第 5 章 p 波三体再結合に関する研究 81
5.4 実験手順
5.4.1 測定温度の原子集団の準備
4章で述べた手段でシングルビーム光双極子トラップに原子集団を準備する。
そこからトラップ深さを非断熱的に変化させる蒸発冷却法によって原子を所望の 温度まで冷却するのだが、ここで注意点がある。蒸発冷却の最終段のトラップ深 さでそのまま測定を行うと、原子が持っているエネルギーがトラップ深さと同程 度になってしまうため、原子が弾性散乱でも一体ロスでもロスしやすいやすい状 況になっており、正しいロスレートが測定されない。よって、我々は蒸発冷却後 にそのトラップ深さから2倍程度のトラップ深さまでトラップを深くした。また 蒸発冷却中は弾性散乱が必要なため、蒸発冷却後に4.8節で説明した方法により
|1⟩に偏極している。
5.4.2 測定磁場への掃引
5.4.1項のように準備した原子集団にフェッシュバッハ共鳴磁場を印加すれば三
体ロスレートを測定出来るのだが、その際にも注意点がある。蒸発冷却をするに あたって磁場は300 Gに設定されている。そこからp波フェッシュバッハ共鳴磁
場159 Gに断熱的に掃引してしまうと、磁場の断熱掃引によるフェッシュバッハ
分子生成[26]が起きてしまい、分子と原子の二体非弾性散乱若しくは分子一体の 双極子ロスによって原子がロスしてしまい、正しい三体ロスレートが測定されな い。かと言って非断熱的に所望の磁場に掃引すると磁場の安定化が崩れてしまい、
どの散乱体積のデータかが不明瞭になってしまう。そこで我々は300 Gから一度
500 mG程負に離調された磁場へ出来る限り早い速度で非断熱的に掃引し、その
磁場で磁場の安定度が回復するのを待ち、そこから磁場を所望の磁場に掃引して いる。この手法のメリットは、万が一、正の離調(BCS側)から共鳴を通過する 際に分子が出来た場合にも、負の離調側で安定化の回復を待っている間に二体ロ スしてしまうため、ロスレート測定には影響しないこと、負の離調(BEC側)か ら共鳴に近づく場合には断熱掃引による分子生成は起きないということ、比較的 近い磁場から所望の磁場に掃引するので磁場の安定度が崩れにくいこと、等が挙 げられる。実験のタイムチャートを図5.1に示す。所望の磁場に掃引したあとに 磁場の安定化度が回復した時刻をt0とし、その時の原子数をN0とした。
5.4.3 測定の詳細
本研究では一種類の温度・磁場のデータを得るために40種類の異なる保持時間 の吸収イメージングを撮像することを3回繰り返し、計120点を用いてロスカー ブを描き、それを5.9式でフィッティングすることでL3を算出している。ロスレー
図 5.1: 測定のタイムチャート
ト測定の際には原子をロスさせすぎないように気をつけなくてはならない。L3の フィッティングの精度のことを考えると、なるべく原子数変化を大きくした方が 良いのだが、実際の実験ではあまりに原子をロスをさせると温度が変化してしま う又は原子分布がマクスウェル・ボルツマン分布から外れてしまうなどの効果が 入ってきてしまうために正確なL3が測定されない恐れがある。そこで本研究で は、初期原子数がその70 %になるまでの領域に40種類の保持時間を設定し測定 した。
図5.2は片対数グラフであり、ある実験条件(温度5.66µK、磁場0.474 G)で の原子数の時間変化である。同じ保持時間の3点を平均したデータを示している。
図5.2の実線は測定値を5.9式でフィッテングしたものである。この一例ではフィッ ティングの結果、L3はL3 = 2.42×10−38 m6s−1と求まった。また、図5.2の破 線はexponential decay N =N0e−Γtを表している。このときΓはΓ× ⟨n2⟩t=0に 設定している。図5.2は縦軸が対数プロットとなっているので破線は直線となる。
図5.2を見ると、測定点は明らかに直線ではなく、破線には合わないことが分か る。このことから、この原子数のロスレートは明らかに密度に依存するロスであ ることがわかる。これは三体ロスレートが密度に2乗の依存する事実と矛盾しな い結果である。
ここで、実際の一体ロスレートは0.01Hzであり、この破線のdecayカーブより も十分に遅い値であることに注意してもらいたい。ここではあくまでも原子数の 時間変化を無理やりにexponential decayにあてはめた例を示している。
図 5.2: 保持時間による原子数の推移
5.4.4 一体ロスの影響
今までに5.2.1項で記述したべき乗則が検証されていなかった最も大きな要因
の一つとして一体ロスの効果による測定領域の制限がある。これらのべき乗則は 有効長が無視できる領域でのみ成り立つ法則であり、その要請からフェッシュバッ ハ共鳴からかなり遠共鳴な領域で測定をしなければならない。しかし、遠共鳴で は三体ロスレートが一体ロスレートと同程度の大きさになってしまい、三体ロス レートを正確に測定することが出来ない。これがこれまで三体ロスの測定は成さ れてきたのにべき乗則が検証されてこなかった原因であろう。我々は超高真空を 実現し、原子の一体寿命は100 sを達成している。よって原子寿命が50 s未満の データは十分に三体ロスが支配的とし、その領域で三体ロス係数を測定した。