• 検索結果がありません。

家族そのものとしての役割

ドキュメント内 PDF版 (ページ 34-38)

SpO 2 、EtCO 2

D. 家族そのものとしての役割

患者のことを最もよく理解している家族の存 在が、患者の精神的苦痛や社会的苦痛、スピリ チュアルペインを軽減させ、安心できる療養生 活を維持することに重要な役割を果たす。ただ し家族であるがゆえの過度な介護要求や病状進 行の否認など、必要以上に摩擦を生じることも

33 少なくない。その際には訪問看護師などが特に

心理面でその代理的な役割を果たすことも検討 できる。

家族ケアと家族の 相互エンパワメント

上記のようなさまざまな役割のなかで家族の 負担は増大する。例えば訪問介護員からは食事 介助時の物品の用意を頼まれ、看護師からは 検温回数を増やし発熱対応することを任せら れ、医師からは体調変化時に入院するか否かを 家族で決めておいてほしいと依頼される。それ ぞれの職種は些細なことを家族に委ねたつもり でも、それらが蓄積することで家族は大きな負 担を感じることがある。重要なのは、家族の体 調や気持ちの変化を経時的に確認していくこと を、関わるチーム全体で共有することである。

在宅ケアの専門職チームが家族もチームメン バーの一員であることを理解し、情報の共有に より方針の統一を図りたい。そして、家族の持 つ最も大きな力である、先述の D の役割に集 中できるようサポートしたい。

家族は病気を持つ患者との関わりのなかで 自らの体調を悪くすることもあれば、家族によ るケアが患者の生きる力を引き出し、それによ り家族の絆がさらに深まりケアの質も向上す ることも多い。後者のように家族が相互にエン パワメントできるよう家族全体を支えること が在宅医療の根幹に関わる技能といわれる所 以である。

悲嘆のケア(グリーフケア)

在宅ターミナルケアが行われる際、家族は悲 嘆のケア(グリーフケア)を受ける対象となる。

悲嘆(グリーフ)とは大きな喪失(愛する人 の死だけでなく、ペットの死、離婚、失業、火 災などでも生じ得る)に対する正常な反応であ

る。通常は一時的なものであり、病的なもの ではない。さまざまな症状(表 1)がみられる が、投薬などの医学的介入が必要になることは 少ない。喪失を受けとめ、感情が整理されてい き、心理的にも新しい環境に適応していく過程 をグリーフワークと呼び、グリーフケアはこの グリーフワークが自然に進むようにサポートす ることといえる。さまざまな感情や症状が出る ことが正常であることを伝えることが重要であ る。記念日や命日には症状が再燃することがあ る(命日反応)ことも覚えておきたい。必要に 応じて話ができる機会(グリーフケアとしての 訪問や遺族会など)をつくり、振り返りをサポー トしていくのがよい。

ただし、ときに(10% 前後ともいわれる)、

薬物療法や精神療法の対象となり得る「複雑 な悲嘆(病的悲嘆)」に至る場合がある。死別 後数か月経っても適切なグリーフワークが始 まらず、悲嘆症状が強く長期にわたって続き、

生活に支障を来す状態であり、うつやアルコー ル依存などに至る場合もある。適切なケアが 継続的に関われるよう配慮が必要である。複 雑な悲嘆に発展するリスク(表 2)がある場合、

早い段階から積極的に連絡をとるなどするこ とで複雑化の予防や早期発見につながるとい える(短時間でもよいので頻回に話を聴くこ とがよい)。

(紅谷 浩之)

・身体症状(睡眠障害、食欲低下、疲労感、息苦しさ、

動悸、頭痛など)

・情動反応(哀しみ、怒り、不安、無気力、孤独感など)

・行動反応(混乱、集中力低下など)

・錯覚現象(幻聴など)

表1.悲嘆における症状

・喪失後、周囲からの援助や理解が少ない場合

・社会的・心理的に孤立している場合

・突然の予期できない喪失である場合

・過去の喪失体験が未解決な場合

・感情抑制的な人

表2.複雑な悲嘆に発展するリスク

看取りの意義

誰もが迎える死。この死をどのような形で迎 えるか、あるいは死が訪れる瞬間までどのよう に生きるのかは、自己の死を意識した人にとっ て深刻な課題である。この課題に対して百人百 様の考え方があり、それに最も大きな影響を及 ぼすのがそれまで経験した親しい人、大切な人 の死の記憶である。特に大切な人の死の迎え方 は、それをかたわらでつぶさに見た人の生き方 に非常に強い影響を与える。どのような社会あ るいはどのような時代においても、看取りは人間 の“生き様”や“死に様”を学び、自分の生き方 をふり返る、あるいは考える大事な機会であるこ とは疑いのない事実である。また、看取る人と 看取られる人との関係性、看取りが行われる場 所、看取られる人の病状なども、看取り方に大 きく影響していく。看取り方には個性があると 同時に地域性があり、地域によって独特の看取 りの文化があるといわれる所以もここにある。

しかし、わが国においては、ここ数十年で看 取りの機会が意図的に閉ざされ、死の対極にあ る生、あるいは命に対する感性が輝きを失いつ つあるように感じられる。このため、今、地域 社会にとって、看取りが非常に大切な通過儀礼 であることを再認識する必要がある。

看取りのプロセス

看取りのプロセスを考える場合、基本的に重 要なことは、家族を含めた地域の人々が生活の

8. 看取り

看取りは地域社会において、命をつなぐ重要な通過儀礼である。この看取りをどのように支える かが在宅医療において非常に重要な課題である。また、在宅での死亡診断書/死体検案書の作成に ついては誤解が多く、正しい理解が必要である。

場で人間の死にゆく過程を見ることであり、自 宅を含む在宅で死亡確認することではない。在 宅で看取ることに不安が強い場合には、後方支 援の病院で家族が看取ることも可能であると伝 えた上で対応することが肝心である。

看取りが行われるためには、病状が悪化した とき、その病状について「積極的な延命治療を 行ったとしても、死を避けることができない」

と家族を含めた関係者に理解されていることが 前提条件として必要であり、医師にはそのため の病状把握と説明の責務がある。在宅に移行す るときにはがん終末期では説明がなされている ことが多いはずであるが、がん終末期であって も病状が安定している場合、あるいは非がん疾 患では、説明されていても家族が深刻に考えて いないことも少なくないため、病状が悪化した ときには、再度確認する必要がある。その上で、

看ていく際の留意点、看取りの指導などを継続 的に行うことが肝心である。

臨終期における留意点

臨終期には患者の病状が刻々と変化し、とき に苦痛様顔貌も見られるため、家族の不安や苦 痛も大きい。また、看取りの参加人数が多いほ ど不安も高じる可能性がある。このため、今 後、起こる可能性のある病状や対応方法につい て説明し、困ったことがあればいつでも電話で 相談できること、あるいは病状によっては緊急 に訪問することを保障することが肝心である。

また、家族の目が患者の一挙一動にくぎ付けに

35 なっている場合には、昔のアルバムを見たり、

過去の思い出について家族で会話するなどの 助言を行う。

また、それまで顔を見せることのなかった“遠 い家族あるいは親族”が突然訪れ、「なぜ入院 させないのだ」と、介護している家族に詰め寄 り、家族を混乱させることも少なくない。在宅 で看取ることを決めた時点で、そのような家族 や親族がいないかどうかを確認し、あらかじめ 対応方法を考えておくよう助言することも大切 である。

看取りの指導

臨終期で最も大事なのが家族に対する看取り の指導である。指導を行うのは、医師、看護師、

ケアマネジャーなどで、繰り返し説明する。指 導の内容は、臨終時の身体の変化(症状など)

について、死亡推定の方法について、死亡時間 の記録について、緊急時の連絡方法についてな どで、この説明が、家族にとって死の準備教育 となる。また、家族だけで看取ることの重要性 についても触れ、医師や看護師は同席しないこ との了承を得、死亡時に医師はすぐに駆けつけ ることができない可能性があることも説明す る。場合によっては、死亡確認までの身体の整

容についても説明を行う。

緊急時として、例えば呼吸がおかしくなった とき、不安が募ったときにいつでも気軽に電話 してもよいと説明する。実際には、繰り返しの 説明があれば、頻回に連絡が来ることは少ない。

死亡診断書の記載の方法

在宅で死亡した場合の死亡診断書の記載方法 を図に示す。特に強調したいことは、①診療継 続中の患者で、診療している疾患が死因であれ ば、死亡診断書を発行すること、② 24 時間以 内に診察が行われていれば、死亡を確認しない で死亡診断書を発行することが可能であるこ と、③死体検案書は、死因が診療継続中の疾患 でない場合に発行されること、④所轄警察署に 24 時間以内に届け出る必要があるのは、死因 が診療継続中の疾患でなく、死体を検案して異 常が認められる場合であること、などである。

また、死亡時刻は、医師の死亡確認時刻では なく、生物学的な死亡時刻であり、家族の観察 に基づき、死亡時間を推測し、記入する。この ため、家族にはあらかじめ、死亡推定の方法や 死亡したと思われる時間を記録しておくことを 指導することが望ましい。

(蘆野 吉和)

図.死亡診断書と死体検案書の使い分け

交付の求めに応じて、

死亡診断書を発行します 死亡の原因は、診療に関わる 傷病と関連したものですか?

交付の求めに応じて、

死体検案書を発行します 死体を検案して、異常が

あると認められますか?

死亡者は診療継続中で あった患者ですか?

24時間以内に所轄 警察署に届け出ます 医師(監察医など)が 死体検案書を発行します

はい いいえ

はい いいえ

はい いいえ

ドキュメント内 PDF版 (ページ 34-38)