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対外摩擦

ドキュメント内 「中国の対外経済関係と知財政策」 (ページ 32-37)

2005

年4月,米国は中国をスペシャル

301

条の優先監視国に指定した。スペシャル

301

条は,1988年の包括通商・競争力法の成立により創設されたもので,知的財産権 の保護が不十分な国を不公正貿易慣行国として特定・調査し,相手国と協議を行い,

改善がみられない場合には,対抗措置(経済制裁の発動)を行うものである。米国通 商代表部(USTR)は,毎年,優先国,306条監視国,優先監視国,監視国を指定す る。中国は,1991年,1994年,1996年に優先国に指定されたが,米中間で保護改善 にむけた合意を行い,制裁は回避されてきた。1997年以降,2004年までは

306

条監視 国であった。306条監視国とは,優先国に分類されていたが,誠意ある交渉に入るか,

もしくは進展を見せている国が分類される区分である29)

1995

年の米中知的財産権協 定によるもので,協定履行が監視され,二国間協定の不履行が認められた場合には制 裁措置を発動できることになっている。

6.中国における知的財産権制度のデザイン 6.1 知的財産権制度と経済発展

発展途上国と知的財産制度

知的財産権保護と経済発展との関係は非常に複雑である。知的財産権の保護のあり 方は,その国の研究開発活動とイノベーション活動に影響を与えることを通じて,経 済成長に影響を与える。加えて,知的財産権制度のあり方は,海外からの直接投資,

技術移転・拡散,そして貿易について,それらの規模や内容に影響を及ぼし,それを 通じて経済の成長に影響を与えることになる。別の視点からいえば,知的財産権の保 護のあり方が,経済発展にプラスの影響とマイナスの影響を及ぼす一方,経済発展や それに伴う技術水準の向上は,知的財産権の保護水準の強化を求める力となる。

従来,発展途上国は知的財産権保護に消極的であった。発展途上国は一般に,自国

の研究開発能力が未熟であり,発展に必要不可欠な技術知識を海外から導入する必要 がある。知的財産権の保護強化は,主に外国人が所有する技術知識に排他的権利を与 え,外国企業の市場支配力を高めることになる。その結果,模倣コストの増大を通じ て海外技術の模倣・吸収が抑制されるとともに,知的財産を体化した製品の価格が上 昇し,保護のレントは海外に移転してしまう。

知的財産権制度は,知的財産権の権利者へ排他的権利を付与することによる静学的 な効率の低下と,知的財産の創造へのインセンティブ付与によるイノベーション促進 などの動学的な効率の向上というバランスの上に成り立っている。従って,知的財産 権の保護がもたらす便益は,イノベーションの促進などの長期的な利益が,どれだけ 静学的な損失を上回ることができるかにより決まる。

先進国がもっぱらイノベーション活動を行い,発展途上国がそれを模倣するという 枠組みで考えた場合には,発展途上国が知的財産権保護から得られる利益はほとんど ないことになる。とりわけ特許については悲観的に考えられている。日米欧といった 主要先進国が研究開発支出や特許の出願・登録数などにおいて圧倒的なシェアを占め ている事実が示しているように,世界の研究開発活動の多くの部分は少数の先進国が 担っている。一方,発展途上国は,特許となるような先端技術を開発するというより はむしろ,既存の技術をいかに吸収し,技術的基盤を構築していくかが,決定的に重 要となる。そうした目的のためには,弱い特許保護が望ましいと考えられてきた。

しかしながら,いままでなされてきた研究が示すように,発展途上国の知的財産権 保護強化がもたらすメリットがある。その第一は,発展途上国における知的財産権の 保護強化が,貿易と直接投資を通じた外国からの技術移転を促進するとともに,国内 産業に技術伝播などの波及効果をもたらす可能性である。

直接投資は,途上国にとって最も重要な技術移転のチャネルである。直接投資の形 態は完全所有子会社から,少数所有,合弁など様々であり,移転される技術の内容や 程度も異なってくるが,直接投資は,生産技術だけでなく,親企業のもつ経営管理能 力,マーケティング能力,企業家的能力などを現地子会社にもたらし,現地従業員の OJTを通じて,その技術やノウハウが現地に移転する。また,現地サプライヤーへの 技術指導,デモンストレーション効果,従業員の転職など,様々な経路を通じて技術 やノウハウが伝播するなどの波及効果がある。

こうした直接投資とそれを通じた技術の移転と伝播は,知的財産権保護の強さによ り影響を受ける。

Lee and Mansfield

(1996)は,米国の直接投資と特許保護の関係 について調べており,特許の保護水準が高いほど,その国への直接投資が増加し,研 究開発施設などへの投資比率が高くなっていることなどを示し,特許保護の強さが直 接投資の量と質(技術構成)に影響をあたえると結論している。また,最も直接的な 技術移転のチャネルであるライセンシングについては,直接投資以上に,知的財産権

保護の程度が先進国企業のライセンシング決定に影響を与えるであろう。

次に,知的財産権保護が国内産業のイノベーションを促進するかを考えてみよう。

一般に発展途上国においては,海外から導入した技術をもとに,その国の市場状況に 適応させるための研究開発や,マイナーな改良発明などが研究開発の中心となる。こ うした研究開発の成果は特許や実用新案の対象となるが,特許や実用新案権の付与は こうした研究開発活動のインセンティブとなる可能性がある。

とりわけ実用新案は,高度な技術水準を要件としない「考案」が対象となっており,

国内企業の漸進的な技術発展につながる研究開発を促進する。ベラジルやフィリピン での技術発展の研究では,実用新案の保護により,現地企業が外国製品・技術を現地 の状況に適応させる技術開発を行い,現地のイノベーションを促進したことを示して いる。また,

Maskus and McDaniel

(1999)は,日本の実用新案制度と,単項制や 狭いクレームなどの特徴を持つ特許制度が,漸進的なイノベーションを通じたキャッ チアップと技術普及に役立ったことを示している。

以上の例が示すように,特許や実用新案の適切な保護が現地企業の漸進的な技術開 発を促し,イノベーションの促進と生産性の向上に貢献する可能性がある。しかしな がら,これが実現されるためには,第一に,外国技術を吸収し,それにマイナーな改 良を加えうる技術的能力がその国の産業に備わっていること,第二に,外国技術への 保護が強すぎないことが前提となろう。近年,途上国における研究開発支出が増大し てきており,中国をはじめ対GDP比で1%を超えている国もでてきている。研究開 発活動を活発化させてきているこうした国では,知的財産権保護は国内産業のイノベ ーションに重要な役割を果たすであろう。

中国における直接投資と技術移転

中国についていえば,市場の成長性と安価な労働力という大きな魅力があり,直接 投資は増加を続けている。しかしながら,中国における知的財産権問題は,直接投資を 行う企業が指摘する最大の問題点の一つとなっており30),このことが中国への直接投 資の決定を歪めている可能性がある。また,中国に進出した外資系企業が現地での不 法な技術・ノウハウの漏洩を防止するため,様々な防御手段を特別に講じているケー スもある31)。これは中国,日本の双方にマイナスである。直接投資を通じた技術移転 促進のためには,特許の保護だけでなく,トレード・シークレットの保護も重要な役 割を果たす。

また,前にみたように,中国において外資系企業の研究開発活動も活発化してきて いる。例えば,日産自動車は現地の消費者のニーズに合わせた製品開発を行う研究開 発拠点を広州市に設置した32)。車体,内外装,電装品など自動車部品全般を対象に現 地の部品メーカーと協力して,中国で現地生産できる部品開発を行い,現地調達率を

引き上げることで,価格競争力を強化し,開発から製品化までのリードタイムを短縮 できるという。こうしたタイプの研究開発は,現地サプライヤーへの技術移転とスピ ル・オーバーの効果が大きく,現地の技術能力の向上に寄与しよう。その一方で,現 地生産で先行したホンダは,こうした中国での研究開発強化の動きに対して静観の構 えであるといい,また,現地企業との合弁で研究開発拠点を設立する計画のトヨタも,

ボディ開発などを中心とし,ハイブリッド技術などは対象にしないという。両社とも この理由を知的財産保護の問題としている。こうした事例が示唆しているように,中 国の知的財産問題は,質が高く,また,技術移転効果が期待できる直接投資をかなり の程度抑制している可能性がある。

これまで中国は,直接投資の受入に際して,“market for technology” と呼ばれる 戦略を採用してきた。これは,直接投資プロジェクトの認可において,先進技術の移 転要求,ローカル・コンテント要求,輸出入均衡要求などの条件を進出企業に課する ものである。この戦略は,これまでの中国への技術移転に重要な役割を果たしてきた

[OECD(2002),

p. 209]

。しかし,WTOのTRIM(貿易関連投資措置)協定により,

こうした戦略はとれなくなった。外資系企業は,どのようなタイプの技術を中国に移 転し,また,中間財や資本財をどの程度輸入するかを自由に決めることができる。今 後,外国企業による中国への直接投資や技術移転の決定において,中国の知的財産権 の保護のあり方が今まで以上に影響を与えることになろう。

国内イノベーションの促進

中国における知的財産の適切な保護は,中国への良質な直接投資の導入のためだけ でなく,国内のイノベーションの促進のためにも重要な役割を果たす。前項で述べた

“market for technology” の戦略はもはやとりうる戦略ではなくなった。中国の外資

受入状況を合資,合作,独資という

3

つのタイプ33)別で見てみると,1990年代半ばま では合資が半分以上を占めていたが,その後独資がシェアを高め,2003年には独資が

7

割を占めている。

こうした流れの中で,中国が今後,持続的な産業発展を遂げていくためには,中国企 業の技術基盤を強固なものにし,独自の技術開発を積極的に進めていく必要がある。

中国政府もこのことを最重要課題の一つと認識している。最近採択された中国の第

11

次5カ年計画では,その柱の一つを「工業構造の高度化」とし,労働集約型主体の産業 構造から独自の研究開発能力を持った「創新型国家」への転換を目指すとされている34) この目的を達成するため,中国は知的財産権の活用を前面に打ち出している。研究開 発費の

150

%を税額控除するなどの税制支援に加えて,重要な技術や製品を製造した 企業への特許出願の支援や,特定分野での技術について海外での特許取得の費用を国 が補助するなどの独自技術振興のための知財政策を相次いで打ち出してきている35)

ドキュメント内 「中国の対外経済関係と知財政策」 (ページ 32-37)

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