第 2 章 高周波電圧信号重畳による誘導機センサレスベクトル制御系で利用する
2.2 磁気飽和位置及びスロット高調波
2.2.1 回転子スロット構造の磁気飽和及びスロット高調波への影響
Fig. 2.1に検討対象とする供試誘導機の固定子及び回転子の断面を示す。また,Fig. 2.2に
一般に採用されている回転子スロット構造を示す。Fig. 2.1 より,対象機の回転子は普通か ご形のスキューを有する閉スロット構造である。ここで,Fig. 2.1 には仮定した磁束軸及び トルク軸を示している。閉スロット構造の回転子において磁気飽和の生じる主な箇所は,
Fig. 2.1より固定子の歯(A部分)と歯先(B部分),Fig. 2.2(a)より回転子の歯(C部分)
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flux-axis torque-axis
(A) (B)
Fig. 2.1. Cross section of stator and rotor for test IM.
(C) (D)
(E) (F)
(a) Closed slot (b) Semi-closed slot Fig. 2.2. Type of rotor slot structure.
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と回転子スロットブリッジ(D部分)である(76)(85)(86)。これに対し,Fig. 2.2(b)より半閉ス ロット構造の場合は回転子の歯(E部分)と歯先(F部分)に飽和が生ずる(76)(86)。
基本波磁束から生成される主磁束は回転子内部を通過して磁束軸方向に向かう経路とな り,漏れ磁束はトルク軸と交差するギャップ部を通過する経路となる。文献(76)では,
回転子スロット構造に対する主磁束及び漏れ磁束による飽和の影響について,以下の点を 明らかにしている。
閉スロット構造の場合,
・主磁束により磁束軸付近に位置する固定子歯及び歯先,回転子歯及び回転子スロットブ リッジに飽和が生ずる。
・漏れ磁束によりトルク軸付近に位置する固定子歯先,回転子スロットブリッジに飽和が 生ずる。
半閉スロット構造の場合,
・主磁束により磁束軸付近に位置する固定子歯及び歯先,回転子歯及び歯先に飽和が生ず る。
・漏れ磁束によりトルク軸付近に位置する固定子歯先,回転子歯先に飽和が生ずるが,閉 スロット構造における回転子スロットブリッジの飽和に対して,その飽和の影響は小さ くなる。
主磁束及び漏れ磁束による飽和の影響は,高周波信号を重畳することで観測される。重 畳する周波数及び電圧レベルが高い場合は,高周波磁束が回転子表面から歯の部分まで通 過していることが予想され,そのため磁束軸方向に重畳した場合における漏れ磁束の飽和 の影響は小さく,トルク軸方向に重畳した場合における主磁束の飽和の影響を受けて,磁 束軸上で観測される高周波インピーダンスが増加し突極性が生じると考えられる。一方,
重畳周波数のみを増加させた場合は,表皮効果により高周波磁束が回転子表面に集中する ため,漏れ磁束による飽和の影響を受けてトルク軸上で観測される高周波インピーダンス が増加し突極性が生じると考えられる。また,飽和突極性を利用して二次磁束位相を推定 する場合には,インピーダンス特性における最大値と最小値の差(インピーダンス偏差)
を十分に有していることが必要となるが,閉スロット構造の場合はトルク軸に位置する回 転子スロットブリッジに飽和が生じることから漏れ磁束飽和突極性を観測するのに適して いると考えられ,二次磁束推定に利用可能な程度のインピーダンス偏差が得られると予想 される。主磁束飽和突極性を検出するための重畳信号レベルの検討に関しては,閉スロッ
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ト構造の誘導機を対象に検討されているが(77)~(79),漏れ磁束飽和突極性を検出し得る重畳信 号レベルについては検討されていない。
また,回転子スロット構造に対するスロット高調波の影響については,閉スロット構造 の場合,回転子鉄心と回転子導体バーとの透磁率の違いにより回転子スロット分のリプル が生ずる。半閉スロット構造の場合は透磁率の違いに加え,回転子スロット開口部による 固定子-回転子間におけるエアギャップの違いにより回転子スロット分のリプルが生じ,閉 スロット構造の回転子より一層変化が大きくなる。そのため,信号重畳を行う方法におい ても比較的スロット高調波を得やすい半閉スロット構造の誘導機を対象に検討しており
(97)(98),閉スロット構造におけるスロット高調波成分を強める重畳信号レベルの検討に関す
る報告は見当たらない。スロット高調波が重畳信号レベルにより変化するならば閉スロッ ト構造の誘導機での速度推定性能の改善に繋がることが予想される。