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小売業の活性化に向けて

ドキュメント内 広島県における小売業の活性化 (ページ 64-72)

 

1.小売業の課題   

  広島県における小売業の年間販売額は,バブル崩壊に伴い経済が低成長に移行した 91 年以降に は増勢に陰りがみえ,人口が減少に転じた後の 90 年代末からは減少に転じるなど,小売業の市場 縮小が明確になった。加えて,現在の小売業は,消費者ニーズの多様化・個性化・高度化,イン ターネット通販や超広域的購買行動への拡大など様々な変化への対応を迫られている。また,大 店法の廃止やまちづくり三法の改正など法制度面での規制あるいは規制緩和といった政策的変更 などの影響もあり,商店街と郊外大型店との競争激化や消費者行動の変化に対応できず,停滞あ るいは衰退している商店街もある。さらには,同友会会員企業であるスーパー・百貨店からはオ ーバーストアの懸念が示されている。 

  これらは全国的にも共通する課題であると考えられることから,本委員会では中心市街地活性 化に対する先進的な取り組みで知られている(株)金沢商業活性化センターと(株)まちづくりとや ま等へのヒアリング調査を行った。なお,金沢市,富山市ともに改正中心市街地活性化法におけ る基本計画の内閣府認定を受けている。 

   

2.他地域の取り組み事例   

(1)(株)金沢商業活性化センター(石川県金沢市) 

①設立目的 

金沢市(人口 45 万人)では,大型店と商店街の共存を目的として,2002 年にゾーニング等を定 めた「商業環境形成まちづくり条例」を制定した。その内容は大型店の立地規制に関するもので,

人口集中地区に店舗面積 5,000 ㎡超の大規模小売店舗を立地する場合,原則出店前に市と協議す るよう定めた。しかし,街区を分けて小出しに商業施設を建設され,結果的に大きな売場面積を 確保されるなど,条例の不備をつかれて上手く機能しなかった。そのため他のまちづくり施策が 必要となり,行政(金沢市)主導のまちづくり会社として,(株)金沢商業活性化センター(第 28 表)が設立された。当初の代表者は金沢市からの出向者で,金沢市がバックにいるとの安心感を関 係者に与えて事業を軌道に乗せ,現在は代表者を含め全員プロパーで構成している。 

 

②商店街活性化への主要な取り組み事業  a.テナントミックス事業 

10 年以上放置されていた空き地を利用してショッピングモール「Pregoプ レ ー ゴ(イタリア語で「どうぞ」

「どういたしまして」の意)」を整備した。プロジェクト発足から約2年後の 2001 年3月開業で,

総事業費は約4億 3,000 万円(うち,同社負担は約 4,000 万円)を要した。都心軸である国道 157 号線沿いに立地し,単なる通過軸にならないよう,商店街の連続性の確保や空き店舗の解消,地 区内の不足業種(飲食店)の解消など賑わいの拠点として整備した。本事業は周辺商店街の売り 上げや歩行者通行量のアップに貢献している。 

 

b.情報誌「5タウンズマガジン」 

本情報誌は,香林坊地区の5商店街(香林坊,片町,堅町,広坂,柿木畠)の枠を超え,まち全 体で当事者意識を共有することを目標として,2005 年から発行(発行部数 11 万 5,000 部,金沢市 内の 10 万戸に直接配付)している。内容は,商店街などの情報や各種団体の活動状況に加えて,

国・県・市の行政情報や文化・歴史施設へのアクセス方法も収録するなど,他媒体が取材対象と 

第 28 表  (株)金沢商業活性化センターの概要   

○設立  :1998 年(平成 10 年)10 月7日 

○所在地:金沢市高岡町 1-33(明治安田生命ビル 5F) 

○資本金:4,600 万円 

○株主  株主構成  株主数(名) 出資額(万円)  出資比率(%) 

    金沢市  1      2,300      50.0         金沢商工会議所  1      200      4.4         商店街・商業者  18      1,435      31.2      

  大型店等  7      365      7.9      

  金融機関  2      300      6.5      

  計  29  4,600  100.0 

○役員  代表取締役  1名   

  専務取締役  2名  商店街振興組合理事 

  取  締  役  8名  市前産業局長,商工会議所専務理事 

      商店街振興組合理事長  4名 

      大型店代表者  2名 

  監  査  役  2名  金融機関代表者 

○事業内容 

      ・都市開発に関する企画,調査,設計及びコンサルタント業務 

      ・市街地の商業の振興を図るための経営,技術,販売,財務等に関する指導及び情報の提供業務 

・商店街振興組合その他商店街活性化のための組織の事務管理受託 

・各種イベントの企画,運営及び受託 

・商店街の販売促進のための共同事業に関する企画,調査,設計及び受託 

・土地,建物の有効利用に関する企画,調査,設計及び受託        ほか 

○収支状況 

年  度  2005(実績)  2006(実績)  2007(見込)  2008(計画)  収入額(a)  2億 7,370 万円 2億 5,960 万円 2億 3,870 万円 2億 3,120 万円  支出額(b)  2億 6,840 万円 2億 5,860 万円 2億 3,660 万円 2億 2,750 万円  差  引(a-b)  530 万円 100 万円 210 万円 370 万円  資料:金沢市ホームページ 

しないまちの本当の魅力の発信を目的としている。 

総事業費は 7,000 万円で,関係する協議会から 1,000 万円を支出しているが,必要経費は店舗 からの広告収入のみ(補助金もなし)である。これまでに6号プラス特別号の全7号を発刊して いる。 

 

c.5タウンズ無料ショッピングタクシー運行事業 

金沢駅と香林坊地区5商店街を結ぶ無料タクシー事業(民間1社とのタイアップ)で,2006 年 11 月に金沢駅前にオープンした金沢フォーラス(JRが開発した8階建のビル,イオンが入居)の客 を約3km 離れている香林坊地区まで誘導することを目的に,期間限定(2006 年 11 月3日〜2007 年1月8日までの土・日・祝日(年始の平日を含む))で実施した。約3万人の利用者があり,内訳 は金沢市内 40%,富山県内 30%,福井県 20%,その他 10%で市外の住民の利用も多く,中心商 店街の集客に寄与したと評価している。 

d.ショッピングライナー「まちバス」事業 

金沢の3大中心商店街(金沢駅周辺,武蔵地区,香林坊地区)が連携し,ショッピング,観光 など市内の回遊性の創造を目的とした無料ショッピングバスを運行(2007 年6月〜2008 年 1 月,

土・日・祝日)している。 

総事業費は 1,200 万円(内訳は,商店街等負担金 470 万円,広告収入 330 万円,市補助金 400 万 円)を予定している。 

③小売業活性化への示唆

「5タウンズ無料ショッピングタクシー運行事業」は,大型店も巻き込んで実施したものであ るが,大型店は初めは前向きでなかった。しかし,大型店の前まで客を連れて行くなど大型店に とってのメリットを強調することで協力を取り付けるなど,対立の構図ではなくWIN−WIN の関係にすることが成功の秘訣と考えられる。 

同社は,「お客さまにとって何が最もいいか?」というお客さまの視点を大切にしており,例え ば,初売りの日が統一されていない場合には,お客さまは商店街に何度も足を運ばなくてはなら ないため,まち全体が一丸となって行動していく必要性を商店主に説得し続けている。古い商店 主はなかなか新しいものを受け入れようとしないが,まちづくりの方向性やメリットについて時 間をかけて説得している。 

 

(2)(株)まちづくりとやま(富山県富山市) 

①設立目的 

富山市(人口 42 万人)は,青森市とともに改正中心市街地活性化法における基本計画の第一号認 定を受けて,公共交通機関を活用したコンパクトシティによるまちづくりを行っている。富山市 長が熱心に取り組んでおり,そのリーダーシップのもとで中心市街地の商業活性化などの事業を 実施しているのが(株)まちづくりとやま(第 29 表)である。 

同社は中心市街地活性化基本計画に基づき,中心商店街の活性化を図るため,中心市街地  における商業集積を一体的かつ計画的に管理・運営するために,商工会議所主導で設立され, 

市内の中心的な商店街である総曲そ う が商店街,中央通商店街,西町商店街を管轄している。 

同社の社長は富山市副市長であり,副社長2名(常勤,非常勤),出向者8名(富山市,富山商 工会議所各2名,民間4名(銀行,電力,印刷,情報))の計 11 名体制である。 

 

第 29 表  (株)まちづくりとやまの概要   

○設立  :2000 年(平成 12 年)7月7日 

○資本金:3,000 万円   

○株主  株主構成  株主数(名) 出資額(万円)  出資比率(%) 

    富山市  1      1,500      50.0      

  富山商工会議所  1      500      16.7      

  商店街振興組合・商業者

等 

28      600      20.0      

  大型店,金融機関等  8      400      13.3      

  計  38  3,000      100.0      

 

○役員  代表取締役社長  1名  非常勤(副市長) 

  代表取締役副社長  2名  常勤(1名),非常勤(1名) 

  取  締  役  9名   

  監  査  役  3名   

○事業内容 

    (基盤整備)・インキュベーター・ショップ(チャレンジショップ)の運営(全国初) 

       ・中心市街地の駐車場システムの調査・検討 

(イベント)・中心商店街が実施する事業支援 

(情報発信)・ホームページの運営 

・情報誌「シティ・ウォーカー」の発行 

(市民参加)・まちづくりフォーラムの開催 

        ・アイデア提案箱の設置      ほか

○収支状況  2006 年度利益  :194 万円  資料:富山市ホームページ 

②商店街活性化への主要な取り組み事業  a.グランドプラザ整備運営事業 

イベントに限らず,様々な目的で訪れる人の拠点となるよう公共広場として,商店街の一角に ガラス張りの屋根付きオープンスペースを整備 (2007 年9月完成,広さ:65m×21m,総事業費:

約 15 億円) した。 

 

b.「賑わい交流館」運営事業 

映画館として使用されていた施設を活用し,映画上映や音楽ライブ,寄席や文化教室などのエ ンターテイメント施設として改修(建物の4階と5階)した。シネマホール 176 席,ライブホー

ル 96 席を有する「フォルツァ総曲輪」として 2007 年2月に営業開始した。 

 

c.「にぎわい横丁」運営事業 

中心市街地に不足している飲食の魅力を高めるため,5年間の実験事業として店舗・厨房機器 を同社が用意して「越中食彩 にぎわい横丁」を整備した。2007 年3月にオープンし,現在はラ ーメン,そば,居酒屋など6店舗が入居している。 

 

d.街なかサロン「樹の子」運営事業 

中央通り商店街(総曲輪商店街の東側)の空き店舗を活用した街なかサロンにおいて,来街者 間の交流の場を提供するため,2004 年3月にオープンした。 

 

e.イベント・基盤整備・情報発信事業 

「街なか感謝デー」として,「街なかグランフェスタ」というイベントの実施とともに,中心商 店街(総曲輪,中央通り,西町各商店街)にある駐車場を無料開放(月1回を目標)しており,開放 当日は商店街の通行量が4〜5割アップしている。また,富山駅から中心商店街などを循環する コミュニティバスの運行(20 分に1本程度。平均 10.9 人乗車)を実施している。 

賑わいづくりの基盤整備として,商店街の空き店舗の活用による若者の起業支援(チャレンジシ ョップ)を 1997 年から実施(当初は商工会議所が実施し,同社への事業移管は 2000 年)してきた。

これまで中心商店街に 60 名を超える独立開業者を送り出し,現在 34 名が営業中である。さらに,

情報誌「シティウォーカー」の発行(年1回,4万部)やホームページなどを通じて,まちなかの イベント情報,観光情報を発信している。 

③小売業活性化への示唆

富山市は,2005 年 4 月の市町村合併により市域が拡大したため,中心市街地の面積は全体 0.3%

しかないが,税収の 30%をまかなっており,市は中心市街地を発展させることで市全体を発展さ せる施策を行っている。このため,郊外の大型店や他の商店街は特に意識することなく大型店は 大型店,商店街は商店街と割り切りライバル意識もないため,大型店とのイベント共催は行って いない。富山市民の一般的なスタイルは,郊外の大きな住宅に住んで車を複数台持つことだが,

大きな住宅は日常のメンテナンスや雪かきが必要なため,高齢者は中心部のマンションを望みつ つある。一方,働く場としての工場などは郊外立地が多い。今後,若い人は職住接近で郊外,高 齢者は中心部という棲み分けが可能と考えている。 

まちづくりの計画には様々な関係者の調整が必要なことなどから,現在進めている中心市街地 構想には 15 年程度を要した。このたびの改正まちづくり三法は商店街にとって追い風となると評 価している。 

  また,富山県においても,富山市を含め中心市街地の活性化事業を支援する補助金(中心市街 地活性化ステップアップ事業費補助金,がんばる商店街支援事業費補助金ほか)を用意するなど,

県施策でのバックアップを実施している。 

     

ドキュメント内 広島県における小売業の活性化 (ページ 64-72)

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