人口は図 27 に見るように急速に増加しつつある。先進国においては米国を除いて 増加は停滞してきているが,すべての国は,国の間の競争で優位に立つべく人口増加 を図っている。
日本もその例外ではない。国際的には世界における存在感の低下,国内的には年金 制度の崩壊を懸念して,政策として人口を増やそうとしている。政策のちぐはぐ4 4 4 4によ り,出生率を高めようとする政策と,労働政策と医療政策とがバッティングしてその 実は挙がっていないが,これは具体的施策に整合性がない統治の愚かさによるのであ り , 政策の基底としては人口増を指向している。
人口の増加とそれに伴う人類の活動の拡大は,居住空間,水,食糧,エネルギーそ して地球環境,という生存に必須な資源と環境の劣化をもたらす。人口の増加を図る ことはダーウィン・ディレンマを構成している。
人口増は進化の下で現れる遺伝子がもつ性質である。それを発現してきたのが現存 する生物種であり,ヒトも例外ではない。この生物種としての性質が進化の下でダー ウィン・ディレンマを作り出す。
人口増は遺伝型の基本的な性質であることから,人の心がけでは人口減を実現でき ない。人が自分の代で系譜を終わらせることをすべての人が選べば,それで人類は絶 滅する。そう考えない人がいるから人類は生存し続ける。心がけに期待して人口減を 実現しようとする過程は不安定軌道であり,どこかの人,社会,国が軌道から外れれ ば,全体は人口増競争に転じて軌道は人口増に転じる。
それでもこれを実現しようとすれば,中国の一人っ子政策に見るように,独裁的権 力により個人の行動を拘束することを必要とする。それでも,中国を旅すれば人々は 政治的権力を無視して生きている実情を見ることができる。
(ダーウィン・ディレンマの 2 つの型)
ダーウィン・ディレンマには,前章で示したように 2 つの型がある。第一の型は進 化を競う人のある活動の暴走が,人類がこれまで整備してきた基盤的なシステムを破 壊することである。その典型が今回の金融危機である。この型では,破壊するもの,
破壊されるもの,いずれもヒトが約束事として積み上げているものであり,整合性が なく制約がなく青天井である。その意味で科学技術は無力である。
第二の型は,複製を競うヒトの活動の暴走が何らかの自然の制約に抵触する型であ る。地球環境はその典型である。この型では,制約を作っているのが自然であること から,科学の基盤である整合性を保持している。したがって,科学技術による問題解 決が効果をもつ。もちろんそれを促進する方策は必要である。
相互作用の制御
自由の制限が文明を進化の呪縛から解くとしても,それが進化の機能である揺らぎ と相互作用の両方を停止し,西欧の中世または日本の江戸期における停滞を招いては,
今後の資源不足と地球の狭隘化に耐えられない。
進化の機能的要件には揺らぎと相互作用の存在とがある。揺らぎは将来の新たな展 開の準備として維持し続ける必要があるとすれば,残る手段は「相互作用の制御」で ある。すなわち,相互作用のうち望ましくないものを抑制する。
(信用を財とする経済活動)
暴走がこれまでのシステムを破壊する第一の型のダーウィン・ディレンマの例とし て,信用を財とする経済活動をとる。
市場経済における際限のない自由が,社会における格差を増大させ社会不安を助長 し社会を混乱に導くことは,「市場の失敗」として早くから警告されてきた。米国発 の金融危機は信用経済における自由が暴走を招いたことにある。
金融における財は,実体取引から先物取引へ,先物取引から債権取引へ,債権取引 から証拠金取引(レバレッジ)のような信用資産の取引へと移行してきた。信用に基 礎をおいた金融資産の総額は信用を増大させる限り増大する。現在では実体資産の総 額の 4 倍に達するとされる。信用に基礎をおく金融資産がその裏付けを実体に求めた とき,原油価格や穀物価格の暴騰に見るような混乱を社会に与え,それが実需との整 合性を失ったとき,バブルが崩壊するのは自明のことである。
一方において,信用を財とする経済活動は,経済活動を実体から分離するという意 味でダーウィン・ディレンマの第二の型からの離脱に有効である。サブプライム問題 が「信用」を崩壊させ金融危機を招いたのは,信用を不動産という実体にリンクした ところにある。日本の失われた 10 年における信用バブルは「不動産」という実体に リンクしていた。この意味で,日本の経験は「信用経済の財を実体経済の財とリンク させない」ことの反面教師として学習されるべきであった。米国の失敗は,これを学 習せず信用経済を実体経済にリンクさせたところにある。
(実体経済と信用経済の相互作用の制御)
ここで人類の,とくに先進国における人類の経済活動の根幹が定まる。すなわち,
信用を財とする信用経済活動と実体経済活動との相互作用を制御することである。こ の具体的方法を考えることは経済の専門家に任せる。
素人の乱暴な提案をあえてするならば,方法は二つある。一つは信用経済における 資産総額に上限を設けることである。総額としては実体経済資産の総額が適当である。
この意味でバブルの終了時は好機であった。信用経済資産の総額がバブル時の 4 分の 1 になり,実体経済資産の総額に近づいたので,その状況で凍結すれば納得が得られ やすかったと思われる。この制限により,ファンドは跳梁できなくなり世界経済は実 体経済の制約の下で安定化されたであろう。しかし,いまではすでに時期を失したと 考えられる。失したこともダーウィン ・ ディレンマの一つである。
他の一つは,貨幣に色を付けて信用経済と実体経済とで通貨を変える方法である。
信用経済のための国際通貨を新たに設定する。先物取引,株や債権などの取引にはこ れを用いる。実体経済の取引には使わない。とくに,水・食糧・エネルギーなどの生 存基盤となる資源の取引での使用を厳禁する。
これにより,信用経済活動は現在のスポーツのようにゲームになる。体の体操に変 わる頭の体操ゲームである。動機づけるためにはオリンピックのように報償を出せば 良い。報償総額の上限は現在のオリンピックと同じくらいで良い。信用経済オリンピ ックは,現在のオリンピックのように,紛争の部分的な回避につながろう。
信用経済と実体経済とを分離する具体的方策を考えることは,経済の専門家とゲー ムソフトの開発者に任せる。彼らの専門性が実現可能で巧妙な方策を生み出すことを 期待したい。
(地球環境問題)
ダーウィン・ディレンマの第二の型の例として地球環境問題をとる。地球環境問題 は,人の活動と自然との界面で起きており人と自然との相互作用の場となっている。
それにより起きる自然の変化が望ましくないならば,人の活動と自然との間の相互作 用を制御する必要がある。
自然からヒトへの作用を抑制することは,住居の築造や農耕に始まる文明発展の柱 の一つであった。これからはヒトから自然への作用を抑制する。これは現在とられて いる地球環境問題への対処に他ならず,現在の方策は正しい路線上にある。
(不遜な言葉「地球のために」)
やや脇道にそれるが付け加えておく。最近しばしばいわれる「地球のために」とい う言葉は,不遜でありかつ問題を曖昧にする。地球は太陽から 1 億 5 千万 km という
絶妙な距離にあり,水が 3 相共存できる環境にある。この環境は 5 億年後に太陽が拡 大して,地球の水が蒸発して宇宙空間に失われ始めるまでは続く。また生命・生態系 は生まれてから変わり続けており,これまでに 5 回の大絶滅を経験しながら今日の繁 栄がある。地球とその上の生命 ・ 生態系は進化の性質 1 に見るように頑健であり,人 からの作用で簡単に絶滅することはない。
今日の地球環境問題は,あくまでも人のため,それも現在の文明を維持する上での 問題である。「現在の文明のために」さらにいえば「これからの人の生活のために」
というべきである。これを「地球のために」と拡散することが人を無責任とし,問題 の所在を曖昧にしている。
人の活動は多岐にわたる。人の活動と自然との切断の仕方は,活動に依存してさま ざまである。これからの社会は,新たに生まれる活動がダーウィン・ディレンマを起 こすかどうかを監視して,起こすと予想されるときにはその活動を制約または変換す る必要がある。
(もの4 4からの脱却)
現代文明をもの4 4から離して,もの以外4 4 4 4の自然の限界に抵触しない事柄に経済活動の 主軸を移せば,第二の型のダーウィン・ディレンマから脱却できる。しかし繰り返す ことになるが,これは世の社会思想家の一部がいう心4への移行ではない。
これまでのものばなれ4 4 4 4 4は信用資産や情報などへの移行であったが,これらには上限 がないために暴走して,これまで積み上げてきたシステムを破壊した。第一の型のダ ーウィン・ディレンマをもたらさない移行が必要である。
経済活動の主軸をどこに移すかについては,社会それぞれの事情に応じてさまざま であることからここでは論じない。日本社会については 12 章で考察する。必要なこ とは,たとえばダーウィン・ディレンマのような,進化の性質が負に現れることを念 頭に置いて,それぞれの社会がそれぞれに対処の方法を考えることである。
生存基盤資源の貿易はいずれ閉じられる
世界人口が増加し,新興国の生活様式が変化すれば,ヒトという生物種が生きる基 盤である水,食糧,エネルギーそして希少元素は相対的に枯渇する。これは平等を理 念とする限り避けられない。
生存基盤資源が自国の人口を養うに十分でない国々では,他国からこれらを輸入し ている。日本はその典型で,水は潜在水(virtual water)約 800 億 m³ を考慮すれば 約 50%を,食糧は 60%以上を,そしてエネルギーは 80%を輸入している。
生存基盤資源を輸入できるためには,資金を獲得しなければならない。日本が第 2