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商業統計における度量衡とその地域的多様性―米穀計量単 位を中心に-

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章では、各省月別商業統計の中に記載されていた、米穀計量単位の事例を対象 として、トンキン、アンナン、コーチシナの省別比較を行う。米の計量には、公式計 量単位、ピクル(60kg)を用いることが、1903年のアレテで定められていた。しかし、

実際には

1

ピクルあたりの相当重量が

60kg

でない事例や、ピクル以外の単位も使用さ れて計量されていたことが、商業統計の事例から明らかになった。

ここで対象とする事例は、現在までに収集した商業統計

263

タイトル、その中で集 めた米穀計量単位の約

2150

事例である。商業統計は、各省において月別に作成された ものであるから、これら事例の差異、分布、時系列変化を検討することで、度量衡の 側面から各地における地域性と法の浸透度、浸透過程を明らかにできると考える。こ こで言う地域性とは、インドシナの中のトンキン、アンナン、コーチシナ

3

地域の地 域性だけにとどまらず、3地域内の地域性について、また行政区画を超えた共通文化圏 についても論じることが可能となろう。

こうした地域性は、地理、地形に影響される自然的条件、王朝の勢力圏、区分と行 った歴史的条件にも規定されることが考えられる。そのため、本章第

2

節では、地域 性を規定する諸条件の概要も提示し、第

3

節以下の地域性の分析に備える。

商業統計には、米価の他にも様々な産品の物価が記載されており、それに伴ってそ れぞれ計量に用いられた度量衡単位と相当量も記入されている。ここで、米に関わる 単位に着目する理由は、以下の

2

点である。

1

に、どの地域でも主食として消費されていた米の計量単位を分析対象とするこ とで、より客観的にベトナム全域の地域間比較が可能となる。第

2

に、未だ本格的に 研究が進められていない植民地期の度量衡を考察する際、植民地政権にとってもっと も重要な輸出産品であった米の計量単位の実態を明らかにすることは、度量衡研究の 第一段階として効果的である。

以上から、第

2

章では商業統計上の事例から、インドシナの地域性を明らかにする こと、度量衡統一の過程、実態について明らかにすること、の

2

点を目的としたい。

第1節 物価関連史料の概要

(1) 史料の所在

まず、本章が対象とする商業統計を含む、植民地期における省別物価関連史料の状 況を整理したい。省別に物価を記録した統計、報告に関しては、植民地期の資料が保 存されているベトナム国家第

1(ハノイ)、2(ホーチミン)、4(ダラット)文書館、

およびフランス、エクサンプロヴァンスの海外文書館で所蔵を調査し、2009年夏まで

106

に確認できた各省・月別商業統計は、一部を除きほどんどがベトナム国家第一文書館

(以下

TTLTQGI)に所蔵されている。その範囲はラオス、カンボジアを含めた仏領イ

ンドシナ連邦全域の各省に及んでいるが、保管されている年代は限定的である。

①トンキンに関して

もっとも史料が充実しているのがトンキン各省における物価関連史料であった。ト ンキン各省、月別の物価統計は、1885年から

1944

年の間に作成されたものの所在が確 認できた。これらの物価関連史料は、その特徴から時期を

2

つに分けることが出来 る。

1885

年から

1922

年の期間に作成されたものは、ほぼ商業統計(Statistiques

commerciales)あるいは公設市場価格表(Mercurial)とタイトルがつけられている。記載さ

れている品目数、統計のページ数などには年によって増減が見られるが、構成は基本 的に同じである(次項参照)。これらの商業統計は、インドシナ総督府コレクション

(Fonds du gouvernment g n r l’Indochine、

以下

GGI)、トンキン理事長官府コレクシ

ョン( on i n ri r Ton in 、以下

RST)、トンキン農業省コレクショ

ン(Fonds de la direction de l’Agriculture du Tonkin、 以下

DAT)の 3

つのコレクションの中 に所蔵されている。

3

つのコレクションでは、それぞれが所蔵している商業統計の省、年、月にばらつき が見られるが、重複している部分も多い。この重複した箇所を比較したところ、商業 統計の様式、記入されたデータともに同じものであった。つまり、同じ様式を用いて 作成された商業統計が、少なくともトンキンにおいてはインドシナ総督府、トンキン 理事長官府、トンキン農業省へ送られ、それぞれの機関で保管されていたことにな る。

次に、1935年から

1944

年の期間に作成された各省月別の物価関連史料は、商業統計 や公設市場価格表とタイトルがつくものは確認できなかった。しかし、「第一必需品の 中の食料品価格リスト」138、「トンキン各省における食料品及び実用品の価格変動」139 といった、様々なタイトルで、物価統計、報告書が

RST

に残されている140

この年代になると、物価を記載する際必要となる計量については、すでに計量単位 名と一単位あたりの相当量も印刷されており、その記載に沿って行うようになってい る。つまり度量衡に関する記述は様式を作成する時点で統一されており、省別の地域

138 TTLTQG1, RST, 75223-08, Listes des prix derées de 1er nécessité pour le mois des Juillet 1937 dans Nam Dinh, Ninh Binh, Phu Tho, Phuc Yen, Quang Yen, Son La, Son Tay, Thai Binh, Tuyen Quang, Vinh Yen, Yen Bay. など。

139 TTLTQG1, RST, 75227-02, Movements des prix des derées et Marchandises produité pratiqués dans les provinces au Tonkin pendent Décembre 1936. など。

140 その他、TTLTQG1, RST, 75227-01, Mouvement des prix des denrées et marchandaises de première nécessité au Tonkin pendant de Novembre 1936. 75218-06-08, 75189-02-06, 75218-03-010, Surveillance des prix de detail des produites et derées de première nécessité par les comités provinciaux など様々な 名称で多数の史料が確認できている。

107

差などを検討することができない。したがって、本章ではこの年代に作成された物価 関連史料は、対象外とする。

1923

年から

1934

年までの期間は、これまでのところ省別物価関連史料について所在 を確認できていない。この所蔵状況の偏りに関しては、作成されていないため史料が 残っていないのか、散逸したのか、史料自体は存在するが未整理のため公開されてい ないのか、不詳である。

②アンナンおよびコーチシナに関して

アンナン、コーチシナの省別物価関連史料は、ほとんど

GGI

に所蔵されていた。基 本的にアンナンの史料はベトナム国家第

4

文書館に、コーチシナの史料は第

2

文書館に 移管されており、それぞれアンナン理事長官府コレクション(Phông khâm sứ Trung K 、 以下

RSA)、コーチシナ総督府コレクション(Phông ph Th ng Đ c Nam k 、

以下

RSC)

において所蔵を調査した。RSAの中に、量的には少ないがアンナン各省における商業 統計を確認できた141。一方でコーチシナに関しては、RSCではこれまでのところ商業 統計などの史料は確認できていない。しかし、トンキンの事例で見られるように、ア ンナン、コーチシナも同様に物価関連史料を作成し、複数機関におさめていたことが 考えられる。

こうした史料の断片化、所蔵状況の偏りは、文書館での史料整理の進展、所蔵目録 の新規作成、公開史料の範囲拡大などにより明らかに出来る可能性がある142。商業統 計のような一連の物価関連史料の作成に至る経緯や、それを規定する法令なども含め て、今後の課題としたい。

(2) 対象とする史料

本章が対象とする史料は、トンキン、アンナン、コーチシナの商業統計(一部公設市 場価格表)である。トンキンにおいては、商業統計の他に

1930

年代以降に作成された 物価関連史料が存在するが、前述のように度量衡に関してはすでに統一された様式を 用いているため、ここでは対象外とする。

トンキンに関しては、商業統計は

GGI、DAT、RST

3

つのコレクションの中に所 蔵が確認できたが、重複する部分も多い。そのため、本章では

1890

年代後半から

1908

年は

GGI、それ以降 1918

年までのものは

DAT

に収められている商業統計(一部重複も

見られる)を対象とした。GGI中の商業統計も、1907、1908年に関しては

1

月-12月ま で、ほとんどすべての省において欠損なく保管されているが、それ以外の年について は断片的であり、これは

DAT

中の商業統計も同様である。そのため、比較的データが

141 RSA, No.392: 3019. Statistique commercial de l’Annamde 2è, 3è et 4ème et trimestre 1933-1934.

142 ベトナム国家文書館の概要と所蔵資料、公開状況については関本[2014b]が詳しい。

108

多く集まる

1900-1904、1907-1910、および 1912-1917

年のもみ、精米済み白米

1

等・2 等米の度量衡の記入事例、28省分約

1280

事例を対象とした。

アンナンの商業統計は、GGIにおさめられていた

1900-1909

年のもみ、精米済みの米 の度量衡の記入事例

14

省分、約

360

事例を対象とした。

コーチシナの商業統計は、同じく

GGI

中の

1900-1909

年、もみ、精米済みの米の度量 衡の記入事例

21

省分、約

500

事例を対象とした。

(3)

商業統計の概要

商業統計はすでに品目・等級が印刷されており、それぞれ単位名、一単位に該当す る相当量、単位当り最高・最低価格、100kgないし

1

リットル当りの最高・最低価格を 記入する表が設けられている(写真

2―1

参照)。

写真2―1

1908年ハーナム省の商業統計の1 目。

時代、省によって形式が異なっているが、

1907

年以降のものは多くの省で比較的共通し たものを使用している。それは約

200-250

品目 の物価が記入できる一様式

7-10

ページの綴り である。表紙には、記入担当者に対する注意事 項が書かれており、記載に関して細かく指定さ れている。しかし実際には空欄も非常に多く、

度量衡に関しても単位名のみ書かれており、メ ートル法に換算した相当量が記入されていない 場合も多々ある。ここで注目したいのは、ピク ルに関して「製品に応じて量目が変化するピク ルに関しては、その単位あたり(つまり

1

ピク ルあたり)の量目を正確に記入すること[( ) 内は筆者補足]」と指示があり、行政側も

1

ピク ル=60kgの原則が徹底されていないことを認め ていたことがわかる。価格調査の正確さを期す

るために、各省の度量衡制度に基づいた記入が許容されていたことになる。

この商業統計は、年代や省によって一部市場価格表(Mercurial)と別名で作成されてい る場合がある。卸値か小売価格かは明記されていないが、表紙の注意事項には「パンや 菓子など、異なる形状をもつ製品の場合、その重量測定法も記入すること」、と、実地 調査を前提とした項目もある。さらに魚、果物、缶詰などは一匹、一個単位の価格が 記入されていることからも、おそらく小売価格表であったと考えられる。

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