第 4 章 標本化フォーマットと可聴帯域内の音質
4.2 実験システム
4.2.1 実験システムの構成
音源収録から評価実験までのシステムを図 44 に示す。本実験では,標本化 フォーマット以外の条件に差が生じないようにする必要がある。音源収録では,
アナログ音声卓の出力を3並列にして,それぞれ48kHz 24bit,192kHz 24bit, DSDの3種フォーマットで動作するA/D変換器3台に接続した。収録プロセス で特に音質への影響が大きい A/D変換器については,機種や個体差による音質 差を排除するため,機種・ファームウェアが同一のものを用い,変換器の入力 感度差は±0.03dB以内になるよう調節した。音源は,MO(Magneto-Optical) ディスクに記録された後,1 台のデジタルオーディオワークステーション
(DAW)にデジタルダビングして,評価実験で再生する箇所の切り出しを行った。
DAWの信号処理精度による影響を避けるため,評価音の冒頭と終了に1秒以下 のフェード処理を施した以外,一切の信号処理を行っていない。こうして作成 した評価音を,フォーマット毎にMOディスクレコーダにデジタルダビングし,
機種・ファームウェアが同一の D/A変換器で再生した。再生フォーマットの切 り替えは,機械接点のリレー,CdS光導電セル/LEDのアナログ・フォトカプ ラを用いたアナログスイッチャーを製作して用いた。このアナログスイッチャ ーは,入力信号系統の切り替えは機械接点リレーで行い,切り替え時のノイズ は,出力段に設けたアナログ・フォトカプラでカットする構成となっている。
この構成では,信号系統毎に異なる増幅素子が入らず,原理的に信号系統間で ノイズ,歪,レベルなどの特性差が発生しない。さらに、収録・再生を通して フォーマット毎のレベル偏差は,±0.05dB以内になるようにD/A変換器を調節 した。
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44. 実験3で用いた実験システム。評価音源の収録から再生にかけてのプロセスで,標本化フォーマット以外の条件を完全にそ A/D,D/A変換器を用いている。
Switcher CURRENT CSP382A Custom
Master Clock dcs 992 Control System
D/A dcs 954 (192kHz 24bit)
Mechanical contact relay Digital Audio Workstation SADiE DSD8 D/A dcs 954 (DSD)
D/A dcs 954 (48kHz 24bit)
Master Clock dcs 992 A/D dcs 904 (192kHz 24bit) A/D dcs 904 (DSD)
A/D dcs 904 (48kHz 24bit)
MO Recorder Genex GX-8000 (48kHz 24bit) hone Same as above
Analog
MO Recorder Genex GX-8500 (192kHz 24bit) MO Recorder Genex GX-8500 (DSD)
MO Recorder Genex GX-8500 (48kHz 24bit) MO Recorder Genex GX-8500 (192kHz 24bit) MO Recorder Genex GX-8500 (DSD)
Speaker B&W Nautilus 801
Power Amp. Mark Levinson 436L Pre Amp. Mark Levinson 32L 3m
3m 3m
4.2.2 A/D,D/A変換器の物理特性
実験システムの中で,フォーマットごとの音質を左右するA/D変換,D/A変 換について,周波数振幅特性と周波数位相特性を測定した。A/D 変換器のデジ タル出力をD/A変換器のデジタル入力に直接接続し,A/D変換器にアナログの 試験信号を入力し,D/A変換器のアナログ信号出力を測定した。測定は,Audio Precision社System Two Cascade Plus (SYS-2722)を用いた。
周波数振幅特性の測定結果を図 45 に示す。本実験に用いたA/D変換器(dCS 社 904)とD/A変換器(dCS社 954)は,幾つか特性の異なるアンチエイリアシン グフィルタを選ぶことが出来るが,本実験では,折り返し歪の影響が出ないよ う,最も急峻なカットオフ特性のフィルタを選択した。測定結果から,48kHz 24bit,192kHz 24bit,DSD の3種のフォーマット間で,帯域の広さは標本化 周波数に応じて異なっているが,20 kHz以下の可聴帯域の周波数振幅特性には 全く差が見られない。
周波数位相特性の測定結果を図 46 に示す。位相は360 度でラップしてプロ ットされている。3種のフォーマットとも,位相が周波数に対して直線的に変化 していることから,A/D,D/A変換系は単純遅れ系であり,フォーマットに依ら ず位相歪みの影響はないと考えられる。
0.01 0.1 1 10 100 -80
-60 -40 -20 0 20
Frequency (kHz) Relative Level (dB) Relative Level (dB)
0.01 0.1 1 10 100
-1.0 -0.5 0 0.5 1.0
Sampling format 48kHz 24bit 192kHz 24bit DSD
図 45. A/D変換・D/A変換トータルの周波数振幅特性の実測結果。下のグラフ
は,上のグラフの縦軸を拡大したもの。
0 60 120 180 240 300 360
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 Frequency (kHz)
Phase (degree)
48kHz 192kHz DSD
図 46. A/D変換・D/A変換トータルの周波数位相特性の実測結果。360度でラ
ップしてプロットした。
4.2.3 再生条件
実験はITU-R BS1116 [35]に規定されたReference listening roomに完全準 拠した音響評価室で行った。再生方法は,前述の超高域弁別実験と同様 2 チャ ンネルステレオ再生であるが(図 26),今回の実験は可聴域の音質評価が目的 であるため,スーパーツィータは使用しなかった。聴取位置における実験シス テムの総合周波数特性を図 47 に示す。
評価実験時の再生音圧は,評価音源の主要なピークが約 75~80dBSPL(A 特 性,Fast)となるよう調節した。
0.1 1 10 100
-20 0 20
Frequency (kHz) Relative Level (dB)
図 47. 実験3の実験システムの総合周波数特性。