本実験では実験協力者に,事前定義された架空の人物になりきって,提案システムを搭 載したライフシミュレータの操作をしてもらい,推薦された行動の受入率や架空の人物
のwellbeingといった観点から提案システムの有効性を検証する.
図4.1に実験の概要を示す.実験協力者にペルソナ法[48]により作成した架空の居住 空間に住む架空の登場人物になりきり,推薦された行動を受け入れるかどうかといった 意思決定を行ってもらう.
図4.2に示すように実験協力者は上述の空間と人物のモデルを表現したライフシミュ レータをインタフェースを介して操作する.
ライフシミュレータはゲームエンジン RenGULAR*4,ライフシミュレータ API (Application Programming Interface),提案システムで構成されている.RenGULAR
図4.1: 実験の概要
図4.2: シミュレータの構成
はレンダリング,ライフシミュレータAPI はデータの整形,提案システムは行動を推 薦する役割をもつ.ライフシミュレータAPIと提案システムは本実験のためにPython 3.6.1, pandas 0.20.1, numpy 1.18.0, flask 1.1.1により実装した.実験協力者がインタ フェースを操作すると,ライフシミュレータは操作に関するイベントを受け取り,そのイ ベントを元に画面の更新を行う.ライフシミュレータ内ではRenGULARが操作に関す るイベントをライフシミュレータAPIに渡し,ライフシミュレータAPIはそのイベント を元にコンテキストや行動の更新といったデータの整形を行い,これらの情報を提案シ ステムに入力し,出力として推薦行動を受け取る.受け取った推薦行動や,コンテキスト などを元にレンダリングするデータを整形し,RenGULARに渡す.
ライフシミュレータにより作成されたインタフェースの機能や使い方に関して説明を 行う.
・通常画面
通常画面を図4.3に示す.この画面は,ステータスウィンドウ,コマンドウィンドウ,
図4.3: 通常画面
メッセージウィンドウ,背景画像,行動画像から成る.背景画像,行動画像はそれぞれ架 空の人物の場所,現在の行動を示す.以降は各ウィンドウについて説明する.
図4.3の青枠は,ステータスウィンドウを示しており,以下の要素を表示する.
1. シミュレータ内での日付 (月日・曜日) 2. シミュレータ内での時刻
3. 身体的健康度: 身体運動を原因とする身体能力を維持するための筋肉などの状態の 良好さを表す.テレビの視聴や食事で改善し,外出や掃除で悪化する.
4. 精神的健康度: デスクワーク等による脳の緊張や人間関係などのストレスを原因と する認知能力の良好さを表す.テレビの視聴や入浴で改善し,外出や勉強で悪化 する.
5. 環境快適指数: 居住環境の快適さを表す.食事の片付や掃除をすることで改善し,
時間経過と共に悪化する.
1章でも述べたようにwellbeingは身体的状態,精神的状態,環境的状態の3要素から 構成されると考え,これらの3状態をそれぞれ身体的,精神的健康度,環境快適指数で表 し,それぞれの状態を色で表す.身体的,精神的に疲れている,環境が不快な場合はアイ コンが赤色に変化する.一方で,身体的,精神的にはつらつとしている,環境が快適な場
図 4.3の黄枠は,コマンドウィンドウを示しており,Back,History,Skip,Auto,
Prefsボタンを構成要素として持つ.本実験ではSkip,Autoボタンのみを使用する.
1. 時間進行 (Skip): シミュレータ内の時刻を15分進める.ただし,外出時には基本
的に帰宅までスキップする.
2. オートモード (Auto): 次の行動が推薦されるまで時間進行を自動で行う.一度押 すと,ボタンが黒くなりオートモードになる.もう一度押すことでオートモード がオフになる.
図4.3の緑枠は,メッセージウィンドウを示しており,現在の状況,何をしているかな どの説明が表示される.
・推薦画面
推薦画面を図4.4に示す.この画面は,シミュレータの時刻を進めていき,提案システ ムにより行動が推薦される状況が発生した際に表示されるステータスウィンドウ,メッ セージウィンドウ,レコメンドウィンドウ,背景画像,行動画像から成る.メッセージ ウィンドウ,レコメンドウィンドウ以外は通常画面と同様である.図4.4の緑枠はメッ セージウィンドウを示しており,推薦に関する説明が表示される.この説明はGoogle Home*5やAmazon Alexa*6といったVUI (Voice User Interface)を介して,音声で提示
図4.4: 推薦画面
*5https://store.google.com/jp/product/google home
*6https://alexa.amazon.co.jp/spa/index.html
される内容に相当するものをテキストとして提示する.図4.4の赤枠はレコメンドウィ ンドウを示しており,推薦された行動をするか否かの選択ボタンが表示される.“する” を押すと推薦された行動を実行したものとしてシミュレーションが進行する.“しない” を押すと,事前に決められた行動を取る.
実験協力者には,架空人物になったつもりで,推薦システムが導入された仮想的な空間 で14日間生活を過ごしてもらう.その中で推薦された行動を受け入れるかどうかの意思 決定を行ってもらい,実験終了後にアンケートに回答してもらう.実験に用いた架空人 物は著者の知見に基づいて作成しており,詳細は以下のとおりである.
名前 大賀 (図4.5 (a)) 職業 大学院生
年齢 25歳 血液型 O型
住所 東京都日野市旭丘2丁目 33-12
性格 お調子者,大雑把,親しみやすい,気分屋 家庭環境 独身,1人暮らし
趣味 テレビ,ネットゲーム
好きな番組 水曜日のダウンタウン,クレイジージャーニー 好きなアーティスト 欅坂46,家入レオ
架空人物の住居情報については以下のとおりである.
アパート名 共立リライアンス 賃料 (管理費) 4.2万(3000円) 間取り 1K (6畳) (図4.5 (b)) 設備 風呂トイレ別, 1口コンロ
室内環境 部屋の風通しが悪く,服が多いため,ホコリが溜まりやすい 現在の状況については,以下の通りである.
自炊はするものの片付けをせずに放置したり,部屋の掃除をしない状況が続いてはじめて 片付けをしたり,掃除をしたりする始末.研究に関する勉強を家でしたいとは思っている が,ついついネットゲームやテレビの誘惑に負けてしまい,起床・就寝時刻はバラバラ.
今後の目標については,以下の通りである.
現在の状況を改善したいと考えている.本人としては,片付けは食事後にすぐ行い,部屋 もできるだけきれいな状態を維持し,早い時間帯で床に就きたいと考えている.
(a) 顔写真
(b) 間取り 図4.5: 架空人物に関する図
とに対して不満がある.
この架空人物が推薦を一切受けない場合にとる行動データを,NHK国民生活調査の 20代男性の行為者率 [1]と先述した架空人物の設定に基づいて作成した.1日の架空人 物の行動例を図4.6に示す.例のように,NHK国民生活調査の20代男性の行為者率に 基づいた平均的な人物像に比べ,就寝時刻が遅い,睡眠時間が短い,テレビの視聴時間が 長いなどといった架空人物の生活に関する特徴が反映されるように修正している.
対象となる行動は起床,就寝 (睡眠),外出,帰宅,調理,食事,食器の片付,掃除,入 浴,着替,テレビ視聴,ネットサーフィン,勉強の13行動が対象である.行動に紐づい て身体的健康度,精神的健康度,環境快適指数が変化する.変化する値は表4.1に従う.
提案システムに推薦された日常生活行動を受け入れた場合,その実行時間は事前に定 めた固定値とする.行動ごとの実行時間を表4.2に示す.
実験協力者は理系大学生・大学院生16名である.
表4.1: 行動の変化量
名前 変化量
身体的健康度 精神的健康度 環境快適指数
起床 0.01 0.01 -0.01
就寝 0.01 0.01 -0.01
外出 0.01 -0.08 -0.01
帰宅 -0.01 -0.08 -0.01
調理 -0.01 -0.01 -0.01
食事 0.00 0.00 -0.01
片付 0.01 -0.02 0.10
着替 0.05 -0.01 -0.01
入浴 0.30 0.30 -0.01
ネット 0.01 0.01 -0.01
テレビ 0.01 0.01 -0.01
勉強 -0.05 0.01 -0.01
掃除 0.05 -0.03 0.75
表4.2: 推薦行動の実行時間 行動 実行時間 [分] 起床 15 就寝 240 外出 15 帰宅 15 調理 15 食事 30 片付 15 着替 15 入浴 30 ネット 30 テレビ 30 勉強 60 掃除 30