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第2章 標準マイクロフォンの感度決定に 関する従来の方式とその問題点

2.3 伝達関数測定による可逆校正法の効率化

2.3.4 実験および考察

実験は三つの方法で行っている.

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実験1

ここでは,同期加算回数による周波数振幅特性の影響を調べる.この実験条件と実験 方法は次の通りである.

実験条件

- OATSP 信号の長さを 216(=65,536)に固定する.

- 同期加算回数を 200 回まで行う.

-サンプリング周波数は 48 kHz に設定する.

実験方法

- OATSP 信号を 202 回再生し, 最初と最後を除く 200 回分のデータを収録する.

- 200 回分のデータを用いて同期加算回数を変え その結果を比べる.

- データの最初から 100 回分までのデータで計算した結果と ,200 回分までのデータ 全部で計算した結果を比べる.

実験1の実験結果を,Fig.2-9 に表す.

Fig. 2-9. Comparison of frequency amplitude characteristics depending on the number of synchronous additions.

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Fig.2-9 の横軸は周波数,縦軸は相対的な振幅特性を示す.比較 のため,両方の方法 による 1 kHz の振幅値が等しくなるように ,結果を全周波数帯域で同じように増加した.

点線が従来の方法,実線が OATSP による結果を表している. この図を見ると,同期加算 回数を増加することにより,低周波数特性の差がだんだん小さくなることが分かる.即 ち,同期加算回数を増やすことで,より正確に低周波数領域の特性を測定するできるこ とを分かる.ただし,5 kHz 以上で見られる周波数特性の大きな差 が生じた理由は不明 である.

Fig.2-9 の従来法の結果と,OATSP 法の結果との引き算を Fig.2-10 に示す.また, 同 期加算回数を増やしながら伝達関数を求めった 結果を Fig.2-11 に示す.

Fig. 2-10. Difference between the results of the conventional method and the OATSP method.

(Conventional-OATSP)

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Fig. 2-11. Difference between the results of the conventional method and the OATSP method

実験 2

実験 2 では, OATSP 信号の長さによる影響を調べること を目的とする.実験条件と実 験方法は,次の通りである.

実験条件

-OATSP 信号の長さを 217(=131,072), 218(=262,144)に変えて測定を行う.

-同期加算回数を 100 回まで行う.

-サンプリング周波数は実験1と 同様である.

実験方法

-実験 1 と同様

実験2の結果を Fig. 2-12.に示す.

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Fig.2-12. Difference between Conventional method and OATSP, when the length of OATSP signal is 217 (= 131,072).

Fig. 2-13. Difference between Conventional method and OATSP, when the length of OATSP signal is 218 (= 262,072).

この図で,横軸は同期加算回数を,縦軸は相対的な振幅特性の差を示している.この 図をみると,実験 1 で同期加算回数による明らかな改善は回数が約 150 回以上の場合で あったが,実験1の結果のような明らかな改善は見られ でいない.また,実験 1 では同 期加算回数を 200 回まで増やしたが,実験装置のメモリ不足のため,実験 2 では 100 回 以下にした.そのため,実験 2 では明らかな改善を見る ための最大同期加算回数が足り なかった可能性がある.

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実験 3

実験 3 では,マイクロフォンペアの伝達関数 の測定を OATSP 信号を用いて行う際に, サンプリング周波数の変化による低周波数領域における測定特性の改善を確かめる. そ の実験条件と実験方法は次の通りである.

実験条件

-OATSP 信号の長さは 216(=65,536)に固定する.

-同期加算回数を 30 回に固定する.

-サンプリング周波数を 48 kHz,16 kHz,8 kHz に変えて測定を行う.

実験方法

実験 1 と同様である.

実験 3 の実験結果を Fig.2-14 に示す.

(a) Sampling frequency 48 kHz

(次ページに続く)

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(b) Sampling frequency 16 kHz.

(c) Sampling frequency 8 kHz.

Fig. 2-14. Deviation (OATSP method-existing method) from the existing method for different sampling frequencies: (a) 48 kHz, (b) 16 kHz and (c) 8 kHz

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この図で,横軸は周波数を,縦軸は従来方式と OATSP の差を表す.この図を見ると , サンプリング周波数の変化による低周波数領域における測定特性の改善は見られない.

また,実験 2 の考察で述べたように,低周波数領域における測定特性の改善を見る ため の最大同期加算回数が足りなかった可能性がある.ここで同期加算回数を 30 回に固定 した理由は,サンプリング周波数を小さくするほど測定時間が長くなるためであ った.

従来法では, 純音を用いて周波数特性を測定するため , 測定する周波数ビンの数に伴 って測定時間が長くなる.一方 , 時間引き伸ばしパルスを用いることで全周波数帯域の 特性を一気に測定することが可能であ る.しかし,本節で行った予備実験の結果 から,

低周波数領域における精度の劣化 問題や最適化のための問題等,多様な検討課題がある と考えられる.

2.4 まとめ

本章では,まず,既存の可逆校正法を概観し,その方法が持っている問題について明 らかにした.その上 ,既存の可逆校正方法が持っている大きな四つの問題点 ,(1)単一 のマイクロフォンで測定 することが不可能である,(2)手続きが複雑である,(3)測定時 間が長い,(4)低周波数領域,特に 20 Hz 以下の測定が不可能である ,等のことについ て述べた.

これらの問題点を改選する手法として ,可逆校正法を伝達関数の形で定式化し,広い 周波数帯域の測定をまとめて行うことにより 迅速に測定し,測定時間が長いという問題 点を解決できると考えた.また,単一のマイクロフォンで測定不可能 である問題点,及 び,測定手続きが複雑である問題点を克服するために,レーザドップラ振動計を導入す ることを検討した.更に,問題点の中,特に低周波数帯域での低信号対雑音比 の問題点 を解決するために,レーザ干渉計を用いる手法について検討し た.最後に,この手法を 拡張し,可聴周波数帯域だけではなく低周波数から高周波数までの広範囲にわたり標準 マイクロフォンの高精度校正が可能な方法 について検討した.

本章ではさらに,可逆校正法の伝達関数を用いた定式化に基づく測定を ,時間引き延 ばしパルスを利用して可逆校正法の音響伝達関数を求め ることにより,測定時間の短縮 を図るための実験を実施した.その結果 ,時間引き延ばしパルスを用いて測定時間を大 幅に短縮できることを確認した.また, 同期加算回数を増加させることにより,低周波 数特性の誤差が小さくなることが分かった .しかしながら,5 kHz 以上では既存方法と の周波数特性の差が生じた.その改善策として,信号長を変化させて測定を行ったが, 明らかな改善は見られなかった. 即ち,サンプリング周波数の変化による低周波数領域 における測定特性の改善は見られなかった.ここで 行った予備実験の結果から,低周波 数領域における精度の劣化 問題や,最適化のための多様な検討課題が残されていると考 えられる.

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第 3 章 マイクロフォン振動膜の振動測定

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