定理8.1を証明する前に,ゴルトン-ワトソン過程に関するいくつかの性質を示す必要がある.まず,母関数f から帰納的にfnを,f1=f そして任意のn≥1に対してfn+1=f◦fnと定義する.
命題 8.2 n≥1に対して,Z0= 1という条件のもとでのZnの母関数はfnである.
《証明》
帰納法で示す.
gnをZ0= 1のもとでのZnの母関数とするとgn(s) =E(sZn|Z0= 1) (i)n= 1のとき
g1(s) =E(sZ1|Z0= 1) =E(s∑1i=1Yi) =E(sYi) =f1(s) が成り立つ.
(ii)gn(s) =fn(s)が成り立つと仮定する.
まず,はじめにZn =kで条件を付けると,Zn+1の分布は∑k
i=1Yiの分布と同じである.ただし,Yiは分布 (pk)k≥0に従う独立同分布の確率変数である.
ゆえに,
E(sZn+1|Zn=k) =E(s∑ki=1Yi)
=E(sY1+Y2+···+Yk)
=
∏k i=1
E(sYi)
=f(s)k
よって,
gn+1(s) =E(
sZn+1|Z0= 1)
=
∑∞ k=0
E(
sZn+1,1{Zn=k}|Z0= 1)
=
∑∞ k=0
∑∞ j=0
P(Zn+1=j, Zn =k|Z0= 1)·sj
=
∑∞ k=0
∑∞ j=0
P(Zn+1=j, Zn=k, Z0= 1) P(Z0= 1) ·sj
=
∑∞ k=0
∑∞ j=0
P(Zn+1=j, Zn=k, Z0= 1)
P(Zn=k, Z0= 1) ·P(Zn=k, Z0= 1) P(Z0= 1) ·sj
=
∑∞ k=0
∑∞ j=0
P(Zn+1=j|Zn =k)P(Zn=k|Z0= 1)·sj
=
∑∞ k=0
P(Zn=k|Z0= 1)
∑∞ j=0
P(Zn+1=j|Zn=k)·sj
=
∑∞ k=0
P(Zn=k|Z0= 1)·E(sZn+1|Zn=k)
=
∑∞ k=0
P(Zn=k|Z0= 1)·f(s)k
=gn(f(s)). 仮定より
gn(f(s)) =fn(f(s)) =fn+1(s) より,すべてのnについて成り立つ.
命題 8.3
E(Zn|Z0= 1) =mn (n≥0) が成立している.
《証明》
まず,明らかに次の式が成り立つ.
E(Zn|Z0= 1) =∑
k≥1
E(Zn|Zn−1=k)P(Zn−1=k|Z0= 1)
また,m=E(Y) =E(Z1|Z0= 1)であることと,{Yi}は独立でY と同分布であることに注意すると,任意の k≥1に対して
E(Zn|Zn−1=k) =E ( k
∑
i=1
Yi )
=E(Y1+Y2+· · ·+Yk)
=km が成り立つ.
したがって,
E(Zn|Z0= 1) =∑
k≥1
E(Zn|Zn−1=k)P(Zn−1=k|Z0= 1)
=∑
k≥1
kmP(Zn−1=k|Z0= 1)
=m∑
k≥1
kP(Zn−1=k|Z0= 1)
=mE(Zn−1|Z0= 1) これを繰り返せば
E(Zn|Z0= 1) =mn−1·E(Z1|Z0= 1)
=mn−1·E1(Z1)
=mn これで定理8.1を証明する準備ができた.
《定理8.1の証明》
まずm <1の場合を考える.
任意の非負の整数値をとる確率変数Xの期待値に関して E(X) =∑
k≥0
kP(X =k)≥∑
k≥1
P(X=k) =P(X≥1) の不等式が得られる.この不等式と命題8.3を用いると
P(Zn≥1|Z0= 1) =E(Zn|Z0= 1) =mn が成立する.
ここで,nを大きくするとm <1より
(8.2.1) lim
n→∞P(Zn ≥1|Z0= 1) = 0 が得られる.また,事象列{Zn≥1}は単調に減少する.
したがって
nlim→∞P(Zn≥1|Z0= 1) =P
∩
n≥0
{Zn≥1}|Z0= 1
=P(任意のn≥0に対してZn ≥1|Z0= 1). ゆえに,m <1のとき(8.2.1)より,
P(任意のn≥0に対してZn≥1|Z0= 1) = 0 が成り立つ.
次に,m= 1,m >1の場合について
Z0= 1の条件のもとでのZnの母関数はfnであったので
P(Zn= 0|Z0= 1) =fn(0)
そして,事象{Zn= 0}はnに関して増加しているので lim
n→∞P(Zn= 0|Z0= 1) = lim
n→∞fn(0) =P
∪
n≥0
{Zn = 0}|Z0= 1
が得られる.
ここで,
q= lim
n→∞fn(0)
=P
∪
n≥0
{Zn = 0}|Z0= 1
=P(あるn≥0に対してZn= 0|Z0= 1) で定義する.fn+1(0) =f(fn(0))であるのでnを大きくするとf の連続性により
f(q) =q m= 1の場合
f′(s) =∑
k≥1
k·pksk−1
<∑
k≥1
k·pk
=m= 1 (0< s <1) が得られる.f(s) =∑∞
k=0pkskは[s,1]で連続,(s,1)で微分可能であるから平均値の定理により f(1)−f(s)
1−s =f′(c) となる c(s < c <1) が存在する ゆえに
f(1)−f(s) =f′(c)(1−s)
<1−s
⇔1−f(s)<1−s
⇔f(s)> s (s <1) を得る.
ゆえに,f(s) =sを満たす解は閉区間[0,1]ではs= 1のみとなる.したがってq= 1となる.
次にm >1の場合
f′(1) =m >1でf′の連続性から,もし1−η < s <1ならば1< f′(s)< f′(1) =mとなるようなηが存在 する.したがって平均値の定理により
f(1)−f(s)
1−s =f′(c) となる c(s < c <1) が存在する ゆえに
f(1)−f(s) =f′(c)(1−s)
>1−s
⇔1−f(s)>1−s
⇔f(s)< s (s <1)
を得る.
ところで,s= 0でf(0) =p0 ≥0となるので中間値の定理によりf(s) =sを満たす解は半開区間[0,1)で少 なくとも1つ存在する.この解をs1とする.(f(s1) =s1を満たす)
ここでこの解は半開区間[0,1)で一意的に決まることを背理法により示す.
そのために,半開区間[0,1)でs1とは異なる解t1が存在すると仮定する.ところで,f(1) = 1であるので平均 値の定理により,開区間(0,1)で
f′(ξ1) =f′(ξ2) = 1 を満たす解ξ1,ξ2(ξ1̸=ξ2)が存在する.(グラフの挿入)
一方,p0+p1<1より開区間(0,1)内の任意のsについて f′′(s) =∑
k≥2
k(k−1)pksk−2>0
となるので,f′(s)は0< s <1で狭義単調増加となるが,これは上のf′(ξ1) =f′(ξ2) = 1に矛盾する.
ゆえに,f(s) =sの解はq=s1かq= 1の2つしかない.さらに,背理法を用いるためにq= 1とすると 1 =q= lim
n→∞fn(0)
であった.このことより,nが十分大きくなるとfn(0)>1−ηが成り立つ.
ゆえに,
1−η < s <1なら,f(s)< sよりf(fn(0))< fn(0)
が導かれる.しかしこれ,f(fn(0)) =fn+1(0)< fn(0)は,fn(0)がnに関して単調増加であることに反する.
よってq=s1.
そして,q=s1<1なので0< q <1 ゆえに,
P(任意のn≥0, Zn≥1|Z0= 1) = 1−P(あるn≥0, Zn= 0|Z0= 1)
= 1−q
>0. よって示された.
さて,次にゴルトン-ワトソン過程は0にいくか無限大にいくかのいずれかであることを示そう.
系 8.4 p0+p1<1と仮定する.ゴルトン-ワトソン過程Znのすべての状態k≥1は非再帰的である.さらに P( lim
n→∞Zn = 0) =q P( lim
n→∞Zn=∞) = 1−q が成り立つ.
《証明》
p0= 0とする.
このとき,粒子の数は第1世代から次の世代へ移るにつれて増加するだけである.したがって,任意のk≥1 に対して
pn(k, k) ={(p1)k}n
が成り立つ.いまq1<1なので
nlim→∞pn(k, k)<∞. ゆえに,任意のk≥1に対して非再帰的である.
次に,p0>0とする.
このとき,ある状態k≥1に対して状態kにはじめて戻ってくる時刻を Tk= inf{n≥1 :Zn=k} で定義する.
もし第1世代に粒子が存在しなければ状態kには戻れないので
P(Tk <∞|Z0=k)≤1−p0k<1 定義によりこれは非再帰的を表す.
次に,事象A={nが無限大になっても,Znは無限大にならない}について
この事象A∋ω上ではZn(ω)が無限回,集合{0,1, . . . , N(ω)}を訪れるような整数N(ω)が存在する.Znは 非再帰的なので定理7.7よりZnがどの状態k≥1にも有限回だけ確率1で戻ってくることが分かる.
ゆえに,これが可能なのはZn がA上で0に収束するときに限る.このことは,Aが起こってZnが0に収束 するか,Aが起こらないでZnが無限大になるかのいずれかを示す.
したがって,Znが確率qで0に収束するので,Znが確率1−qで無限大になる.
9 ツリー上における臨界確率の一意性
第5章において,Z2上の臨界確率pcとpT の一意性を示すことができた.この章では臨界確率の一意性がツ リー上において成り立つこと,およびそのときの臨界確率の値を示す.ツリーにはZ2にはない性質がある.それ はツリー上においてループが存在しないということである.つまり,ある点xからスタートしてある点xに戻る 開路は,ツリーの性質上同じ点を2度通過しなければならないので,ループは存在しない.
また,ツリー上におけるパーコレーションは前章の分子過程に帰着することが知られている.
9.1 ツリーについて
はじめに,2分ツリーを例にとってツリーの説明をする.
まず,ルートと呼ばれる特別な点が存在する.ルートには2人 ルート の子どもがいて,またその2人の子どもにはそれぞれ2人の子
どもがいるという状況が以下同様に続いていく.つまり,ルート は第0世代,その子どもは第1世代,· · · と続く.第k世代では 2k個の点が存在する.ルートには2個の最近接点が存在し,他
のすべての点には3個の最近接点が存在する.したがって各点から出発するボンドは(ルートを除いて)3個存在 する.
次に,これをもとにn分ツリーについて説明する.まず,同様にルートと呼ばれる特別な点が存在する.ルー トにはn人の子どもがいて,またそのn人の子どもにはそれぞれn人の子どもがいる.という状況が以下同様に 続いていく.一般に第k世代ではnk個の点が存在する.ルートにはn個の最近接点が存在し,他のすべての点 にはn+ 1個の最近接点が存在する.したがって各点から出発するボンドは(ルートを除いて)n個存在する.
ここで,p∈[0,1]とする.各ボンドはすべて他のボンドとは独立に,確率pで開き確率1−pで閉じていると する.そしてCをツリー上のオープンパスでルートにつながっている点の集合とする.言い換えれば,Cはルー トを含む開クラスターである.
9.2 n 分ツリーでの臨界確率の一意性
2分ツリー,3分ツリーを考えた後,n分ツリーの場合,そして分岐の数が各世代において変数x(2≤x≤n) である場合について臨界確率の一意性およびその時の値を考える.
9.2.1 2分ツリーの場合
まず,はじめにいくつか記号を決める.
Znをオープンパスでルートにつながっている第n世代の個体の数とし,Z0= 1(ルートの個数)とする.
ある親が与えられると,開いたボンドでその親につながっている子どもの数Y は,2項分布B(2, p)に従う確率
変数となる.すなわち次のように表せる.
P(Y =k) = 2Ckpk(1−p)2−k (k= 0,1,2) また,n≥1に対してZnは
Zn=
Z∑n−1
i=1
Yi
と書ける.ただし,YiはB(2, p)に従う独立同分布な確率変数とする.したがってZnはゴルトン-ワトソン分枝 過程となる.また,ZnとCとの関係は
|C|=∑
n≥0
Zn
で与えられる.これより,
θ(p) =P(|C|=∞) =P(すべてのn≥1に対して,Zn≥1) が導かれる.また定理8.1により
θ(p) =P(すべてのn≥1に対して,Zn≥1)>0 とE(Y) = 2p >1とは同値であることが分かる.
したがって,2分ツリー上のパーコレーションに対する臨界確率pc= 12となる.
次に臨界確率pT について.pT = inf{p∈[0,1];Ep(|C|) =∞}であったのでE(|C|)について考える.命題 8.3より
E(|C|) =E
∑
n≥0
Zn
=∑
n≥0
E(Zn)
=∑
n≥0
(2p)n. このE(|C|)の値とpT の定義から,pT = 12であることがわかる.
つまり,2分ツリーにおいて臨界確率pcとpT の一意性が示され,その値はpc=pT =12 である.
9.2.2 3分ツリーの場合
2分ツリーの場合と同様に考えると次の定理を得る.
定理 9.1 3分ツリーにおける臨界確率pcとpT は一致し,その値は 1
3である.
《証明》
2分ツリーのときと同様に,Znをオープンパスでルートにつながっている第n世代の個体の数とし,Z0= 1(ルー トの個数)とする.
ある親が与えられると,開いたボンドでその親につながっている子どもの数Y は,2項分布B(3, p)に従う確率 変数となり,
P(Y =k) = 3Ck·pk·(1−p)3−k (k= 0,1,2,3)
と表せる.
また,n≥1に対してZnは
Zn=
Z∑n−1
i=1
Yi
と書ける.ただし,YiはB(3, p)に従う独立同分布な確率変数とする.したがってZnはゴルトン-ワトソン分枝 過程となる.ZnとCとの関係は
|C|=∑
n≥0
Zn で与えられる.
このとき,2分ツリーのときと同様にしてθ(p)の定義と,定理8.1により,
θ(p) =P(|C|=∞)
=P(∑
n≥0
Zn=∞)
=P(すべてのn≥1に対して,Zn≥1)>0
⇔E(Y) = 3p >1
よって3分ツリーの上のパーコレーションに対する臨界確率はpc = 13となる.2分ツリーのときと同様に臨界確 率pT について考えると,
E(|C|) =E
∑
n≥0
Zn
=∑
n≥0
E(Zn)
=∑
n≥0
(3p)n このE(|C|)の値とpT の定義から,pT =13 であることがわかる.
つまり,3分ツリーにおいて臨界確率pcとpT の一意性が示され,その値はpc=pT =13 である.
9.2.3 n分ツリーの場合
n分ツリーのとき,次の定理が成立する.
定理 9.2 n分木において,臨界確率pcとpT は一致し,その値は 1nである.
《証明》
文字が混同するため,m分ツリーとして考える.Znをオープンパスでルートにつながっている第n世代の個体 の数とし,Z0= 1(ルートの個数)とする.
ある親が与えられると,開いたボンドでその親につながっている子どもの数Y は,2項分布B(m, p)に従う確 率変数となり,
P(Y =k) = mCk·pk·(1−p)m−k (k= 0,1,2, . . . , m) と表せる.
また,n≥1に対してZnは
Zn=
Z∑n−1
i=1
Yi
と書ける.ただし,YiはB(m, p)に従う独立同分布な確率変数とする.したがってZnはゴルトン-ワトソン分枝 過程となる.ZnとCとの関係は
|C|=∑
n≥0
Zn
で与えられる.
このとき,θ(p)の定義と,定理8.1により,
θ(p) =P(|C|=∞)
=P(∑
n≥0
Zn=∞)
=P(すべてのn≥1に対して,Zn≥1)>0
⇔E(Y) =mp >1
よってm分ツリーの上のパーコレーションに対する臨界確率はpc =m1 となる.臨界確率pT について考えると,
E(|C|) =E
∑
n≥0
Zn
=∑
n≥0
E(Zn)
=∑
n≥0
(mp)n このE(|C|)の値とpT の定義から,pT =m1 であることがわかる.
つまり,m分ツリーにおいて臨界確率pcとpT の一意性が示され,その値はpc =pT =m1 である.
9.2.4 各世代における分岐の数が変数x(2≤x≤n)の場合
ツリー上の各世代における分岐の数がそれぞれ2からnのいずれかの値をとる場合について考える.このとき 次の定理が成り立つ.
定理 9.3 あるi世代の分岐の数をxi (2≤xi ≤n)とする.このxi分ツリーにおいて,臨界確率pcとpT は一 致し,その値はsup
i
1
xi である.
《証明》
ルートをZ0= 1とし,あるi世代の分木の数をxiとする.第n世代の全サイト数は
∏n i=1
xi ただし2≤xi≤n
あるi世代において,両親が与えられたとき,開いたボンドでその両親につながっている子どもの数Y は二項分 布B(xi, p)に従う確率変数となる.すなわち
P(Yi =k) = xiCk·pk·(1−p)xi−k (k= 0,1, . . . , xi)
Znをオープンパスでルートにつながっている第n世代の個体の数とする.このとき,n≥1に対して Zn=
Z∑n−1
i=1
Yi