MAMS
3.3 問題点の改善
3.3.1 再帰性反射材を用いてマーカの大きさ問題に対応
大きなマーカがMAMSで自動計測できないのは、カメラ画像上におけるレーザ距離 計測器のレーザ光が小さすぎて認識できないためである。そこで、レーザ光をマーカ から強く反射させ、カメラ画像にレーザの光点を大きく写すため、マーカの白色領域 に白色の再帰性反射材を貼り付けたマーカを作成した。
再帰性反射材とは、図3.12に示すように基布に極小のガラスビーズが敷き詰められ た素材である。ガラスビーズに入射した光は表面で屈折し、ガラスビーズ内で反射を 行って、再び表面で屈折し、最終的に入射角と出射角が等しくなり、ガラスビーズから 出る。そのため、再帰性反射材ではあらゆる方向から入射した光に対して、常に入射 した方向に光を反射する。再帰性反射材はその構造の違いから様々な種類があり、ま た布地タイプのものの他にもスプレータイプや塗料タイプのものなどがある。本研究 では特に高い反射率を得るために、布地タイプの再帰性反射材であり、露出レンズ型 のレフライト社製ホワイト8303を用いた。
再帰性反射材にレーザ距離計測器のレーザ光を照射すると、肉眼でも確認できるほ どレーザの反射光が強くなった。また、レーザ照射位置認識の画像処理においてもレー ザ光の位置が安定して認識できるようになった。ただし、再帰性反射材に反射したレー ザ光は、反射光が強すぎてレーザ距離計測器で正しく計測できなかった。
そこで、レーザ距離計測器の受光部に偏光性のあるフィルムを貼り、受光するレー ザ光の強度を調節することで、再帰性反射材に対してレーザを照射した場合でも計測 できるよう試みた。フィルムを貼ったことによる距離計測への影響を調べるため、実験 室内にマーカを1個固定し、以下の場合についてそれぞれ10試行ずつMAMSで3次
基 布
反 射 層
ガ ラ ス ビ ー ズ
入 射 光
図 3.12: 再帰性反射のしくみ
元位置を計測した。マーカは半径15.0cmのものを用いた。
1. レーザ距離計測器・マーカに何も貼らない場合
2. レーザ距離計測器にフィルタを貼りマーカに何も貼らない場合 3. レーザ距離計測器にフィルタ・マーカに再帰性反射材を貼った場合
表3.3に計測結果を示す。計測の結果から、レーザ距離計測器の受光部にフィルタを 貼っても、計測結果に誤差を生むことがなく、また再帰性反射材に対してレーザを照 射した場合でも正確に距離を計測できることがわかった。
以上の結果を踏まえ、マーカの白色領域の素材に再帰性反射材を用いたマーカを作 成し、MAMSによる自動計測を試みた。以下にその実験について説明する。
実験目的 紙製のものでは自動計測できなかった大きさのマーカを、再帰性反射材を 素材として用いて作成することにより、安定した自動計測ができるかどうか調べる。
実験方法 実験は室内で行った。マーカと計測機器の配置は図3.10に示すものと同様 である。マーカとMAMSの距離を8mとし、マーカは実験室内の壁に固定した。マー カの面照度は300Lux程度であった。
表3.3: フィルタおよび再帰性反射材の有無による計測結果への影響の評価(単位:mm)
実験条件 マーカの3次元位置
X Y Z
レーザ距離計測器・マーカに何も -6259.0 -2410.2 506.5 貼らない場合 -6259.9 -2410.6 506.6 -6258.4 -2411.6 506.5 -6260.5 -2409.2 506.6 -6257.4 -2411.2 508.0 -6258.4 -2411.6 506.5 -6260.4 -2409.1 508.1 -6259.0 -2410.2 506.5 -6256.5 -2410.8 507.9 -6257.6 -2411.3 505.0 レーザ距離計測器にフィルタを貼り -6260.5 -2409.2 506.6 マーカに何も貼らない場合 -6260.5 -2409.2 506.6 -6261.4 -2409.5 506.7 -6260.5 -2409.2 506.6 -6257.5 -2411.2 506.5 -6259.1 -2410.2 505.0 -6260.6 -2409.2 505.1 -6259.9 -2410.6 506.6 -6257.5 -2411.2 506.5 -6260.5 -2409.2 506.6 レーザ距離計測器にフィルタ・ -6258.2 -2409.9 505.0 マーカに再帰性反射材を貼った場合 -6259.5 -2408.8 506.5 -6261.0 -2407.7 506.6 -6256.7 -2410.9 504.9 -6256.7 -2410.9 504.9 -6259.5 -2408.8 506.5 -6257.2 -2409.5 504.9 -6258.2 -2409.9 505.0 -6258.7 -2408.5 505.0 -6258.7 -2408.5 505.0
実験条件 白色領域を再帰性反射材を用いて作成したマーカを マーカ1 MAMSに対してマーカが正面を向く位置
マーカ2 MAMSに対してマーカが斜め45◦に向く位置
の2箇所に配置して自動計測を行った。各マーカの半径は、22.5cm、25.0cmに変化さ せた。
実験手順 まず半径22.5cmのマーカについて、マーカ1、マーカ2の順でそれぞれ5 試行ずつ自動計測を行った。次にマーカを半径25.0cmのものに取り替え、同様に実験 を行った。
実験結果及び考察 実験の結果を表3.4に示す。実験の結果から、再帰性反射材を素材 としたマーカであれば、レーザ距離計測器から照射されたレーザ光がマーカに強く反 射することで、カメラ画像中でレーザ照射位置を認識しやすくなるため、マーカが大 きくても安定してMAMSによる3次元位置自動計測が行えることがわかった。また、
この現象は3.1.1項で述べた問題点3に対しても効果があると期待できる。
3.3.2 再帰性反射材・フェルトを用いて太陽光環境下に対応
3.1.1項で述べた問題点2を解決するため、マーカの白色領域に白色の再帰性反射材、
黒色領域に黒色の再帰性反射材・黒色のフェルトをそれぞれ用いたマーカを試作した。
再帰性反射材は太陽光を入射方向にそのまま反射するので、カメラ方向への太陽光の 反射を軽減することが期待できる。またフェルトは太陽光を乱反射させるので、同様に カメラ方向への太陽光の反射の軽減が期待できる。どちらのマーカでも期待通りの効 果が得られれば、太陽光環境下でも安定してカメラ画像からマーカを認識することが できるようになる。黒色の再帰性反射材にはレフライト社製ブラック8318を使用した。
以下、再帰性反射材やフェルトを用いて作成したマーカの、太陽光環境下における 効果を確かめるため行った実験について述べる。
実験目的 再帰性反射材製マーカ及び再帰性反射材+フェルト製マーカを用いた場合 に、太陽光環境下において安定してカメラ画像からマーカを認識できるかどうか調べ る。本実験において安定したマーカの認識が可能であれば、屋外でのMAMSのカメラ によるマーカの認識やトラッキングが安定して行えるようになる。
表 3.4: 再帰性反射材を用いたマーカの自動計測結果 マーカ半径(cm) マーカ 計測の成否 計測時間(s)
22.5 1 ○ 35.9
○ 45.2
○ 43.0
○ 43.7
○ 42.6
2 ○ 44.1
○ 42.9
○ 42.7
○ 43.0
○ 42.9
25.0 1 ○ 38.9
○ 38.6
○ 45.0
○ 43.3
○ 46.9
2 ○ 40.1
○ 49.2
○ 41.5
○ 43.0
○ 41.4
実験方法 実験は快晴の日に屋外の日向にて行った。実験時の環境を図3.13に示す。
カメラは白黒のDragonflyを用い、焦点距離6mmのレンズを使用してマーカを撮影し た。カメラとマーカはそれぞれ三脚に固定した。太陽光の入射する向きは、実験中に、
太陽光の水平成分とカメラの撮影画像の平面がなす角度 φ が40◦から55◦へ変化した。
マーカの面照度は1万〜8万Luxであった。100フレーム連続でマーカの認識に成功し た場合に、マーカを認識できたものとした。
θ
マーカ面と水平方向 になす角
太陽光の水平成分となす角
カメラ
マーカ φ 太陽光
マーカ・カメラ間距離 L
カメラ画像平面
図 3.13: 屋外でのマーカ認識実験の実験環境
実験条件 半径20.0cmの紙製マーカ、再帰性反射材製マーカ、再帰性反射材+フェル ト製マーカの3種のマーカそれぞれに対して、マーカとカメラ間の距離 Lを9m・12m・ 15m・18m・21m、マーカの面とカメラの撮影画像の平面がなす角度θ を0◦・20◦・40◦ に変化させながら、カメラでマーカを撮影した。
実験手順 まず、紙製マーカについて θ = 0◦ としマーカ・カメラ間距離 L を9mか ら順に遠く、続いてθ を20◦・40◦と変えて同様に実験を行い、さらに再帰性反射材製 マーカについて、その後フェルト製マーカについて同様に実験を行った。
実験結果及び考察 実験の結果を表3.5に示す。実験の結果として、 θ = 0◦の場合に は、全てのマーカで21mまでマーカを認識できた。 θ = 20◦の場合は、マーカに反射
した太陽光がちょうどカメラの方向に入射する角度であったため、紙製のマーカでは カメラ画像中のマーカが明るすぎて全く認識できなかった。一方、再帰性反射材製マー カとフェルト製マーカではどちらも21mまでマーカを認識できており、期待通りの効 果が得られたといえる。 θ = 40◦の場合は、距離が遠くなるにつれて再帰性反射材製 マーカとフェルト製マーカのどちらもマーカを認識できなくなった。これは、この角度 ではカメラ画像中のマーカが斜めに写っているため、円形が潰れ、マーカとして認識 しにくい状態であり、さらに距離が遠くなることで画像中のマーカが小さくなり、全く 認識できなくなったものと考えられる。しかし本研究で想定していた、マーカとカメ ラ間の距離が15mの遠距離から安定してマーカを認識するという目標は達成できた。
ただし、θ = 0◦の状態で、 φ= 90◦としてカメラの真後ろから太陽光が入射するよ うに向きを揃え、太陽光がマーカの正面に当たるようにした場合、全てのマーカにお いてマーカの認識に失敗した。これは、再帰性反射材の特性上、マーカに反射した太 陽光が全てカメラの方向に入射してしまったためと考えられる。
以上の結果から、トラッキングを行う際に紙製マーカを用いるよりも、再帰性反射 材製マーカ、フェルト製マーカを用いた方が安定してトラッキングできることが確認 できた。また、カメラと太陽光の軸が重なり、さらにマーカの正面から太陽光が入射 するという条件ではマーカの認識は困難であるが、これはマーカの向きを少し変える などして回避できるので、屋外でのトラッキングは十分行うことができると言える。