第1節 地域福祉実践(個別支援と地域づくり)におけるアセスメントの視点
第1章第4節で触れたとおり、地域福祉を推進するための環境として一定の圏域に専門 的な「地域福祉のコーディネーター」の必要性が明記され、個別支援(専門的な対応が必 要な問題を抱えたものに対し、問題解決のため関係する様々な専門家や事業者、ボランテ ィア等との連携を図り、総合的かつ包括的に支援する。また、自ら解決することのできな い問題については適切な専門家等につなぐ)と、「地域の福祉ネットワーク」(住民の地域 福祉活動で発見された生活課題の共有化、社会資源の調整や新たな活動の開発、地域福祉 活動に係る者によるネットワーク形成を図るなど、地域福祉活動を促進する)の2つの機 能を担う専門職配置の必要性が提示された。しかしながら、地域福祉の「理論」に基づい た実践方法としての「コミュニティソーシャルワーク」や「地域福祉コーディネーター」の 位置づけが曖昧なまま、「地域福祉コーディネーター」が提示されたことにより、「地域福 祉の実践方法」=「コミュニティソーシャルワークの機能=地域福祉コーディネーターの 役割・機能」といった誤解や混乱を招いている。
同じく1章4節で言及した藤井(2013)での指摘を踏まえると、地域福祉の推進方法とし ては、コミュニティソーシャルワークがすべてではなく、コミュニティワーク等も含めた 諸技法を有機的に結び付け展開することで初めて地域福祉実践の体をなしていると言えよ う。地域福祉実践方法を巡る混乱は、すなわち、その基盤となる「地域福祉とは何か」と いう理論化の発展途上であるが故の「ブレ」の象徴ともいえるであろう。
本研究では、すなわち森本理論にある「地域福祉らしさ」を追求した「地域福祉実践方 法」を追求するのであれば、「マクロレベル(政策の立案/制度の設計)レベル、からメゾ レベル(地域福祉計画・地域福祉活動計画の策定/当事者・地域住民・専門組織等の組織 化/ケアマネジメントの実施)、ミクロレベル(対人社会サービス/個別援助/地域福祉活 動)相互に連続性が保持」された視点が必要となる。そのためには、1章4節の藤井によ る実践論でいう、「地域支援」と「個別支援」の両者の同時展開、あるいは「個別支援から 地域支援へ」、更に「地域支援から個別支援へ」という双方向の展開が前提条件といえる。
従って、本研究においては、地域福祉実践の構成要素として「個別支援(いわゆるコミ ュニティソーシャルワーク)」と「地域づくり(コミュニティワーク)」として暫定的に定 義し、本節では、この「個別支援」と「地域づくり」のアセスメントの視点について検討 を試みる。
わが国の個別支援場面において代表的なアセスメントとして、例えば日本社会福祉士会 方式(2000)139、 日本介護福祉士会方式(1997)140、日本版MDS-HC2.0 在宅ケアアセス メント(1999)141、ケースマネジメント研究会方式(1996)142、包括的自立支援プログラ
139 日本社会福祉士会(2000)『ケアマネジメント実践記録様式・介護保険対応版使用マ ニュアル』ミネルヴァ書房
140 日本介護福祉士会編(1997)『生活7領域から考える 自立支援アセスメント・ケア プラン作成マニュアル在宅版』中央法規
141 MDS-HC2.0(Minimum Date Set-Home Care:1999)、 John N,Morris, 池上直己、
- 67 - ム(2005)143、星座理論(2005)144等がある。
個別支援の展開は、社会福祉援助技術としての直接援助技術(ソーシャルケースワーク)
やケアマネジメントの手法により行われ、その根底には、F.P.バイステックの7つの原則の
「個別化の原則」(価値基盤)があり、今日的な社会福祉の援助専門職の「手段的価値」に 位置づけられ展開145されている。
一方、地域づくりの場面では、従来「地域援助技術(コミュニティワーク)」について、
その内包する機能146として、①地域の調査・診断機能、②福祉ニーズと社会資源間の連絡・
調整機能、③地域住民や福祉関係者の学習・訓練機能、④福祉問題を直接担う当事者や住 民の組織化と支援の機能、⑤広報などによる情報提供機能、⑥福祉サービスなどの企画と 開発の機能、⑦ソーシャル・アクションの機能、⑧地域福祉計画を立案機能、この8つの機 能が広く普及している。アセスメントに該当する部分としては、一つ目の機能である「地 域(コミュニティ)診断」が該当し、主にA:コミュニティ診断(人口動態・複合型社会、
地域の歴史や文化、)とB:地域集団・組織の診断(町内会・自治会、ボランティア活動・
社会貢献に関わる集団・組織、高齢者の集団・組織、児童関係の集団・組織、障害児者の 集団・組織等の組織率・参加率・動員率、活動内容、運営等)を把握することが一般的で あった。
すなわち、地域づくりの場面は、当該地域社会の特性や、地域住民・集団・組織の活動 状況及びネットワーク構築状況を把握することに重点が置かれるなど、個別支援のアセス メントの視点や方法とは違い、それぞれの専門分化して実践されてきた経緯がある。
更に、その実践主体としては、個別支援では当事者に関わる複数の専門職を中心に展開 され、地域づくりの場面では、従来コミュニティワークを担ってきた社会福祉協議会の専 門職により行われているのが主流といえる。従って、両機能を一つの機関で実践できると は限らず、多くの場合、多機関・多職種の介在において、補完しあうことが当面の目指す 方向と考えられる。しかしながら、地域福祉実践場面においては、多機関による多職種の 専門家がそれぞれ独自のアセスメントツールを用いているものの、両者(個別支援及び地 域支援)を鳥瞰したアセスメントの視点や方法が未開発のままであり、多くの機関・職種 が関わるほど「必要な情報がいかに共有されるか」が支援(援助)の質に大きく影響を与 えるにもかかわらず、日々目の前の問題の解決に追われ、個別支援と地域支援の間は大き な隔たりに遮られており、特に社会福祉関連の専門職あるいは同職種間での「必要な情報
Brant E.Friesほか(1999)『日本版MDS-HC2.0 在宅ケアアセスメントマニュアル』医学書
院付録
142 白澤政和(1996)『ケアマネジャー養成テキストブック』中央法規出版
143 包括的自立支援プログラム(2005)(全老健版Ver.2)全国老人保健施設協会、厚生科学 研究所
144 ニッセイ基礎研究所編(2005)白澤政和監修『ストレングスに着目したケアプランの 手引き ―星座理論を使って―』、中央法規出版社
145 秋山智久(2007)「ソーシャルワークの体系 技術の専門性と価値・倫理」岡本民夫・
田端光美・濱野一郎他編『エンサイクロペディア社会福祉学』中央法規、pp.632-637
146 鈴木五郎(2001)「地域援助技術の理論と技術」福祉士養成講座編集委員会編『社会福 祉士養成講座9 社会福祉援助技術論Ⅱ』中央法規、pp.98-141
- 68 - の共有」が機能不全となっていることが予測される。
菱沼(2012)147の福祉専門職による地域支援スキルの促進及び阻害要因に関する研究によ
れば、調査対象の実践機関(社会福祉協議会、地域包括支援センター、指定相談支援事業 所、子育て支援センター)の地域生活支援スキルのうち、自己及び機関の実践度がすべて の機関が平均値を下回るという、「地域アセスメントが最も実践度が弱い」という結果が示 されている(表:2-1-1参照)。
【表 2-1-1 勤務機関別の自己実践度と機関実践度の比較】148
勤務機関
地域生活支援スキル
社会福祉協議会 地域包括支援 センター
指定相談支援 事業所
子育て支援
センター 全体
自己 機関 自己 機関 自己 機関 自己 機関 自己 機関
個別アセスメント ○ △ ◎ ○ ○ △ ○ △ ○ △
地域アセスメント ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲
地域住民との連携 ○ ○ △ ○ ▲ ▲ ▲ △ △ ○
専門職間連携 △ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ○ ◎ ○ ◎
サービス開発 △ △ ▲ ▲ △ ○ ○ ○ △ △
人材育成 ▲ ▲ △ △ △ △ △ ○ △ △
自己:自己実践度 機関:機関実践度
◎:平均値2.75以上 ○:平均値2.50以上2.75未満 △:平均値2.25以上2.50未満 ▲:平均値2.25未満
すなわち、地域福祉実践方法の多機能化が求められているにもかかわらず、その実態は 機能不全のまま分断された「実践」(援助)が点在し、関係機関・関係者間の情報共有のた めの連携ツールが未開発のため、個別支援と地域づくりの有機的融合が阻害されている可 能性を指摘できよう。
147 菱沼幹男(2012)「福祉専門職による地域支援スキルの促進要因分析 : コミュニティソ ーシャルワークを展開するシステム構築に向けて」社会福祉学 53(2), 38-39, 一般社団法 人日本社会福祉学会
148 菱沼幹男(2012)「福祉専門職による地域支援スキルの促進要因分析 : コミュニティソ ーシャルワークを展開するシステム構築に向けて」社会福祉学 53(2), 39, 一般社団法人 日本社会福祉学会 表6を引用(線は筆者加筆)
- 69 -
第2節 実践主体(専門職・機関)における“地域福祉実践方法”の組織的位置づけ
地域福祉実践場面においては、地域支援(コミュニティワーク)と個別支援(コミュニ ティソーシャルワーク)の両方の展開が必要とされる。両者の展開のためには、推進主体 において、組織的なコンセンサスのもとに適切な担当者の配置が望まれる。
とりわけ、地域包括ケアにおいて、中核的組織として地域包括支援センターが期待され ているが、森本(2010)149は、先の2つの方法論の展開において最も可能性の高い実践主体は 社会福祉協議会であるという仮説を提示している。実際には、社会福祉協議会が受託して いる地域包括支援センターは、全体の12.9%(2010年4月現在)と少なく、社協以外の社会 福祉法人(37.0%)、行政直営(29.7%)、医療法人社団(11.9%)の受託割合という実態、
更にモニタリングに長期的時間を要する「個別支援を支える地域づくり」について、地域 包括支援センターの業務の中でのプライオリティが低く、「個別ケア体制にインフォーマ ルな資源を組み込むまでの働き掛けを行っているところは多くはない」という課題を指摘 している。従って、現在の地域包括ケアの実践レベルにおいて、地域支援と個別支援の同 時展開の実現は極めて困難な状況であることが推察できよう。
藤井(2013)150は、こうした広範・多岐にわたる実践機能の担い手として、個別支援ソー
シャルワーカーと地域支援ソーシャルワーカーの複数配置による協働形態の必要性につい て提起しているが、実際は各自治体の地域福祉計画における課題認識の違いにより、その 機能が偏重された配置形態となっていると指摘している。
2013年の野村総合研究所の「コミュニティソーシャルワーカー(地域福祉コーディネー ター)調査研究事業報告書」151における市町村社協(65.5%)、コミュニティソーシャルワー クを受託している法人152(23.9%)、地域包括支援センター(10.6%)等を対象としたアン ケート調査(調査対象数:2,255件、回収率:47.1%)によると、コミュニティソーシャルワ ーカー(地域福祉コーディネーター)の配置について、60%が設置しているが、そのうち 兼任配置は8割に上り、全体的な配置形態についても「一地域に1名」が最も多く(44%)、
その環境は決して恵まれているわけではない。また同報告書においても、コミュニティソ
149 森本佳樹(2011)「2 地域包括支援センターと社会福祉協議会の連携」平成22 年度 老人保健健康増進等事業 (平成22 年度老人保健健康増進等事業)『包括的支援事業と地 域包括支援センターにおける総合評価に関する研究報告書』立教大学 pp.63-67
150 藤井博志(2013)「まちづくりに向けたコミュニティソーシャルワーカーの使命~その 役割と条件整備~」『社会福祉研究 117号』、pp.55-63、鉄道弘済会
151 野村総合研究所(2013)「コミュニティソーシャルワーカー(地域福祉コーディネータ ー)調査研究報告書(平成24年度セーフティネット支援対策等事業補助金(社会福祉推 進事業分)」pp.58-108
152 野村総合研究所(2013)によれば、調査票送付先を市町村社協、地域包括支援センタ ー、及び「CSWを自治体が法人に委託している場合、委託元の行政には送付せず、受託 している法人に送付する」とあったため、本文では「コミュニティソーシャルワークを受 託している法人」と表記した。なお、調査票発送先、2,255件(100%)のうち、内訳とし て「市町村社協(65.5%)」と「地域包括支援センター(10.6%)」で留まり、残りのCSW を受託している法人の割合については明示されていなかったため、本論では、残りの割合 を「CSWを受託している法人(23.9%)」と推察した。