第 3 章 単軸伸展内皮細胞の断面像撮影と細胞 核のひずみ計測
3.3 実験結果
3.3.1 内皮細胞の断面像
内皮細胞の各条件における断面像の一例をFig. 3.4に示す。伸展に伴いすべての条 件で細胞質が伸展方向に変形する様子が観察された。また、野生型 (Wt)、コントロ ール (siCon)、Nesprin-1 発現抑制の細胞 (siNes1) では伸展に伴う細胞核の変形が 見られたが、Cytochalasin Dで処理した細胞 (CytoD) では細胞核に顕著な変形は見 られなかった。さらに、Cytochalasin D で処理した細胞では伸展していない状態に おいて細胞核の断面像が円形に近くなる様子が見られた。
Fig. 3.5に細胞核の水平方向の変形を補助線を用いて示した。なお同図は細胞核の
左端 (灰色線) を一致させ、初期状態の細胞核の右端 (赤線) からの変化を示したも のである。この図から、野生型、コントロール、Nesprin-1 発現抑制細胞では伸展方 向に細胞核が変形していることが分かる。また、野生型とコントロールの細胞では細 胞核の変形量が同程度であったのに対し、Nesprin-1 発現抑制細胞ではそれらに比べ て細胞核の変形量が大きくなった。一方Cytochalasin Dで処理した細胞では細胞核 の変形量が他の条件に比べて小さく変化が見られなかった。
Fig. 3.4 単軸伸展負荷時の内皮細胞の高さ方向断面像 (赤:細胞質, 青:細胞核, 矢
印 : 伸展方向, Bar = 10 #m)
Fig. 3.5 単軸伸展負荷時の細胞核の水平方向の変形 (Bar = 10 #m)
3.3.2 初期状態の細胞核の形状
断面像を取得した細胞について初期状態の細胞核の形状を調べた (Fig. 3.6)。細胞 核 の 水 平 方 向 長 さ を Fig. 3.6 A に 示 す 。Nesprin-1 の 発 現 を 抑 制 し た 細 胞 と
Cytochalasin D で処理した細胞では、野生型の細胞と比較して水平方向長さが減少
した (p < 0.05, Welch’s t-test (以下同))。また、Cytochalasin Dで処理した細胞では
Nesprin-1 発現を抑制した細胞よりも細胞核の水平方向長さの減少が大きかった。コ
ントロールの細胞と野生型の細胞の水平方向長さに有意差は見られなかった。
細胞核の高さをFig. 3.6 Bに示す。Cytochalasin Dで処理した細胞では野生型の細 胞よりも高さが増加したが (p < 0.05)、コントロールの細胞とNesprin-1 発現を抑制 した細胞では野生型と比較して高さの変化に有意差はなかった。
細胞核の高さと水平方向長さの比をFig. 3.6 Cに示す。この値が1に近いほど細胞 核 の 断 面 像 が 円 形 に 近 い こ と を 表 す 。Nesprin-1 の 発 現 を 抑 制 し た 細 胞 と
Cytochalasin D で処理した細胞では野生型の細胞と比較して高さと水平方向長さの
比が増加した (p < 0.05)。また、Cytochalasin Dで処理した細胞ではNesprin-1 発 現を抑制した細胞よりも高さと水平方向長さの比が大きくなった。コントロールの細 胞と野生型の細胞では高さと水平方向長さの比に有意差は見られなかった。
3.3.3 細胞核のひずみ
単軸伸展負荷による細胞核のひずみをFig. 3.7に示す。水平方向のひずみに関して、
野生型に比べNesprin-1 発現を抑制した細胞では増加し、Cytochalasin Dで処理し た細胞ではひずみが減少した (p < 0.05)。また、野生型とコントロールの細胞ではひ ずみに有意差が見られなかった。一方、垂直方向のひずみに関してはどの条件でも平 均値が負の値となり、細胞核に垂直方向の圧縮変形が生じる傾向が得られた。しかし、
水平方向のひずみと比較して値のばらつきが2倍以上大きく、Nesprin-1の発現抑制
やCytochalasin D処理によるひずみの変化は比較できなかった。
Fig. 3.6 初期状態における細胞核の形状 (A : 水平方向長さ, B : 高さ, C : 高さ/水 平方向長さ, Wt : n = 20, siCon : n = 21, siNes1 : n = 21, CytoD : n = 20)
Fig. 3.7 単軸伸展負荷による細胞核のひずみ (A:水平方向ひずみ, B:垂直方向ひ ずみ)