第 3 章 小売国際化の既存研究
2. 実証研究
まず小売業が国際化決定要因についての実証的な研究として、Williams(1992)によ る海外市場に進出しているイギリスの小売業へのインタビュー調査を基にしたパス解析 があげられる。その結果、成長や先進性を志向する動機が国際化にプラスの影響を与え、
資源・資本が限られる企業の小規模性は国際化にマイナスの影響を与えることを明らか にしている。Vida(2000)は、アメリカ小売業へのアンケート調査回答を基に、母集団 を海外に市場進出をしている小売業と本国市場のみで店舗展開している小売業とに分類 してホテリング検定を行うことにより、国際化小売業の特徴を解明することを試みた。
その結果、国際化小売業は本国市場のみで事業を行う小売業に比してアメリカ国内での 展開店舗数、および店舗展開している州の数に勝り、品揃えなどの小売知識や物流、技 術などに優れていることを明らかにしている。
これら分析はそれぞれイギリス、アメリカを本拠地とする小売業のみを対象とした分 析であるが、田村(2004)は世界小売業売上高上位100社を対象とし、ロジスティクス
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分析にて国際化要因を明らかにすることを試みた。その結果、「企業の売上高が大きくな り、本国小売販売額成長年率が低くなるとき、国際化指導が強く推進される」という結 論を得ている。この分析をもとにして、横井(2009a)は世界売上高上位250社のうち、
アパレルなど自社ブランド商品を有する専門店業態および無店舗販売業態を除き、かつ 収益性を示す営業利益率が公表されている104社を抽出し、同様に国際化要因について のロジスティクス分析を行った。そして、本国市場の売上高、そして企業の上場が国際 化決定にプラス要因になり、本国市場規模はマイナス要因となるという結果を得ている。
第3-3節 国際化推進要因研究
1. 概念化研究
Myers and Alexander(2007)は、Burt(1993)、Pellegrini(1994)らの研究から、
小売業が海外市場への進出を拡大していく国際化推進要因は、①本国市場と参入市場と の地理的距離、②文化的かつ心理的親近感、そして③本国市場と参入市場の間にある小 売産業の発展度合いの差という 3 点を挙げている。これは、小売業は本国市場から近い 市場や文化など環境が類似する市場、さらに比較的発展度合が近い先進市場への参入を 目指していくという意味である。ただし、文化的に親近性があることにより僅かな差を 見逃しても構わないという強気の進出が失敗を生むこともあり、逆に文化的かつ物理的 距離が遠い市場に対しては徹底的な調査を行うことにより、成功するケースもあると加 えている。しかし、1990年代以降、物理的にも文化的にも距離があり、かつ経済格差が 大きい新興市場への進出が増加してきた。これについてAlexander and de Lira e Silva
(2002)は、この時期から地政学的にも経済的にも小売業の国際競争環境は様変わりし たと述べている。このような背景から、小売業は距離や差異だけではなく、資本の分散 やリスク管理、市場参入方式にも関心が払われるようになり、それが国際化推進の重要 な戦略と位置づけられるようになった。
この国際化推進要因については、製造業を想定した理論や概念を基に小売業への転用 を試みた研究が積み重ねられ、小売業独自の概念化が測られた。そのうちのひとつが「所 有特殊的優位」「内部化誘引から生じる優位」「立地特殊的優位」の 3 点の活用を考える とき,企業は海外に直接投資を行うという、Dunning(1981;1988)によるOLI パラダ イム理論であり、もうひとつがHill et al.(1990)による取引コストを含めた複数の要 因をもとに企業が海外市場参入を決定する概念である。
まず、OLI パラダイム理論であるが、小売業のどの要因が適応できうるのかについて 研究がすすめられた。中村(2003)は、OLIパラダイム理論は小売国際化を部分的に説 明しうる理論であると断った上で、Dawson(1994)の研究事例を紹介し、「所有特殊的 優位」については小売業による自主企画商品(プライベートブランド商品、以下PB)を、
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「内部化誘因から生じる優位」についてはフランチャイズや買収などの参入形式により 海外市場に参入する場合の相手先の市場要素を、そして「立地特殊的優位」については 地価・家賃・人件費などの地域格差や市場成長率などを挙げている。このうち、「所有特 殊的優位」における PB が国際的な所有特殊的優位として機能している例として、ロー ラ・アシュレイ、ベネトンなどを挙げている。Pellegrini(1994)も、PBは小売国際化 の中心的な役割を果たしていると述べているように、PBの優位性は注目され、具体的な 事例研究が積み重ねられていった。Rugman et al.(2003)は、ルイ・ヴィトン(Louis
Vuitton)やクリスチャン・ディオール(Christian Dior)などのいわゆる高級ブランド
商品を展開する小売業は、ウォルマートやカルフールといった総合小売業に比べてその ブランド力が強く、海外市場においても消費者認知度や購入満足度が高いことが競争優 位要因であると述べている。そしてそれらブランド力を維持するために売上高の10%強 を広告宣伝費に投入していることを明らかにしている。Burt and Sparks(2002)は、
食品小売業も高級ブランド品同様にPB宣伝のためのTVやラジオへの出稿を増加し、当 該市場での企業ブランドイメージの確立を目指したと、イギリス小売業セインズベリー
(J.Sainsbury)を例に述べている。Stanley(1991)もイギリス小売業マークス&ス
ペンサー(Marks & Spencer)の海外進出を取り上げ、PBが消費者の認識向上に影響し たと指摘している。
次に、取引コストを含めた複数の要因をもとに企業が海外市場参入を決定する概念で あるが、これはHill et al.(1990)が提示した。まずAnderson and Gatignon(1986) などが既存研究において参入形式の選択要因のうちの一部のみに焦点を当てていること を指摘した上で、「戦略変数」「環境変数」「取引変数」の3つに選択要因を分類し、企業 が参入形式を決定する枠組みを提示した。そして、3つの変数それぞれにつき、以下の仮 説を説いている。まず、戦略変数に関する点では文化習慣が異なる海外市場を個別の国 内市場と考えるマルチドメスティック戦略を採用する企業は現地での管理力が低い形式 での参入を模索し、文化習慣が異なっても類似を見出すことにより複数の海外市場をひ とつの市場と考える「グローバル戦略」をとる企業は現地での管理力が強い形式での参 入を模索することである。環境変数に関する点では、参入市場におけるカントリーリス クが高い場合、参入市場から本国市場までの距離が遠い場合、参入市場における需要が 未知数である場合、そして参入市場での競争が不安定である場合には、資本投下が少な くても参入できる方式を模索することである。最後に取引変数に関する点では、企業特 有の戦略を有する場合は、管理力が強い形式での参入を模索し、また特有の企業ノウハ ウを有する場合は、その知識が流出することが最小限になる形式での参入を模索するこ とである。
このような概念化をもとに、小売業の海外市場参入方式についての研究が進められて きた。Alexander and Doherty(2004)は、Burt(2003)によるコスト、コントロール そしてリスク要因により参入方式が決定される定義に対して、市場における環境だけで
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はなく小売業の過去の歴史や経験、財務状況や戦略を含めたマネジメントノウハウも要 因になると述べ、Doherty(2000)のイギリスのファッション小売業を対象にした調査 から、コスト、コントロール、リスク要因とマネジメントノウハウ要因は2次元であり、
両者がともに低い場合には独資による参入を、それら要因が高くなるにつれ、合弁会社 設立による参入、フランチャイズによる参入と変化すると提示している。Myers and
Alexander(2007)はコスト面で負担がかからず時間を要さずに店舗展開ができる海外
市場参入方式であるフランチャイズ方式の研究が進んだと指摘している。しかし、
Doherty(2009)は、国際化戦略の中心的な要素の一つとなり、フランチャイズ方式で
の参入動機や現地市場での管理とサポートについての研究は進んだものの、どの市場に 参入し、そこでどのような基準で適切なパートナーを見つけるかの研究は進展していな いと指摘している。その上で、イギリスのフランチャイズ方式で店舗を海外市場に展開 しているアパレル小売業のうち 6 社にインタビューを行い、市場規模や経済成長度、法 律や規制などから参入市場を選別し、その上で財務の安定性や現地市場の知識、フラン チャイザーのブランドや戦略への理解度などから現地市場における適切なパートナーを 選択するとし、概念図を提示している。
また、海外市場に進出後の現地化についても研究がされている。小売業の国際化は商 品だけの海外移転ではなく、業態を含む知識移転であり、そのため海外市場における事 業展開には標準化戦略か適応化戦略か、もしくはその両方かという議論がなされてきた と先に述べた。そのため、適応化戦略の重要性を指摘する研究は多い。たとえばBurt et al.(2008)は、長期間海外市場に進出し続けている欧州3食品小売業の海外市場進出パ ターンについてヒアリング調査をした。企業により対応は様々であり、一般化は困難で あるとした上で、現地市場への適応化の重要性は共通していると述べている。また、矢 作(2007)はカルフールの台湾市場における現地化政策を調査し、基本的には標準化戦 略をとるとしても、部分的に適応化戦略をとり、現地市場との調整を行うことは不可欠 であると述べている。これは海外市場のみならず、外資小売業の日本市場進出において も経験されていることである。たとえば、西友を買収し日本市場に参入したウォルマー トは当初、ウォルマート方式ともいえる本国市場におけるビジネス様式を日本市場にお いても導入することを試みた。消費者に最も身近な例でいえば、チラシ配布の取りやめ である。日本の食品小売業にとって、新聞に封入されるチラシは重要なプロモーション ツールのひとつである。しかし、ウォルマートは本国市場であるアメリカでチラシを重 要なプロモーションツールとは位置づけていない。そのため、取りやめたのであるが、
それにより売上高が大幅に減少するという事態に陥り、取りやめからわずか 2 か月でチ ラシ配布を復活させた。
海外市場に進出し、現地化をし、さらに進出市場を拡大して多国籍化していくことに よる企業の利点も研究されている。Dawson(2003)は、海外進出により得た知識が親 会社に移転され活かされること、そして海外子会社間における知識移転を指摘している。
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