2
つの確率変数X , Y
が正規分布に従うとき,その同時分布は多変量正規分布として表されたが,X , Y
が安定 分布に従う場合には,その同時分布は多変量安定分布とよばれる.多変量正規分布のパラメータは期待値ベク トルと共分散行列だけであり,比較的単純なものであるが,多変量安定分布の場合にはそれがやや複雑なもの になる.これは安定分布に従う2
つの確率変数の関係性に対して,線形関係以外にも様々なパターンが考えら れるためである.定義
25 (
多変量安定分布). n
次元確率ベクトルX
の特性関数ϕ X (u)
がパラメータα ∈ (0, 2] , δ ∈ R n
とn − 1
次 元単位球面S n − 1 = { x ∈ R n || x | = 1 }
上の有限な測度Λ
を用いて,ϕ X (u) = exp −
Z
S n−1 u T s α
1 − isgn u T s
ψ α u T s
d Λ (s)
! + iu T δ
!
(42)
と与えられるとき,X
が従う分布を多変量安定分布(multivariate stable distribution
)といい,X
が多変量安定 分布に従うことをX ∼ S n ( α, Λ, δ )
と表す.なお,
ψ α (u)
は定義19
におけるものと同一である.とくに,Λ
が離散測度であるとき,その分布を離 散多変量安定分布(discrete multivariate stable distribution
)という.多変量安定分布に関する詳細は
Nolan (2008)
に詳しい.この多変量安定分布のパラメータのうちα
とδ
は 安定分布の場合と同じように機能する.つまり,α
が分布の裾の厚さを定め,δ
が分布の位置を定めている.一 方で,安定分布におけるβ
とγ
に相当するパラメータは,多変量安定分布では測度Λ
が同様の役割を果たして いる.式(42)
の被積分関数は,式(37)
の指数関数の中身にβ = 1 , γ = 1 , δ = 0
を代入して符号を変えたものに なっているが,これを測度Λ
に関して積分することで,各s ∈ S n − 1
に応じて異なるパラメータβ, γ
をもつ安定 分布の特性関数をS n − 1
上で積分するのと同じことを実現している.つまり,各s ∈ S n − 1
に対応する安定分布 のパラメータγ
はd Λ (s)
の大きさによって定まり,パラメータβ
はd Λ (s)
とd Λ ( − s)
の比率によって定まる.n
次元確率ベクトルX
がX ∼ S ( α, Λ, δ )
であるとき,X
の各成分が安定分布に従うだけでなく,任意のn
次 元ベクトルt
に対してt T X
も安定分布に従う.そのとき,α
はすべて同一であるが,β, γ, δ
はt
に依存する.そこで,多変量安定分布に対してパラメータ関数とよばれるものが定義される.すなわち,パラメータ関数
β X (t) , γ X (t) , δ X (t)
はR n
から[ − 1 , 1] , (0 , ∞ ) , ( −∞, ∞ )
への関数であり,それぞれt T X
が従う安定分布のパラメータ
β, γ, δ
を返すものである.実際にそれらがどのような関数となるかを調べるために,t T X
の特性関数を計算すると,
ϕ t T X (u) = E h exp
iu t T X i
= E h exp
i (ut) T X i
= exp − Z
S n−1 (ut) T s α
1 − isgn (ut) T s
ψ α (ut) T s
d Λ (s)
!
+ i (ut) T δ
!
= exp − | u | α Z
S n−1 t T s α 1 − isgn (u) sgn t T s
ψ α (u) − δ α, 1
2
π ln t T s !!
d Λ (s)
! + it T δ u
!
= exp − | u | α Z
S n−1 t T s α d Λ (s)
!
− isgn (u) ψ α (u) Z
S n−1 t T s α sgn t T s
d Λ (s)
!!
−δ α, 1 iu 2 π
Z
S n−1
t T s ln t T s d Λ (s)
! + it δ u
!
= exp
− Z
S n−1 t T s α d Λ (s)
!
| u | α
1 − i
R
S n−1 t T s α sgn t T s
d Λ (s) R
S n−1 t T s α d Λ (s)
sgn (u) ψ α (u)
+ i t T δ − δ α, 1
2 π
Z
S n−1
t T s ln t T s d Λ (s)
!!
u
!
となる.
5
つ目の等号が成立するために,δ α, 1
が掛かっている項はα = 1
と評価していることに注意.した がって,β X (t) = γ X (t) −α Z
S n−1 t T s α sgn t T s
d Λ (s) γ X (t) =
Z
S n−1 t T s α d Λ (s)
! 1 /α
δ X (t) = t T δ − δ α, 1
2 π
Z
S n−1 t T s ln t T s d Λ (s)
である.非整数安定過程の増分
∆ h L α,β, H (t)
をいくつか集めた確率ベクトルはこのような多変量安定分布に従ってい ると考えられる.たとえば,∆ L α,β, H (0)
と∆ L α,β, H (1)
からなる2
次元確率ベクトルX
がX ∼ S 2 ( α, Λ, 0)
であ るとする.このとき,(1, 1) X = ∆ 2 L α,β, H (0)
である.X
は2
次元確率ベクトルであるから,パラメータ関数で 積分する範囲は単位円上であり,Λ (S )
に対してS
を極座標系に変換することで[0 , 2 π )
上に定義される測度をΛ ˜ ( θ )
とおくと,非整数安定過程の条件を満たすためには,γ X
(1, 0) T
= Z 2 π
0
| cos ( θ ) | α d Λ ˜ ( θ )
! 1 /α
= 1
γ X
(0, 1) T
= Z 2 π
0
| sin ( θ ) | α d Λ ˜ ( θ )
! 1 /α
= 1
γ X
(1, 1) T
= Z 2 π
0
| cos ( θ ) + sin ( θ ) | α d Λ ˜ ( θ )
! 1 /α
= 2 H + 1 /α− 1 / 2
が少なくとも満たされなければならないことがわかる.一方で,ミンコフスキーの不等式より,
α ≥ 1
のとき,2 H + 1 /α− 1 / 2 = Z 2 π
0
| cos ( θ ) + sin ( θ ) | α d Λ ˜ ( θ )
! 1 /α
≤ Z 2 π
0
| cos ( θ ) | α d Λ ˜ ( θ )
! 1 /α
+ Z 2 π
0
| sin ( θ ) | α d Λ ˜ ( θ )
! 1 /α
= 2
であるから,このときH
の取り得る範囲はH ≤ 3 / 2 − 1 /α
に制限される.α > 1
のとき0 < E hL α,β, H (1)i < ∞
であるから,α = 1
の場合を除き,この結果は定理2
によるH
の制限よりも厳しい.なお,この他にもβ
(1 , 0) T
= β (0 , 1) T
= β (1 , 1) T
= β
を満たさなければならない.多変量安定分布に関する分析は測度
Λ
に関する積分を伴うため,どうしても複雑になる.しかし,この測度Λ
を離散測度に制限した離散多変量安定分布は簡単な分析で様々な性質が得られるうえ,それに従う乱数を生 成することも容易である.そこで,n
次元確率ベクトルX
が離散多変量安定分布に従い,N
個の正の実数{λ k }
とS n − 1
上の点{ s k }
に対して,Λ (S ) = X N k = 1
λ k δ s k (S )
と与えられる
S n − 1
上の離散測度Λ
を用いてX ∼ S n ( α, Λ, δ )
であるとする.ただし,δ s (S )
はディラック測度 であり,s ∈ S
ならばδ s (S ) = 1
,s < S
ならばδ s (S ) = 0
である.このとき,X
の特性関数は,ϕ X (u) = exp
−
X N k = 1
λ k u T s k α
1 − isgn u T s k
ψ α u T s k
+ iu T δ
=
Y N
k = 1
exp
−λ k u T s k α
1 − isgn u T s k
ψ α u T s k
exp iu T δ
=
Y N
k = 1
exp − λ 1 k /α u T s k α 1 − isgn
λ 1 k /α u T s k
ψ α
λ 1 k /α u T s k
+ δ α, 1
2
π ln ( λ k ) !!! exp iu T δ
=
Y N
k = 1
exp
− λ 1 k /α u T s k α
1 − isgn
λ 1 k /α u T s k
ψ α
λ 1 k /α u T s k
exp
iu T
δ + δ α, 1
2 π
X N k = 1
λ k s k ln ( λ k )
と表すことができるが,ここで,
(n × N)
行列M
をn λ 1 k /α s k
o
を横に並べた行列として定め,すなわち,M i , j = λ 1 j /α s j
i
と定め,定数部分を簡単にするため,
δ ˜ = δ + δ α, 1
2 π
X N k = 1
λ k s k ln ( λ k )
とおき,
Z
を各成分が独立にβ = 1 , γ = 1 , δ = 0
の安定分布に従うN
次元確率ベクトルとすれば,すなわち,Z 1 , . . . , Z N ∼ S ( α, 1 , 1 , 0)
とすれば,ϕ X (u) = exp
iu T δ ˜ Y N
k = 1
ϕ Z k
λ 1 k /α u T s k
= exp
iu T δ ˜ Y N
k = 1
E h exp
i λ 1 k /α u T s k Z k
i
= exp iu T δ ˜
E
exp
i X N
k = 1
λ 1 k /α u T s k Z k
= exp iu T δ ˜
E
exp
i X N k = 1
X n l = 1
u l λ 1 k /α (s k ) l Z k
= exp iu T δ ˜
E h exp
iu T MZ i
= E h exp
iu T
MZ + δ ˜ i
= ϕ MZ + δ ˜ (u)
となる.つまり,X
はZ
のアフィン変換で表すことができ,X = d MZ + δ ˜ (43)
である.反対に,
Z
の任意のアフィン変換は適当な離散多変量安定分布に従い,さらには任意の離散多変量安 定分布に従う確率ベクトルのアフィン変換もまた適当な離散多変量安定分布に従うことがわかる.そして,多 変量安定分布に従う乱数を生成することは一般に容易ではないが,離散多変量安定分布の場合,この関係を用 いて簡単に乱数を生成できる.一般に,
N
次元確率ベクトルZ
の共分散行列がΣ
で与えられるならば,任意の(n × N)
行列M
に対して,X = MZ
の共分散行列はM Σ M T
となる.とくにΣ
が単位行列であるならばX
の共分散行列はM M T
であり,相関行列の各成分は
M
の各行ベクトル同士が成す角の余弦に等しい.つまり,X i
とX j
の相関係数はM
のi
行目のベクトルとj
行目のベクトルが成す角の余弦となる.実際,離散多変量安定分布は,α = 2
のとき,平 均ベクトルδ
共分散行列2 M M T
の多変量正規分布に等しく,M M T
が変わらない限り分布はM
の選び方によ らない.このことから,0 < α < 2
のとき,多変量安定分布には共分散行列が存在しないものの,式(41)
に 従って計算される相関行列が存在するならば,それは式(43)
の表現における行列M
によって定まることが期 待される.とくにM
の行ベクトル同士の成す角が重要であると考えられる.ただし,0 < α < 2
の場合には,M M T
が同一であってもM
に応じて分布自体は異なる.なお,行列M
のk
列目のベクトルをM , k
と表せば,X
のパラメータ関数は,β X (t) = γ X (t) −α X N
k = 1
λ k t T s k α sgn t T s k
= γ X (t) −α X N k = 1
t T M , k α sgn t T M , k
γ X (t) =
X N k = 1
λ k t T s k α
1 /α
=
X N k = 1
t T M , k α
1 /α
δ X (t) = t T δ − δ α, 1
2 π
X N k = 1
λ k t T s k ln t T s k = t T δ ˜ − δ α, 1
2 π
X N k = 1
t T M , k ln t T M , k
となる.多変量安定分布に従う確率ベクトルにおいて,式
(41)
が計算可能な例が少なからず存在することを確かめる ために,さらに計算が容易な非常に特殊な離散多変量安定分布に従う確率ベクトルX
を考える.すなわち,X
が
2
次元確率ベクトルであり,式(43)
の形式で表現したとき,δ ˜ = 0
となり,M
は(2 × 4)
行列であって,パラメータ
θ ∈ (0, π ) , β ∈ [ − 1 , 1]
を用いて,M = c 1 cos ( θ 1 ) c 1 cos ( θ 2 ) c 2 cos ( θ 1 ) c 2 cos ( θ 2 ) c 1 sin ( θ 1 ) c 1 sin ( θ 2 ) c 2 sin ( θ 1 ) c 2 sin ( θ 2 )
!
θ 1 = π
4 − θ
2 , θ 2 = π
4 + θ
2 , c 1 = 1 + β 2
! 1 /α
, c 2 = − 1 − β
2
! 1 /α
と与えられる場合である.ただし,定数部分に関する議論を避けるため,
α = 1
ならばβ = 0
であるとする.このとき,分布は
X 1 = X 2
に対して対称であり,X 1 , X 2 ∼
S
α, β, ( | cos ( θ 1 ) | α + | cos ( θ 2 ) | α ) 1 /α , 0
0 < θ ≤ π 2 S α, β | cos ( θ 1 ) | α − | cos ( θ 2 ) | α
| cos ( θ 1 ) | α + | cos ( θ 2 ) | α , ( | cos ( θ 1 ) | α + | cos ( θ 2 ) | α ) 1 /α , 0
! π
2 < θ < π (44)
となる.
X
は独立に安定分布に従う確率ベクトルZ
のM
による線形変換で表されるが,このようにM
の列ベ クトルの中にちょうど対極を向くものが存在するならば,Z
が従う分布を修正することでZ
とM
の次元を削 減できる.つまり,この場合,独立な2
次元確率ベクトルZ ˜
をZ ˜ 1 , Z ˜ 2 ∼ S ( α, β, 1 , 0)
として,(2 × 2)
行列M ˜
をM ˜ = cos ( θ 1 ) cos ( θ 2 ) sin ( θ 1 ) sin ( θ 2 )
!
とすれば,
X = d M ˜ Z ˜
となる.このとき,X
の成分間の相関関係R [X 1 , X 2 ]
はM ˜
の1
行目のベクトルと2
行目の ベクトルの成す角の余弦に等しいことが期待されるが,θ 1 , θ 2
をπ/ 4 ∓ θ/ 2
と選んでいるため,M ˜
の1
行目と2
行目の成す角は1
列目と2
列目の成す角,すなわちθ
に等しい.そして,cos( θ ) < 0
であって負の相関関係が 存在すると期待されるとき,すなわちθ ∈ ( π/ 2 , π )
であるとき,X 1 , X 2
の分布は式(44)
のように与えられるた め,この形で表される離散多変量安定分布ではX 1 , X 2
が従う分布のパラメータβ
が一定の範囲に制限されるこ とになる.しかし,これは自然な結果である.なぜならば,安定分布においてβ , 0
であるという状況は一方 の裾が相対的に厚いことを示すが,そのような分布と負の相関関係をもたせるためには,反対側の裾を厚くし なければならず,同じβ
の値を維持することが難しくなるためである.このことは,自己相関関数が負になる ような非整数安定過程において,分布が対称でないケースが極めて稀であるか,あるいは存在しない可能性を 示唆する.実際に
R [X 1 , X 2 ]
を計算してR [X 1 , X 2 ] = cos ( θ )
となるか否かをみるためにはX
の同時確率密度関数f X (x 1 , x 2 )
を求める必要がある.X = d M ˜ Z ˜
であることを利用して, X 1 = d cos ( θ 1 ) Z 1 + cos ( θ 2 ) Z 2 X 2
= d sin ( θ 1 ) Z 1 + sin ( θ 2 ) Z 2
を
Z 1 , Z 2
について解くと,
Z 1 = d sin ( θ 2 ) X 1 − cos ( θ 2 ) X 2
cos ( θ 1 ) sin ( θ 2 ) − cos ( θ 2 ) sin ( θ 1 ) = sin ( θ 2 ) X 1 − cos ( θ 2 ) X 2
sin ( θ ) Z 2 = d cos ( θ 1 ) X 2 − sin ( θ 1 ) X 1
cos ( θ 1 ) sin ( θ 2 ) − cos ( θ 2 ) sin ( θ 1 ) = cos ( θ 1 ) X 2 − sin ( θ 1 ) X 1
sin ( θ )
であり,
M ˜ = cos ( θ 1 ) sin (θ 2 ) − cos ( θ 2 ) sin (θ 1 ) = sin ( θ )
であるから,
Z 1 , Z 2
の独立性より,f X (x 1 , x 2 ) = 1 sin ( θ ) f Z 1
sin ( θ 2 ) x 1 − cos ( θ 2 ) x 2 sin ( θ )
! f Z 2
cos ( θ 1 ) x 2 − sin ( θ 1 ) x 1 sin ( θ )
!
を得る.つまり,安定分布の確率密度関数が計算できるならば,
X
のような離散多変量安定分布の確率密度関 数も容易に得られることになる.図10
にはこの確率密度関数の等確率曲線の例を示した.直線はM ˜
の列ベク トルを示している.各ベクトルに沿って指定の安定分布が広がっている様子が観察できる.この確率密度関数を用いて,いくつかの
α, β, θ
に対して,実際にR [X 1 , X 2 ]
を近似的に計算した結果を図11
に示す.図中の破線はcos ( θ )
の水準を示している.少なくともβ = 0
である場合には安定的に収束していって おり,しかも,期待された通り,収束していく先がcos ( θ )
であることがわかる.また,β , 0
の場合でも,r
が小さいときには不安定な変動を示すものの,r
を大きくするに従って次第に安定的にcos ( θ )
に収束していく ようになる.パラメータα
が分布の裾の厚さを定めていたことから推察できるように,同一のβ
に対してはα
が大きいほど急速に収束している.ちなみに,ここではβ ≥ 0
のケースしか計算していないが,β
の符号を反 転してもX 1 = − X 2
を軸に反転した分布になるだけであるから,β
の符号はR [X 1 , X 2 ]
の値に影響しない.この 結果から,多変量安定分布に対して相関関係を表す指標R [X 1 , X 2 ]
が定義できるケースが存在するようである ことが確認できた.したがって,無限大の分散をもつ非整数安定過程を考える場合でも,その自己相関関数に 関する議論がまったく無益なものではないといえる.−6
−3 0 3 6
−6 −3 0 3 6
X 1
X 2
alpha=1.2,beta=0.3,theta=1.0 alpha=1.2,beta=0.3,theta=2.0
図
10
離散多変量安定分布の確率密度関数18
18
安定分布の確率密度関数はlibstableR
パッケージ(ver. 1.0.2)のstable pdf
関数による.α = 0.8 α = 1.2 α = 1.6
β = 0.0 β = 0.4 β = 0.8
1 10 100 1 10 100 1 10 100
−1.0
−0.5 0.0 0.5 1.0
−1.0
−0.5 0.0 0.5 1.0
−1.0
−0.5 0.0 0.5 1.0
r
R [ X 1 , X 2 ] cos ( θ )
−0.9
−0.3 0.3 0.9
図
11 R [X 1 , X 2 ]
の近似計算結果19
6 非整数階積分による表現 6.1 非整数階積分
ここまで自己相似過程には非整数ブラウン運動や安定過程など,様々なものが存在することを述べてきた.
それらはその確率過程がもつ性質によって定義してきたが,その性質を満たすような確率過程はホワイトノイ ズ,あるいはそれに類するノイズの非整数階積分(
fractional integral
)によって表現することができる.ブラウ ン運動がガウシアンホワイトノイズの積分として与えられることは広く知られているが,この積分を非整数階 に拡張すると非整数ブラウン運動が得られ,さらにホワイトノイズの分布を変えると安定過程や非整数安定過 程が得られる.このことを確認するために,まず非整数階積分について整理していく.以下に述べるような非 整数階積分やその自己相似過程との関係についてはMishura (2008)
やFallahgoul, Focardi and Fabozzi (2016)
,杉本
(2016)
等に詳しい.19
安定分布の確率密度関数はlibstableR
パッケージ(ver. 1.0.2
)のstable pdf
関数による.また,数値積分はstats
パッケージ(ver.
3.6.1)の integrate
関数による.非整数階積分は反復積分に関するコーシーの公式の一般化として導入される.
R
上で定義された関数f (t)
の 区間[t 0 , t]
に対する定積分をf t ( − 1)
0 (t) =
Z t t 0
f (t 1 ) dt 1
と表すと,関数
f t ( 0 − 1) (t)
の区間[t 0 , t]
に対する定積分f t ( 0 − 2) (t)
は,f t ( 0 − 2) (t) = Z t
t 0
f t ( 0 − 1) (t 2 ) dt 2 = Z t
t 0
Z t 2 t 0
f (t 1 ) dt 1 dt 2 = Z t
t 0
Z t t 1
f (t 1 ) dt 2 dt 1 = Z t
t 0
(t − t 1 ) f (t 1 ) dt 1
であり,同様に,関数
f t ( − 2)
0 (t)
の区間[t 0 , t]
に対する定積分f t ( − 3)
0 (t)
は,f t ( − 3)
0 (t) =
Z t t 0
f t ( − 2)
0 (t 3 ) dt 3 = Z t
t 0
Z t 3 t 0
(t 3 − t 1 ) f (t 1 ) dt 1 dt 3 = Z t
t 0
Z t t 1
(t 3 − t 1 ) f (t 1 ) dt 3 dt 1 = 1 2
Z t t 0
(t − t 1 ) 2 f (t 1 ) dt 1
である.したがって,これを同じようにn
回繰り返して得られるf (t)
のn
階積分f t ( 0 − n) (t)
は,f t ( 0 − n) (t) = 1 (n − 1)!
Z t t 0
(t − s) n − 1 f (s) ds
となる.これが反復積分に関するコーシーの公式である.ここで,積分範囲の下限を
t 0 = −∞
としたものをf ( − n) (t) = f −∞ ( − n) (t)
と表せば,任意の区間[a , b]
に対するf (t)
のn
階積分は,f a ( − n) (b) = f ( − n) (b) − f ( − n) (a)
と表すことができる.この
f ( − n) (t)
に関して,階乗をガンマ関数で置き換えてn
を自然数から実数に拡張した ものが非整数階積分である.つまり,関数f (t)
のα
階積分f ( −α ) (t)
は,f ( −α ) (t) = 1 Γ ( α )
Z t
−∞ (t − s) α− 1 f (s) ds (45)
である
20
.この非整数階積分は反復積分の一般化として満たされるべき性質,すなわち,α
階積分のβ
階積分 はα + β
階積分に等しいという性質を満たす.実際,f ( −α ) ( −β )
(t) = 1
Γ ( β ) Z t
−∞
(t − s 2 ) β− 1 f ( −α ) (s 2 ) ds 2 = 1 Γ ( β )
Z t
−∞
(t − s 2 ) β− 1 1 Γ ( α )
Z s 2
−∞
(s 2 − s 1 ) α− 1 f (s 1 ) ds 1
! ds 2
= 1
Γ ( β ) Γ ( α ) Z t
−∞
Z t s 1
(t − s 2 ) β− 1 (s 2 − s 1 ) α− 1 f (s 1 ) ds 2 ds 1
= 1
Γ ( β ) Γ ( α ) Z t
−∞ (t − s 1 ) α+β− 1 f (s 1 ) Z 1
0
s α− 0 1 (1 − s 0 ) β− 1 ds 0 ds 1
= 1
Γ ( β ) Γ ( α ) Z t
−∞
(t − s 1 ) α+β− 1 f (s 1 ) B (α, β ) ds 1 = 1 Γ ( β ) Γ ( α )
Γ ( α ) Γ ( β ) Γ ( α + β )
Z t
−∞
(t − s 1 ) α+β− 1 f (s 1 ) ds 1
= 1
Γ ( α + β ) Z t
−∞ (t − s 1 ) α+β− 1 f (s 1 ) ds 1 = f ( −α−β ) (t)
である.なお,
4
つ目の等号はs 0 = (s 2 − s 1 ) / (t − s 1 )
の変数変換による.また,B (x , y)
はベータ関数であり,B (x , y) = Z 1
0
t x − 1 (1 − t) y − 1 dt = Γ (x) Γ (y) Γ (x + y)
である.一方で,α
階積分の微分は,d
dt f ( −α ) (t) = f ( −α ) (1)
(t) = 1
Γ ( α ) d dt
Z t
−∞
(t − s) α− 1 f (s) ds = 1 Γ ( α )
Z t
−∞
d
dt (t − s) α− 1 f (s)
! ds
= 1 Γ ( α )
Z t
−∞
( α − 1) (t − s) α− 2 f (s)
ds = 1 Γ ( α − 1)
Z t
−∞
(t − s) α− 2 f (s) ds = f (1 −α ) (t)
20
式(45)
の積分はとくにRiemann-Liouville
積分とよばれる.非整数階積分という語は,積分の反復回数を実数に拡張した演算全般 を指す場合があるが,本稿では一貫してRiemann-Liouville
積分を指すものとする.
ドキュメント内
自己相似過程と対数株価の自己相似性について
(ページ 33-41)