第5章 実験による検証
5.1 提案したシステムの有用性について
実験を通して(P5)に取り組む.患者をストレッチャ搬送する際に考えられうる状況を 分析し,本論で提案する方法が有用であるかを検証する.実験では基本的に(O1)及び(O2)
のセンシングに要点をおく. 実験は AD 変換器を用いてサンプリング間隔を 0.01 秒に設定 し 1 分ごとにデータを保存する.
■ 計測環境
ストレッチャを搬送する環境及び様子を以下に示す.
Room Corridor
Door
Stretcher locker
20m
Room Corridor
Door
Stretcher locker
20m
Fig.5.1 Experiment course Photo5.1 Experiment condition
実験は Fig.5.1 に示すような校舎の廊下部分を往復することで計測した.廊下の途中に はロッカーが配置してあり,それを避けながら走行を行う.走行速度は看護師の方にいつ も走行しているのと同じように搬送してもらい,1 分間でおよそ 2 往復した.なお,計測環 境には大振幅を発生させるような障害物はない.
5.1.1 停車条件での計測
ストレッチャの運用を考えるとき,ストレッチャ搬送は大別して2つの状態分けができ る.それはエレベータなどで階層を移動するときや搬送者が申し送りを行うとき等の停車 条件と搬送者が力を加えることで動いている状態の走行条件である.まず,ノイズがない 条件である停車条件で空気圧を利用した本システムが計測可能であるか検証する.
Fig.5.2 は停車条件にて本システムを利用した時の 1 分間の時系列波形である.システム はストレッチャ用開発システムを使用せず,従来システムをそのまま使用した.Fig.5.2 に
第5章 実験による検証̲̲̲___________________________
時系列結果を示す.上から本システムの心拍,呼吸,パルスオキシメータ,呼吸ピックア ップの波形を示している.また,Fig.5.3 は上から本システムで得られる心拍,呼吸の DFT 波形を示し,上図赤線はパルスオキシメータの DFT ピークスペクトル,下図星印は呼吸ピ ックアップの DFT ピークスペクトルをそれぞれ示している.
0 2 4 6
0 2 4 6
2 3 4
0 10 20 30 40 50 60
2 2.5 3 3.5
Time [s]
Voltage [V]
Fig.5.2 Measurement data in a stopping stretcher
0 0.5 1 1.5
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
0 0.5 1 1.5
Frequency [Hz]
Spectrum
★
★
Fig.5.3 Frequency domains of fig.5.2
Fig5.2 より,停車中の生体信号が正確に得られていることがわかる.ノイズの影響もな く振幅の大きさも問題ない.呼吸波形が呼吸ピックアップに対して反転しているのは本シ ステムのセンサが作動原理に ECM を利用しているためである.DFT 結果もきれいにピークス ペクトルの一致が見られる.このことから停車条件における本システムの利用は十分信頼 できる結果が得られると考えられる.
本論で記述したストレッチャ用の開発装置を用いて,同様の実験を行った結果も Fig5.2,
Fig5.3 のようにパルスオキシメータ,呼吸ピックアップに同期した波形,DFT 結果を得る ことができた.
第5章 実験による検証̲̲̲___________________________
5.1.2 走行条件での計測 - エアマットレスサイズによるシステム検証 -
次に走行条件における被験者の無拘束生体計測について検証する.第 3 章にて理論的に エアマットレスのサイズを検討し,体圧分布の範囲から就寝時におけるエアマットレスよ り小さいサイズを作成した.この節では実証実験により理論通り,ノイズ環境下での生体 信号計測に改善が見られるかを検証する.
● 実験方法
Fig.2.4 に示した就寝時用,ストレッチャ用のエアマットレスをそれぞれ使用し,実際に ストレッチャに被験者を乗せて計測環境を走行する.比較検証のためエアマットレス以外 の条件は従来システムに統一した.
● 実験結果
次の Fig.5.4, Fig.5.5 に実験結果を示す.Fig.5.4 は就寝時用エアマットを用いた結果,
Fig.5.5 は移動体での計測のために開発した 220×100mmサイズのエアマットレスを用いた 結果である.それぞれ 1 分間の時系列波形を示した.それぞれの Fig 上図がシステムから 得られた脈派波形,下図が呼吸波形である.
0 1 2 3 4 5
0 10 20 30 40 50 60
0 1 2 3 4 5
Voltage [V]
Time [s]
Fig.5.4 Biosignal by the conventional air mattress
0 1 2 3 4 5
Voltage [V]
0 10 20 30 40 50 60
0 1 2 3 4 5
Time [s]
Fig.5.5 Biosignal by the proposed air mattress
第5章 実験による検証̲̲̲___________________________
● 考察
それぞれの Fig 上図に示す脈派に関しては波形飽和がそれほど大差ないように見受けら れるが,従来の就寝時用エアマットレスでは所々ノイズによるセンサ飽和のため,検波後 の波形が直流成分のようになってしまっていることが確認される.また,それぞれの Fig 下図に示す呼吸波形を比較してわかるように,提案したエアマットレスによる方法の方が 飽和による影響が少ない.
以上より,開発したエアマットレスが従来のものと比較して優位に作用することが確認 された.
5.1.3 走行条件での計測 - 差動方式のノイズ軽減比較 -
第 3 章で提案した VCA 技術を用いたエアマットレス信号の差動方式について検証する.差 動方式は被験者,環境,エアマットレス空気量などのあらゆる不確定状況を考慮してノイ ズ側センサ信号レベルが操作可能である.そこで本節では,差動方式を利用する場合とし ない場合,及び差動方式の最適条件の検討を行う.
■ 差動レベルの検証
まず,基礎実験としてノイズ側エアマットレスのセンサ信号レベルの最適値を決める.
差動方式を提案する理由は,電気回路によるフィルタ処理を施す前に生体信号と振動ノイ ズのS/N比をより高いものにするためである.それはひいてはリアルタイムに検知が必要 な生体信号波形の整形に必須である.レベル調整には脈波,呼吸波形の DFT ピーク一致率 の最も高いものを採用する.
● 実験方法
ストレッチャを計測環境にて走行させる.提案する差動方式は VCA によってノイ ズ側信号レベルが可変である.本方式では 0.5 倍から 1.5 倍までの倍率で 16 段階の 制御が可能になるように設計した.そこで,16 段階すべてを検証し,最も良い結果 となるレベルを模索する.
● 結果及び考察
実験の結果,脈波,呼吸の信号検出は,それぞれにおいて以下に示すように,最 適なノイズ側信号レベルが異なることが分かった.
脈波信号最適レベル・・・レベル 7(生体側信号に対してほぼ 1:1)
呼吸信号最適レベル・・・ほぼすべてのレベルにおいて検出可能
計測条件の変化により,最適値は変わる可能性はあるが,数回にわたる実証実験
第5章 実験による検証̲̲̲___________________________
でも最適レベルはほぼ上述したものとなった.脈波と呼吸で最適レベルに差が生じ るのは,元々それらの生体信号に大きな振幅差があることが理由に挙げられる.呼 吸はノイズに対してほぼ同程度の振幅が得られるが,脈波はノイズに対してかなり 微弱な信号である.本論では検知がより困難と考えられる脈波整形のため,ノイズ 信号の VCA レベルを 7 に設定する.
■ 差動方式の有用性
差動方式を使用することにより,どの程度フィルタ後の生体信号波形が改善されるかを ストレッチャ走行実験にて検証する.
● 実験方法
ストレッチャ走行時の差動方式によるノイズ軽減効果を確認するため差動方式の 使用有無での比較実験を行う.データサンプリングは 0.01 秒で行い,被験者は 23 歳健常男性である.
● 実験結果
以下に実験結果を示す.実験方法に示した各条件について,それぞれの 1 分間の 時系列波形,DFT 結果を示す.Fig.5.6,5.8 に示す結果は上から本システムの脈波,
呼吸,比較検証のためのパルスオキシメータ,呼吸ピックアップを示す.Fig.5.7,
5.9 に示す DFT 結果は上図が脈派,下図が呼吸を示し,星印は先ほど同様リファレンス のピークスペクトルを示している.
□ 従来方法を使用した場合
0 5
Time [s]
Voltage [V]
2 3 40 5
0 10 20 30 40 50 60
1 2 3
Fig.5.6 Biosignal by the conventional method
第5章 実験による検証̲̲̲___________________________
0 0.2 0.4 0.6 0.8
Spectrum
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
0 0.
2 0.
4 0.
6 0.8 1
Frequency [Hz]
★
★
Fig.5.7 Frequency domains of fig.5.6
□ 差動方式を使用した場合
0 2 4 6
1 2 3 4
2 3 4
0 10 20 30 40 50 60
2 2.5 3 3.5
Time [s]
Voltage [V]
Fig.5.8 Biosignal by the differential measurement method
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
0 0.2 0.4 0.6 0.8
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
0 0.05 0.1 0.15 0.2
Frequency [Hz]
Spectrum
★
★
Fig5.9 Frequency domains of fig.5.8
第5章 実験による検証̲̲̲___________________________
● 考察
Fig.5.6,5.8 に示す時系列波形より,差動方式の有無によって脈波,呼吸共に飽 和が軽減されていることがわかる.Fig.5.6 の 50 秒以降は走行を終えて停車してい る.生体信号としての振幅の大きい呼吸に関しては差動方式を使わない時,多くの センサ飽和が確認できる.また,Fig.5.7 に示す従来方法の DFT 結果には,脈派,呼 吸の生体信号周波数帯に特徴的なピークが確認できないが,Fig.5.9 に示した提案す る方式の DFT 結果を見ると,第 2 ピークスペクトラムに脈波,呼吸のリファレンス ピークとの一致が確認される.このことからも提案する方法の有用性が考察される.
しかしながら,差動方式を使用した場合でも本論の計測対象である脈波,呼吸の安 定した検出は困難に見受けられる.心拍は後に示すように 15 秒ごとの拍数で評価す るため,1 分間の DFT 結果でピークが検知できることは評価できるが,呼吸はリアル タイムの検知を目標においている以上,Fig.5.8 の波形整形では通常呼吸,無呼吸の 差別化が難しい.
差動方式のレベルを変更することで呼吸検知の精度を向上させることは可能であ るが,心拍検出レベルが落ちてしまうというトレードオフの関係により違う方法で の精度向上が求められる.
5.1.4 走行条件での計測 - 制振装置による制振効果検証 -
5.1.3 節に示した方法により,センサ飽和による検出困難な状況は軽減できた.しかし,
差動方式での生体側,ノイズ側エアマットレス共に受ける絶対的なノイズを軽減しなけれ ばリアルタイムの異常生体信号検出は困難である.そこで,第 4 章で構築したストレッチ ャモデルによる制振装置を用いてこの問題に対処し,その有用性を検証する.
● 実験方法
5.1.3 節のシステム構成で制振装置の制振効果を調べる.制振効果評価のため,セ ンサ信号におけるノイズがどれほど軽減されているか,制振装置使用によりフィル タ後の波形整形がどの程度向上するかをそれぞれ検証する.なお,本実験は先の実 験をもとに,220×100mm サイズのエアマットレス及び差動方式を使用した時のセン サ合成信号を計測した.
● 実験結果
■ センサ信号による比較
まず,制振効果検証を行う.この検証ではフィルタ前の信号でどのくらいノイ ズ周波数が抑えられているかを見る.以下に実験結果を示す.Fig.5.10 上図は制振