第 4 章 架台部の機械特性 33
4.1.3 大域的変化の原因
以上の測定は、仰角の大きく異なる天域を撮像するため、大気にによる屈折により、望 遠鏡の指向方向と真の天体の位置が異なる可能性がある。この傾向はairmassの大きな低 空を観測する程顕著になる。純粋に架台の機械特性を調べるためには、このような影響を 除去する必要がある。大気差は天体の高度・気温・気圧・湿度・波長に依存し、近似式(付 録:式2)を用いて、計算することができる。大気差を補正して、純粋な機械特性を反映し た追尾誤差を図4.3に示す。
一般的な赤道儀において、恒星の追尾誤差には以下のパラメータが関わっている。
IH :赤経軸エンコーダ零点エラー
ID :赤緯軸エンコーダ零点エラー
NP :赤経・赤緯軸の軸非直行性
CH :赤経方向のコリメーションエラー
ME :極軸のelevation方向のずれ MA :極軸のazimuth 方向のずれ
HCES :赤経軸センタリングエラーのsin成分
DCES :赤緯軸センタリングエラーのsin 成分
DCEC :赤緯軸センタリングエラーのcos成分
DAF :赤緯軸のたわみ
以上のパラメータは赤経、赤緯方向のトラッキングエラーに対してそれぞれ以下のよう に反映される。
∆h = IH+NPtanδ+CHsecδ+MEsinhtanδ−MAcoshtanδ
+HCESsinh−DAF(cosφcosh+MAsinφtanδ) (4.1)
∆δ = ID+MEcosh+MAsinh+DCESsinδ+DCECcosδ (4.2)
-400 -300 -200 -100 0 100 200
-80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80
H.A. tracking error [arcsec]
Hour angle [degree]
-500 -400 -300 -200 -100 0 100
-80 -60 -40 -20 0 20 40 60 80
Dec tracking error [arcsec]
Hour angle [degree]
図 4.1: 追尾性能試験結果 上— 時角方向の追尾誤差。下—赤緯方向の追尾誤差。それぞ れ、横軸が時角(度)、縦軸が指向方向のズレ(秒角)を表している。観測は複数晩にわたっ て行った。データ点は取得晩ごとに色分けしてある(表4.1)。時角0度付近の不連続は赤 道儀のバックラッシュに起因すると考えられる。
図 4.2: 赤経方向の周期的追尾誤差。間隔5分、振幅±2秒角程度の周期的な変動が見ら れる。
表 4.1: 追尾試験観測データ
No 観測日 測定時間(JST) 視野中心座標(J2000)
1 (赤) 2004,12,10 21:42:06−25:49:03 R.A. 08:39:39.732, Dec +19:51:37.12 3 (緑) 2005,01,05 18:09:12−19:51:37 R.A. 02:42:14.929, Dec +00:01:49.24 4 (青) 2005,01,05 22:32:07−00:27:32 R.A. 05:19:39.265, Dec +00:05:34.42 4 (桃) 2004,12,10 02:10:16−05:25:18 R.A. 06:31:58.332, Dec +04:57:13.22
ここで、h 、δはそれぞれ天体の時角、赤緯、φ は観測地の緯度である(本来は、これに 鏡筒自身のたわみも加わるが、影響が小さいためここでは無視する)。以上のようなな物 理モデルに従って、測定結果を考察する。
赤経方向の追尾誤差 赤経方向の追尾誤差を見ると、一様に東へずれる成分と短周期の 変動成分があるように見える。まず、一様な視野移動の原因について考える。前述の物理 的モデルに沿って見てみると、原因と成り得るのは(1)架台の据え付け誤差(M E M A)、
(2)赤経軸のセンターリングエラー(HCES)、そして(3)赤緯軸のたわみ(DAF)である。
今回の試験では追尾天体を天の赤道付近から選択しているため、据え付け誤差に起因する 成分は事実上無視することができる。従って、時角の変化に従って指向方向がずれる原因 は HCES と DAF に絞り込まれる。一方、短周期の変動成分は、比較的短い ∼90◦ 程 度の短い周期を持っており、一般的な物理モデルでの説明は困難である。以上の議論をも とにして、簡略化した以下の関数でフィッティングを行った(図4.3–Physical model)。
∆h=HCESsinh−DAF ·cosφcosh+asin(b(x−c)) +const (4.3) この結果、HCES = 19.1±0.2 arcmin、DAF =−6.9±0.1 arcmin、短周期成分に関し ては、a =−164±2 arcsec, b= 3.92±0.02, c= 5.87±0.12 degree という値が得ら れた。
赤緯方向 一方、赤経方向のずれは、比較的きれいな三角関数に見える。式4.2と比較す ると、時角に依存する誤差は高度方向の据え付け誤差M E 原因のようである。しかしな がら、モデル・フィッティングの結果、
F(x) = 220·cos 2.0(x−16.9)−197 [arcsec] (4.4) という関数が得られており(図4.3下、青色破線)、時角の変化に対して、物理モデルとは 異なる周期を持っていることが分かる。従って、この試験結果から直ちに、原因を解明す ることは出来ない。