雇用と雇用を契機とした経営展開の方向性
―D型、E → F型の事例から―
第1節 本章の課題
第3章において、新規就農者を雇用している集落営農法人について、労働の 組織化の態様(地域ぐるみ型、少数担い手型)と新規就農者を雇用した理由及 び作目や事業部門の複合化多角化の程度の3点に着目し分類したところ、少数 担い手規模拡大型(A 型)、少数担い手規模拡大野菜導入型(B 型)、少数担い 手規模拡大多角化型(C型)、地域ぐるみ農業・農地維持野菜導入型(D型)、 地域ぐるみ農業・農地維持施設野菜等導入型(E型)、地域ぐるみ地域活性化多 角化型(F型)の6類型が析出できた。
そこで、本章では、地域ぐるみ型の法人であるD型、E型およびF型に注目 し事例分析を通じて、地域ぐるみ型集落営農法人における新規就農者を雇用し た背景と雇用を契機とした新たな経営展開の方向性を明らかにすることを課題 とする。具体的には、次の4点である。
第1に、集落営農法人のオペレーターや役員等集落営農法人の人材の高齢化 や人材確保の実態を具体的に明らかにすること、
第2に、高齢化に対応し、新規就農者を雇用することによって法人内の役割 分担等がどの様に変化しているのか、また新規就農者をどの様に位置づけ育成 しようとしているのか、明らかにすること、
第3に、雇用と相前後した法人経営の変化がその後の法人経営展開にどの様
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な影響、作用をもたらしているのか、明らかにすること、
第4に、新規就農者を雇用するためには、どの様なハードル(経営的特徴を 有する必要)があるのか、また、それをどの様に乗り越えたのか、また、その 中で、地代と労働費との相克をどの様に乗り越えたのか、明らかにすることで ある。
4-1-1 新規就農者を雇用した集落営農法人の6類型と事例調査法人の位置づ
け
第3章において、新規就農者を法人の従業員として雇用した集落営農法人に は、労働の組織化の態様(少数担い手型、地域ぐるみ型)と新規就農者を雇用 した理由及び作目や事業展開の複合化多角化の程度の3つの基準に基づくと、
6類型(A~F)が存在することを確認した(表3-2)。 山口県の集落営農法人は、第2章で述べたように、その多くが地域ぐるみ型
の法人であることから、本章の分析事例では、地域ぐるみ型の2法人を選定し た。1つは、水稲、麦、大豆に露地野菜を加えた経営を行うD型(地域ぐるみ 農業・農地維持野菜導入型)の典型的な法人である(農)X(No.8の法人)
を選定した。また、2つは、E型(地域ぐるみ農業・農地維持施設野菜等導入 型)からスタートしつつ、農産加工販売事業に取り組み事業を積極的に拡大す るために新規就農者を雇用し、F型(地域ぐるみ地域活性化多角化型)へ進化 していることが注目される(農)Y(No.13の法人)を選定した(表4-1)。
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表 4-1 新規就農者を雇用した法人の6類型と事例調査法人の位置づけ
出所:聞き取り調査により作成。
注:1)表中のNo1~No.14は、新規就農者を従業員として雇用した集落営農法人に 付けた番号。
2)○を付した番号は、本論文で行った事例調査の法人番号。
3)「地域ぐるみ型」における雇用の理由は、主に中山間地域で農業・農地維持 と併せ、生活面も含め地域経済活性化を目指す「地域活性化(事業積極拡大)」
と「農業・農地維持(高齢化対応)」に分類した。
4)「農業・農地維持(高齢化対応)」は、高齢化に対応して、耕作放棄地の発生 防止など農業・農地を守るために雇用している。
少数担い手型 雇用の理由
事業積極拡大 地域活性化
(事業積極拡大)
農業・農地維持
(高齢化対応)
普通作物拡大 A
(No.1,2)
露地野菜導入 B
(No.,3,4)
D
(No.6,7,⑧) 施設野菜、畜
産等導入 E(No.9,10,11,12,⑬)
加工取組、直 売所運営
C
(No.5)
F
(No.⑬,14)
地域ぐるみ型 雇用の理由
(脳(((
(農)農(脳Y 作 (農)X
目
・ 事 業 部 門 の 複 合 化 多 角 化 の 程 度
91 第2節(農)Xの事例分析
本節では、地域ぐるみ型法人であるD型(地域ぐるみ農業・農地維持野菜導 入型)の典型的な法人として(農)X(No.8の法人)の事例分析を通じてオペ レーターや役員等の高齢化や労働力確保の実態や新規就農者を雇用するために どの様なハードル(経営的特徴を有する必要)が存在するのか、また、それを どの様にして乗り越えたのか、雇用と相前後した法人経営の変化がその後の法 人経営展開にどのような影響をもたらしているのか、より詳細に明らかにする。
4-2-1(農)Xの概要
(農)Xは、山口県中央部の瀬戸内海に面した都市近郊地域に位置する。兼 業化が進み小規模で水稲に特化した経営を行う農家が多く、法人設立前は、耕 作放棄地も発生していた。こうした中、圃場整備後の営農の受け皿として2008 年9 月に設立された法人で、圃場整備に参加した7集落の全 240 戸のうち158 戸が加入している。7 集落は2つの大字に属しており、うち2集落には、圃場 整備地区外の人もいる。2009年から圃場整備の完了した農地から営農活動を開 始し、2015年の農地集積面積は106haである。水稲(56.6ha)、麦(50.2ha)、大 豆(10.3ha)、飼料用米等(27.0ha)に露地野菜(3.4ha)を加えた経営を行っている。
また、図4-1 に示すように、部門制を採用し、現在は役員6名がそれぞれ担当 部門の責任者となっている。その際、総務担当には、定年前に一般企業の経理 関係の仕事に従事していた役員を選任し、機械施設担当には、定年前に機械関 係の仕事に従事し機械に詳しい役員を選任するなど、適材適所の役員選任を行 っている。また、責任の所在を明確にするため、役員の業務執行序列を設けて いる。部門担当理事以外に、法人を構成する7集落から集落とのパイプ役を担 う集落代表理事を各1名ずつ合計7名選任している。
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また、(農)Xは、部門別経理を導入して、部門別に経営状況を把握して経営 計画を立てている。
4-2-2(農)Xの役員の推移
(農)Xの役員の変遷を図4-2 に示している。設立当時5名で、総務担当以 外は、いずれも一般企業の定年退職者である。圃場整備の完了に伴い、2010年 には新たに第2営農部担当として 60 歳の定年退職者を役員に選任している。
また、野菜栽培には女性が多く従事するため、2011年に新たに野菜栽培担当と して組合員の女性を役員に選任している。高齢のため退任した元組合長や仕事 の都合で退任した役員の後任にはいずれも定年退職者を選任することを予定し ている。
機械施設担当⑤ 代表理事①
総務担当③
営農担当②
女性部担当⑦
第1営農担当④
第2営農担当⑥
出所:法人資料により作成
注:①~⑦は、理事(業務執行)序列
図 4-1 (農)Xの組織図
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4-2-3(農)Xの農作業従事者の推移
表4-2に、2009年と2015 年の農作業従事者の状況を示している。2009年の 経営開始時点では、オペレーター及び補助作業者7名は、全て組合員及びその 家族が担っていた。その後、圃場整備の工事の進行に応じて経営面積が増加し たことに伴い、組合員及びその家族のみでは農作業従事者を確保することが困 難となってきた。そのため、2011年から法人役員が、集落内外の知人等に声を 掛けオペレーターや補助作業者を確保してきた。その結果、2015年では、オペ レーター及び補助作業者を46名確保している。
オペレーターは全て男性の定年退職者である。その約半数は非組合員である。
非組合員のオペレーター(7名)は、法人構成集落において圃場整備地区外に 農地を持っている定年退職者で役員の同窓生が主である。非組合員の補助作業 者(18名)は、主に野菜の作業に従事する女性から成り、法人役員の知合いや JA婦人部に声を掛け、約半数(10人)は法人の属する大字単位から確保してい る。つまりオペレーターは法人構成集落の地縁から、補助作業者は、広く大字 単位から確保している。法人は、非組合員のオペレーターを確保するため、田 植時期を移動させるなど工夫している。
2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2015 年年齢
1 71
2 64 70
3 57
4 63 69
5 59 65
6 65
7 61
組合長 営農 総務 第1営農部 施設・機械
第2営農部:60歳(退職者)
女性部:57歳(組合員家族)
組合長 営農
役員・年齢 年
76歳高齢化
62歳仕事の都合
出所:法人資料及び聞き取り調査(2015年)による。
図 4-2 (農)Xの役員の変遷
第1図(農)Xの組織図 第1図(農)Xの組織図
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また、法人の作業労賃は、設立当初は750円/時間に設定していたが、経営の 見通しがついたため 2 年目に 800 円/時間、2011 年からは、作業者を募集する のに伴って1,000円/時間としている。今後も、収益が増加すれば労賃を高くす る予定である。地代は、法人設立時から 7000 円/10a で比較的低く設定してい る。労賃重視の組織運営を行っている。
4-2-4 新規就農者雇用に関する合意形成
今後、農作業従事者が高齢化しオペレーター等のリタイアが予想され補充も 困難なことが予想されたことから、法人では、2014年に研修にきた農業大学 校生を1名2015年4月に卒業と同時に従業員として雇用することの合意が役 員会でなされた。役員会では、高齢化に対応した労働力の確保が喫緊の課題と なっていたこと、雇用前の構成員還元額は3,000万円程度確保しており、雇用 による減少は7%程度と少なかったこと、収益性の向上に取り組んでいること などから構成員還元額を減少させ雇用費確保を優先する合意がなされた。この ような合意がなされたことについては、組合員の農地の受け皿として法人が設 立されていること、圧倒的に労働力が不足した状況にあったこと、また、法人
新規就農者 オペレーター 補助作業者 オペレーター 補助作業者
5人(0) 2人(2) 60~64 4(0) 60歳代 2(2) 65~69 1(0)
9人(0) 11人(9) 7人(0)(内7 人集落内)
18人(16)(内 10人集落外)
1人(1)
50歳代 1(0) 50歳代 1(1) 40歳代以下4(4) 20歳代 1(1) 60~64 1(0) 60歳代 6(6) 60~64 1(0) 50歳代 2(2)(2015年雇用)
65~69 5(0) 70歳代 4(2) 65~69 1(0) 60歳代 10(8) 70歳代 2(0) 70歳代 5(0) 70歳代 2(2)
組合員、家族 非組合員
2009年
2015年
表 4-2 (農)Xの農作業従事者の推移
出所:聞き取り調査(2015年)、法人資料により作成。
注:()内は、女性人数