジタルファブリケーション

4.自然への畏敬,自然の理にかなったものづくり,生態系などに関する文献

年 項目 2012

平 24 芸 術 教 育 文 献 解 題 ブ ッ ク レ ッ ト 起

■筆者(研究分担者:佐藤昌彦)は,起・承・転・結,それぞれに文献 4 冊ずつ 担当する。

【文献掲載の視点】責任・ものづくり

アイヌの人々の伝統的なものづくり

■文献名:『父からの伝言』,著者名:鈴木紀美代,出版社名:藤田印刷株式会社,

出版年:2007.

■文献名:『アイヌの民具』,著者名:萱野茂,出版社名:株式会社すずさわ書店,

出版年:1978.

■文献名:『アイヌとツネ』,著者名:文・萱野茂/絵・石倉欣二,出版社名:小 峰書店,出版年:2001.

■文献名:『アイヌネノアンアイヌ』,著者名:文・萱野茂/絵・飯島俊出版社名:

福音館書店,出版年:1989.

2013 平 25

芸 術 教 育 文 献 解 題 ブ ッ ク レ ッ ト 承

エレン・リチャーズのヒューマンエコロジー思想

■文献名:『ユーセニクス―制御可能な環境の科学―』,著者名:エレン・ヘリエ ッタ・スワロウ・リチャーズ,翻訳者:住田和子・住田良仁,出版社名:スペ クトラム出版社,出版年:2005.

■文献名:『エコロジーの誕生 エレン・スワローの生涯』,著者名:ロバート・

クラーク,翻訳者:工藤秀明,出版社名:新評論,出版年:1994.

■文献名:『環境教育の母 エレン・スワロウ・リチャーズ物語』,著者名:エス リー・アン・ヴェア,挿絵:ジェニファー・ヘイジャーマン,翻訳者:住田和 子・住田良仁,出版社名:東京書籍,出版年:2004.

■文献名:『改訂 生活と教育をつなぐ人間学―思想と実践―』,編著者:住田和 共著者:西野祥子・丸橋静香・香川晴美,出版社名:開隆堂,出版年:改訂版 2008 年(初版は 2003 年).

134 2015

平 27 芸 術 教 育 文 献 解 題 ブ ッ ク レ ッ ト 転

デジタルファブリケーション

■文献名:「第三の産業革命――モノをデータ化し,データをモノにする」『フォ ーリン・アフューズ・リポート』2012 年 11 月号,著者名:ニール・ガーシェ ンフェルド,出版社名:フォーリン・アフェアーズ・ジャパン,出版年:2012.

■文献名:『Fab(ファブ)パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケー ションへ』,著者名:ニール・ガーシェンフェルド,監修者:田中浩也,翻訳者 名:糸川洋,出版社名:オライリー・ジャパン,出版年:2012.

■文献名:『実践 Fab プロジェクトノート3D プリンターやレーザー加工機を使っ たデジタルファブリケーションのアイデア 40』,著者名:Fab の本制作委員会,

出版社名:グラフィック社,出版年:2013.

アイヌの人々の自然に対する考え方

■文献名:『アイヌ文化に学ぶ』,著者名:大橋晧也,企画:宮脇理,編集:岩崎 清,第 4 回美術科教育学会「東地区」研究発表会 in 函館での配布資料『地域 から今後の美術教育を考える』pp.10-11。出版年:2003。人間は自然の一部。自 然に支えられてこそ生きることができる。

2015 平 27 芸 術 教 育 文 献 解 題 ブ ッ ク レ ッ ト 結

自然の理にかなったものづくり

■文献名:『木による造形―造形的手段による遊び 2―』,著者名:エルンスト・

レットガー,翻訳者名:宮脇理・武藤重典,出版社名:造形社,出版年:1973.

自然に対する人間の責任・・・「自然に逆らっていないか」「自然に無理をかけ ていないか」「自然の理にかなっているか」を問う。

エレン・リチャーズのヒューマンエコロジー思想

■文献名:『レイク・プラシッドに輝く星 アメリカ最初の女性科学者エレン・リ チャーズ』,著者名:E.M.ダウティー,共訳者:住田和子・鈴木哲也,出版社名:

ドメス出版,出版年:2014.

※エレン・リチャーズの生涯と思想に関わる本書は「日本人は責任の問題をどう 解決するのか」という問いに答えるための基本的な方向を示している。また,

訳注を読むことによってエレンの思想の背景を理解することもできる(『芸術 教育文献解題ブックレット』より)。

自然への畏敬の心

■文献名:『日本の神々』,著者名:谷川健一,出版社名:岩波書店,出版年:1999.

※「風も樹も山もすべて『可畏きもの』(かしこきもの)をカミと考えた。すなわ ち禍をもたらすものも,稔や大漁をもたらすものも,およそ人の力の及ぶべく もないすべての自然が畏怖の対象であったのだ」(『日本の神々』より)。

ドキュメント内 第 2 部 次世代ものづくり教育の「規範」 (ページ 52-65)