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水素燃焼で発生するエネルギーの多くはガンマ線として出されるが、一部のエネルギーはニュートリノと なる。ガンマ線は発生するとすぐに周りのガスによって吸収され、エネルギーの低い光子として再発光さ れる。吸収と再発光の繰り返しを受けながら光は星の内部を伝幡して行くので、中心で発生したガンマ線 に起因する光子が星の表面に出るには数十万年の時間がかかる。それに対して、ニュートリノは周りのガ スとほとんど相互作用しないので、発生すると光速に近いスピードで太陽の内部を通り抜けて宇宙空間 に飛び出して行く。そのため、太陽からのニュートリノを観測することが出来ると、現在の太陽の中心部 の状態についての情報を得ることが出来る。(ニュートリノ–電子散乱断面積は '9.5×1045(Eν/MeV) cm2で電子のThomson散乱断面積に比べ 20オーダーも小さい。)

太陽で起こっている水素燃焼は主にpp-chain反応である。図に表されているように、pp-chainの中 の種々の反応で放出されるneutrinoは種々のエネルギーを持っている。この中で8Bの崩壊に際して出 るニュートリノは、B-neutrino と呼ばれ、10MeV程度の高いエネルギーまでフラックスを持つのに対 して、pp-反応に際して放出されるニュートリノ(pp-neutrino)は0.4MeV以下の低いエネルギーを持 つ。また、7Beの電子捕獲反応に際して出るニュートリノは2種類のエネルギーを持つのが特徴である。

Neutrinoが物質と相互作用をほとんどしないために太陽中心の情報を持っているという利点は、逆

に、それらを観測するのが非常に難しく、巨大な装置が必要であることを意味する。

1.11.1 標準太陽モデルが予想する neutrino-flux

下の表は、粒子拡散を無視した古典的標準太陽モデル、粒子拡散を考慮した太陽モデル、および、粒子 拡散を抑える効果のある弱い乱流を考慮した太陽モデルの各々から期待されるニュートリノ測定値を表 している。各々のモデルで、中心温度がわずかに異なるので、出てくるニュートリノの量が少しずつ異 なっている。

1.11.2 37Cl による測定

太陽ニュートリノの最初の観測はアメリカ合衆国のサウス-ダコタ州でR. Davis, Jr.達によって行われ た。そこでは615トン(40万リットル)のC2Cl4溶液(洗剤の一種)を入れた巨大なタンクが地下約

1500mに設置されている。そこでは0.8MeV以上のエネルギーを持つニュートリノが微小な確率で起こ

す反応

ν+37Cl−→e+37Ar (Eν >0.814MeV)

が利用される。ある期間タンクを放置した後、その中で生成された37Arを集め、それらが半減期35日 で電子捕獲をして37Clに戻る際に放出される電子を検出することによって37Arの数を知る。タンクを 一、二ヶ月放置した後37Arの数を数える。その際の37Arの数が20個程度であることも、太陽ニュート リノの検出が非常に難しいことを示している。

この装置による1970年から1995年までの太陽ニュートリノによる反応率の平均値は2.56±0.16 SNU である。ここで、1SNUSolar Neutrino Unit)は1原子当り毎秒起こるニュートリノによる反応(こ の場合は37Arの生成)が1036回起こることを表す。一方、標準太陽モデルから期待される値は7 SNU 程度で、観測値の3倍弱である。このくい違いが太陽ニュートリノ問題と呼ばれている。

1.11.3 神岡での検出 (Measurements at Kamioka)

Davis達の装置がおよそ20年の間、太陽ニュートリノを検出する唯一の装置であった。これに対して、東

京大学を中心とするグループが、異なる方法によるニュートリノ検出装置を長野県神岡につくり、1987 年から結果を出し始めた。この装置は、Kamiokandeと呼ばれ、壁全面に光電管を並べたタンクに3000 トンの水を入れたものである。Kmiokande 1995年までデータを集積し、1996年からは、容積30 倍のSuper-Kamiokandeによってデータがとられている。

この装置では、タンク中でニュートリノが電子をはねとばし、電子が水中での光速よりも速い速度を 持った時に出るチェレンコフ光を壁に付けられた光電管が検出する。Energy threholdは>5MeV (自然 放射能によるbackgroudによる) なので、8B の陽電子崩壊8B−→Be+ e++νe から放出される、太 陽からのニュートリノの中ではエネルギーの高い8B neutrino (と hep neutrino 3He(p,e+ν)4He) しか 検出できない。しかし、この装置はニュートリノの侵入方向とエネルギーが得られるという大きな利点 を持っている。(Kamiokandeは、1987年2月に大マゼラン雲に出現した超新星1987Aの爆発時に放出 されたニュートリノを検出したことでも有名である。)1996年から稼働しているSuper-Kamiokande よるこれまでの観測結果の平均値は、

2.32×106cm2s1

で、これは、標準太陽モデルから期待される値の約半分であることを示している。また、太陽周期の黒 点数との相関は、あったとしてもとても弱いもの以下であるという結果も得られている。

Kamiokande の結果は、37Clの結果の場合ほど大きな差ではないが、やはり標準太陽モデルとのく

い違いを示しており、太陽ニュートリノ問題が検出装置の問題ではないことを決定的に示したといえる。

しかし、これらの検出装置ではエネルギーは低いが豊富に出るpp-neutrinoは検出されない。 上記の 装置で最も重要なB-neutrinoがでる反応は、太陽のエネルギー源としてはほとんど寄与せず、また、そ の反応の起こる割合は温度に敏感である。

1.11.4 Ga を使った検出 (Measurments using Gallium)

pp-ニュートリノはエネルギーは低いがpp-チェイン反応で水素燃焼が起こるときには必ず放出されると いう特徴を持っている。現在、二つのグループ(GALLEX/GNOSAGE)によってpp-ニュートリノを 検出する装置が稼働している。GALLEX/GNO 30トンのGaを含むGaCl3水溶液を使った装置で、

イタリアのGran Sasso Underground Laboratoryで観測が行われている。一方SAGEは約50トンの金 属ガリウム(融点29.8C)を使用し、ロシアのコーカサス山地でロシア-米国共同観測が行われている。

それらの検出では、ガリウムとニュートリノの反応

ν+71Ga−→e +71Ge

が使われる。71Geが半減期11.4日で電子捕獲をして71Gaに崩壊する際に出る放射線をとらえて生成 されていた71Geの数を知る。71Gaから71Geの生成は0.23MeV以上のエネルギーを持つニュートリノ によって可能で、pp-ニュートリノの検出を可能にしている。標準太陽モデルから期待される反応率は 132SNUである。この様な理論的予想に対してGALLEX/GNOSAGE共、70SNU程度で、いずれも 標準太陽モデルからの期待値を下まわっている。

1.11.5 素粒子物理による解決 (MSW効果)

標準太陽モデルが予想するニュートリノ・フラックスよりも少ないニュートリノしか観測されないこと に対する解決の方法として、ニュートリノは質量を持ち、太陽で発生したニュートリノ(電子ニュートリ ノ)の一部がこれまでに使われた装置では観測されない flavor (µ- または τ-ニュートリノ) に変わって しまったと考える。この neutrino flavorの変化はニュートリノ振動といわる。

MSW 効果

MSW (Mikheyev-Smirnov-Wolfenstein)効果 (Matter-enhanced neutrino flavour conversion)は、

vacuum neutrino oscillationsの場合と異なり、電子ニュートリノの残存率に下限はなく、採用するパラ

メータによっては全ての電子ニュートリノが µニュートリノに変わることが可能である。(観測される ニュートリノは vaccume oscillationとMSW効果との両方の影響をうけていると考える。)

太陽中心部のような密度の高いところでは、電子ニュートリノは電子との散乱の効果で、質量の高い 状態となっているのに対し、µニュートリノは太陽内部の物質と相互作用をしないので、その質量は真空 中と同じ質量を持つ。電子ニュートリノの真空中の質量はµ ニュートリノの質量よりも小さいので、そ の質量差が十分小さければ、太陽の中心部では電子ニュートリノの質量の方がµニュートリノの質量よ りも大きくなっている。その様な関係が成り立っている場合、太陽の中心部で発生した電子ニュートリノ の質量は、中心から表面に向かって移動するにつれ減少し、あるところでµニュートリノの質量と同じ になる。その状態の交差点で、質量固有状態は連続的に真空中での高い質量状態、つまりµニュートリ

ノの flavor状態につながっている。従って、その質量固有状態のままで交差点を通過すると電子ニュー

トリノだった flavorが太陽表面では µニュートリノ となってしまうというのがMSW効果である。

1.11.6 SNO(Sudbury Neutrino Observatory)

MSW効果が実際に起こっているかを明らかにしたのが、カナダ、オンタリオ州のSudbury 近くの Creightonニッケル鉱山の 2000m 地下に1999年に完成したSNOである。それは、透明なアクリル板

(厚さ5cm)に囲まれた、直径 12mの球に1000トンの重水を入れ、その周りに9600個の光電管をつ けたチェレンコフ光検出装置である。この装置では、Kamiokandeが検出するneutrinoによる電子散乱 の他に、

νe+2H−→p + p + e (Q=1.44MeV; Eth'6MeV; cc) νx+2H−→νx+ p + n (Q=2.2MeV; Eth '2.2MeV; nc)

の反応が検出できる。一番目の反応では、電子の発するチェレンコフ光が観測される。この反応では電 子ニュートリノだけが検出される。一方、二番目の反応はneutrinoの種類によらず起こるので、他の反 応との比較により、地球に届く電子neutrino とµ-neutrino との比を知ることができ、ニュートリノ振 動によって電子ニュートリノが他の種類(flavor)のニュートリノに変化したかどうかを検証することが できる。

このnc反応で放出される中性子を測定するのに3通りの方法がとられる。最初の1年では純粋な重 水のなかで、中性子が重水素に捕らえられた(確率25%)時に発せられる6.25MeVのガンマ線を測定す

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