• 検索結果がありません。

第 2 章 先行研究

4.4 実務的含意

本研究の知見を、研究組織のサイエンス・コミュニケーションの実践に資す るために、次の3つの重要な観点から、実務的含意を提示する。

①研究組織の見きわめ

研究組織のサイエンス・コミュニケーションは、どのような卖位の研究組織 によって行われるべきか(あるいはすでに行われているか)を、見きわめる必 要がある。組織的な研究活動の行われている卖位が、コミュニケーションを実 践する卖位となる。それは、大学や研究機関内の戦略的な研究ユニットである 場合もあれば、フォーマルな組織の境界を超えた共同研究のネットワーク組織 である場合もありうる。

②関係構築のための文脈の仮設

送り手と受け手、話し手と聞き手、教える者と教わる者という、卖一文脈で 非対称なコミュニケーションを超えて、多重文脈による対称性のコミュニケー ションを成立させるためには、相互理解や関係構築の手掛かりとなる文脈の仮 設が鍵を握る。

「市民」や「公衆」という見えない対象を、姿の見えるステイクホルダーに 具現化するために、何らかの関係性の文脈を持ち込む必要がある。「ユーザ参加」

は、その一つの例証を示している。

③複合的な手法による組織コミュニケーションの展開

研究組織のサイエンス・コミュニケーションは、伝統的な

PR

とマスメディ アを通じたゲートキーパー・モデルを超えて、自ら公共へのアクセスを選択・

創出するマルチチャネル・モデルを志向し、様々なコミュニケーション手法を 複合して実践される。

本研究の知見から、サイエンス・コミュニケーションの様々なアプローチを 分類した、「サイエンス・コミュニケーション実践手法の分類モデル」を導出した。図

4-2

に、対称性・多重文脈←→非対称性・卖一文脈と、通時的←→共時的の2 軸からなる、4分類モデルを示した。

4つの類型は以下の通りである。

①提言志向

研究組織が自らの公共的責務として、様々な社会的提言を行う。送り手と受 け手の関係は明快であるが、継続的な取り組みが志向される。本研究における 万博プロジェクトの取り組みは、この類型にあたる。

従来の欠如モデルを超えた、ボトムアップで市民中心的なアプローチによる

「積極的な欠如モデル」のコミュニケーションが志向される。

図 4-2 サイエンス・コミュニケーション実践手法の分類モデル

対称性 多重文脈

非対称性 単一文脈

共時的 通時的

協働志向 提言志向

理解志向 対話志向

e.g. 市民向けセミナー

'話し手←→聞き手(

e.g. PR誌、展示

'送り手←→受け手(

e.g.市民会議 討論会

e.g. 参加実践型ワークショップ

②理解志向

科学的活動や科学的知識についての啓発・理解を促すためのコミュニケーシ ョンを行う。話し手と聞き手、教える者と教わる者との関係は明快である。議 論のファシリテーションによっては、この非対称な関係を崩し、③の対話志向 に移行する可能性がある。

③対話志向

科学的活動や科学的知識、あるいは科学政策についての対話を行うためのコ ミュニケーションを行う。相互理解、関係構築の過程を経て、話し手と聞き手 の境界があいまいになり、対等な立場で議論を行うことが可能になる。本研究 における市民向けアウトリーチのサイエンスカフェは、この類型の一例である。

④協働志向

全員参加型で、何かしら実践的な協働を志向するコミュニケーションが行わ れる。言葉に多くを依存しないノンバーバル(身体的)なコミュニケーション、

作業や道具を媒介したコミュニケーション、協調的な作業などの過程に、専門 家と市民との間の所与の非対称性を崩し、実践を通じた新たな関係性を再構築 する可能性がある。本研究の市民向けアウトリーチ・プロジェクトにおけるワ ークショップの実践は、この類型の一例である。

研究組織のサイエンス・コミュニケーションの理想的なモデルでは、以上の

ような類型の手法を様々に組み合わせて、研究組織が折々に必要とするサイエ ンス・コミュニケーションが実践されるとともに、複数の卖位の研究組織の自 律的な取り組みが相互に連関し合って、組織のコミュニケーション・システム の全体が形成されていく。

しかし、実践において、例えば

PR

やコミュニケーションの専門家が、その ような理想を追った操作的なマネジメントを主導しようとすることには、研究 者の主体的関与をスポイルするリスクがある。第1に、実践の主導は、研究者 と研究組織の自律性に任せること、第2に、PR やコミュニケーションの専門 家が必要に応じて協力し、コーディネートすることが重要である。

分類モデルは、結果の分析であって、実践のメニューではない。実践の手法 は、実践の意味形成の議論の過程で、研究者自身のアイデアを取り入れながら 自律的に生成されることが望ましい。

関連したドキュメント