• 検索結果がありません。

ワーキングプアにおける不安定労働の現状と課題

ドキュメント内 untitled (ページ 93-140)

樋口 明彦 

要  約

   本章の狙いは、アンケート調査とインタビュー調査を用いて、日本社会におけるワー キングプアが直面する労働の不安定性のありようを検討することにある。労働の不安 定性を論じるとき、単に正規雇用の縮小と非正規雇用の増大という就業形態の内訳の 変化だけでなく、正社員・アルバイト・パート・契約社員・派遣社員・請負社員など 細かく分化したそれぞれの働き方に対して、「数量的フレキシビリティ」「職務上のフ レキシビリティ」「賃金のフレキシビリティ」「時間的フレキシビリティ」という4つ のフレキシビリティがいかに浸透し、どのような影響を与えているか、その様子を探 ることも視野に収める。

 最初に、ワーキングプアの従事する不安定労働が、就業形態ごとにどのようなリス クを抱えているのか、その現在の状態について確認する。考察から、賃金の低さ、仕 事量の大幅な変動、不安定な給与体系、社会保険制度の未整備、無定形な労働時間、

解雇・途中契約解除、賃金の遅配・未払い、いじめ・差別などの不安定要因が、非正 規雇用だけでなく、一部の正規雇用にまで及んでいることがわかる。

 次に、ワーキングプアがなぜ不安定労働に従事するようになったのか、そしてなぜ 不安定労働を続けているのか、その過去から現在にいたるプロセスについて吟味する。

第一に、非正規雇用に移行する契機に焦点を当て、学歴の低さや中退経験を背景に非 正規雇用から職業的キャリアを開始せざるをえない事情と、職場に定着することがで きない厳しい労働環境を理由に正規雇用から離脱せざるをえない事情を取り上げる。

 第二に、不安定労働を続けるメカニズムとして、労働市場の特徴を示唆する。安定 した正社員が企業内部で技能形成を果たす「内部労働市場」と特定の職業の熟練労働 者・非熟練労働者・非正規雇用者が企業横断的に職場を移動する「外部労働市場」と いう対立概念を援用しながら、「外部労働市場」に定位することが多いワーキングプア のキャリア形成の様子を描写する。

 以上の分析から、就業形態の安定性を評価するにあたって、単に「収入の多さ」「社 会保険への加入」「職務/職能評価制度の整備」「雇用関係の継続性」だけではなく、

「仕事の就きやすさ」の意味を正確に理解しなければいけないことがわかる。なぜな ら、ワーキングプアが日々の労働生活のなかで仕事を選ぶとき優先する選択基準は、

この「仕事への就きやすさ」であることが多いからである。

 さらに、「仕事への就きやすさ」が偏重される背景として、公的な職業訓練制度・雇 用サービス・雇用保険などの社会保障制度が脆弱である一方、自己裁量で問題を解決 しようとする志向が強いことが挙げられる。

 最後に、政策的提案として、正規雇用と社会保障が密接に結びついた現今の制度に 代え、「外部労働市場」における不安定労働でも、将来のキャリア形成が可能となり、

生活が維持できるような職務評価・所得保障・サービス保障の制度的枠組みを提示する。

はじめに:ワーキングプアという問題圏

 日本において、非正規雇用の増大が指摘されて久しい。ただ近年になって、新たに働い ているにも関わらず貧困状態に留まらざるをえないワーキングプアの存在に注意が向けら れるようになっている。では、ワーキングプアが日々従事している不安定労働とは、いっ たいどのようなものなのだろうか。本章では、最初に、アンケート調査に基づいてワーキ ングプアにおける不安定労働の現状を考察する。次にインタビュー調査を通じて学校卒業 から現在までの職歴の検討を行い、なぜワーキングプアが不安定労働にいたったのか、そ してなぜ不安定労働を続けざるをえないのか、そのプロセスを分析する。最後に、ワーキ ングプアが抱く将来への展望を俯瞰しながら、不安定労働における政策的課題を抽出し、

その対案を提示する。

1.ワーキングプアにおける不安定労働の現状

 ワーキングプアの操作的な定義

 今回のアンケート調査には、本人の勤労収入が300万円未満かつ世帯収入が400万円未満 のワーキングプアだけでなく、ワーキングプアに該当しない労働者層、つまり本人の勤労 収入が300万円以上あるため貧困の基準に当てはまらない非ワーキングプアも回答者のなか に含まれている。さらに、家族福祉が伝統的に強い日本においてワーキングプアを考察す るためには、世帯構造に注意を払う必要があることも忘れてはならない。なぜなら、性別 役割分業に基づき家計補助的な働き方をする主婦パートや親と同居する若年労働者の存在 は、たとえ本人がワーキングプアに匹敵する低賃金労働で働いていたとしても、家族成員 による追加的な収入が貧困という実情を覆い隠す可能性があるからである。したがって、

特に本人の1年間の勤労収入が300万円未満でありながら、世帯収入が400万円以上である 者を潜在的ワーキングプアと見なして別のカテゴリーを設け、比較対象の一つに加えるこ とにしたい。最終的に、本章で検討するアンケート調査の有効回答数は、ワーキングプア 620ケース、潜在的ワーキングプア191ケース、非ワーキングプア213ケース、合計1,024ケー スとなっている*1。以下から、アンケート調査を通じて、ワーキングプア・潜在的ワーキ ングプア・非ワーキングプアをカテゴリーごとに比較しながら、ワーキングプアにおける 不安定労働の現状を概観することにしたい。

 ワーキングプアの就業状況

 まず、ワーキングプアの現在の就業状況を見てみよう。図表2−1によれば、ワーキン グプアの就業形態が「正規雇用」18.9%、「非正規雇用」46.4%、「自営業など」2.0%、「失 業」25.3%、「無業」(現在、求職活動をしていない者)6.2%、「その他」1.1%であるのに 対して、非ワーキングプアは「正規雇用」85.0%、「非正規雇用」9.2%、「自営業など」

0.5%、「失業」3.4%、「無業」1.4%、「その他」0.5%となっている。つまり、「非正規雇用」

「失業」「無業」が多いワーキングプアと「正規雇用」が多い非ワーキングプアという対

照的な内訳となっている。また、潜在的ワーキングプアを見てみると、「正規雇用」21.2%、

「非正規雇用」58.0%、「自営業など」1.6%、「失業」17.0%、「無業」1.6%、「その他」0.5%

となっており、その内実はどちらかと言えばワーキングプアに近いといえよう。

 特筆すべき点として、ワーキングプアであっても、「正規雇用」が約2割を占めること であろう。この傾向は、潜在的ワーキングプアであっても変わらない。日本において、働 きながらも貧困に留まるワーキングプアの存在は、ともすれば非正規雇用の問題と同一視 されることが多いが、その解釈は必ずしも正確ではないと言えよう。

図表2−1 現在の就業形態

 次に、ワーキングプアが働いている勤務先での業種を見てみよう(失業・無業の者は、

離職前に就いていた仕事)。図表2−2によれば、潜在的ワーキングプアや非ワーキング プアと比べて、ワーキングプアにおける業種の相対的な傾向は、「医療・福祉サービス」

「その他のサービス業」「建設業」の占める割合が高く、「官公庁」の占める割合が低くなっ ている。その他の特徴として、潜在的ワーキングプアでは「金融・保険業」が18.7%と高 く、非ワーキングプアでは「製造業」や「卸売業・小売業」がやや高い割合となっている。

図表2−2 現在の業種

 では、ワーキングプアの職種は、どのような傾向になっているだろうか。非ワーキング プアと比べて、ワーキングプアのもっとも明確な特徴は、いわゆるホワイトカラー職の割 合が低いことにある。ワーキングプアの場合、「管理職」0.3%、「専門・技術職」7.2%、

「事務職」22.1%、「営業職」2.8%、「販売職」5.2%とホワイトカラー職が37.6%にすぎな いのに対して、非ワーキングプアでは、「管理職」7.7%、「専門・技術職」13.0%、「事務 職」32.7%、「営業職」7.2%、「販売職」2.9%とホワイトカラーが63.5%を占める。反対に、

౏ ᐡ

⵾ ㅧ

෈ ᄁ

ᬺ 䊶 ዊ ᄁ

㊄ Ⲣ 䊶

଻ 㒾

ᬺ ਇ

ᬺ ㆇ ャ

ᬺ 㔚 ജ 䊶 䉧 䉴 䊶 ᾲ ଏ

⛎ 䊶

ᬺ 㘶 㘩 ᐫ 䊶 ኋ ᴱ

ᬺ ᣂ

⡞ 䊶

᡼ ㅍ 䊶

಴  

ᬺ 䊶 ᐢ ๔

ᬺ ᖱ ႎ ㅢ

ᬺ ᢎ

⢒ 䊶

ⓥ 䉰 丶 䊎 䉴

≮ 䊶

␩ 䉰 丶 䊎 䉴

䈠 䈱

ઁ 䈱 䉰 丶 䊎 䉴

ᬺ ㄘ ᨋ Ṫ

ᬺ 䈠 䈱

ઁ 䈱

⒳ 䊪䊷䉨䊮䉫䊒䉝䋨㪥㪔㪍㪇㪉䋩 㪎㪅㪍 㪎㪅㪈 㪉㪇㪅㪍 㪎㪅㪈 㪌㪅㪍 㪇㪅㪎 㪊㪅㪉 㪇㪅㪊 㪊㪅㪎 㪈㪅㪏 㪈㪅㪎 㪋㪅㪎 㪈㪋㪅㪇 㪈㪊㪅㪈 㪇㪅㪎 㪇㪅㪇 㪏㪅㪈 ẜ࿷⊛䊪䊷䉨䊮䉫䊒䉝䋨㪥㪔㪈㪏㪎䋩 㪈㪉㪅㪊 㪊㪅㪉 㪈㪐㪅㪏 㪍㪅㪋 㪈㪏㪅㪎 㪇㪅㪌 㪊㪅㪉 㪈㪅㪈 㪈㪅㪈 㪈㪅㪍 㪈㪅㪈 㪊㪅㪉 㪐㪅㪍 㪏㪅㪇 㪇㪅㪇 㪇㪅㪌 㪐㪅㪍 㕖䊪䊷䉨䊮䉫䊒䉝䋨㪥㪔㪉㪇㪐䋩 㪈㪉㪅㪐 㪋㪅㪏 㪉㪏㪅㪎 㪈㪇㪅㪇 㪍㪅㪉 㪇㪅㪌 㪈㪅㪐 㪇㪅㪌 㪉㪅㪐 㪈㪅㪋 㪈㪅㪋 㪊㪅㪏 㪏㪅㪍 㪏㪅㪈 㪇㪅㪇 㪇㪅㪇 㪏㪅㪈 ว⸘䋨㪥㪔㪐㪐㪏䋩 㪐㪅㪍 㪌㪅㪐 㪉㪉㪅㪈 㪎㪅㪍 㪏㪅㪉 㪇㪅㪍 㪉㪅㪐 㪇㪅㪌 㪊㪅㪇 㪈㪅㪎 㪈㪅㪌 㪋㪅㪉 㪈㪉㪅㪇 㪈㪈㪅㪈 㪇㪅㪋 㪇㪅㪈 㪏㪅㪋

䊪䊷䉨䊮䉫䊒䉝䋨㪥㪔㪍㪇㪐䋩 㪈㪋㪅㪏 㪇㪅㪌 㪈㪅㪇 㪉㪅㪍 㪊㪉㪅㪇 㪌㪅㪎 㪇㪅㪌 㪍㪅㪐 㪇㪅㪌 㪇㪅㪏 㪇㪅㪊 㪈㪅㪊 㪇㪅㪉 㪇㪅㪉 㪉㪌㪅㪊 㪍㪅㪉 㪈㪅㪈 ẜ࿷⊛䊪䊷䉨䊮䉫䊒䉝䋨㪥㪔㪈㪏㪏䋩 㪈㪎㪅㪇 㪇㪅㪇 㪇㪅㪌 㪊㪅㪎 㪉㪍㪅㪈 㪐㪅㪍 㪇㪅㪇 㪉㪇㪅㪎 㪇㪅㪌 㪈㪅㪈 㪇㪅㪇 㪈㪅㪈 㪇㪅㪌 㪇㪅㪇 㪈㪎㪅㪇 㪈㪅㪍 㪇㪅㪌 㕖䊪䊷䉨䊮䉫䊒䉝䋨㪥㪔㪉㪇㪎䋩 㪎㪈㪅㪇 㪈㪊㪅㪇 㪇㪅㪌 㪇㪅㪌 㪊㪅㪋 㪈㪅㪇 㪇㪅㪇 㪋㪅㪏 㪇㪅㪇 㪇㪅㪇 㪇㪅㪇 㪇㪅㪌 㪇㪅㪇 㪇㪅㪇 㪊㪅㪋 㪈㪅㪋 㪇㪅㪌 ว⸘䋨㪥㪔㪈㪇㪇㪋䋩 㪉㪍㪅㪏 㪊㪅㪇 㪇㪅㪏 㪉㪅㪋 㪉㪌㪅㪇 㪌㪅㪌 㪇㪅㪊 㪐㪅㪈 㪇㪅㪋 㪇㪅㪎 㪇㪅㪉 㪈㪅㪈 㪇㪅㪉 㪇㪅㪈 㪈㪐㪅㪉 㪋㪅㪋 㪇㪅㪐

ᱜⷙ㓹↪ 㕖ᱜⷙ㓹↪ ⥄༡ᬺ䈭䈬

(単位:%)

(単位:%)

ドキュメント内 untitled (ページ 93-140)