次に,日経平均株価のハースト指数の推定を行う.まずは,分散を用いたハースト指数の推定結果を図
42
に示す.図では計算可能なすべてのn
に対するσ ˆ 2 n
を表示しているが,上に述べたように,実際に回帰分析 の対象にする部分は図中の青色の領域内だけであり,これは標本数が50
以上になる範囲である.つまり,1 ≤ n ≤ (19153 − 1) / 50
の範囲である.少なくともこの範囲においてσ ˆ 2 n
は冪乗則に従っていることが観察でき,この方法の場合それほど重要ではないが,決定係数は十分大きい.そして,推定されたハースト指数は
0 . 5339
であり,1 / 2
よりもわずかに大きな値であった.図17
でもみたように,分散によるハースト指数の推 定では,とくに真の値がそれほど小さくなければ推定値のばらつきが比較的小さく,また,真の値が1 / 2
に近 い場合には推定値に大きな偏りがなかった.したがって,この結果から真のハースト指数は1 / 2
よりもわずか に大きく系列が長期記憶をもつか,あるいは1 / 2
であって系列が無相関であると考えられる.次に,パワースペクトル密度を用いた推定結果を図
43
に示す.回帰分析の対象範囲を示す青色の領域はω ≤ π/ 4
の範囲である.推定値は0 . 5153
であり,分散を用いた場合よりも1 / 2
に近い.また,決定係数は極め て小さいが,パワースペクトル密度はハースト指数H
に対して指数− 2H + 1
の冪乗則に従うため,H = 1 / 2
付近においてはこの指数が0
に近い値となり,このような結果が生じることが自然である.このパワースペク トル密度によるハースト指数の推定の場合でも,とくに真の値が1 / 2
に近い場合には推定値のばらつきや偏り が比較的小さかったから,やはり推定結果はハースト指数が1 / 2
であるか,それよりもわずかに大きいことを 示唆している.図
44
にはR / S
分析による推定結果を示した.統計量(R / S ) n
は少なくとも青色の領域で示したn ≥ 50
の範 囲において冪乗則に従っていることが観察できる.青色の領域の外側のn
が小さなところでは回帰直線からの わずかな乖離が確認できるが,これは(R / S ) n
の性質によるものであり,この範囲の間隔n
に対して系列が異 なる様相を呈することを示すわけではない.また,決定係数は十分大きいが,推定値は0 . 5849
であり,分散39
安定分布の逆累積分布関数はlibstableR
パッケージ(ver. 1.0.2)のstable q
関数による.やパワースペクトル密度による推定結果よりも明らかに大きく,
1 / 2
からの乖離を示している.しかし,これ はR / S
分析の推定値が偏りをもつことによると考えられる.図22
でみたように,R / S
分析では真の値が小さ なときに偏りが大きく,推定値は過大評価された.とくにH < 1 / 2
かつα < 2
であるとき正しく推定できてい なかったが,他の推定結果からもわかるようにH < 1 / 2
であるとは考えにくいため,この点は深刻な問題では ない.しかし,それでもH = 1 / 2
程度の水準であれば推定値がわずかに過大評価される傾向にあったため,真 のハースト指数は0 . 5849
よりも若干小さな値であると予想される.そのことを考慮すれば,この結果は分散 やパワースペクトル密度による推定結果と整合的であるようにも思えるが,もしパワースペクトル密度による 推定結果である0 . 5153
という値が真の値であるとすれば,推定値の偏りを考慮してもR / S
分析による0 . 5849
という推定値は些か大きすぎるともいえる.分散による推定結果がパワースペクトル密度による推定結果より 大きかったことからも,真のハースト指数は0 . 5153
よりも若干大きいのではないかと考えられる.最後に,
DFA
による推定結果を図45
に示す.青色の領域内において,統計量F n
が従う冪乗則が観測でき,決定係数は十分大きな値をとっている.図
26
でみたように,DFA
では真の値によらずに推定値の偏りが小さ いが,推定値は0 . 5566
であり,これまでの推定結果と同じように,1 / 2
よりも大きいことを示唆する結果と なっている.この系列から0 . 5566
という推定値が得られることがどれだけ珍しいことであるかを判断するた めに,DFA
に関してスクランブルテストを行った結果を図46
に示した.上述の通り,これは系列{ X t }
の増 分{ Y t }
をランダムに並べ替え,DFA
によってハースト指数を推定したときの推定値の分布である.並べ替えは
10000
回行ったが,その中で元の推定値よりも1 / 2
から離れた値が得られたケースは305
回だけであった.つまり,その割合
p DFA
は3 . 05%
であり,ある程度低い水準であるといえる.したがって,{ Y t }
の順序は無意 味ではなく,{ X t }
が独立増分ではないことがわかる.そして,これまでの推定結果からハースト指数は1 / 2
よ りも大きく,この系列が長期記憶をもつと判断できる.なお,非整数安定過程では安定分布のパラメータα
と ハースト指数H
の関係が,H = 1 / 2
であるケースを除いて,0 < H < 3 / 2 − 1 /α
に制限され,H
が大きいほ どα
がとれる範囲が狭くなっていたが,今回の推定結果からハースト指数を大きめにH = 0 . 6
と評価しても1 . 11 < α ≤ 2
となるため,上でみたα
の推定値に対してハースト指数の推定値は十分小さいといえる.●
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ln ( σ ^
n
2 ) = 1.0679ln ( n ) − 9.0039 R σ 2 2 = 0.9984
H ^
σ 2 = 0.5339
1e−04 1e−03 1e−02 1e−01 1e+00
1 10 100 1000 10000
n
σ ^ n
2
図
42
日経平均株価の分散に基づくハースト指数の推定ln ( S ^ n ) = −0.0306ln ( ω ) − 9.5330
R S 2 = 0.0005 H ^
S = 0.5153
1e−07 1e−05 1e−03
0.001 0.010 0.100 1.000
ω n
S ^ n
図
43
日経平均株価のパワースペクトル密度に基づくハースト指数の推定●
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ln (( R S ) n ) = 0.5849ln ( n ) − 0.2004
R R S 2 = 0.9986 H ^
R S = 0.5849
1 10 100
10 100 1000 10000
n
( R S ) n
図
44 R/S
分析による日経平均株価のハースト指数の推定●
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ln ( F n ) = 0.5566ln ( n ) − 6.0537
R DFA 2 = 0.9968 H ^
DFA = 0.5566
0.003 0.010 0.030 0.100 0.300
10 100 1000 10000
n F n
図
45 DFA
による日経平均株価のハースト指数の推定H ^
DFA = 0.5566 p DFA = 305
10000
0 500 1000 1500
0.00 0.25 0.50 0.75 1.00
H ^
DFA
Frequency
図
46
日経平均株価のスクランブルテストの結果
ドキュメント内
自己相似過程と対数株価の自己相似性について
(ページ 104-107)