第 4 章 トンキン各省における度量衡運用の実態
2. ラン,ドン・カン,ファン,リーについて
バッカン(ランではなくルオン ương)、ハノイ、ホアビン:ラン=37.75g、以下十進法で展開。
ニンビン:ラン=37.7g、以下十進法で展開。
カウドー:ラン=41g、以下十進法で展開。
ヴィンイエン:ドン・カン=3.98g以下十進法で展開。
*フンイエンはランも6.04gと、イエン、タ、カンから続いて十進法で展開した数値を示している。
単位名 使用している省
表
4-5
を見ると、使われている単位名とその展開方式は多くの省で共通しているが、それぞれに対応している換算値は各省によって異なっていたことがわかる。これはタ が
60kg
とアレテによって規定される1903
年よりも前の状況であるため、形式的に法定184
単位に合わせた形で報告しようとする意識が全く働かないことも要因の一つと考えら れる。また、各地で用いられているタ、カンを単純にメートル法のはかりで計量し直 し、それを報告したことにも起因すると思われる。つまり、最も現地の実状を反映し た調査であったと考えられる。さらに、フンイエン省は、タは
60.4kg
と報告されてい るが、「実際私が量ると63kg
であった」と知事が書き添えており、一般的に周知され ている(ベトナム人高級官吏が報告した)相当量も、実際計量してみると異なる値を示 すことが頻繁であった、あるいは実際はその時々によって異なっていた、とも考えら れる。表のなかに見られない単位についても報告が見られる。
ネン(nén)は、バックザン省では
360
グラム、フンイエン省では約6.04
グラムである とされ、その相当量は地域によって大きく開きがある。ビン(bình)という単位も、バックザン省のみ報告しているが、相当量は
31.24kg
でタ の半量となっている。バッカン省は、フゥオン( hương):約
28kg、ホック(h c):約 56kg
と、旧制度の単位 の報告もある。単位だけでなく、計量器としてのはかりについて報告している省も見られる。3種類 のはかりを報告しているのは、バックザン省、ホアビン省、ハノイ市である。バック ザン省は、①大ばかり:米、もみ、塩用、②カン・ティエウ(cân ti u)、カン・チュ ン・ビン(cân trung bình):商人によって使い分ける、③カン・ティエウ・リー(cân ti u
ly):金・銀、高価なもの用の 3
種類を挙げ、フランス式の制度や台ばかり、竿ばかりは中国人によって知られ、普及しているが、中国人のところで使われている計量器は 細工されており、正確な計量ができないと報告している。
ホアビン省は、①カン・タ(cân t ):ピクルで量る、96.640kgまで計測可能、②カ ン・チュン・ビン:2.189kgまで計測可能、③カン・ティエウ・リー:硬貨、アヘン、
金、銀用、207.625グラムまで計測可能、の
3
種類を報告している。計量器は竿ばかり であるが、それぞれ非常に異なるとも指摘している。ハノイ市は、カン・タ:366.66kgまで計測可能(1目盛り
5.5
イエン)、カン・チュ ン・ビン:20ランまで(20目盛り、1目盛り41.15
グラム)を挙げているが、3つめは カン・ティエウ・リーではなくカン・イエン(cân yến):62ランまで、というはかりを 報告している。計量器に関して、市場では区別なくフランスのはかりやベトナムの竿 ばかりが使われ、これは500
グラムのリーブルで量っても、0.704kg のカンで量っても、現地の人はどんな困難も感じないという根拠となる、と指摘している。
次に、2種類のはかりを報告しているのは
2
省ある。トゥエンクアン省はカン・チュ ン・ビン:45貫銭、トゥ・ナーはかり(b n Tư Nã):42.5貫銭と、重量のあるものを 計量するはかりが紹介されており、これらは住民と山岳地方では持っていないとして185
いる。つまり、日常的な売買の一般的な量には使われない、ということであろう。こ れら
2
つのはかりは、中国にその起源を求められると報告されている。フンイエン省も、カン・タとカン・ティエウ・リーを報告している。
最後に、「キログラム」の普及状況について、ハイフォン市が大多数の現地商人と中 国人の店では使っていると述べている。
④容積単位
容積単位については、各省で使われている単位が、同一単位名であってもその相当 量があまりに多様であり、かえって理解しにくくなる恐れがあるため、表に示すこと は避ける。1936年で報告された容積単位の表(表
4-15
参照)では、タン(thang)、トゥ ン(thùng)、トゥン( hưng)、フゥオン( hương)、ホック(h c)、ダウ(đấu)、バット(bát)の8
種類の単位が記載されているが、今回の調査ではフオンとレーについて報告している 省はなかった。また、ハノイ市が唯一トゥン(容量22.5
リットルの竹の編みかご)に ついて報告しているが、声調・発音記号がついていないためトゥン(thùng)とトゥン( hưng)のどちらか判別ができない。「竹の編みかご」という説明から考えて、トゥン (thúng)の可能性も高い。
タンについては、クアンイエン省のみ報告しており、相当量は
1/26
ホック=32.76平 方センチメートルであった。トゥン(thùng)についてはヴィンイエン省が米の計量に使 い、高さ50
センチメートル、直径0.4
メートルだとしている。また、フンイエン省は トゥン(thùng)をパニエ(panier:かご)と訳し、相当量は20kg
強だとしている(パニエ、ト ゥン、竹かごについては次ページ参照)。ホックは、クアンイエン省とバックザン省は税を現物納していた時代のものだとし ながらも報告している。フンホア省は、ヴオン(vuông)=1/2ホック、ホック=10ダウと しながらも、そのダウの容積は極端に多様であるとし、実際的ではない単位系を挙げ ている。
フンイエン省は、ホックを用いた単位系として、ヴオン(vuôn)=1/2ホック、バッ ト・クアン・ドン(官銅鉢)=1/39ホック、カップ=10バット=1/195ヴオン=1/390 ホック=ひとつかみ、としているが、現物納が廃止されて以降使われていないとして いる。このほかに、フンイエン省はトゥオック( hược)=1/10カップ、サオ(sào)=1/10 トゥオック、トアット(tóat)=1/10サオも報告しているが、これらは理論上の単位にす ぎないと述べている。
クアンイエン省も、カップ(cáp)が基本と考えられる以下の単位系について報告してい る。
カップ:1/250ホック、あるいは
1/390
ホック、トゥオック:1/10カップ、サオ:1/100
カップ、トアット(tóat):1/1000カップ、米用:フゥオン( hương):300カップ、ウィエン(uy n):10カップ。
186
しかし、この単位系も基本となるカップが
2
種類あること、またそれぞれの関連付 けが、第1
章および補論で検討した容積単位の単位系と比較しても一般的ではなく、フンイエン省で理論上の単位に過ぎないとされているトゥオック以下の単位も並んで おり、あまり実際的ではないと考えられる。
ハノイ市もホックを用いた以下の単位系を示すと同時に、こうした十進法のような 一貫性もなく、メートル法と対応させた単位系は形成できないと考察している。
10/タン=13/フオン=26/ホック=2/フゥォン
カウドー省もトンキンには
2
つの系統があるとした上で、①公式(現物納用)つまり 物納時代のもの、②商業用、2系統の単位系を以下のように報告している。①現物納用公式単位系
フゥオン(パニエ、panier)21-22リットル ホック=2フゥオン
ダウ=1/5フゥオン タン( hăng)=1/10ダウ トゥオック( hược)=1/10タン カップ=1/10トゥオック=一握り
②商業用単位系
小ズオック(giược)=2センチリットル ズオック=10センチリットル
トゥン(thùng)=22.5リットル(トンキン北部ではこのトゥンはノイと呼ばれる)。
ノイについては、バックザン省とヴィンイエン省も報告しており、バックザン省で はもみ用では、ノイ=22ダウ=33リットル、米用ではノイ=11ダウ=16リットルであ った。このもみ用のノイは、1マウの米田に植え付ける種子を計量するために使われる とされる。ヴィンイエン省では、ノイは竹かごであり、容積は
25-30
リットルとして いる。竹のかごに関連して、フランス語のパニエに訳されているものもと、ノイ、トゥン
(thùng)の関係について、1901
年の事例の中で考えてみたい。ニンビン省では、パニエという単位は、トゥン・ガオ(thung gao)であり、25-30ダウと報告している。声調・
発音記号がついていないが、このトゥンは(thùng)であり、かごいっぱいの米(ガオはベ トナム語で米の意味)をフランス語でパニエと訳していたことが考えられる。また、フ ンイエン省でも、トゥン(thùng)=パニエ=20kg強、2パニエ=1シャージ(charge)、3パ ニエ=1ピクルとその関係を示している。バックザン省も、2ノイのもみは通常
1
シャ ージ=ガイン(gánh)と呼ばれるとあり、つまりパニエとノイ、トゥン(thùng)、ガインは 同一の単位を指していることになる。一方で、前述の通りカウドー省ではフゥオンを パニエと訳している事例も見られ、さらに容積単位であるトゥン(thùng)と竹かごのト ゥン(thúng)は外国人からすると混同する可能性も高い、つまり、これらのhưng、
187
thúng、thùng
と、 n i、panier、 hươngは誤訳、あるいは誤記されていることも少なくなく、これも対応する換算値や展開方式が多様になっている原因の一つと考えられる。
これは通達に関連した報告だけでなく、一般の文献史料中の事例にも同じことが懸念 される。
次に、最も報告した省が多かった(8省)、ダウについてである。しかし、このダウ は省によって非常に多様であり、具体的にリットルなどでの換算値を示さず、「多様」
とのみ回答している省もあるほどである187。また、2番目に多くの省が報告した(5省)
バットについても、同様である。フンホア省がダウは「極端に多様」であると報告して いる。またフーリエン省が、「驚くことに穀物に関する容積は実際には存在しない」と した上で、「ダウの容量について述べることは不可能であり、一人一人がそれぞれ異な るものを持っている」、という記述からも明らかなように、ダウは単位として、あるい は計量器としての機能を持たされているものの、それは実際いかなる単位系とも連携 されておらず、使い手によって限りなく異なっていたということができる。バットも、
ダウと共に
2
バット=1ダウなどと報告される単位、および計量器であるが、ダウの状 況が示しているように、そのダウと連携しているバットも、限りなく多様であること が推測される188。クアンイエン省も、バットの容量を1kg
あるいは0.6kg
と報告しなが らも、実際は人によって異なると付け加えている。その他、塩の容積単位として、ニンビン省がカー(ca)=375グラム、トゥン(thung)=
11.250
グラム、フランスピクル=45kg という単位を列挙している。バックザン省では、穀物を量る際に軍隊の飯盒や、バター缶なども使う、との報告が見られる。
最後に、液体用の容積単位についてまとめる。液体については、公式に決められた ものはないとフンイエン省、フンホア省、フーリエン省が明言しているが、現地で実 際に使われているものとして、様々な計量器、単位が報告されている。
液体の計量に用いられるズオックについては、ホックを用いた単位系に関連してカ ウドー省の事例は前述した通りであるが、他にハノイ市とヴィンイエン省、フンイエ ン省が報告している。ハノイ市はズオックは円筒のブリキ缶であり、ズオック=10セ ンチリットル、小ズオック(giuoc nho)=5センチリットル、小ズオック(giuoc be)=2セ
187 ダウについて、多様と回答しているのはフーリエン省、フンホア省、ヴィンイエン省であり、
その他の省が報告しているダウの容積は以下の通りである。ソンタイ省:2ボール(bol, フラン
ス語で椀)分=約0.7kg、3ボール=約1.005kg、バックザン省:10バット、蜂蜜、カルダモンなど
の高いものを量る際は5バット、ハノイ市:穀物用1.25リットル、液体用1リットル、ホアビ ン省:大ダウ=3タス(tasse, フランス語でカップ)=915.15グラム(米用の場合)、小ダウ=2タ ス、ニンビン省:もみの場合小ダウ=468.75グラム、中ダウ=585.937グラム、大ダウ=703.125グ ラム、米の場合小ダウ=585.937グラム、中ダウ=732.421グラム、大ダウ=878.960グラム、カウ ドー省:公式=1/5フゥオン( hương)、商業用=1.25リットル。
188 バットについて、多様と回答しているのはフンイエン省であり、その他の省が報告している バットの容積は以下の通りである。バックザン省:換算値不明、クアンイエン省:1/39ホック
=21.84立方センチメートル、トゥエンクアン省:1kgあるいは0.6kg(実際は人による)、ニン
ビン省:もみ用=234.375グラム、米用=292.968グラム。