第 5 章 開発したシステムにおけるケーススタディ
5.5 実証実験による提案システムの評価
5.5.1 目的と内容
ここでは、上記で評価した各機能を用いて実際に史料研究を行い、提案する史料研究支 援システムの有用性を検証する。
実証実験の内容について説明する。本実験を行うに当たり、書籍「八八艦隊計画」[8]で 紹介されている研究を参考とした。八八艦隊計画の戦艦を担った軍艦である、長門型戦艦
「長門」(以下、長門)と加賀型戦艦「加賀」(以下、加賀)の両者間の煙突本数の減少に 関する原因追究を行っている。両軍艦は同系統かつ近い時期に作成されたにも関わらず、
図 5-9に見るように煙突本数が前者は2本であるのに対して、後者は1本であり、この原 因が長い間明確でなかった。書籍ではこの原因を搭載汽缶数の減少としており、当時期に 搭載されていた汽缶である「ロ号艦本式缶」の技術革新が起こり、1汽缶当りの容量が増加 したことがその原因であると記述されている。実際、この研究においては平賀譲デジタル
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アーカイブ史料が多く用いられている。よって本実証実験の評価方法を、この原因追究に 関するシナリオを本システムで再現することが可能であるかという点とした。具体的には 煙突本数の減少理由である両軍艦間における搭載汽缶数の変化を本システム上で確認する ことを目的とする。
次に本実験の流れについて説明する。まず長門および加賀に関する史料を検索する。次 にそれら史料から煙突を読み取ることができる史料のみを分類する。そして分類された史 料を時系列に並び替えて図面上の煙突本数の変移を追うことで、煙突本数の減少が生じた 年代を特定する。その年代前後に変化の原因について記述した報告書等が作成されている という仮定のもと、特定した年代以降に作成された史料を検索することによって、原因で ある搭載汽缶数に関する報告書を得る。これが本実験のシナリオとなる。
図 5-9 戦艦「長門」(左)と戦艦「加賀」(右)[29]
5.5.2 対象史料の絞り込み
長門、加賀の煙突本数が読み取ることができる史料への絞りこみは5.2と5.4の結果を用 いる。まず長門および加賀の同義語を定義したオントロジーを用いた検索を行い、両戦艦 に関する史料を得る。得られた各史料を調査し、煙突本数を読み取ることができる図面を 持つ史料に対して、煙突およびその本数をメタデータとして付加する。そしてそれら史料 について、付加したメタデータを用いて再検索することによって、両戦艦の煙突本数が読 み取ることができる史料のみを検索結果として取得する。
5.5.3 史料研究支援機能
ここではシステムが提供する史料研究を支援する機能を用いて、煙突本数の変化が生じ た年代を特定する。まず5.4で分類した史料をソート機能によって時系列順に並び替える。
次に並び替えられた史料を順に調査および比較していき、図面上の煙突本数の変移を追う。
この調査の結果、図 5-10のように1917年1月11日に作成された「”A124” BATTLE SHIP」
より以前に作成された図面では、二本の煙突が記述されていた。一方、1918年2月26日 に作成された「”A126” BATTLE SHIP」より以降に作成された図面では、一本の煙突が記
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述されていた。これら二つの史料を比較機能により比較したものが図 5-11である。この調 査から、煙突本数が変化した年代を1917年と特定できた。
図 5-10 史料の並び替え、および図面上の煙突に関する調査結果
図 5-11 比較機能を用いた煙突本数の比較
58 5.5.4 結果と評価
上で特定した年代以降に作成された史料を検索することによって、両戦艦の搭載汽缶数 に関する報告書を容易に得ることができた。長門の例では、「表題」フィールドに「長門」
と入力し、さらに「年代」フィールドに「1917年以降」と指定して検索を行うことで、検 索結果数を18件にまで絞り込むことができた。それら各史料を調査することで、図 5-12 に示す報告書を得た。これは1920年9月25日に作成された報告書「軍艦長門(8/10予行)
運転成績摘要」であり、汽缶に関して専焼缶15缶、および混焼缶6缶の計21缶が搭載さ れていたと記述されている。一方、加賀についても長門と同様の手順を踏むことにより、
図 5-13に示す報告書を得た。これは「戦艦加賀・土佐 要目一覧」という報告書であり、
汽缶について専焼缶8缶、および混焼缶4缶の計12缶が搭載されていたと記述されている。
よって目的であった両戦艦の搭載汽缶数について記述された史料を得て、実際に減少して いることを確かめることができた。
上記の結果より、書籍で紹介されている史料研究を再現でき、提案するシステムが史料 研究において有用に機能することが確認できた。具体的には、オントロジーを用いた検索、
および史料メタデータの編集により絞り込まれた史料について、ソート機能や比較機能と いった史料研究支援機能を用いて、史料の変化を追うといった調査を容易に行うことがで きた。
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図 5-12 長門の搭載汽缶数に関する報告書
図 5-13 加賀の搭載汽缶数に関する報告書
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