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第5章 ガラス化保存後にストロー希釈したウシ性判別胚の生存性と受胎性

5.4 考察

本研究の目的は、ガラス化保存した性判別胚の加温及び耐凍剤除去操作の簡 易化を図るため、耐凍剤のストロー内希釈がガラス化保存した性判別胚の生存 性と受胚牛へ移植後の受胎性に及ぼす影響を明らかにすることである。

Vajta ら (1995)は体外受精由来胚盤胞をVSED でガラス化保存し、1 mol/L シュークロース液やHolding mediumを用いてストロー内希釈し、高い胞胚腔 再拡張率や透明帯脱出率を得て、ガラス化保存胚のストロー内希釈の可能性を 報告した。Saha ら (1996)は 40% EG、11.3%トレハロース 20% PVP 添加 DPBS を用いて体外受精由来胚盤胞をガラス化保存し、加温後にストロー内希 釈し直ちに受胚牛へ移植することで60%(3/5)の受胎率と正常な子牛が得られた ことを報告した。また、Van Wagtendonk-de Leeuw ら (1997)は6.5 mol/L グ リセリン液をガラス化液として、1 mol/L シュークロース液でストロー内希釈 後に直接受胚牛に移植を行い、緩慢凍結し耐凍剤を段階希釈した胚と同等の受 胎率が得られることを報告した。

本研究では、性判別胚をVSEDでガラス化保存し、EGSでストロー内希釈し て生存性判定後、またはストローから胚を取り出すことなく直ちに移植した。

その結果、ストロー内希釈後の性判別胚の生存率は、性判別していない胚にお ける Vajta ら (1995)や Saha ら (1996)の報告と同様に高く、移植後の受胎率 は評価区と非評価区の間に有意な差 (P > 0.05)は認められなかった。

このことから、ガラス化保存した性判別胚は耐凍剤のストロー内希釈により 直接受胚牛へ移植することが可能であり、実験室での煩雑な加温操作が不要と なり、フィールドにおいて簡単な操作で受胚牛に移植することが可能と考えら れた。

バイオプシー胚の品質が受胎性に及ぼす影響について、Hasler ら (2002)は グレード 2の胚の受胎率はグレード 1の胚に比べて新鮮胚と凍結胚において明 らかに低いことを報告し、牛島 ら (1995)も同様の報告をした。本研究の評価区 ではガラス化保存前にコード 1 に比べてコード 2の胚において有意な差ではな かったが生存率は低い傾向であった(P = 0.087)。また、移植後の受胎率には有 意差 (P > 0.05)は認められないが、コード1に比べてコード2の胚において10%

程度受胎率が低かった。これらのことから、ガラス化保存前の品質評価により 胚を選別することで、より高い受胎率を得る可能性があると考えられた。

ガラス化保存前の胚の発育がガラス化保存後の胚の生存性と受胎性に及ぼす 影響について、Massip ら (1987)は桑実胚~初期胚盤胞では 39.1%の受胎率が 得られたが、胚盤胞では受胎例が得られなかったこと、堂地 ら (1990)は桑実期

胚で 57.1%の受胎率を得たが、胚盤胞以上では受胎例が得られなかったことを

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報告した。一方、Ishimori ら (1993)やCampos-chiillon ら (2005)は、桑実胚 と胚盤胞では加温後の透明帯脱出率や受胎率に差のないことを報告した。

本研究では、評価区、非評価区ともガラス化保存前の胚の発育ステージ(後 期桑実胚から拡張胚盤胞)の間で受胎率に有意差 (P > 0.05)は認められず、

Ishimori ら (1993)やCampos-chiillon ら (2005)の報告を支持する結果であっ た。

本研究では、移植用ストローを移植器に装着してから移植を終了するまでの 時間を移植操作時間として、両試験区の受胎率との関係を調査した。その結果、

移植操作時間は 3~10 分(平均 4.9 分)であり、両試験区とも移植操作時間 6 分以上のグループが移植操作時間 5 分以内のグループに比べて受胎率が低下し たが有意差 (P > 0.05)は認められなかった。

Dochi ら (1998)は、EG で凍結保存した胚のダイレクトトランスファーにお

いて、移植終了までに融解後11分以上経過した場合には受胎率が低下し、融解 後に凍結溶液中に胚が保持される時間の延長が有害であると報告している。ま た、Matoba ら (2003)は同様にEGを含む溶液で緩慢凍結した胚について、融 解後のストローの保持時間が延長すると胚の生存性が損なわれることを報告し ている。

本研究で用いたストロー内希釈では、混合後のストロー内の耐凍剤濃度はEG

が 7%、DMSO が 3%程度に希釈されていることを確認しており(Akiyama ら

2012)、非評価区において移植操作に時間を要し、希釈後のガラス化溶液に胚が 長時間さらされた場合には化学的毒性や浸透圧の影響により受胎率の低下を引 き起こす可能性があると考えられる。

Kasai (1997)は、ガラス化保存では胚に対する高濃度の耐凍剤による化学的毒 性や高浸透圧による物理毒性を回避することが必要であり、操作が的確でない 場合には脱ガラス化や耐凍剤の化学的毒性により胚の生存性が損なわれること を指摘している。

胚移植後の流産について、King ら (1985)は新鮮胚移植では移植後2~7ヶ月

に 5%の受胚牛に流産が発生し、Dochi ら (1998)は凍結胚移植において 9.6~

13.3%の受胚牛に流産が発生し、耐凍剤の種類や除去方法による差はないことを 報告した。本研究では対照区で12.5%、試験区で13.9%の流産率であり、Dochi ら (1998)の報告と同様の発生率であった。また、Agca ら (1998)はバイオプシ ーした体外受精由来胚をガラス化保存し、生時体重、妊娠期間、難産は人工授 精により生産した子ウシと差のないことを報告した。本研究で受胎した受胚牛 の妊娠期間は、ホルスタイン種を供胚牛としたKing ら (1985)の報告および黒 毛和種を供胚牛としたNumabe ら (2001)の報告と同等であった。

Hirayama ら (2004)は性判別胚の移植で生産された 33 頭の子ウシの性別

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(雄12頭、雌21頭)は、移植前に判定した胚の性別と全て一致したと報告した。

同様に、Hasler ら (2002)は雄判定胚で98.7%、雌判定胚で94.4%、Thiberと

Nibart (1995)は 98%の性一致率であることを報告した。本研究では、子ウシ

と胚の性別の一致率は89.8% (44/49)であり、5例で判定の誤りを生じた。とく に雄と判定した胚から雌子ウシが得られた 3 例では、性別判定の実験系に検体 以外のウシ DNA の混入があったことが原因と考えられる。Herr と Reed

(1991)によると、胚の性別判定においてウシDNAの混入の主要な原因は、培養

液中の血清や BSA、透明帯表面の細胞片や精子、以前の PCR 反応産物とされ ている。胚の性別判定を家畜生産の現場で利用するためには、この点について 細心の注意を払う必要があると考えられる。

本研究の結果から、VSED を用いてガラス化保存したウシ性判別胚はストロ ー内希釈後に直ちに受胚牛に移植することが可能であり、生存性確認後に移植 した評価区と遜色ない受胎率の得られることが確認された。耐凍剤のストロー 内希釈により実験室での煩雑な加温操作が不要となり、ガラス化保存した性判 別胚をフィールドにおいて簡単な操作で受胚牛へ移植できることから、性判別 胚のフィールドでの活用が一層図られる可能性があると考えられる。

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