組立後の検出器モジュールが正常に動作すること、また想定される環境に置いても破損せず 正常に動作することを確かめるために以下の品質保証検査を課し、一定以上の品質を保証す る。検査内容としては、読み出し試験とサーマルサイクル試験が考えられている。
読み出し試験
読み出し試験は、量産時はボンディング後、ポッティング後、パリレンコーティング後のタ イミングで行い、その都度、モジュールが故障していないかを確かめる事が予想される。ここ
では、今回組み立てた検出器モジュールの、読み出し試験結果について報告する。
読み出し試験を行うためには、読み出し基板であるHSIO2に接続する必要があるが、組み 立てたモジュールに直接接続はできないため、別の基板に接続し、そこから読み出す事になる。
ここでは、この別の基板をコネクタ基板と呼ぶ。読み出すために組み立てた検出器モジュール はASICから発熱する。これを放熱するために、コネクタ基板には薄いアルミ板があり、これ に熱伝導に優れた接着剤で貼り付ける。今回は、シリコン系熱伝導接着剤のJT-MZ-03Mを 使用した。コネクタを接続し、読み出し基板、コネクタ基板、センサーにそれぞれ、電源をか けた。読み出し試験の結果を図7.7と7.8に示す。検出器モジュール1つに対して、ASICは 4つある。読み出し試験の結果、1つは問題なくソーススキャンができ、2つは部分的に行う 事ができ、1つは ASICからの応答がなかった。
今後、部分的に読み出しが行えたセンサーモジュールは、バンプボンディングが剥がれてい るものと考えられ、どの工程で剥がれたかを調査する必要がある。また、ASICからの応答が ないものに関しては、ワイヤーボンディングにて、失敗している可能性があるため、こちらも 調査していく必要がある。
図7.5 コネクタ基板に乗せたセンサーモジ ュール
接着にはJT-MZ-03Mを使用した。 図7.6 HSIO2を用いての読み出し試験
サーマルサイクル試験
サーマルサイクル試験とは、恒温槽を用いて、温度を約+60∼-55◦Cの範囲で、5◦C/min.
のスピードで100回変化させ、検出器が大きく故障していないかを調べるために、QAテスト の中に組み込まれているものである。今回、組み立てたモジュールでは行えていないので、今 後検討する必要がある。
y
0 50 100 150 200 250 300
Occupancy of RJ1
x
0 10 20 30 40 50 60 70 80
hits
0 1 2 3 4 5 6 7 8
Occupancy of RJ3
−80 −70 −60 −50 −40 −30 −20 −10 0
−300
−250
−200
−150
−100
−50 0
Occupancy of RJ4
図7.7 読み出し試験結果1
ASICは左上を1chとし、時計回りに2ch,3ch,4chである。β 線源を検出器モジュールの 中心に置き測定
y
0 50 100 150 200 250 300
Occupancy of RJ1
x
0 10 20 30 40 50 60 70 80
hits
0 1 2 3 4 5 6 7 8
Occupancy of RJ3
−80 −70 −60 −50 −40 −30 −20 −10 0
−300
−250
−200
−150
−100
−50 0
Occupancy of RJ4
図7.8 読み出し試験結果2
ASICは左上を1chとし、時計回りに2ch,3ch,4chである。β 線源を検出器モジュールの 4chの中心に置き測定
第 8 章
まとめ
本研究では、HL-LHCにおけるATLAS実験で使用する、シリコンピクセル検出器の組 立手法について研究を行った。研究内容は、組立手法の開発、接着に使用する接着部材の選 定、接着剤の塗布パターンの最適化と塗布手法の比較であり、これらの研究をまとめ、検出器 モジュールの1号機の組立を行い、β 線源を用いた読み出し試験に成功した。
組立手法の開発では、50µmの組立精度で組立を行うために、治具を開発した。治具1号機 であるModule base ver.1.5とFPC base ver.1では、繰り返し精度が最大で30µm程度であ ることを確認した。改良版である、FPC base ver.2 では、接着確認用の窓を大きくすること によって、リアルタイムにパッド間のズレを補正することが可能になった。
接着部材の選定では、物質量、放射線耐性、可使時間、常温硬化を選定基準にして、選定を 行った。物質量の観点から、エポキシ系の接着剤が優れていることがわかり、エポキシ系の接 着剤の候補を多く準備した。また、その候補の中から、十分な可使時間を有し、常温で硬化す るものを選んだ。それらの条件を満たしたエポキシ系接着剤と、比較対象のために、アクリル 系、シリコン系の両面テープを東北大学にあるCYRICに持ち込み、陽子ビーム照射を行っ た。照射の前後で引き剥がし試験を行った結果、エポキシ系接着剤が十分な放射線耐性がある ことがわかった。また、強度と過去の使用実績から、ボンドEセットMとAraldite 2011が 選定された。
塗布パターンは、定量塗布、強度、ワイヤーボンダビリティー、気泡の4点から比較し、最 適化を行った。ワイヤーボンダビリティーの観点では、接着剤のドット間が4mm以下であれ ば、下に接着剤がなくともワイヤーがつく事が確認されたが、弱まる箇所が確認されたので、
可能なかぎり接着剤間隔は近い事が望ましいことがわかった。定量塗布は塗布手法に大きく依 存し、強度と気泡混入に関してはパターンをデザインする際に、達成できる。以上の観点から
次期FPCであるPigtail用のステンシルパターンを設計した。
接着剤の塗布手法の比較では、ステンシル法、ディスペンサー法、スタンプ法の3手法の比 較を行った。塗布を10回行った時の、塗布量の標準偏差は、ステンシル法が0.86 mg、ディ スペンサー法が1.3 mg、スタンプ法が2.6 mgである。この結果より、Araldite 2011相当粘 度の接着剤を塗布する場合は、ステンシル法が最も定量塗布の面では有効であることが確認さ
れた。また、ステンシル法では、異なる塗布パターンであっても、マスクの厚みが100µmの ものは全て、設計塗布量から7%以内のズレで塗布することが可能である。そして低粘度の接 着剤ではパターンが広がり、塗布パターンが崩れる事、1 mm径のドットには、気泡が入りや すいという特徴も得る事ができた。
以上の研究より、センサーモジュールとFPCを用いて検出器モジュールの組立を行った。
接着ではステンシル法でAraldite 2011の塗布を行い、接着した。硬化後、ワイヤーボンディ ングを行いASICとFPCを結線した。読み出し基板のHSIO2で、β 線源(90Sr)を用いて ソーススキャンを行った。検出器モジュール1台にASICは4つあるのに対して、1つは問題 なくソーススキャンができ、2つは部分的に行う事ができ、1つはASICからの応答がなかっ た。このようにして、検出器モジュールを組み立てる手法を完成させ、組立を行う事ができた。
今後の展望としては、今回の研究をもとにPigtail用FPC向けに設計された、治具が完成す るため、新たな治具とマスクを用いて組立を行い、完成した検出器モジュールを評価したい。
また、ポッティングについては部材と手法の決定してなかったため、今回は実施しなかったが 今後、放射線耐性試験などを通して、選定を行い、塗布手法についても研究を進める。また、
接着剤中に含まれる、ハロゲン元素による腐食問題も進める事によって、より、今回選定した 2つの接着剤が有効である事を示す事ができればと考えている。スタンプ法やディスペンサー 法についてもさらに進める事によって、有効性を確認したいと考えている。
謝辞
本研究、並びに私の大学院修士生活を支えてくださった皆様に、この場を借りてお礼申し上 げます。指導教員の東城順治准教授には、本研究のことはもちろん、スライドや発表の仕方の 指導、FR関係、学振の書類、研究生活のコツについてなど、ここにはあげられないほどの多 くのことをご指導いただき、時間を割いていただきました。時には厳しいご指導もありました が、励ましの言葉もあり、なんとかここまでやってくることができました。ご指導もあって、
成長することができ、自分に少なからず自身を持つことができました。本当にありがとうござ いました。学術研究員の小林大さんには、治具の設計をはじめ、本研究全般で大変お世話にな りました。また組立手法の研究以外に、物理やジュネーブでの生活のことなど数多くのことを 教えていただきました。また、最終バスが行ってしまった時には、何度も送っていただきまし た。KEKの外川学准教授には、3次元測定器を用いての治具の精度測定や接着剤の照射試験、
スライドの発表練習に至るまで大変お世話になりました。京都教育大の家田くんには、セン サーモジュールを三次元測定器を用いて測定し、ダミーモジュールを製作と今後行う予定であ る、パリレンコーティングの熱伝導への影響の研究していただき、お世話になりました。また 同じM2ということでスライドや研究について相談に乗っていただき、心強かったです。M1 の藤野くんには、読み出し試験や塗布量測定などでお世話になりました。また電車の話ができ る後輩がいて、とても楽しかったです。総合研究大学院大学の古市くんには、ディスペンサー の取り扱い方やポッティング手法の開発でお世話になりました。接着剤の陽子照射試験では、
KEKの中村さん、池上さんをはじめ、東工大、筑波大の方々にもご協力いただきました。花 垣さんをはじめとするATLAS日本グループの方々やSusanneをはじめとする組立を行って いる各国の研究機関の方々にも多方面からサポートをしていただきました。治具とステンシル の設計ではREPICの近野さん、磯川さん、牧さん、佐藤さんにご協力いただきました。特に、
近野さんには、治具のデザインや疑問点について突然の電話にもかかわらず、丁寧に対応して いただきました。磯川さんには、ステンシル法について実際にご指導いただき、その後のマス クのデザインなどでアドバイスを頂きました。皆様、本当にありがとうございました。
川越清以教授には、大学院入学以前からお世話になりました。また、この研究室を知るきっ かけになったのも川越先生が参加されていた、ヒッグス粒子の講演会でした。吉岡瑞樹准教授 には、サイエンスカフェやサマーチャレンジでお世話になりました。サイエンスカフェに向か う車の中で、いろいろお話しさせていただいたことは、今でも貴重な思い出です。織田勧助教 授と音野瑛俊助教授には、ATLAS-Qや月1ミーティングのスライドを作成する時に、多くの