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第2章で述べたように、諸外国実地調査において合計10か国22組織団体を訪問し、国 の方向性とスポーツ政策の位置づけ、国の教育に関する基礎情報、「デュアルキャリア」政 策に関わる背景と根拠及び有益性、国としての「デュアルキャリア」政策、主体組織、関 連組織の特定とその責任及び役割、「デュアルキャリア」支援実地期間の事業関連情報、ア スリートキャリア形成支援等に関して調査を実施した。

第6章では、各国の取り組みをクロス分析した上で、世界の「デュアルキャリア」推進 国における情勢・動向を様々な観点から論じた。本章では、イギリス、オーストラリア、

オーストリア、オランダ、カナダ、ニュージーランド、フィンランド、フランスの国際競 技力向上や基礎情報を踏まえ、その国の「デュアルキャリア」政策・施策の背景や特徴、

実際のプログラムや予算等に関する情報を提示する。なお、ノルウェーは、国単位ではな く国際デュアルキャリアネットワーク団体(EAS)の調査を実施したため、本章からは省 く。

7−1. イギリス

(1)背景、特徴

イギリス政府は、平成 16(2004)年 9 月に、①エリート競技者に高等教育の機会を与 えること、②高等教育機関を活用してエリート競技者を養成すること、③エリート競技者 のキャリア形成を支援すること、を目的として、TASS を設置した。TASS は、全国に分 布する大学と提携し、「ハブ拠点」としてアスリートが教育を受けながら競技生活に必要と なるサポートパッケージを受けることができる仕組みを構築した。特徴として、文化・メ ディア・スポーツ省や教育省からの資金をUK SportがTASS に投資し、TASSをとおし て、提携大学(=「ハブ拠点」)や競技団体に助成される。そのため、TASS の支援を受け るアスリートが直接的に助成金を受けとることはない。サービスの実施機関である大学は、

プログラム開発を行い、サービスパッケージ(ストレングス&コンディショニング、フィジ オセラピー、ライフスタイルサポート、スクリーニング&メディカルスキーム)をアスリー トに提供する。コーチング、合宿、用具など競技に特化した必要経費についても TASS の 支援を受けるアスリートが所属する大学もしくは 競技団体に助成する仕組みになってい

る。TASS のシステムにより、大学側はインフラ整備を含めた支援をTASS から受けるこ とができ、さらに拠点校としての「認定」は、大学のプロモーションにもつながる。一方、

各大学で提供されるサポートサービスパッケージの品質を保証し、一慣性を保つために、

①指導者資格や経験の基準化、②CPD(Continuing Professional Development)プログラ ムの実施、③各機関 とのコンサルティング・コーディネートをするマネジメントスタッフ を組織内に配置し連携強化とプログラムの点検・評価を実施等の取組を行っている。

(2)イギリス基礎情報

① 人口

6,324万人(2012年)※2013年10月公表 IMF数値

② 名目 GDP

2兆4766億7000万ドル(2012年)※2013年10月公表 IMF数値

③ 一人当たり名目 GDP

9,161ドル(2012年)※2013年10月公表 IMF数値

④ 国家予算(※2013年10月公表 IMF数値)

1)収入:5759億9,000万ポンド(2012年)

2)支出:7001億5,300万ポンド(2012年)

⑤ 失業率

8.02%(2012年)

⑥ 教育制度

義務教育は 5歳から16歳(前期初等教育6年、前期中等教育5年)。後期中等教育は2 年。ただし、地域や学校の種類によって異なる。

⑦ 競技力向上の位置づけ

ロンドンオリンピック・パラリンピック招致を国の政策として決定してから、エリート スポーツ強化の体制整備が進んできた。現在では、UK Sportがエリートスポーツにおける 競技団体とワールドクラスアスリートへの強化戦略に基づく資金配分を統括し、地域育成

と草の根スポーツ振興における戦略と助成をSport Englandが行っている。

⑧ 歴史的背景

1997年にスポーツくじ基金が設立され、国庫基金でイギリストップスポーツの強化に関 する主要財源を統括していたSport Aid(1976年設立の旧Sport Aid Foundation)の役割 が縮小する一方で、イギリストップスポーツの競技力向上を統括するUK Sportとの連携に より、スポーツ医・科学支援を提供する EISが設立され、これまで大学を拠点に行ってき たトップ競技者の強化とサポートを EISに集中し、一貫して展開するようにした。ところ が、これには、これまでエリート競技者の強化やサポートを一手に請け負っていた大学側 が反発し、ロビー活動が展開された。

さらに、EIS に集められたエリート競技者に対して「プロフェッショナル化」への要求 度が高まる一方で、競技者が直面する「パフォーマンス」と「教育」の両立を支援する必 要性が政府及びスポーツ関係者らの間で認識され始めた。こうした経緯を経て、イギリス 政府は、大学の施設、スタッフ、教育制度を利用し、競技者にも大学にもメリットを生み 出しながら、競技者のパフォーマンスと教育の両面を支援する施策を提示し、2004年9月 にTASSが設置された。  

 

(3)オリンピック成績

① 1980 年から 2012 年までの夏季オリンピックのおける金メダルランキングの推移

② 1980 年から 2010 年までの冬季オリンピックのおける金メダルランキングの推移

(4) 「デュアルキャリア」関連基礎情報

① 相関関係図

! CPD!

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11 !

OG&PG !

HOME

NATION Elite Funding

INSTITUTES Accountability

Performance Support HOME COUNTRY

SPORTS

GOVERNMENT SPORTS

COUNCILS TEAM 2012

GOVERNMENT Exchequer & Lottery

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&! !

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668 ! !

2011/2012) !

② 主体組織

Talented Athlete Scholarship Scheme(TASS)

③ 主体組織の主な取り組み内容

TASSが助成する資金は、TASSアスリートが直接的に受けるものではなく、サービスパ ッケージとして提供される(例外的として、経済的に苦しい学生に対する奨学金も設けら れている)。

具体的には、TASSを構成する各大学(ハブ拠点ネットワーク)でプログラム開発を行い、

競技力向上に必要不可欠なコアサービス(ストレングス&コンディショニング、メディカ ル&フィジオセラピー、ライフスタイルサポート、メディカルスキーム(医療保険・スク リーニング等))をパッケージとして提供する。さらに、コーチング、合宿、用具など競技 に特化した必要経費については、TASSの支援を受けるアスリートが所属する大学もしくは 競技団体に助成する仕組みとなっている。

④ 支援対象

TASSが認定する競技者は、“UK Sportのワールドクラス競技者として認定されていな い、将来性ある次世代エリート候補競技者”と、“UK Sportがサポートしていない冬季ス ポーツのエリート競技者”である。どのアスリートを支援対象とするかの判断は、競技団 体に委ねられているが、義務教育を終え、自分で選択する年齢に達した16歳以上のアスリ ートが対象で、上限はない。

⑤ 予算

平成16(2004)年から平成23(2011)年:2,700万ポンド ・ハブ拠点への助成金総額:約85万ポンド/年

・1ハブ拠点助成金額平均:約65,000ポンド程度 ・1ハブ拠点助成金額平均内訳

一般事務費(General Administration):1万ポンド 競技者関連事務諸経費:25ポンド/競技者

・所属競技者数、コアサービスプログラム:1,500ポンド×所属競技者数 ・競技団体助成金額(スポーツ特化サービス):2,000ポンド/競技者  

7−2. オーストラリア

(1)背景、特徴

オーストラリアのNational Athlete Career and Education(NACE)ネットワークはエ リートアスリートがスポーツとライフの目標を学び、働き、スポーツパフォーマンスをと おして達成することを支援するプログラムである。イギリスやニュージーランドのアスリ ートライフスタイルサポートは、オーストラリアが平成6(1994)年から開始したAthlete Career and Education(ACE)に由来する。このプログラムは、Duty of Care(監護義務)

の側面が強い中で推進してきたが、近年は公的資金を投入しているためパフォーマンス向 上の側面も無視できない状況にある。平成 18(2006)年から平成 21(2009)年までは、

アスリートだけでなくコーチも対象とした National Coach and Athlete Career and

Education(NCACE)を展開したが、現在その機能は、コーチ育成部門に移された。平成

25(2013)年には、全国の ACE プログラムを統括する AIS の担当部署名を Personal

Excellence とし、社会教育やアスリートのウェルビーイング(メンタルヘルス、薬物、飲

酒予防・対応、リーダーシップ、意思決定等)を促進することを重視したプログラム構成 に変更される。新たなプログラムは平成26(2014)年以降に本格始動する予定である。こ れらは、各ステークホルダー(関係機関、競技団体、アスリート等)と共に、「スポーツ文 化と価値」、「ウェルネス」、「レディネス」、「トランジション」を主軸とし、パフォーマン ス 向 上 に 影 響 を 与 え る た め の 支 援 を 展 開 し て い く 。 ま た 、 展 開 形 態 と し て 、AIS の Performance Excellenceチームが方針を設定、SIS/SASは合意書にサインをした上で、サ ービスを展開していく。質の管理方法として、SIS/SASからAISに半年に一度の報告書提 出を義務づけている他、ナショナルデーターベースによる一括管理及びモニタリングを行 う。また、他国と異なる特徴として、全てのアドバイザーがキャリアカウンセリング/育 成/教育の Graduate Certificate を最低限有しており、その上で、多くが教育、心理、社 会学での修士あるいは博士を取得していることにある。その上で、AIS は継続的なプロフ ェッショナル育成プログラムを実施し、スタッフの質向上を促進している。

(2)オーストラリア基礎情報

① 人口

2291万人(2012年)※平成25(2013)年10月公表 IMF数値

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