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命題 11.1.1 の証明

ドキュメント内 線形代数学講義ノート(2017/02/28ver) (ページ 82-86)

次の定理におけるr= 1の場合が命題11.1.1に相当する. 定理 12.5.1. Ar次正方行列,Xs次正方行列とすれば,

A

Os,r X

=|A| · |X|=

A Or,s

X

.

Proof. 一方の等式を示せば, それを転置することで他方の等式も得られる. ここでは右側の等式を示そ

う. 始めに,Xが単位行列Esの場合について考える. そこで,Y = [

A Or,s

Es

]

= [aij]と置こう. Yn=r+s次正方行列である. 行列式の定義によれば

|Y|= ∑

σSn

sgn(σ)a1σ(1)a2σ(2)· · ·arσ(r)ar+1σ(r+1)· · ·anσ(n) (12.5.1) である. ここで,総和に現れる各項

sgn(σ)a1σ(1)a2σ(2)· · ·arσ(r)ar+1σ(r+1)· · ·anσ(n) (12.5.2) について,この値が0でないための必要条件を検討しよう. まず,Or,s成分に着目すると, 1≤i≤rかつ r+ 1≤j≤nならばaij = 0である. よって{σ(1),· · · , σ(r)}の中にrより大きな数σ(i)が一つでもあ れば,aiσ(i)= 0ゆえこの置換σに関する式(12.5.2)の値は0である. したがって,式(12.5.1)の総和にお けるσ∈Snの動く範囲は,

{σ(1),· · ·, σ(r)}={1,· · · , r} を満たす部分のみを考えればよい. また,上の条件を満たすσにおいては

{σ(r+ 1),· · ·, σ(n)}={r+ 1,· · ·, n}

となっている. ここでYEs成分に着目すると, もしσ(i) ̸= iなるi = r + 1,· · · , nがあればY の (i, σ(i))-成分はEsにおいて対角成分ではないからaiσ(i)= 0である. つまり式(12.5.2)の値が0とならな いためには,各i=r+ 1,· · ·, nについてσ(i) =iとなる必要があり,したがってσは次の形に限られる:

σ= (

1 · · · r r+ 1 · · · n k1 · · · kr r+ 1 · · · n

)

, ただしk1,· · ·, krr以下の数による順列.

これはσSrの元とみなせることに他ならない. 以上より,(12.5.1)の総和におけるσが動く範囲は Sr上のみを考えればよいことから,

A Or,s

E

=|Y|= ∑

σSr

sgn(σ)a1σ(1)a2σ(2)· · ·arσ(r)ar+1,r+1· · ·an,n

= ∑

σSr

sgn(σ)a1σ(1)a2σ(2)· · ·arσ(r)·1· · ·1 =|A|.

さて, 今度はX が一般のs次正方行列の場合について考えよう. s個のs次列ベクトルの組X = [x1,· · ·xs]たち全体を定義域とする関数F :Ms(R)R

F(x1,· · ·xs) :=

A Or,s

X

と定めよう. すると,行列式の多重線形性と歪対称性から,Fの多重線形性と歪対称性を導くことができる. また,これまでの議論よりF(E) =|Y|=|A|である. したがって定理12.4.1よりF(X) =|X| ·F(E) =

|X| · |A|. 以上により求める等式が示された.

12.5.2. A1,· · · , Anを正方行列とすると(各々のサイズは異なっていても構わない),

A1

A2

O

. .. An

=|A1| ·

A2

A3

O

. .. An

=· · ·=|A1| · |A2| · · · |An|.

12.6 |AB|=|A| · |B|の証明

一般に, (m, n)-行列Aおよび(n, ℓ)-行列B = [b1,· · · ,b]に対して,AB = [Ab1,· · · , Ab]である(

3.5.1). この事実に注意しながら次の定理を示そう.

定理12.6.1. 積の行列式は行列式の積に等しい. すなわち,n次正方行列A,Xについて|AX|=|A|·|X|. Proof. n次正方行列X= [x1,· · · ,xn]たち全体を定義域とする写像F :Mn(R)RF(x1,· · ·xn) :=

|AX|と定める. このとき,

F(x1,· · ·xn) =|A[x1,· · ·xn]|=|Ax1,· · · , Axn|

であるから,Fは多重線形性と歪対称性を満たす. 実際, 歪対称性は明らかであり,多重線形性も次のよ うに確認できる:

F(x1,· · ·,bi+ci,· · · ,xn) =|Ax1,· · · , A(bi+ci),· · · , Axn|=|Ax1,· · · , Abi+Aci,· · ·, Axn|

=|Ax1,· · · , Abi,· · · , Axn|+|Ax1,· · · , Aci,· · ·, Axn|

=F(x1,· · ·,bi,· · · ,xn) +F(a1,· · ·,ci,· · · ,xn).

F(x1,· · ·, rxi,· · ·,xn) =|Ax1,· · ·, A(rxi),· · ·, Axn|=|Ax1,· · · , r(Axi),· · · , Axn|

=r|Ax1,· · ·, Axi,· · ·, Axn|=rF(x1,· · ·,xi,· · ·,xn).

ゆえに定理12.4.1よりF(X) = |X| ·F(E) = |X| · |AE| = |X| · |A| = |A| · |X|である. 以上により

|AX|=|A| · |X|が示された.

次は7.1項で既に述べたことであるが念のためもう一度記しておこう. 命題 12.6.2. Aが可逆行列ならば|A| ̸= 0であり,とくに|A1|=|A|1.

Proof. 1 = |E| = |AA1| = |A| · |A1|から|A| ̸= 0を得る. また, この両辺を|A|で割ることで

|A1|=|A|1を得る.

上の命題の逆「|A| ̸= 0ならばAは可逆である」もまた正しい. その証明は次節で与えよう(定理 13.2.3).

13 余因子展開とクラメルの公式

11節における行列式の値の計算においては,サイズが一回り小さい行列式の計算に帰着させる手法を 繰り返し用いたのであった. この手法を理論的な立場から述べたものが余因子展開である. 本節では, 因子展開を通して, 2次正方行列の逆行列の公式:

A= [

a b c d ]

について, A1= 1 ad−bc

[

d −b

−c a

]

の一般化を与える. そして,この逆行列の表示から,これまで証明を避けてきた定理5.3.3が導かれる.

13.1 余因子展開

定義 13.1.1. n次正方行列A= [aij]の第i行と第j列を取り除いた残りの成分からなるn−1次正方行 列をAij とかく. すなわち,

A=









a1j

A

...

B

ai1 · · · aij · · · ain ...

C

alj

D









のとき Aij =





A B C D



.

13.1.2. A=



1 2 3 4 5 6 7 8 9

とすれば,A12= (

4 6 7 9

)

,A22= (

1 3 7 9

)

である.

列ベクトルによる成分表示をA= [a1,· · · ,an]とすれば,式12.4.1と同様にして,各ajは次のように 書ける:

aj =





a1j a2j ... anj





=a1je1+a2je2+· · ·+anjen.

したがって,補題12.3.1で示した行列式の多重線形性(2)により,|A|は次の和に分解できる:

|A|=|a1,· · · ,aj1, a1je1+a2je2+· · ·+anjen,aj+1,· · · ,an|

=a1j|a1,· · ·,e1,· · ·,an|+a2j|a1,· · ·,e2,· · ·,an|+· · ·+anj|a1,· · · ,en,· · ·,an|. (13.1.1)

更に,13.1.1に現れるi番目の項を計算すると

aij

a11 · · · 0 · · · a1n

... ... ... ... ... ai1 · · · 1 · · · ain

... ... ... ... ... an1 · · · 0 · · · ann

=aij(1)i1

ai1 · · · 1 · · · ain

a11 · · · 0 · · · a1n ... ... ... ... ... ... ... ... ... ... an1 · · · 0 · · · ann

(i行を1行へ移動させた)

=aij(1)i1(1)j1

1 ai1 · · · · ain

0 a11 · · · · a1n

... ... ... ... ... ... ... ... ... ... 0 an1 · · · · ann

(j列を1列へ移動させた)

=aij(1)i+j2

1 ai1 · · · ain 0

...

A ij

0

=aij(1)i+j|Aij|.

以上より,式13.1.1は次のように書き下される:

|A|=a1j(1)1+j|A1j|+a2j(1)2+j|A2j|+· · ·+anj(1)n+j|Anj|=

n i=1

aij(1)i+j|Aij|. 上の各項に現れる(1)i+j|Aij|A(i, j)-余因子(cofactor)と呼び,この展開式のことをj列に関す る余因子展開(cofactor expansion)という.

練習 13.1.3. j列の代わりにi行に関して同様の展開を行い,次の等式を示せ.

|A|=ai1(1)i+1|Ai1|+ai2(1)i+2|Ai2|+· · ·+ain(1)i+n|Ain|=

n j=1

aij(1)i+j|Aij|. 上式をi行に関する余因子展開という.

成分に0が多く現れる行列式の値を求める際に余因子展開は有効である. 例えば命題11.1.1おける左 の等号は1列目に関する余因子展開を,右の等号は1行目に関する余因子展開を意味する.

13.1.4. 次のk次正方行列について,

t 1

t 1

O

. .. . ..

O

t 1 a0 a1 · · · ak2 t+ak1

=tk+ak1tk1+· · ·+a1t+a0.

Proof. kに関する帰納法によって証明する. k= 2の場合は次の計算で確かめられる:

t 1 a0 t+a1

=t(t+a1)−a0·(1) =t2+a1t+a0.

サイズがk−1のときに等式が成立すると仮定して,サイズがkの場合の等式を示そう. 1列目に関して 左辺を余因子展開すると,1項目に帰納法の仮定が適用できる:

(左辺) =t

t 1 . .. . ..

t 1

a1 · · · ak2 t+ak1

+ (−1)k+1a0

1 t 1

. .. ...

t 1

=t(tk1+ak1tk2+· · ·+a2t+a1) + (1)k+1a0·(1)k1= (右辺).

なお,2項目の行列式の値は,転置して例11.1.2 を適用することで分かる.

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