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回廊あり( R1C-Tsym-W0 )

ドキュメント内 全球熱塩循環において南大洋の果たす役割 (ページ 37-51)

第 3 章 回廊効果が深層循環に与える影響 17

3.1.2 回廊あり( R1C-Tsym-W0 )

南半球で東西に接続する海峡がある海盆(R1C)に前節と同じ南北対称の海面参照密度

(Tsym)を与える場合の定常状態を調べ,循環構造がどのように変わるかを見る.

上層(525 m)の浮度分布を閉じた海盆の場合と比べると,北半球では良く似ているが,

南半球では回廊域の東西勾配が小さいことがわかる(図3.11左上).また南半球の西岸付 近では,閉じた海盆で見られたような大きな東西浮度勾配が見られない.

水深 2750 m でも南半球の東西浮度勾配は小さく(図3.11左下),海底の東西浮度勾配

も同様である(図3.12左上).また海底浮度は閉じた海盆の場合より北半球で高く南半球 で低い.

各層の圧力分布を見ると,北半球で閉じた海盆と定性的に同じであるのに対して,南半 球では回廊域で東西勾配が小さくなる(図3.11右列;図3.12右上).海底の流速場には 南半球から赤道を横切って北半球に入る流れが見られる(図3.12下段).

南端から南緯40度までの領域について上層から底層までの基本場をR1とR1Cで比較 する.R1での順圧流線関数(図3.13上段)は西岸付近に 0.3 Sv 程度の水平循環をしめ す.R1C では東向きの海峡通過流量が22 Sv となる(図3.14).表層(525 m)の流れは 等圧線に沿い,R1 では西岸から南端南東角に向かうが,R1C では基本的に東向きの 東西流である.

R1では深層の圧力勾配は小さいが,R1C では南北圧力勾配が大きく東向きの流れ場と なる(図3.15,図3.16).1500 m の鉛直流速を見ると,R1 では西岸で湧昇し南端南 東角で沈降するのに対して,R1C では大きな鉛直流は回廊域の南側に限定され,西岸で 湧昇し東岸で沈降する循環となる.回廊域の下部では(図3.17,図3.18)R1で等圧線は 南東から北西に向かうが,R1C では東西方向にのびる.

このように R1 における基本的な循環は上層で北西から南東に向かい,南端南東角 で沈降し,下層で南東から北西に向かうのに対して,R1C では回廊域の流れは東向きと なり,回廊域の南側では上層で東向き,東岸で沈降,下層で西向き,西岸で湧昇という循 環になる.

図 3.11: [R1C-Tsym-W0]水深 525 m における(左上)浮度偏差の分布.等値線間 隔:5×104 [m s2].(右上)圧力偏差.等値線間隔:10 [hPa].水深 2750 m における

(左下)浮度偏差の分布.等値線間隔:5×105 [m s2].(右下)圧力偏差.等値線間隔:

1 [hPa].

図 3.12: [R1C-Tsym-W0]海底(5000 m)における(左上)浮度偏差の分布.等値線 間隔:5×105 [m s2].(右上)圧力偏差.等値線間隔:1 [hPa].(下)海底水平流速の分 布 [cm s1];カラー:水深 4500 mの鉛直流速(上向き正; [cm s1]).

図 3.13: [R1-Tsym-W0]最上段は順圧流線関数.等値線間隔 0.1 Sv.水深 525 m に おける(二段目)ベクトル:水平流速,カラー:鉛直流速[cm s1].(三段目)浮度偏差.

等値線間隔 5×104.(最下段)圧力偏差.等値線間隔1 hPa.

図 3.14: [R1C-Tsym-W0]最上段は順圧流線関数.等値線間隔10 Sv.水深 525 m に おける(二段目)ベクトル:水平流速,カラー:鉛直流速[cm s1].(三段目)浮度偏差.

等値線間隔 5×104.(最下段)圧力偏差.等値線間隔10 hPa.

図 3.15: [R1-Tsym-W0]最上段は 1500 m における水平流速(ベクトル)と鉛直流速

(カラー) [cm s1].水深2750 m における(二段目)水平・鉛直流速.(三段目)浮度偏 差.等値線間隔 5×105.(最下段)圧力偏差.等値線間隔 1 hPa.

図 3.16: [R1C-Tsym-W0]最上段は 1500 m における水平流速(ベクトル)と鉛直流 速(カラー)[cm s1].水深 2750 m における(二段目)水平・鉛直流速.(三段目)浮度 偏差.等値線間隔 5×105.(最下段)圧力偏差.等値線間隔 1 hPa.

図 3.17: [R1-Tsym-W0]最上段は 3000 m における水平流速(ベクトル)と鉛直流速

(カラー) [cm s1].水深4500 m における(二段目)水平・鉛直流速.(三段目)浮度偏 差.等値線間隔 5×105.(最下段)圧力偏差.等値線間隔 1 hPa.

図 3.18: [R1C-Tsym-W0]最上段は 3000 m における水平流速(ベクトル)と鉛直流 速(カラー)[cm s1].水深 4500 m における(二段目)水平・鉛直流速.(三段目)浮度 偏差.等値線間隔 5×105.(最下段)圧力偏差.等値線間隔 1 hPa.

表層(75 m)の密度分布(図3.19左上)は,南半球の西岸で低緯度から高緯度に向か う流れが弱く高浮度域の南へのひろがりが抑制されること,また海面参照密度が南北対称 であるにもかかわらず表層浮度が南端で北端よりわずかに低いことをしめす.深層の東西 平均密度分布から,このわずかながらも重い水が南端から北に向かい北半球にもひろがる ことがわかる(図3.19右上).

図3.19下段の子午面循環は,回廊効果により AA-MOC が分断され,閉じた海盆の場 合よりも弱まることをしめす.ただし底層では AA-MOCが優勢であり,北半球にも進入 している.一方 NA-MOC の最大値は 13.3 Sv となり,閉じた海盆の場合よりも 3.0 Sv 強く,1000 m付近では南半球の回廊域北端緯度までのびている.このように南北対称な 海面参照密度の下でも,回廊効果によって深層循環は南北非対称となって,AA-MOCが 弱いながらも底層の循環を支配し,強くなった NA-MOC は回廊域の北端近くまで及ぶ.

NA-MOCの強化に対応して北半球における放熱が増える一方,南半球では弱まる(図

3.20).σ-ϕ 座標で見る子午面循環も,海峡域での南北輸送の制限を反映した AA-MOC の弱まり,NA-MOCの強化,また底層を占める AA-MOCの上にNA-MOCが重なる循 環構造をしめす.

子午面浮度輸送関数を図3.21にしめす.R1-Tsym-W0と比較すると低緯度から高緯度 に向かう熱輸送が北半球で増加,南半球で減少している.閉じた海盆よりもNA-MOCが

強くAA-MOCが弱いことを反映し,内部領域で鉛直混合により下向きに輸送される浮度

の大半は北半球高緯度で上向きに運ばれる.

NBT,およびその南北勾配を図3.22にしめす.南緯45度よりも南では移流による南北

浮度輸送がきわめて小さく,閉じた海盆(青線)と比べて拡散による浮度輸送が増えるこ とがわかる.また,正味の NBT は全ての緯度で閉じた海盆よりも大きい.NBT の南北 勾配(図3.22下)は,閉じた海盆(青線)よりも南(北)半球高緯度で放熱が減る(増え る)ことをしめす.

以上の結果から,回廊効果は回廊域の南北熱輸送を制限することによって,南半球高 緯度を熱的に隔離して冷たく,北半球高緯度を含む回廊域の北側を暖かくする働きを持つ といえる.現在気候の特徴である,このような南北半球の非対称性や,AA-MOC の上に

NA-MOCが重なる循環構造の成因のひとつとして,ドレイク海峡が成立し南大洋に回廊

域が存在することを挙げることができる.そこで次節では海面境界条件に現在気候を模し た南北非対称性を導入したうえで回廊効果の循環への影響を見る.

図 3.19: [R1C-Tsym-W0](左上)表層(75 m)の密度分布.等値線間隔:実線 0.2 [kg m−3],破線0.01 [kg m−3].(右上)東西平均密度.等値線間隔:実線0.2 [kg m−3],破 線 0.01 [kg m3].(下段)子午面流線関数.等値線間隔:1 [Sv].

図 3.20: [R1C-Tsym-W0](上左)海面浮度フラックス.等値線間隔:0.5×108 [m2 s3](上右)回廊の有無による海面浮度フラックスの差(. R1C-Tsym-W0R1-Tsym-W0).

(下段)σ-ϕ座標上の子午面流線関数.等値線間隔:1 [Sv].

図 3.21: [R1C-Tsym-W0]子午面浮度輸送関数.等値線間隔: 5×103 [m s2·Sv]. 点線は 1×103 [m s2·Sv].(上)z-ϕ 座標.(下)σ-ϕ 座標.

図 3.22: [R1C-Tsym-W0](上)北向き浮度輸送 [m s2·Sv].細い実線(破線)は水平 移流(渦拡散)によるもの,太い実線は両者の和である.(下)北向き浮度輸送の南北勾 配.縦軸の単位は m s2·m2s1.参照のためR1-Tsym-W0 の場合を青線でしめす.

ドキュメント内 全球熱塩循環において南大洋の果たす役割 (ページ 37-51)

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