村上 英吾
要 約
本章では、調査対象者の2008年秋以降の失業経験のうち、特に派遣切り・期間工切 りの実態を明らかにするとともに、彼・彼女らの雇用や生活保障に関する政策的な要 求・要望についてまとめた。派遣切りの実態については、派遣切りにより直ちに仕事 と住居を失った人たちばかりではなく、派遣切り後も派遣就業と失業を繰り返したり、
就業日数が減少して収入が減少していくような半失業状態を続けた人もいた。また、
収入が減少する一方、寮費がかかるために自主的に退職した人もいる。
登録型派遣と常用型派遣、間接雇用である派遣と直接雇用の期間工の間には雇用の 不安定性という点で大きな違いは見られなかった。すなわち、常用型派遣であっても、
派遣先がなくなると簡単に解雇された例があった。派遣可能期間終了後に直接雇用に 転換したケースでも、派遣切りと同様に契約期間の途中で解雇された。他方、直接雇 用申し込み義務が生じるはずなのに、直接雇用されなかったという事例も散見された。
また、専門26業務として派遣されたものの、6年近く一般事務を担当させられ、最終 的に専門的な業務を担当することになったが、業績悪化のために派遣切りされたとい う事例もあった。
生活保障、労働政策に対する要望としては、主として生活保護、住宅支援、労働者 派遣法のあり方について検討した。生活保護については、もっと受給しやすいように してほしいという意見と、求職活動をするには不十分なので支給水準を引き上げてほ しいという意見があった。また、失業とともに住居を失うことが多いため、派遣会社 の責任で住居を確保してほしいという意見があった。
派遣法に対する要望も比較的多く見られた。まずは、派遣会社が違法行為を繰り返 していること、派遣先の言いなりで労働者が困ったときに頼れないことに対する不満 が表明されていた。直接雇用義務が生じる3年については、もっとゆるめるべきとい う意見がある一方、この規制がほとんど機能していないため、抜け道を作らないよう に改正してほしいという要望があった。
は じ め に
本章では、調査対象者が2008年の秋以降に経験した失業の実態について明らかにする。
既に前章までに明らかにされている通り、ワーキングプア状態にある人々の多くは非正規 雇用ないしは正社員とはいえ雇用が不安定な状態にあり、就業と失業をくり返してきてい る。それゆえ、調査時点で失業状態にある人だけを取りあげて論じることにはあまり意味 がないという指摘があるかも知れない。
とはいえ、図表3−1に示した通り、2008年9月のリーマン・ブラザーズ破綻以来、と りわけ2009年1月以降、失業率は急上昇し、7月には5.6%を記録した。その際に、非正規 労働者、なかでも派遣労働者の大量解雇が行われていったが、本調査はまさにその直後に 実施した。それゆえ、この間の失業経験について検討することには一定の意味があるもの と思われる。
図表3−1 完全失業率の推移
出所)総務省統計局「労働力調査」より作成
厚生労働省のまとめによれば、2008年10月以降、派遣切り等(派遣・請負契約の中途解 除や雇い止めによる雇用調整、あるいは有期契約の非正規労働者の期間満了、解雇)に あった非正規労働者のうち、2009年12月時点で2010年3月末までに実施済みまたは実施予 定であるとして把握できたのは、全国で4,537事業所、25万291人にのぼった。このうち、
雇用形態別に最も多いのが派遣労働者で14万5,044人(58.0%)、これに請負の19,600人(7.8%)
を含めると、7割弱が派遣または請負といった間接雇用であった。業種別に見ると、製造 業が約9割(89.1%)を占め、卸・小売りが3.4%、運輸業が1.5%であった(図表3−2)。
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図表3−2 2008年10月以降の派遣切りの状況
注) 派遣または請負契約の期間満了、中途解除による雇用調整および有期契約の非正規労働者の期間満 了、解雇による雇用調整について、2008年10月から2010年3月までに実施済み又は実施予定として、
2009年12月16日時点で把握できたもの。
出所)厚生労働省「非正規労働者の雇止め等の状況について(12月報告:速報)」2009年12月25日より作成
このような派遣切りの結果、雇用形態別に見た労働力人口のうち、とりわけ派遣労働者 の数が急速に減少していった。図表3−3は、総務省統計局の「労働力調査」により、2008 年平均を100としたときの雇用形態別の労働者数の変化を示したものである。非正規労働者 の数は、2005年の1,633万人から2008年の1,760万人まで増加していったが、2009年1〜3月 には1,699万人で、2008年を100とすると96.5、4〜6月には1,685万人で、同95.7まで減少し た後、7〜9月には1,743万人に増加し、10〜12月には2008年水準の1,760万人にまで回復し た。
これに対して派遣労働者は、2005年に106万人だったが、2006年には128万人、2007年に は133万人、2008年には140万人まで増加した後、2009年1〜3月には116万人、2008年を 100とすると82.9まで減少した。さらに、4〜6月には75.0、7〜9月には72.9まで減少し た。この間にパート・アルバイトは2ポイント減の98程度まで減少したに過ぎず、契約社 員・嘱託は0.6ポイント減の99.4、その他は約10ポイント減の89.9であった。こうした統計 からも、この間に主として製造業において実施された「派遣切り」がいかに激しいもので あったかがわかる。
もちろん、図表3−2の通り、契約の中途解除や雇い止めにあった人のうち、期間工等 の有期契約労働者は23.0%を占めており、直接雇用されていたとはいえ、非正規雇用に共 通する不安定性と無縁ではないという点にも注意する必要がある。
2009年7月以降は非正規雇用者数が回復を見たが、それ以降はむしろ正規雇用者数が減 少し、被雇用者数全体は減少し続けている。それゆえ、2009年後半になり雇用環境が改善 したというわけではない。
以上のように、2008年秋以降の失業の特徴は激しい「派遣切り」にあった。そこで本章 では、調査対象者の失業経験のうち、とりわけ派遣切りの実態に注目していきたい。
なお、以下で紹介する事例は「ケースレポート編」の一部を抜粋したものであるが、事 例のポイントをわかりやすくするため、あるいは文章を読みやすくするため、事実関係を 変えないように注意しながら、筆者が要約したものである。より詳しい内容については ケースレポート編を参照されたい。
図表3−3 雇用形態別の労働者数の推移
注) 2008年を100としたときの値
出所)総務省統計局「労働力調査」より作成
1.アンケート結果から見た派遣労働者の就労状況
聞き取り事例を検討する前に、アンケート結果から派遣労働者の就労実態について概観 しておこう。これまでの分析では、アンケート回答者のうち、主に「ワーキングプア層」
の就労実態についてみてきたが、ここでは非ワーキングプア層も含めた全ケースのデータ を用いることにする。
図表3−4は、アンケート回答者1,238人のうち就労経験のある1,205人について、雇用形 態別就労状況別の分布を示したものである。調査時点で「現在仕事をしている」と回答し たのが887人、「以前働いていたが現在はしていない」が318人であった。このうち、最も多 いのが「民間企業の正社員」で399人、次に「パート・アルバイト・臨時職員」が391人、
「登録型派遣社員」が144人、「契約社員」が82人であった。その他はいずれも数が少ない ので、雇用形態別に細かく就労状況を見ていくことは難しい。そこで、やや操作的な処理 ではあるが、所得と失業者の直前職の就労期間を用いて就労状況の類似性を見てみること とした。