5. 検証結果
5.1. 命題 1 の検証結果
5.1.1. 定量的アプローチ
医療機器に関する医工連携促進のためのクラスターが形成されている。そこでは,医工連 携のニーズ及びシーズのマッチング,企業に対する医療機器開発のための様々な支援が展 開されている。具体的には,支援プラザは前述のプロジェクトの推進の他,中小企業の新 規参入に対して公的資金の獲得支援,薬事法講習会なども含め様々な支援を行なっている。
このように,びわこ南部エリアは医療機器の医工連携に関し中小企業が異分野から積極 的に参画する先駆的なクラスターであり,地方都市でありながら高い評価を受けている。
しかしながら,このエリアでも十数年の活動の中で実際に製品化に結び付いた事例は少な い。このため,命題1の検証ではこのエリアを調査対象とすることにより,中小企業にお ける医工連携の本質的な問題に繋がる示唆が得られると考えた。
そして,本検証のアンケートの調査対象は,びわこ南部エリアで異分野から医療機器に 参入する製造業に従事する中小企業,又は中小企業と共に研究開発を行う医療専門家とし た。なお,中小企業を従業員が300人以下の企業と定義した。命題1の内容に従って,検 討内容を「中小企業が異分野から医療機器に新規参入し医工連携の枠組みで研究開発を進 める際,医療専門家との間で生じる認知上のギャップは何か。」とした。この検討内容に 対する調査方法をアンケート調査及びインタビュー調査の両方とした。
アンケート(付属資料1 参照)の送付は郵送方式で行われ,その実施時期は2011 年 6 月である。また,アンケートの送付先は支援プラザのHP(http://www.shigaplaza.or.jp/)及 び配布パンフレットで医工連携に関する活動が報告される製造業の中小企業 68 社,そし て滋賀医科大学の医療専門家35人である。中小企業に対しては2011年6月17日を,医 療専門家に対しては2011年6月22日を回答期限とした。中小企業の回答数は23社で回
答率は33.8%であり,有効回答数は10社で有効回答率は14.7%であった10。医療専門家の
回答数は24人で回答率は68.6%であり,有効回答数は16人で有効回答率は45.7%であっ た。また,回答した中小企業の企業規模については,過半数以上の15社が50人未満であ った。回答した中小企業の業種については,プラスチック製品工業は3社,金属製品工業 は1社,機械工業は3社,電子応用・電気計測機器工業は3社,その他の電気機械機器具 工業は4社,精密機械工業は1社,その他の工業は8社であった。一方,回答した医療専 門家の診療科種別については,外科は5名,内科・基礎・看護科はそれぞれ3名,放射線 科は1名,その他は9名であった。
10 アンケート調査実施時点で医療機器の研究開発を実施している,或いは実施予定のサンプルのみを抽出し,これを
「有効回答数」とした。
アンケートの結果
次にアンケート結果について説明する。図 6に「研究開発における重視する項目」に関 するアンケート調査の結果を示す。中小企業では「ニーズ対応」が1位,「薬事法等の規 制対応」が2位,「研究開発スピード」,「仕様の明確化」,「自己シーズ市場化」が次 に続く。一方,医療専門家では,「研究開発スピード」が1位,「ニーズ対応」が2位,
「研究開発コスト削減」,「仕様の明確化」,「薬事法等の規制対応」が同列の3位に挙 がっている。「ニーズ対応」について中小企業は1位であるに対し医療専門家は2位に挙 げている。また,「研究開発スピード」については,中小企業は他の項目と同列で3位に 挙げているに対し医療専門家は1位に挙げている。ここで,「研究開発スピード」,及び
「ニーズ対応」の項目で,2 群の母比率の差の検定を行ったところ,統計的に有意なギャ ップは認められない。
出所)西平(2012a)
図 6 「研究開発における重視する項目」に関するアンケート調査
図 7 に「研究開発における医工連携での課題」に関するアンケート調査の結果を示す。
なお,医療専門家に対しては中小企業と連携する際の課題に限定してアンケート調査を行 っている。中小企業が考える医工連携の課題については,「研究開発資金の不足」が1位,
「自己の能力不足」が2位,「研究開発スピード感覚のずれ」が3位に挙がっている。一 方,医療専門家については「研究開発資金の不足」及び「連携先の能力が不足」が同列の 1位,「知的財産関連の問題」が3位に挙がっている。ここで,「自己の能力不足」及び
「連携先の能力が不足」の項目で大きな相違が見られる。これら項目に対し,2 群の母比 率の差の検定を行ったところ,「自己の能力不足」の項目で1%水準の有意(両側P値),
「連携先の能力が不足」の項目で5%水準の有意(両側P値)が確認される。これにより,
この両項目において統計的に有意なギャップがあると認められる。なお,「研究開発スピ ード感覚のずれ」の項目では統計的な有意なギャップは認められない。
さらにここで「自己の能力不足」の項目のポイントが高いのが中小企業であり,そして
「連携先の能力不足」の項目のポイントが高いのが医療専門家である点を踏まえると,こ の両項目でのギャップは,両者共に中小企業の能力が不十分であると考えていることに意 味的に帰着される。
出所)西平(2012a)
図 7 「研究開発における医工連携での課題」に関するアンケート調査
したがって「研究開発における医工連携での課題」については,結果的に,中小企業及 び医療専門家共に「研究開発資金の不足」を一番の課題として挙げながら,両者共に「中 小企業の能力が不十分である」と考えており,よって「研究開発における医工連携での課 題」において両者の認知上のギャップは認められない。
以上本アンケート調査によれば,中小企業と医療専門家両者との認知上のギャップにつ いて,「研究開発における重視する項目」及び「研究開発における医工連携での課題」に 関するアンケート調査結果からはギャップ項目は抽出されない結果となったが,両者とも に「中小企業の能力が不十分である」ことを指摘していることが分かる。