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第1節 市場経済観に影響を与える諸要因

欧米における先行研究では,学生の市場経済観に影響を及ぼす要因は,主に性,経済的 経験、経済教育とそれによって獲得した経済学知識、家庭の社会的・経済的地位であると 指摘している(Whitehead, 1986, 0'Brien&Ingels, 1987、 Furnham, 1996),つまり, 女性よりも男性の方が,価格に対する政府の制限役割を反対し,労働者の待遇に対して不 満である。経済的経験がある学生は,ビジネスに対する信頼感を持つ傾向がある。また, 学生は経済学の知識の理解が正しければ正しいほど自由市場経済システムを強く支持する。

家庭の社会的・経済的地位について,社会的・経済的地位の低い家庭に育てられた学生の ほうが,市場経済システムに対する疎遠と無力感があり,ビジネスに対する信頼感が弱く、

分配現状に対する満足度も低い。

さて,西洋的価値次元と儒教的価値次元の二重構造を有する日中大学生の市場経済観は, 悼,経済的経験,経済学知識,家庭の社会的・経済的地位という要因とどのような関連が あるか。本節では,市場経済観に関する「市場の論理」 「仕事倫理」 「儒教的価値」の3つ の因子を構成する各質問項目に対する4段階評価の平均値に基づいて、それを検討する。

1.性別と市場経済観

表2‑1は、日中ごとに,性別と市場経済観との分散分析を行った結果を示している。

中国と日本とも、大学生の市場経済観における「儒教的価値」の側面は,性による有意 な差がみられる。男性よりも女性のほうが「儒教的価値」に好意的である。しかし、 「市場 の論理」 「仕事倫理」の側面は,性による有意な差がみられない。

表2‑1 性別と市場経済観

中国 日本

男 女 F 値 男 女 F 値

市 象 確 論理 3.14 3.l l. 15 2.95 2.99 ′ 0.84

3.07 2.99 1.94 2.87 2.8 1 1.83

偏 重始勺柑 直 2.47 2.59 3.41 * 2.58 2.68 3.27 *

注: *P<0.05

2.経済的経験と市場経済観

ここでは,経済的経験を大学生のアルバイト経験でとらえることにする。アルバイト経 験がある大学生(アルバイトをしたことがある、アルバイトをしている)とアルバイト経 験がない大学生は、市場経済観にどのような違いがあるのか。これについての日中ごとの 分析結果を表2‑2に示している。

中国では、大学生の市場経済観は,アルバイト経験による有意な差がみられない.一方, 日本では, 「儒教的価値」の側面は、アルバイト経験による有意な差がみられる。すなわち、

アルバイト経験がない大学生よりもアルバイト経験がある大学生のほうが、 「儒教的価値」

に好意的である。しかし、大学生のアルバイト経験の有無は,市場経済観における西洋的 価値を示している「市場の論理」 「仕事倫理」の側面の影響がみられない。

表 2 ‑ 2 ア ル バ イ ト経 験 と 市 場 経 済 簡

中国 日本

ある ない F 借 ある ない F 値

市場の論理 3. 12 3.1 ◆24 3.01 2.93 2.64

仕 事倫理 3.05 3.01 0.78 2.85 83 0.21

儒紳 輔耐直 2.57 2.49 2.31 2.69 2.57 3.53 *

注: *p<0.05

3.市場経済観と経済学知識

市場経済観と経済学知識との関連について,本研究では,大学生の市場経済観における

「市場の論理」 「仕事倫理」 「儒教的価値」の各因子を構成する各変数の4段階評価の平均 値と経済学理解力テストから得られた点数(1)との一元分散分析を行った。その結果は、表

2‑3に示している。

両国とも,大学生の市場経済観における「市場の論理」, 「仕事倫理」の2つについては, 各変数の4段階評価の平均値は、経済学理解力の違いによって統計的に有意な差があった。

すなわち、両国とも,大学生は経済学知識を正しく理解している者は,西洋の市場経済的 価値を高く評価する傾向にあった。

表2‑3 市場経済観と経済学知識との分散分析

経済学瑚牢カテストの得点のカテゴリ(満点3 0)

中国 o‑5    ‑10 11‑15 16‑30    値

市執巧論理2.843.3.193.337.21*陣 仕事倫理9

/.i2.973.'3.194.21**

儒鮒耐直2.522.492.562.550.98 日本

市券の論理   2. 75 仕封魚理    2. 71 儒軌糊酎直   2. 56

鉱 乃 6

2   2   2

ー  9  ー

0   8   7 3   2   2

」   f e   馳

3   2   2

注 **P<0.01 ***P<0.001

4.市場経済観と家庭の社会的・経済的地位

両国大学生の市場経済観は,家庭の社会・経済的地位によってどのように異なっている のだろうか。ここでも,両国ごとに,大学生の市場経済観における「市場の論理」、 「仕事 倫理」 「儒教的価値」の3つの側面に対する平均値の差を検定する分散分析を行った。その 結果は,表2‑4に示している.ここで使われた家庭の社会・経済的地位という変数は, 合成された変数である。すなわち,中国の場合1父と母の職業、父と母の学歴、家庭の暮

らし向き(5段階の自己評価)の5つの指標の数値を、日本の場合,父の職業,父の学歴, 家庭の暮らし向き(同上)の3つの指標を合成したものである(2)。

表2‑4から,次のようなことがいえよう。

中国の場合,大学生の市場経済観における「市場の論理」、 「仕事倫理」 「儒教的価値」

の3つの側面は,異なる家庭の社会的・経済的地位によって統計的に有意な差がみられた。

すなわち、中国人大学生は,出身家庭の社会・経済的地位が高ければ高いほど,西洋的市 場経済的価値に対応する「市場の論理」, 「仕事倫理」を積極的に評価し,逆に、社会的・

経済的地位の低い家庭出身の大学生は、.r儒教的価値」に好意的であるo家庭の社会的・経 済的地位は,中国人大学生の市場経済観全般に影響を与えている傾向がある。

日本の場合,市場経済観における「市場の論理」, 「仕事倫理」 「儒教的価値」の3つの 側面は,異なる家庭の社会的・経済的地位によって統計的に有意な差が見られず、家庭の 社会的・経済的地位という要因は,日本人大学生の市場経済観に有意な影響を与えていな かった。

表2‑4 市場経済観と家庭の社会的・経済的地位の分散分析 馴会的・経済的樹立

中国      低い     中    高い      F値 市場の論哩    3. 03     3. 12    3. 18

仕事倫理    2. 95     3. 02    3. 12 儒教糊酎直   2. 62    2. 53    2. 44

4.75 **

5.14 **

5.32 **

日本 市券の論理 仕事倫理 儒教≡伽耐直

3     糾

2   2   2

9 2