はじめに 中国は模倣品大国であるといわれて久しい。中国政府の懸命の努力にもかかわらず, その汚名はなかなか返上できない。改善の兆しを見せない中国の模倣品問題に,諸外 国との知的財産権摩擦が再燃している。米国は,2005 年4月,306 条監視国からスペ シャル301 条の優先監視国に指定を変えた。 その一方,「科学技術は第一の生産力である」とのスローガンのもとに,中国は科学 技術体制の改革を押し進め,中関村などでは大学や研究機関からスピンオフしたハイ テクベンチャー企業が多数勃興し,国内企業からの特許出願も近年急増をみている。 また,外資を活用した積極的な技術導入を背景に,中国の貿易構造はハイテク化が進 んでおり,中国ハイテク製品輸出の伸びは世界のハイテク製品需要の伸びを大きく上 回るものである。 この中国において,模倣品の撲滅,すなわち知的財産権のエンフォースメントの強 化は急務であると思われるが,さらにその先に,中国はどのような知的財産権制度を デザインしていくべきか。本稿は,中国での研究開発活動や知財活動の実態,貿易構 造変化を明らかにすることで,この問題への手がかりを得ようとするものである。 1.中国の知的財産権制度:概観 1.1 体系 中国はこの20 年間で知的財産権制度の整備を進めてきた。特許法(専利法),商標法, 著作権法の知的財産権(知識産権)主要三法をはじめ,コンピュータ・ソフトウエア保 護条例,植物新品種保護条例,集積回路配置保護条例,反不正当競争法など,一連の
中国の対外経済関係と知財政策
China’s Foreign Economic Relations and
Intellectual Property Policy
山 口 直 樹 Naoki YAMAGUCHI
知的財産権法・法規が施行されており,その実体規定は国際的な水準に達している。 こうした知的財産権法・制度の整備を動機づけたものの一つに中国のWTO(世界貿 易機関)加盟がある。知的財産権問題は,WTOの加盟作業部会において加盟国が強 く改善を要求した一分野であり,中国は加盟交渉において,加盟時点(2001 年 12 月) でのTRIPS協定(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)の遵守を約束した。 TRIPS協定では,(1)著作権および関連する権利,(2)商標,(3)地理的表示, (4)意匠,(5)特許,(6)集積回路の回路配置,(7)開示されていない情報の 7 種を 知的財産権とし,「内国民待遇」および「最恵国待遇」というGATTの基本原則の適 用と,全加盟国が遵守すべき保護の最低基準(ミニマム・スタンダード)1)が定められ ている。中国は,TRIPS協定に知的財産権法制を整合させるため,法律・法規の改 廃や新法令の創設を相次いで行ってきた。1993 年に制定された反不正当競争法による 営業秘密(トレード・シークレット)の保護をはじめとして,1997 年には植物新品種, 2001 年には集積回路配置,2002 年にはコンピュータ・ソフトが,それぞれ新たに制定さ れた保護条例により保護されるようになった。また,特許法,商標法,著作権法につ いても,TRIPS協定に規定されている条件に適合させるための改正2)が2000 年から 2001 年にかけて行われた。この結果,実体法制の整備という観点において,中国の知的 財産権法制はおおむねTRIPS協定に整合的な内容をもつものになっている3)。以下 では,中国における中国の知的財産権制度の概要について簡単にまとめておきたい4)。 特許 中国の特許法では,発明,考案(実用新案),意匠の3つが保護の対象とされてい る。すなわち,中国における特許は発明特許,実用新案特許,意匠特許の3種からな り,中国の特許法は,日本の特許法,実用新案法,意匠法の3つの法律をまとめたも のと考えられる。もちろん,それぞれの要件,出願手続き,審査などは異なる。中国 における発明特許(以下,特許)の主な特徴として,①先願主義,②審査主義,③審 査請求制度および出願公開制度,④出願公告制度,⑤付与後異議申立制度などがあげ られる5)。一方,実用新案特許(以下,実用新案)および意匠特許(以下,意匠)に ついては,保護期間は10 年,無審査主義である。また,出願公開制度はない。 中国特許法は1985 年4月1日に施行され,その後2度の改正が行われた。1992 年 9月の第一回改正においては,特許の保護範囲の拡大と保護期間の延長が行われた。 具体的には,物質特許制度が導入され,医薬や化学物質が特許の対象となった。また, 特許の保護期間は15 年から 20 年へ,意匠および実用新案の保護期間は5年から 10 年 に延長された。2001 年7月の第二回改正においては,これまで特許のみに認められて いた裁判所における審理終結権が,実用新案および意匠にも与えられた6)。これによ
り,特許のみならず,実用新案や意匠についても,行政機関の決定に対する司法審査 の機会が与えられるようになった。 商標 商標法は1983 年3月に施行され,その後2度の改正が行われている。下にみる第二 回改正においてTRIPS協定に適合させる改正が行われたため,規定自体はほぼ国際 水準の内容であり,登録主義7),存続期間10 年と更新登録など,日本とほぼ同様の制 度となっている。 1993 年3月の第一回改正においては,商標法の保護範囲をサービス・マークへと拡 大した。また,商標の形式審査に補正手続きを,また,実質審査に意見書制度を設け, 登録手続きの整備が行われた。さらに,商標権侵害に用いられる商標やそれを作り出 した金型等を没収できるようにするなど,エンフォースメントの手段が強化されてい る。現行法となる第二回改正では,立体商標,団体商標,証明商標の規定が導入され, 保護対象が拡大するとともに,地理的表示について商標法により保護することが規定 された。また,著名商標(馳名商標)に対する保護を強化し,登録された著名商標 (馳名商標)は「類似しない商品」についても,登録されていない著名商標(馳名商標) は「同一または類似製品」について保護されることになった8)。さらに,商標の権利 確定手続きに不服がある場合,司法上の救済を得られる道が開かれた。 著作権 中国著作権法は1991 年6月に施行された。また,コンピュータ・ソフトウエア保護 条例も同年10 月に施行されている。2001 年 10 月の著作権法改正では,外国著作物へ の保護が拡大され,貸与権が明示的に規定されるなど,TRIPS協定に整合化させる ための改正が行われている9)。2005 年5月には,インターネット上の著作権侵害に関 して,インターネット著作権行政保護規則が施行されている。 その他 1997 年3月に植物新品種保護条例が施行され,中国の知的財産権保護が植物新品種 に 拡 大 さ れ た 。 同 条 例 に お け る 保 護 の 枠 組 み や 内 容 は ほ ぼ UPOV( The International Union for the Protection of New Varieties of Plants)条約にほぼ一致 するものである10)。
1993 年 12 月に施行された反不正当競争法は,日本の不正競争防止法に相当するも のであるが,さらに,日本の独占禁止法や不当景品類及び不当表示防止法に構成され ている内容を一部含むものとなっている。不正競争行為の禁止と不公正な取引方法の 禁止が主な内容である。
表 1−1 中国の主要な知的財産権法・法規 表1−2 中国の国際条約等の加盟 法律 法規 保護対象 特許法 1985 年施行 特許法実施細則 2001 年施行 発明 1992 年改正 2002 年改正 考案(実用新案) 2000 年改正 意匠 商標法 1983 年施行 商標法実施条例 2002 年施行 商標 1993 年改正 (2002 年までは商標法施行細則) 2001 年改正 地理的表示商品保護規定 2005 年施行 地理的表示 著作権法 1991 年施行 著作権法実施条例 2002 年施行 著作物 2001 年改正 コンピュータ・ソフトウエア保護条例 2002 年施行 コンピュータ・プログラム インターネット著作権行政保護規則 2005 年施行 インターネット上での著作権 反不正当競争法 1993 年制定 (関連の行政法規) 営業秘密など その他 集積回路配置デザイン保護条例 2001 年施行 集積回路配置デザイン 植物新品種保護条例 1997 年施行 植物新品種 1980 年 WIPO設立条約(世界知的所有権機関) 1985 年 パリ条約(工業所有権保護) 1989 年 ワシントン条約(集積回路についての知的財産権) 1989 年 マドリッド協定(標章の国際登録) 1992 年 ベルヌ条約(文学的及び美術的著作物の保護) 1992 年 万国著作権条約 1993 年 ジュネーブ条約(録音製品の無断複製防止) 1994 年 特許協力条約(PCT) 1994 年 ニース協定(商標・サービスマーク登録のための財・サービスの国際分類) 1995 年 ブダペスト条約(特許手続き上の微生物の寄託) 1996 年 ロカルノ条約(意匠の国際分類) 1997 年 ストラスブール協定(国際特許分類) 1999 年 UPOV条約(植物の新品種の保護) 2001 年 TRIPS協定(知的所有権の貿易関連側面に関する協定)
国際条約 知的財産権関連の法整備と平行して,中国はほとんどすべての知的財産権保護に関 する国際条約に加盟を果たしてきた。1980 年における世界知的所有権機関(WIPO) への加盟に始まり,85 年のパリ条約,89 年のマドリッド条約など,表1−2に示され るように,80 年代から90 年代にかけて主要な国際条約に加盟を果たしている。 1.2 中国の知的財産権制度:エンフォースメント (1)制度的枠組み 中国における知的財産権関連法の執行機関は,それぞれの権利ごとに異なる執行機 関が設けられている。特許についての業務を管轄するのは国家知的財産権局(SIPO: State Intellectual Property Office)である。中国科学技術委員会の下部機関であっ た専利局が1998 年に改称されたものであり,国務院の直属機関になった。また,省, 自治区,直轄市は特許業務管理機関として地方知的財産権局をもつ。国家知的財産権 局は,出願の受理から審査,登録といった一連の特許業務のほか,政策の策定やその 実施などに責任を負う。一方,地方知的財産権局は,管轄地域の特許行政と,特許紛 争の解決(行政ルートでの救済)に責任を負っている。国家知的財産権局と地方の知 的財産権局との間には,行政的な所轄関係はない。 商標については,日本では特許庁が取り扱っているが,中国では国務院直属の国家 工商行政管理局(SAIC: State Administration for Industry and Commerce)に属 する商標局の管轄であり,商標登録出願の受理,登録・管理などを行う。商標登録の 拒絶査定の不服審判や不正登録取消請求の審理などは,商標局とは独立の機関である 商標評審委員会が行う。また,地方の工商行政管理局は,偽物の摘発や商標権侵害の 処理など,商標権のエンフォースメントにおいて重要な役割を担っている。 (2)侵害救済手段 中国における知的財産権のエンフォースメントの特徴は,関連する行政当局に模倣 品を没収・廃棄し,罰金等の行政処罰を行う権限が与えられている点であり,行政保 護と司法保護という「2つのルートの平行運用」という知的財産権保護モデルが形成 されている11)。 この2つの救済ルートの相違点を簡単にまとめると12), ①司法ルートの救済の方が強力で,判決の効力が高い。しかし,立案の時,原告 が用意しなければならない侵害を証明する証拠に対する要求が高い。 ②行政ルートによる救済は,効率がよく,立案時に原告が用意しなければならな い侵害を証明する証拠に対する要求が緩い。但し,決定の効力が弱い。また, 同時に侵害者からの損害賠償を強制することができない。
中国では,このように,大きく司法ルートと行政ルートという2つのルートにより 侵害の救済がなされており,以下では,これら手段の内容と特徴について簡単にまと めておこう。 行政的手段 権利が侵害された場合,知的財産権の権利者は関連する行政当局に救済を求めるこ とができる。行政当局の調査により侵害が確認されると,侵害行為の停止,侵害製品 の差押さえ,過料の課徴などの行政処罰が行われる。また,権利者が行政当局の決定 に不服の場合,行政訴訟を提起することにより,救済を求めることになる。 中国では,今までこうした行政ルートによる救済が重視されており,その処理件数 は司法ルートによるものよりも圧倒的に多い。これは,上で述べたように,手続きの 簡便さや費用が安価などの点で効率的であり,原告が用意すべき侵害を証明する証拠 に対する要求が低いなどのメリットがあり,利用しやすいこと,また,司法ルート (裁判所)があまり信頼されるものでなかったことなどが理由である。 しかしながら,①行政当局が損害賠償額を裁定する権限を持たない,②強制執行力 がなく,侵害者が当局の決定に従わない場合には人民法院に強制執行を申し立てなけ ればならない,③行政的手段は主に権利侵害品というモノを対象としており,権利侵 害者を取り調べることによってさらなる証拠を得る権限がない13)などの欠点があり, 現状では,少なくとも知的財産権侵害の抑止力となっていない。 表1−3 中国知的財産権法執行機関による法執行 (出所)中華人民共和国商務部ウェブページ(英語)より作成 民事的手段 特許権や商標権の侵害が発生した場合,権利者は侵害の停止,影響の除去,損害賠 償を求めて人民法院に訴訟を提起できる。 2001 2002 2003 2004 特許紛争事件受理件数 977 1,442 1,517 1,455 商標事件摘発件数 41,163 39,105 37,489 51,851 著作権紛争事件受理件数 4,416 6,408 23,013 税関における知的財産権侵害 事件摘発件数 330 573 756 公安機関による侵害,海賊版, わいせつ物関連事件摘発件数 39,700 以上 34,000 以上 34,700 以上
中国の裁判所は人民法院と呼ばれ,最高人民法院,高級人民法院,中級人民法院, 基層人民法院という四級の裁判所が設置されている14)。日本など多くの国で三審制が 採用されているが,中国は二審終審制度である15)。また,1993 年以降,中級・高級人 民法院に知的財産権事件の審理を専門に扱う知的財産権審判廷が順次,設置された。 1996 年には,最高人民法院に知的財産権審判廷が設置され,重要な知的財産権事件を 取り扱うとともに,司法解釈のガイドラインを発表するなどして,国内各地の知的財 産権事件の指導と監督を行ってきた。また,すべての省の高級人民法院,省都,自治 区の首都,直轄市の中級人民法院などに知的財産権審判廷が設置され,北京市,上海 市にある一部の基層人民法院にも専門の法廷が設置されてきたが,近年の司法改革に より,最高人民法院をはじめいくつかの人民法院では,「知的財産権審判廷」は「第 三民事審判廷」へと改称されている。 2001 年より,特許権および商標権の不法行為に対して,訴訟前差止め制度が確立さ れた。これにより,訴訟提起前に権利侵害行為の停止と財産の保全措置命令をとるよ う人民法院に申し立てることができることになり16),司法ルートによる救済が強化さ れている。 刑事的手段 中国の刑法においては,知的財産権の侵害(侵害品の生産・販売)は,知的財産侵 害罪(第213 ∼ 219 条,登録商標冒用罪,登録商標冒用商品販売罪,登録商標標章不 法製造及び不法製造登録商標標章販売罪,特許冒用罪,著作権侵害罪,権利侵害複製 品販売罪,営業秘密侵害罪),および偽造粗悪商品生産販売罪(第140 条)を構成する。 懲役や罰金などの罰則が規定されている。 訴追数は近年増加傾向にあるものの,侵害摘発件数の規模と比較して非常に少ない。 訴追の基準が厳しく,かつ不明確であるなどの問題があるためである。諸外国からの 厳しい批判もあり,2004 年 12 月,最高人民法院と最高人民検察院は,「知的財産権侵 害における刑事事件処理の具体的な法律適用に関する若干問題の解釈」を公布,施行 し,訴追,量刑基準を引き下げた。刑事訴訟は,それがうまく機能すれば,他の手段 よりも高い抑止的効果をもたらす高い制裁につながるものであり,今後の中国におけ る知的財産権保護において重要な鍵を握っているものと思われる。 税関による保護 税関もまた,知的財産権保護の重要な役割を担っている。国境における知的財産権 保護が開始されたのは1994 年からであり,1995 年 10 月には,TRIPS協定の規定と の整合化をはかるため,「税関知的財産権保護条例」が公布,実施され,2003 年に改 正されている。
表1−4 中国における知的財産権侵害救済手段の比較(特許の場合) (出所)日中経済協会(2005)p.206 より抜粋。 行政的手段 民事的手段 刑事的手段 特許事務管理部門に よ る 処理 管 轄 効 果 着手か ら 終了ま で にかかる 時間 金 銭 的 コ ス ト 時 効 特許侵害訴訟(訴訟前差 止措置を含む。) 特許盗用罪(「刑法」216 条、「特許法実施細則」84 条)虚偽粗悪商品生産販 売罪(「刑法」140 条) 管轄は 被申立人所在地ま た は 権利侵害行為地の 特 許事務管理部門となってい る(「特許法実施細則」81 条)。2つ以上の特許 事務管理部門が 管轄を 有 する場合、その1つに申し 立てることができる 管轄は被告所在地または侵 害行為地の 地方政府所在 地の 中級人民法院で あ る (「特許紛争案件審理におけ る法適用問題の若干規定」 2条、5条) 審判管轄については、犯罪 行為地の 人民法院で あ る (「刑事訴訟法」19 条)効 果 違法所得の没収 過料(「特許法」59 条) 製造設備の没収・廃棄 模倣品の没収・廃棄 製造・販売行為の停止 (「特許行政執行方法」33 条1号) 損害賠償 侵害行為の差止 製造設備の没収・廃棄 模倣品の没収・廃棄 刑罰 (特許盗用罪―3年以下の 懲役、罰金) (虚偽粗悪商品生産販売罪 ― 無 期 又 は 有 期 の 懲 役 , 罰金) 法定期限はないが,通常3, 4 カ 月 か か る( 北 京 の 場 合) 訴訟前差止は48 時間以内 に裁定、執行開始。 渉外案件の場合、法定審理 期限はない(「民事訴訟法」 250 条) 事理期間につき、第一審は 原則として1カ月、さらに 1カ月の延長が可能(「刑 事訴訟法」16 条)。第二審 も同上(同法196 条) 金銭的コ ス ト 案件受理費 1100 元/件(北京の場合) 訴訟前差止について、保全 金額と 同額の 担保の 提供 が必要(「民訴法若干問題 の意見」第98 条) 証拠公証費:3000 元/件 (北京の場合) 証拠保管費:約1200 元/ 年(公証期間保管の場合) 保全訴訟費用:保全額の 約0.5 % 案件受理費(一審):500 元 ∼1000 元、請求金額があれ ば、請求額の0.5 % 執 行 費 用 : 執 行 金 額 の 0.5 %∼ 0.1 % その他:鑑定費用、翻訳費 用、弁護士費用等 法定費用は少額 特許権者ま た は 利害関係 人が侵害行為を知ったまた は知り得べき日から2年で ある(「特許法」62 条)。侵 害行為が継続しているとき は、特許有効期間内 であれば差止判決可 特許盗用罪―5年 虚偽粗悪商品生産販売罪 ―20 年
2.中国の研究開発 2.1 科学技術政策 1949 年に社会主義国として成立した中華人民共和国は,計画経済のもとで経済活力 が低下し,また,1960 年代後半から1970 年代前半にかけての文化大革命がもたらした 社会経済の大混乱により疲弊した中国経済を建て直すため,1975 年,農業,工業,国 防,科学技術という「4つの近代化」のもとで中国経済を先進国並みに向上させると する国家的な大目標が掲げられた。こうした中,R小平は「改革開放」政策を開始し た(1979 年)。貿易の再開と外資の導入による経済発展を目指し,深S,珠海,汕頭, 厦門に経済特別区が設置された。現在の中国の経済発展のスタートである。1992 年の 南巡講和以降,改革開放は加速し,急速な経済発展を遂げてきていることは周知の事 実である。 こうした改革開放による経済発展の流れの中で,中国は科学技術政策を重視し,積 極的にそれを展開してきた。外資導入による,対内直接投資を中心とした外国からの 技術導入と平行して,国の科学技術能力を高め,先進諸国の技術水準へのキャッチアッ プを果たすだけでなく,さらには独自の先端技術を発展させ,ハイテク産業を興隆発 展させることで,科学技術立国を目指す。こうした目的のために,これまで様々な政 策がとられてきた17)。 なかでも中国の科学技術体制改革は,それまでの公的研究機関を中心とする非効率 な体制を改め,イノベーション・システムに市場原理を導入し,科学技術と経済の結 合を強化しようとするものである[川島(2006)p.18]。 この科学技術体制改革の柱のひとつは,公的研究機関の抜本的な改革である。公的 研究機関の改革では,それまで分離していた研究開発主体(研究開発機関)と生産主 体(企業)との連携あるいは合併をはかるとともに,研究者・技術者の流動化と研究 開発機関や大学などからのスピンオフによる企業設立などが奨励された。北京の中関 村科学技術園をはじめとするハイテクパークなどでは,スピンオフによるベンチャー 型企業(民営科学技術企業)が多数勃興している。また,科学技術の商品化を促進す るため,各地に技術取引市場が創設された18)。技術取引市場における取引金額は, 1993 年に 142 億元,1998 年に 436 億元,そして 2003 年には 1,085 億元に達しており, 増加の一途をたどっている。 2.2 研究開発活動の状況 中国は,「科学技術が第一の生産力である」という考えのもとで,積極的な科学技 術政策を展開し,科学技術体制改革,すなわち中国の新しいイノベーション・システ ムの構築に努めてきた。現在,世界の工場として工業化を邁進している中国であるが,
知識生産においても先進国にキャッチアップを果たすことを目指している。 そこで,以下では,中国の研究開発活動の現状について,国際比較可能なデータに よりその進展を見ておこう。 研究開発費 中国の研究開発支出は,1990 年代後半以降急増し,2003 年では 846 億ドル(PPP 換算),2004 年には1,026 億ドルに達している。2003 年における米国の研究開発支出は 2,924 億ドル,日本は 1,127 億ドルである。中国は,研究開発支出において日米に続く 第3 位に位置しており,ドイツの575 億ドルを上回る水準となっている。 研究開発支出を対GDP比率で見てみると,中国は1990 年代後半以降,着実に増加 を続け,2004 年には 1.44 %に達している(図2−1)。EU 15 は 1.91 %(2003 年),米 国は2.68 %,日本は 3.15 %であり,先進国水準(2003 年のOECD諸国の平均は 2.26 %)には達していないものの,その差は着実に縮まりつつある。 また,中国における研究開発活動の主体は,かつては政府研究機関が中心であった が,それが産業にシフトしてきている。OECD統計によれば,民間企業部門による研 究開発支出の割合は,1998 年には44.8 %であったが,2003 年には62.4 %にまで上昇し ている。EU15 の 64.1 %に近い値である。一方,日本は 75 %,米国は 69.8 %となっ ている。 中国は,第10 次5カ年計画において,その終了時(2005 年)までに研究開発費を対 GDP比で1.5 %に,また,企業の研究開発支出の割合を 50 %とすることを目標とし た。後者は達成したが,前者は未達となっている。 図2―1 主要国における研究開発支出(対GDP比) 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 19911992 1993 1994 1995 1996199719981999200020012002 2003 2004 中国 EU15 日本 韓国 米国 %
図2―2 従業者 1,000 人当たりの研究者数 研究者数 中国における研究者数も,研究開発支出と同様,増加傾向にある。2003 年の中国に おける研究者数は86 万人であり,米国の 105 万人に次ぐ世界第二位の規模である。日 本は68 万人である(人数はいずれもフルタイム換算)。 一方,従業者1,000 人当たりの研究者数で見てみると(図2−2),中国は1.2 人程度 であり,先進国の10 分の1から6分の1の水準にとどまっている。 その他 中国での最先端技術の研究開発において,米国をはじめとする海外での留学経験者 が重要な役割を果たしているといわれているが,その帰国留学生の数が近年増加して いる。政府統計によれば,2003 年の帰国留学生数は2万人,延べで17 万 2,800 人となっ ているが,実際には,延べ100 万人程度であるという19)。海外に留学し,教育を受け た優秀な人材は,国産技術育成を支える即戦力として考えられており,中国政府は帰 国経費,研究開発費,帰国後の住居の提供など,様々な帰国優遇策を打ち出している。 こうした留学生にとっても,成功のチャンスは中国にあるとの考えもあり,実際,彼 らはベンチャーを創業したり,国家の研究プロジェクトの責任者になったりするなど の活躍をしている20)。 他方,外資系企業による研究開発施設の設置も相次いで行われている。商務部の統 計によれば,現在,中国には外資系企業の研究開発センターは約750 カ所あるという。 マイクロソフトの例が良く知られているが,主要な多国籍企業が中国に研究開発拠点 を設置している21)。 12 10 8 6 4 2 0 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 日本 韓国 米国 EU15 中国 人
3.中国貿易構造のハイテク化 3.1 開放政策 中国は,1970 年代末の「改革開放」以降,対外開放と外資導入政策を推進し,外国 資本と外国技術を積極的に活用しながら発展を遂げてきた。1980 年代においては,4 つの経済特区を先駆けに,沿海地域の経済開発区に限定した外資導入が押し進められ たが,1990 年代に入ると,外資導入は全国に拡大し,中国への直接投資は急拡大した。 2002 年には世界最大の直接投資受入国となっている。 こうした流れの中で,中国経済はグローバル経済との統合化を進めている。貿易と 直接投資を通じた国際分業構造は深化し,中国の貿易依存度は,1990 年の12.2 %から 2002 年には 24.5 %にまで上昇している。図3―1は,中国の対内直接投資受け入れ額 (実行ベース)の推移と,中国輸出入における外資系企業のシェアの推移をみたもので ある。中国への直接投資は,1990 年代末にいったん落ち込みを見せるものの,それ以 外の期間では一貫して増加を続けており,諸外国企業の中国への投資意欲は衰えを見 せていないことがわかる。一方,中国経済における外資系企業のプレゼンスはきわめ て大きい。現在,輸出,輸入の半分以上が外資系企業によるものとなっており,中国 の国内工業生産についても,その3分の1以上が外資系企業によるものである。 図3―1 中国の対内直接投資および輸出入に占める外資系企業のシェア 60 70 80 50 40 30 20 10 0 500 600 700 400 300 200 100 0 19901991 1992 19931994 1995 19961997199819992000200120022003 輸入シェア 輸出シェア 直接投資額 2004 % 1000万ドル (注)直接投資は実行ベースの受け入れ額である。 (資料)中華人民共和国国家統計局編『中国統計年鑑』各年版より作成
3.2 貿易構造のハイテク化 図3−2は,技術集約度別に中国の工業製品輸出額の推移をみたものである。ハイ テク製品,中高位技術製品,中位技術製品,低位技術製品の4分類は,付加価値およ び生産額当たりの研究開発支出などの指標に基づいたOECDによる分類である。ハ イテク製品には,航空機,医薬品,コンピュータなどの事務用機器,音響・映像・通 信機器,医療機器,精密機器,光学機器が含まれる。 2001 年において最も輸出額が多いのは低位技術製品の1050 億ドルであり,輸出額全 体の4割程度を占めている。1992 年にはそのシェアは 6 割を越えていたが,輸出に占 める低位技術製品の割合は低下を続けている。その一方,シェアを大きく高めてきた のがハイテク製品である。図3−2からわかるように,4分類のうち,ハイテク製品輸 出の伸びが最も大きく,1992 年から 2001 年までの年平均増加率は約 24 %である。こ うした高い伸びを続けた結果,中国のハイテク製品輸出額は,2001 年には 644 億ドル にまで増加し,中国の輸出額の25 %を占めるにいたっている。この値はOECD加盟 国平均に匹敵するものである。 図3―2 中国の技術集約度別製品輸出(1992 年= 100) 図3―3は,中国と,日米欧,韓国,台湾のハイテク製品輸出について比較するた め,1995 年= 100 としてみたものである。ハイテク製品の貿易は,直接投資を通じた 経済のグローバル化と工程間分業の進展などを背景に世界的に拡大傾向にあるが,中 国のハイテク製品輸出の伸びは,主要な先進国や他の新興工業国の伸びを大きく上回 るものとなっている。1992 年から2001 年までの年平均増加率は約 24 %である。 ハイテク製品 中高位技術製品 中位技術製品 700 800 600 500 400 200 300 100 0 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 1992 1993 低位技術製品 (資料)Schaaper(2004)Table SA 11,より作成
図3―3 主要国のハイテク製品輸出(1995 年= 100) 3.3 知財集約財貿易 次に,知的財産を体化した財の貿易についてみてよう。知財集約財の定義として, 以下では,Maskus(1993)に従い,知的財産権問題が通商交渉などの局面における国 際紛争として目立つ製品分類を便宜的に知的財産集約財としよう。この分類では,す べての知的財産集約財が網羅されているわけではなく,また,必ずしも製品に体化さ れた知的財産権の件数や価値が最も高い上位品目であるわけでもない。しかしながら, 発展途上国の知的財産権保護の問題や国際的な知的財産権摩擦の問題などを考える目 的のためには,十分に有益なデータとなろう。以下では,特許と商標の2つの知財集 約財ついて見ていきたい。 最初に特許であるが,SITC(標準国際貿易商品分類)Rev.2 に基づいて,アルコー ル・フェノール他(SITC 512),医薬品(SITC 541),ポリエチレン等(SITC 583),特定工業用機械設備(SITC 728),金属加工機械(SITC 73),事務用機器 (SITC751),自動データ処理装置(SITC 752),医療用電気機器・放射線機器 (SITC774),超小型電子回路(SITC 7764),計測用機器・制御用機器(SITC 874)の10 品目を特許集約財とし,国連貿易統計データベース(Comtrade)を用いて 集計した。 図3―4は,こうして定義された特許集約財について,主要国の1987 年から 2004 年 までの輸出額の推移をみたものである。比較可能となるよう,2000 年= 100 とした。 どの国も1990 年代以降,増加傾向にある。日米両国は 2000 年代に入って停滞してい るが,ドイツはこの2年,増加傾向を強めている。1990 年代,2000 年代前半の両期間 において最も伸びが大きいのは中国である。2003 年,2004 年の対前年増加率はそれぞ れ77 %,45 %となっており,騰勢を強めている。その結果,2004 年において,中国の 300 250 200 150 100 50 0 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 1992 1993 中国 EU 日本 韓国 台湾 米国 (資料)Schaaper(2004)Table SA 11,より作成
特許集約財の輸出額は845 億ドルとなっている。特許集約財の輸出額が最も多いのは 米国の1,563 億ドルであり,次いでドイツの 1,401 億ドルである。日本は 940 億ドルで 第3位であるが,中国はそれに続く金額である。 図3―4 主要国の特許集約財輸出(2000 年= 100) 図3―5は,中国の特許集約財の輸出について品目別にみたものである。2000 年代前 半において最も伸びが大きいのは自動データ処理装置(SITC 752)である。一方,中 国の輸出総額の伸びを下回るのは,事務用機器(SITC 751),金属加工機械(SITC 73),医薬品(SITC 541),アルコール・フェノール他(SITC 512)である。 以上のように,近年の中国の特許集約財の輸出は,日米独といった主要先進国や, 韓国,インドやブラジルといった新興工業国を大きく上回る勢いで拡大し,中国は特 許集約財の主要な輸出国となっている。また,中国の特許集約財輸出の伸びは,中国 輸出総額の伸びを上回っている。 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 日本 世界 中国 韓国 ドイツ 米国 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
図3―5 中国の特許集約財輸出(2000 年= 100)
しかしながら,中国の特許集約財輸出の伸びが大きいのは,もともとの輸出額が他 国と比較して低い水準にあったこと,特許集約財に対する世界需要の伸びが大きかっ たことなどが考えられる。中国の特許集約財が,世界市場においてどの程度のシェア を持ち,世界の平均水準より比較優位にあるのかを確認しなければならない。
そこで,Balassa(1965)による顕示比較優位(Revealed Comparative Advantage: RCA)指数を用いて,このことを確認しておこう。ある国(j国)のある財(i財) のRCAは, ここで,Eは輸出額である。すなわち,分母は世界輸出額に占めるj国の輸出額のシェ ア,分子はj国の輸出総額に占めるi財の輸出シェアであり,このRCAが1より大 きいものは,世界市場における当該財のシェアが相対的に高く,比較優位をもつこと を示している。
RCA
ij=
i ijE
ijE
E
ij ijE
∑
i∑
i∑
j∑
/ / 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 541 583 728 73 751 752 774 7764 874 特許集約財 総輸出 512 0 100 200 300 400 500 600図3―6 中国の特許集約財輸入(2000 年= 100) 表3−1 中国の特許集約財のRCA 0 100 200 300 400 500 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 541 583 728 73 751 752 774 7764 874 特許集約財 総輸入 512
(資料)UN Commodity Trade Statistics Database (UN comtrade) より作成
512 541 583 728 73 751 752 774 7764 874 特許集約財 1994 0.70 0.68 0.20 0.22 0.37 1.34 0.33 0.08 0.05 0.21 0.31 1995 0.58 0.73 0.20 0.22 0.36 1.76 0.58 0.11 0.09 0.25 0.38 1996 0.50 0.66 0.20 0.22 0.33 2.48 0.83 0.13 0.13 0.25 0.46 1997 0.55 0.53 0.25 0.18 0.33 2.47 0.91 0.14 0.16 0.26 0.48 1998 0.48 0.51 0.21 0.17 0.31 2.50 1.19 0.10 0.19 0.30 0.55 1999 0.50 0.45 0.16 0.21 0.32 2.55 1.22 0.10 0.28 0.30 0.56 2000 0.46 0.40 0.16 0.19 0.40 2.61 1.34 0.19 0.28 0.31 0.57 2001 0.48 0.33 0.14 0.27 0.36 2.78 1.55 0.24 0.29 0.32 0.62 2002 0.38 0.26 0.15 0.27 0.35 3.60 2.12 0.26 0.40 0.32 0.73 2003 0.39 0.23 0.14 0.28 0.34 3.24 3.14 0.24 0.45 0.33 0.94 2004 0.32 0.19 0.16 0.29 0.33 2.60 3.47 0.27 0.60 0.34 1.01
表3―1は,1994 年から 2004 年までの期間における中国の特許集約財のRCAにつ いて,品目別に計算した結果である。中国の特許集約財(全体)のRCAは1994 年に は0.31,1999 年では0.56 と比較劣位にあったが,2000 年代に入ると上昇を強め,2004 年には1.01 と比較優位に転じている。 中国の特許集約財のうち比較優位を示しているのは,事務用機器(SITC751)と 自動データ処理装置(SITC752)である。特に自動データ処理装置は,1998 年に比 較劣位から比較優位に転じ,その後,強い比較優位をもつにいたっている。超小型電 子回路(SITC 7764)については,1994 年において 0.05 と強度の比較劣位を示して いたが,2004 年には 0.60 とRCAを大きく高めてきており,依然比較劣位にあるもの の,世界市場における相対的シェアを高めてきていることがわかる。その一方,比較 劣位を強めているのがアルコール・フェノール他(SITC 512)と医薬品(SITC 541)である。これらの財については,TRIPS協定の成立による知的財産権保護の 世界的な拡大により,先進国製品の競争力が強化される一方,先進国のもつ特許に抵 触する製品の輸出が抑制されるようになった可能性がある。 次に,商標についてみてみよう。商標集約財の選択についても,特許集約財と同様 の考え方に基づいている。商標集約財として,アルコール飲料(SITC 112),香水・化 粧品等(SITC 553),ガラス製品(SITC 665),自動車部品・アクセサリー(SITC 784),家具(SITC 821),旅行用具・ハンドバッグ(SITC 831),衣類(SITC 84), 時計(SITC885),玩具・室内ゲーム(SITC 8942)の 10 品目を取り上げる22)。こ れらの品目についても,これに分類される財のすべてが「商標集約的」であるわけで はなく,安価なノーブランド品など多様な内容を含むため,注意したい。 2004 年における商標集約財 10 品目の輸出額が最も多いのは中国の 1,019 億ドルであ り,中国は世界最大の商標集約財の輸出国である。次いでドイツの656 億ドルであり, イタリア(538 億ドル),フランス(513 億ドル),米国(511 億ドル)と続く。中国商標 集約財輸出額の1,019 億ドルのうち,衣料品(SITC 84)が620 億ドルを占めている。 この輸出には,外国企業の開発輸入や委託生産・現地生産などによるものが多くを占 めるものと思われ,外国所有の商標が付されたものがほとんどであると推察される。 図3−7が示すように,中国の商標集約財輸出は,1990 年代において最も高い伸び を示しており,また,2000 年代前半においても,ドイツに次ぐ伸びを示している。 2000 年代前半の期間では,ドイツの伸びが最も大きく,中国,ブラジルがそれに続く。 中国の商標集約財輸出を品目別に見ると,2000 年代前半において,自動車部品・ア クセサリー(SITC 784),香水・化粧品等(SITC 553),家具とその部品(SITC 821)の伸びが大きい。一方,時計(SITC 885)は 1990 年代後半からほぼ横ばいで ある。また,商標集約財輸出の伸びは,中国輸出総額の伸びよりも低いことがわかる (図3−8)。
図3―7 主要国の商標集約財輸出(2000 年= 100) 図3―8 中国の商標集約財輸出(2000 年= 100) 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 0 50 100 150 200 250 日本 イタリア 韓国 フランス ブラジル 世界 ドイツ インド 中国 米国
(資料)UN Commodity Trade Statistics Database (UN comtrade) より作成
0 100 200 300 400 553 665 784 821 831 84 885 8942 商標集約財 総輸出 112 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 (資料)UN Commodity Trade Statistics Database (UN comtrade) より作成
では,比較優位構造はどうであろうか。表3―2は,中国の商標集約財のRCAにつ いて,特許集約財と同様に計測した結果である。 表3−2が示すように,2004 年において,アルコール飲料(SITC 112),香水・化 粧品等(SITC 553),自動車部品・アクセサリー(SITC 784)が強い比較劣位を 示している一方,それ以外の品目は比較優位にある。特に,玩具・室内ゲーム(SIT C 8942),旅行用具・ハンドバッグ(SITC 831),衣料品(SITC 84)については, 強度の比較優位を示している。これらは商標集約財であると同時に典型的な労働集約 財であり,中国の要素賦存状況に合致した結果である。 また,特許集約財とは対照的に,商標集約財のRCAは低下傾向にあり,このこと はもともと強い比較優位をもっていた品目において特に当てはまる。この期間におい て,比較優位から比較劣位に転じた品目はない。一方,ガラス製品(SITC 665)は 比較劣位から比較優位に転じている。 表3−2 中国の商標集約財のRCA 次に,主要国における商標集約財のRCAを比較してみよう。日本,米国,ドイツ, フランス,イギリス,イタリアといった主要先進国のうち,RCAが1を超える,す なわち商標集約財に比較優位をもつのは,イタリアとフランスである。この2国はア パレルやアルコール飲料をはじめとして,著名なブランドを持つ国として知られてい るが,そうしたブランドを付した商標製品が世界市場において一定の市場シェアを確 保しているためであろう。また,フランス,イタリアだけでなく,ここにあげた先進 112 553 665 784 821 831 84 885 8942 商標集約財 1994 0.16 0.22 0.71 0.09 1.31 6.28 5.60 3.02 5.98 3.03 1995 0.17 0.24 0.79 0.11 1.27 6.39 5.03 2.89 5.68 2.76 1996 0.13 0.23 0.84 0.11 1.29 6.12 5.10 2.93 6.12 2.79 1997 0.12 0.21 0.92 0.11 1.41 6.24 4.99 2.66 5.99 2.81 1998 0.10 0.25 1.05 0.12 1.49 6.40 4.65 2.71 6.16 2.68 1999 0.09 0.24 1.14 0.16 1.66 6.23 4.56 2.60 5.75 2.60 2000 0.10 0.28 1.16 0.19 1.79 5.78 4.45 2.21 5.64 2.56 2001 0.10 0.27 1.15 0.22 1.79 5.26 4.07 1.86 5.24 2.37 2002 0.11 0.28 1.25 0.23 1.92 5.26 3.83 1.63 5.42 2.26 2003 0.09 0.30 1.18 0.22 1.88 4.60 3.59 1.45 4.98 2.07 2004 0.08 0.29 1.32 0.30 2.01 4.36 3.52 1.25 4.52 1.99 (資料)UN Commodity Trade Statistics Database (UN Comtrade)より計算
国のRCAはほぼ横ばいで推移している。商標集約財は,衣類・ハンドバックや玩具 といった雑製品などの労働集約的な財を多く含むが,これらの品目における比較優位 の低下(あるいはRCAの低下)が先進国において見られないのは,商標権の保護が 重要な役割を果たしているように見える。 一方,中国の商標集約財は,依然,強い比較優位にあるものの,RCAは低下を続 けている。一般に,工業化の進展とともに比較優位構造は平準化されていく(極端に 高い比較優位財や比較劣位財が減少する)が,中国についても,労働集約財分野にお けるベトナムやインドといった新興国の成長や,中国輸出構造の多様化と高度化を反 映したものと考えられる。また,特許集約財と同様,世界的な知的財産権の保護強化 の流れの中で,先進国ブランド商品の世界市場おける競争力が強化される一方,中国 からの偽ブランド製品の輸出が抑制されるようになったことも重要な理由として考え られる。中国税関での侵害品取締の体制が整ったのは近年になってからであるが,こ うした知財保護の強化が商標集約財のRCAの低下にどの程度寄与したかはさらなる 精査が必要である。 図3―9 主要国における商標集約財のRCA 4.中国における知財活動 4.1 国内外からの出願 図4−1は,国内外からの中国への出願数の推移をみたものである。中国の経済成 長や知的財産権制度改革と歩調をあわせて,中国における特許出願はこの10 年あまり ドイツ イタリア フランス 日本 イギリス 米国 中国 3.5 3.0 2.5 2.0 1.0 1.5 0.5 0 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 (資料)UN Commodity Trade Statistics Database (UN Comtrade)より計算
の間に大きく増加していることがわかる。中国居住者による出願は,1992 年の 10,022 件から2004 年には65,786 件へと6倍以上増加しており,この期間の年平均増加率は約 17 %である。中国はすでに特許出願大国になっており,自国特許庁への国内出願件数 は日米独に次ぐ世界第四位である。一方,中国への外国人出願は1992 年の 4,051 件か ら2002 年には 140,910 件へと 34 倍以上となっており,この期間の年平均増加率は約 41 %である。1980 年代においては,国内出願,外国人出願の件数はほぼ拮抗していた が,その後1990 年代初頭にかけては,国内出願の伸びが外国人出願を上回り,1993 年 において,国内出願の12,084 件に対して,外国人出願は 7,534 件であった。しかし, 1994 年以降,外国人出願は急増している。同年における中国の特許協力条約(PCT) 加盟により,PCTルートでの中国への出願が可能になったことが大きいであろう。 図4―1 中国における特許出願数の推移 図4―2 中国における実用新案出願数の推移 150000 120000 90000 30000 60000 0 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 外国人 国内 (資料)2002 年まではWIPO 統計,2003,2004 年は中国知識産権局年度報告書より作成 150000 100000 120000 90000 30000 60000 0 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 外国人 国内 (資料)図4 − 1 と同じ。
図4−2は実用新案の出願数の推移をみたものである。2004 年の実用新案の国内か らの出願数は,特許の2倍近い111,578 件なのに対して,外国人出願は 1,247 件と非常 に少ない。特許とは異なり,国内出願が外国人出願よりも圧倒的に多く,実用新案の 制度は圧倒的に中国国内企業により活用されていることがわかる。実用新案は,特許 のように高度の技術水準を要求するものではなく,新しく生み出された考案を保護の 対象としているが,こうした実用新案は,経済発展の初期段階で重要な役割を果たす。 日本においても高度経済成長期から1980 年代にかけて活発な出願がなされていた。当 時の日本においても,外国人の出願・登録比率は2%前後ときわめて低く,実用新案 は日本人のための制度として活用された。中国においても,中国企業が自ら行った考 案について,その保護を求めて出願を活発化させているところである。 次に意匠出願の推移を見てみよう(図4−3)。2004 年の出願数は,国内から 101,579 件,外国人出願は 9,270 件である。出願に占める外国人出願のシェアは,実用 新案(1%)ほど少なくないが,8%程度である。実用新案と同様,中国企業の権利 化への意欲が急速に高まっていることが見て取れる。しかしながら,外国人出願も着 実にその件数を増加させており,2000 年以降の年平均増加率は約 26 %である。また, グラフには示されていないが,特許と同様,外国人の登録件数のシェアは出願件数の シェアと比較して高くなっている(2004 年の登録件数に占める外国人の割合は約 10 %)。 図4―3 中国における意匠出願数の推移 商標出願についても(図4−4),国内出願が外国人出願を大きく上回っている。 2002 年において,国内出願は 321,034 件,外国人出願は 57,597 件であり,出願に占め る外国人のシェアは15 %となっている。国内出願については,1980 年代後半において は,4 万件台の前半で推移していたが,90 年代前半において大きく増加し,1995 年に 120000 100000 80000 60000 20000 40000 0 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 外国人 国内 (資料)図4 − 1 と同じ。
は144,610 件に達している。また,2000 年以降,その騰勢を強めており,2002 年の国 内出願は32 万件を超えている。 こうした急増の背景には,中国の知的財産権保護の進展をみた中国企業が,競って それまで登録されていなかった商標の出願を増加させたことがある。こうした中国の 商標出願は世界的にみてもきわめて活発であり,中国における商標出願件数(国内出 願+外国人出願)は,1997 年には米国に次ぐ第二位に,そして 2001 年には世界最大 の商標出願先国になっている23)。 図4―4 中国における商標出願数の推移 図4―5 植物新品種出願数の推移 (資料)図4 − 1 と同じ。 350000 250000 300000 200000 150000 50000 100000 0 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 外国人 国内 700 800 500 600 400 300 100 200 0 2000 2001 2002 2003 2004 外国人 国内
最後に,植物新品種の出願数の推移である。植物新品種保護条例の施行は1997 年で あり,植物新品種の保護のための体制が誕生してからまだ日が浅いが,その出願数は 着実に増加している。出願のほとんどは国内からの出願であり,中国において,植物 新品種を権利として保護しようとする意識の高まりを示している。一方,外国からの 出願は,現状では非常に少ない。 4.2 国別出願動向 前項でみたように,近年,知的財産権の保護を求めて国内企業の出願が活発化して きている一方,外国からの出願も特許を中心に急増している。そこで,どのような国 から出願がなされているかを確認するため,図4−6により外国人出願の出願元国の 内訳を見てみよう。 表4−1 主要国と中国との間の特許出願数 最初に特許であるが,米国が最も多く,35.8 %のシェアを占める。次いで,日本 (シェアは18.8 %),ドイツ(同 9.9 %),イギリス(同 4.7 %),フランス(同 3.8 %), 韓国(3.8 %)と続く。この順位は,世界的な出願傾向と一致するものである。例えば, 米国での国別出願件数は,米国,日本,ドイツ,イギリスの順で上位4カ国を構成し, 次いでフランス,韓国と続く。日米で中国における外国人出願の過半を,また,日米 独英の上位4カ国で全体の7割近くを占めている。 実用新案については,外国人出願件数自体がきわめて少ないが,出願元国もまた, いくつかの国に限られており,日本,米国,韓国,フランスの上位4カ国で全体の 85 %を占めている。 意匠については,出願上位6カ国は特許と同じであるが,その順位は異なっている。 日本のシェアが圧倒的に大きく,43 %である。次いで,米国(17 %),韓国(9.5 %), ドイツ(6%)と続いている。 1994 年 1998 年 2002 年 中国人の 中国への 中国人の 中国への 中国人の 中国への 外国出願 外国人出願 外国出願 外国人出願 外国出願 外国人出願 米 国 190 8,105 434 14,892 1,796 50,506 日 本 137 3,742 375 7,212 1,127 26,491 ドイツ 172 2,091 624 3,631 2,214 13,975 英 国 188 2,028 627 2,656 2,227 6,641 韓 国 84 569 97 1,645 1,098 5,372 (出所)WIPO 統計(IP/STAT/2002/B 他各年版)より作成。
商標については,上位3 カ国は,特許や意匠と同じく米国,日本,ドイツであるが, 上位国へのシェアの偏りは比較的少なく,それぞれ,23 %,14 %,12 %である。4位 にスイス(シェアは6.7 %),5位にフランス(6.0 %)が入っており,ヨーロッパ諸国 からの出願が相対的に多くなっているのが特徴である。 一方,中国人の外国出願も近年活発化している。特許についてみると,中国からの 国際出願(PCT出願のみ)は,2002 年に 1,018 件,2003 年に 1,295 件,2004 年には 1,704 件と増加を続けており,中国の国際出願数は世界第 13 位となっている。中国人 の外国出願先国を見てみると,米国,日本への出願がそれぞれ,1,796 件,1,127 件で あるのに対し(2002 年),ドイツ,イギリスへの出願はそれぞれ2,214 件,2,227 件とな っており,ドイツ,イギリスといったヨーロッパの国々への出願が,日米への出願を 上回っている。 図4−6 外国人出願の国別シェア(2002 年) 米国 米国 3535% その他 1818% その他 18% オランダ 3% スウェーデン 3% フランス 4% イギリス 5% ドイツ 10% 韓国 4% 日本 1818% 日本 18% 米国 35% その他 18% 日本 43% 米国 17% その他 25% 日本 14% 米国 23% 米国 米国 2222% その他 1616% その他 16% フランス 1515% フランス 15% 韓国 韓国 1616% 韓国 16% 日本 3131% 日本 31% 米国 22% 特 許 実用新案 米国 35% その他 18% 日本 18% その他 1818% その他 18% フランス 4% イギリス 3% ドイツ 6% 韓国 9% 日本 4343% 日本 43% 米国 米国 17 17% 米国 17% その他 25その他 25%25% フランス 6% スイス 7% イタリア 6% イギリス 4% ドイツ 12% 韓国 3% 日本 1414% 日本 14% 米国 米国 23 23% 米国 23% 米国 22% その他 16% フランス 15% 韓国 16% 日本 31% 商 標 意 匠 (出所)WIPO 統計(IP/STAT/2002/B)より作成。
4.3 国内地域別特許出願 次に,中国国内において,どのような地域から多く特許出願されているかを確認す るため,各省(直轄市,自治区を含む)からの出願状況を見てみよう。中国には31 の 省(市,自治区)があるが,2003 年において最も出願の多かった省は広東省であり, 43,186 件であった。次いで,上海市の 22,374 件,浙江省の 21,464 件が続く。しかしな がら,省(市,自治区)により,人口や経済規模が大きく異なるため,人口当たりの 出願,あるいはGDP当たりの出願でみることが有益であろう。人口1万人当たりの 出願が最も多いのは上海市の13.1 件であり,次いで北京市の 11.7 件,天津市の 6.7 件, 広東省の5.4 件である。逆に最も少ない省は,西蔵自治区の0.1 件であり,次いで貴州省, 青海省の0.3 件である。一方,GDP1億元当たりの出願数の最も多いのも北京市であ り,4.7 件であった。次いで,上海市の3.6 件,広東省の3.2 件である。最も少ない省は, 同じく西蔵自治区の0.1 件であり,次いで青海省の0.4 件である。 図4−7及び図4−8は,各省の一人当たりGDPとの相関をみたものであるが,人 口1万人当たり出願と一人当たり所得,GDP1億元当たり出願と一人当たり所得の 両方において,強い正の相関(それぞれ0.96,0.83)を示している。所得水準の高い 省(市)ほど出願が活発であり,中国では,地域間の経済格差と同様に,技術水準にお いてもきわめて大きな格差が存在することが確認できる。 図4−7 人口1万人あたり出願と一人当たりGDP(2003 年) 15.0 12.0 9.0 3.0 6.0 0.0 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000 50,000 北京市 天津市 広東省 遼寧省 江蘇省 上海市 浙江省 件 元 R2=0.9315
(出所) 中華人民共和国国家統計局編『中国統計年鑑』,State Intellectual property Office of the P.R.C, Annual Report 2004 より作成。
図4−8 GDP1億元当たりの出願と一人当たりGDP(2003 年) 5.侵害の状況 5.1 模倣実態 WTO加盟を契機として,中国の知的財産権法制は国際的水準にまで高められた。 また,中国政府はエンフォースメントの重要性についても認識しており,行政,司法, あるいは税関のエンフォースメントの強化を行ってきた24)。国務院は2001 年に呉儀副 首相をリーダーとする全国市場経済秩序整頓・規範化グループ弁公室を設置し25),海 賊版などの取り締まりを積極的に行ったり,知的財産権保護の意識向上のための全国 規模のキャンペーン(2004 年4月)を行うなどの取り組みがなされてきた。 しかしながら,こうした中国政府の熱心な取り組みにもかかわらず,中国の模倣品 問題は改善の兆しを見せていない。いっこうに改善しない状況に,諸外国との知的財 産権摩擦が再燃している。 中国における模倣の現状やそれによる損害額がどの程度であるのかについては,国 内外の多くの機関により調査研究が行われている。以下では,その代表的なものにつ いて整理し,中国の模倣や侵害の実態を把握しておこう。 日本の特許庁は,1996 年から毎年,日本企業に対して世界各国での知的財産権侵害 の被害状況についてのアンケート調査を行っている。特許庁(2005a)によれば, 2004 年度の調査アンケートに回答した日本企業全体の 27.4 %もの企業が模倣被害に 5.0 4.0 3.0 1.0 2.0 0.0 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000 50,000 北京市 天津市 広東省 遼寧省 四川省 吉林省 上海市 浙江省 件 元 R2 =0.6827
(出所) 中華人民共和国国家統計局編『中国統計年鑑』,State Intellectual property Office of the P.R.C, Annual Report 2004 より作成。
あったとしており,その過半数が特許,実用新案,商標,意匠の被害を受けている。 地域別では,模倣品の製造/販売・消費のいずれもアジア諸国が圧倒的に多く,国別 では中国が圧倒的な第一位の模倣国となっている。 JETRO北京センター・中国日本商会(2005)では,現地日系製造業を対象として アンケート調査を行っているが,自社製品のニセモノ被害状況については,6割をこ える企業が何らかのニセモノ被害にあっているとしている。また,中国政府のニセモ ノ取締りに対する評価では,中央政府に対しては56.3 %,地方政府に対しては61 %の 企業が不満としており,依然として高い中国政府への不満が示されている。 特許庁(2004)は,日本企業がアジア地域を中心にこうむっている模倣品被害につい て,その被害額の推計とマクロ経済への影響の推計を行っている。これによれば,日 本企業の中国における産業財産権(特許,実用新案,意匠,商標)の被害額(逸失利 益)は3,571 億円,著作権被害額は 2,056 億円であり,合計,5,627 億円の被害額と推 計されている。また,売上高ベースの被害額では,合計で9兆3,474 億円にのぼるとい う。 一方,中国国内企業(外資系企業等も含む)における模倣品被害については,国務 院発展研究中心が行った調査がある(2003 年)。この調査では,中国市場における模倣 品総額は1,600 億∼ 2,000 億元と推計され,その結果,中国政府は 275 億∼ 345 億元の 税収の損失があったとしている。 欧米諸国の機関による模倣被害調査については枚挙にいとまがないが,しばしば引用 される国際知的財産同盟(IIPA, International Intellectual Property Alliance)26) の調査を紹介しておこう。IIPAは毎年,映画,音楽CD,ビジネス・ソフトウエア, エンターテイメント・ソフトウエア,書籍などの著作権侵害について,世界各国の状 況を調査し,米国企業の著作権侵害被害額の推計を行っている(表5−1)。これによ ると,中国での米国企業の著作権被害額は2005 年において23.7 億ドルであったという。 2004 年からは減少したものの,2000 年の10.9 億ドルと比較すると2倍以上の数字であ る。また,ソフトウエア,音楽,ビデオの中国における海賊版比率は85 ∼ 93 %と,非 常に高い比率となっている。 5.2 知的財産権侵害品貿易 上の各種調査が示すように,中国の国内市場では模倣品や海賊版といった知的財産 権侵害製品が多く出回り,深刻な状況となっている。とりわけ商標や著作権が重要な 意味を持つ製品については,中国における不十分な知的財産権保護は,それが非関税 障壁として働き,真正品貿易を歪める結果となる。
― 88 ― 山 口 直 樹 ビジネスソフトウエア 音楽レコード 映 像 エンターテイメントソフトウエア 書 籍 合 計 被害額 侵害率 被害額 侵害率 被害額 侵害率 被害額 侵害率 被害額 被害額 (百万ドル) (%) (百万ドル) (%) (百万ドル) (%) (百万ドル) (%) (百万ドル) (百万ドル) 2005 2004 2005 2004 2005 2004 2005 2004 2005 2004 2005 2004 2005 2004 2005 2004 2005 2004 2005 2004 ロ シ ア 748.4 800.0 85.0 87.0 475.9 411.9 67.0 66.0 266.0 275.0 81.0 80.0 223.9 255.8 82.0 73.0 42.0 42.0 1756.2 1784.7 アルゼンチン 80.6 63.0 77.0 75.0 69.5 41.5 60.0 55.0 NA 30.0 NA 45.0 NA NA NA 80.0 4.0 4.0 154.1 138.5 チ リ 47.4 49.0 64.0 64.0 22.7 24.8 51.0 50.0 NA 2.0 NA 40.0 NA 37.9 NA 70.0 1.0 1.0 71.1 114.7 コロンビア 44.8 46.0 55.0 55.0 47.7 51.6 71.0 71.0 NA 40.0 NA 75.0 NA NA NA NA 6.0 6.0 98.5 143.6 コスタリカ 9.6 9.0 67.0 67.0 18.3 NA 60.0 NA NA 2.0 NA 40.0 NA NA NA NA NA NA 27.9 11.0 ド ミ ニ カ 2.6 2.0 77.0 77.0 10.8 10.3 75.0 75.0 NA 2.0 NA 20.0 NA NA NA NA 1.0 1.0 14.4 15.3 エ ジ プ ト 30.3 28.0 64.0 65.0 9.0 7.5 60.0 40.0 NA NA NA NA 14.3 NA 85.0 90.0 30.0 30.0 83.6 65.5 イ ン ド 265.1 239.0 74.0 74.0 70.7 67.3 55.0 50.0 NA 80.0 NA 60.0 65.2 59.5 86.0 86.0 42.0 38.0 443.0 483.8 インドネシア 97.9 100.0 85.0 87.0 24.5 27.6 75.0 80.0 NA 32.0 NA 92.0 NA NA NA NA 32.0 32.0 154.4 191.6 イスラエル 32.9 30.0 34.0 33.0 28.0 34.0 35.0 40.0 NA 30.0 NA 40.0 NA 12.4 95.0 88.0 1.0 1.0 61.9 107.4 レ バ ノ ン 17.9 15.0 75.0 75.0 3.2 3.0 75.0 70.0 NA 10.0 NA 80.0 NA NA NA 75.0 4.0 3.0 25.1 31.0 中 国 1276.1 1488.0 88.0 90.0 204.0 202.9 85.0 85.0 244.0 280.0 93.0 95.0 589.9 510 92.0 90.0 52.0 50.0 2366.0 2530.9 フィリピン 43.3 38.0 71.0 71.0 21.0 20.0 40.0 40.0 NA 33.0 NA 85.0 11.3 NA 85.0 90.0 48.0 48.0 123.6 139 タ イ 107.9 100.0 77.0 78.0 21.9.0 24.9 45.0 45.0 149 30.0 62.0 60.0 NA NA 75.0 76.0 30.0 30.0 308.8 184.9 ト ル コ 119.2 107.0 64.0 66.0 18.0 15.0 80.0 70.0 NA 50.0 NA 45.0 NA NA NA NA 23.0 23.0 160.2 195.0 ウクライナ 61.8 63.0 90.0 91.0 30.0 115.0 60.0 65.0 NA 45.0 NA 90.0 NA NA NA NA NA NA 91.8 223.0 ベネズエラ 40.9 39.0 78.0 79.0 33.0 31.0 83.0 80.0 NA 25.0 NA NA NA NA NA NA NA NA 73.9 95.0