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一般の基底

ドキュメント内 線形代数学講義ノート(2017/02/28ver) (ページ 123-127)

本項や17.3.1項では, ユークリッド空間Rnの部分空間における線形関係について例題を通して学ん だ. 一般の線形空間V におけるベクトルの組の独立性の判定や部分空間W ⊂V の基底選びは,V に関 する命題をRnに関する命題に翻訳したうえで行うことになる. 実は,独立性の判定や基底選びに限らず V の分析はRnの分析を通してなされる. この翻訳の基本理念は,線形空間V の基底u1,· · · ,unに関す る条件をRnの標準基底e1,· · ·,enの条件で述べることにある. また,翻訳作業においては,V のどの元 がRnのどの元に対応しているのかを表示するために写像概念が用いられる. そこで次節からしばらく の間,写像に関する概念を整理することにしよう.

命題 18.4.5. (1) W ⊂V V の部分空間であるとき,W =⟨W⟩.

(2) A⊂VV の部分集合であるとき,⟨⟨A⟩⟩=⟨A⟩.

Proof. (1): W ⊂ ⟨W⟩は明らかゆえ⟨W⟩ ⊂W を示す. v ∈ ⟨W⟩W の元による線形結合で書ける. また,W は線形結合で閉じている(命題16.1.6)ゆえv∈W.

(2): W :=⟨A⟩について(1)を適用すればよい. RNのように基底を書き下すことが難しい空間もある.

18.4.6. 数列空間RNにおいて, 第n項が1でそれ以外の項がすべて0となる数列をenと書けば, A={en|n∈N}は線形独立である. しかし,ARNを生成しない. 実際,すべての項が1となる数列

x= (1,1, . . .)Aの元から有限個を取りだした組による線形結合で書くことはできない.

そもそも線形空間に必ず基底が存在するかどうかということ自体が明らかではない. ツォルンの補 題46と呼ばれる集合論における原理を適用することで,次の定理が証明できることが知られている. 詳し い証明は集合論の入門的参考書を参照せよ.

定理 18.4.7. いかなるベクトル空間V も基底A V を持つ. 更に, あらかじめ線形独立な部分集合 B ⊂V が与えられている場合は,B ⊂Aを満たすように基底Aを取ることができる.

上の定理は基底の存在を超越的に示すものであり,基底の形が明示的に書けることは意味しない. 基底 の表示が与えられなければ,本論全体を通しての主題でもある基底を用いた分析は行えない. このような 線形空間を調べる際は,線形空間に位相47と呼ばれる構造を導入し,極限操作を手掛かりに分析すること になる.

46多くの理工系学部の数学科では, 2年次の集合論の講義で学ぶことになっている.

47点列の収束発散や写像の連続性を議論できるようにするための枠組み(数学的構造)を位相(topology)という.

発展(最小の部分空間).

部分集合A⊂V が生成する部分空間⟨A⟩を次のように定義する流儀もある.

定義 18.4.8. 線形空間V の部分集合A⊂V に対して,Aを含む最小のV の部分空間を⟨A⟩とする. ここでいう最小とは, 包含関係に関して最も小さいということである. 上の定義の利点は少ない 言葉で済むこと,そして空集合は自明な部分空間{0}を生成することになり,{0}の基底であ ると約束する手間が省けることにある. 一方,欠点は,Aを含む最小の部分空間はそもそも存在する かという疑問にあらかじめ答えておかねばならないことである. これは集合の共通部分をとる演算

∩を用いて正当化される. この点について解説しよう.

V の部分集合たちを集めた集合Wが与えられているとする(すなわちWは集合の集合であり,こ のような集合は集合族と呼ばれる). このとき,各W ∈ Wのいずれにも含まれている元をすべて集 めたV の部分集合を

Wと書く. すなわち,

W :={v∈V |W ∈ Wについてv ∈W }

(つまり,v

W ⇐⇒ W ∈ Wについてv ∈W).

ここで,W は無数に多くの集合たちを元として含む無限集合でもよい. このとき,∩

W はそれら無 限個の集合たちの共通部分に相当する集合である.

さて,Aを含むV の部分空間たち全体からなる集合族をWとしよう. Wは空集合ではない. 故なら,V 自身はAを含むV の部分空間であるからV ∈ Wである. このとき,U :=∩

Wと定めれ

ば,UAを含む最小の部分空間である.

Proof. 示すべきことは(1)A⊂U,および(2)U が部分空間であること, (3)UAを含む部分空間 の中で最小であることの三つである.

(1): A⊂Uを示すために任意にa∈Aを取る. a∈Uをいうには,W ∈ Wについてa∈W 示せばよい. 各W ∈ WについてWAを含む部分空間(つまりA⊂W)であった. a∈Aおよび A⊂W ゆえa∈W である. 以上より「a∈A = a∈U」が示された. つまりA⊂U.

(2): 各W ∈ W 0V を含むゆえ0V U である. 次にx,y U とすればrx+sy U とな ることを示そう. そのためには各W ∈ Wについてrx+sy ∈W を示せばよい. x,y ∈U より各 W ∈ W においてx,y∈W であり, W が部分空間であることからrx+sy∈W を得る. したがっrx+sy∈U. 部分空間となるための条件(i)(iv)が示されたゆえ,W V の部分空間である.

(3): Aを含む任意のV の部分空間Hについて,U ⊂Hとなることを示せばよい. Aを含むV の 部分空間Hを勝手に取ればH ∈ Wである. U =∩

W の定義により, 各W ∈ WについてU ⊂W であるから,とくにU ⊂H.

このUが定義18.4.2における⟨A⟩と一致することは次のように示される.

Proof. (⟨A⟩ ⊂U): A⊂U より⟨A⟩ ⊂ ⟨U⟩=U (命題18.4.5(1)).

(U ⊂ ⟨A⟩): ⟨A⟩Aを含むV の部分空間である(つまり⟨A⟩ ∈ W). Uの最小性よりU ⊂ ⟨A⟩.

19 写像概念の基礎

写像に関する概念のいくつかを述べる. これらの必要性は14節の冒頭で述べた通りである. 本節では 概念をひたすら提示することに終始するゆえ,読者はやや退屈に感じるかもしれない. そこで予告の意味 を込めて,これらの概念が線形写像の性質とどう結び付くかを各項末で述べた.

A(m, n)-行列Aとする. 次で定められる写像TAは本論全体を通して何度も論じられる:

TA:RnRm, TA(x) :=Ax.

19.1 像と逆像

集合Xから集合Y への写像f :X →Y におけるXのことを定義域(domain)と呼ぶのであった. 定 義域は始域(source)とも呼ばれる. また,このfにおけるY のことを終域(target)と呼ぶ. 定義域と始 域の概念を更に細かく区別して用いる文献もある. 他方で,定義域に対応する語句として値域(range) 使う文献もあるが,これを終域の意味で使うのであれば高校数学における値域とは意味が異なる. こうし た混乱を避けるため, 本論では始域および値域という呼称を控えよう. 高校数学においてfの値域と呼 んでいた概念を,本論では像と呼ぶ:

定義 19.1.1. 写像f :X→Y および定義域の部分集合A⊂Xに対して,Aの元をf に代入した値をす べて集めたY の部分集合をfによるAの像(image)と呼び,これをf(A)と書く. すなわち,外延的記述 をすれば

f(A) :={f(x)|x∈A}. とくにf(X)のこと,つまりf(x)の動く範囲を単にfの像と呼ぶ. 練習 19.1.2. 次で与えられる関数fの像を求めよ.

(1) f :RR,f(x) =x2. 解答: f(R) = [0,).

(2) f : [0,2]R,f(x) =x2. 解答: f([0,2]) = [0,4].

(3) f : [−2,2][0,4], f(x) =x2. 解答: f([−2,2]) = [0,4].

(4) f : [0,2][0,4], f(x) =x2. 解答: f([0,2]) = [0,4].

定義 19.1.3. 写像f :X→Y および終域の部分集合B ⊂Y に対して,fに代入するとBの元になるよ うな元をすべて集めたXの部分集合をfによるBの逆像(inverse image)と呼び,これをf1(B)と表 す. すなわち,内包的記述をすれば

f1(B) :={x∈X|f(x)∈B}.

また,点b∈Y に対して,一点集合{b}の逆像f1({b})のことを中括弧を略してf1(b)と書く.

一点の逆像の記号f1(b),f1なる写像にbを代入した値のことではない. f1(b)Xの元ではな く, Xの部分集合である. また,一点集合になるとは限らず,複数の点を含むこともあれば空集合になる 場合もある.

19.1.4. 次で定められる関数f :RRおよびb∈Rについてf1(b)を求めよ. (1) f(x) =x2, b= 2,−2. 解答: f1(2) ={√

2,−√

2},f1(−2) =∅.

(2) f(x) = sinx, b= 0. 解答: f1(0) ={nπ|n∈Z}. (3) f(x) = 2x, b= 1. 解答: f1(1) ={0}.

写像f, g:X→Y が等しい(f =g)とは,定義域のいかなる元を代入しても一致すること,すなわち

x∈Xについてf(x) =g(x) (19.1.1)

が成り立つことに他ならない. 上の条件(19.1.1)が成立するとき, 恒等的にfgは等しいと言い, れを記号でf(x) g(x)と書く. なお, 誤解の恐れがない多くの場合において, f(x) g(x)のことを f(x) =g(x)とも書く. また, fXの各元をある一点b∈Y に対応させる定置写像(定数関数)である とき(つまりf(x)≡bであるとき),これをf(x) =bあるいはf =bと書くことがある. 後者の表記を認 めれば,定数関数1 (0次多項式)を1と書いてよいことになる. ただし,集合の元と写像を等号で結ぶこ のような使い方には誤解が生じる恐れもあり,気をつける必要がある. 線形代数の文脈においては,すべ ての元を零元に対応させる写像f :U →V のことをf =0V と書く.

定値写像f :X →Y (f =b) において,f(X) ={b}およびf1(b) =Xである. 以降で学ぶこと

写像の像と逆像は,線形代数の枠組みにおいても詳しく調べられる. その理由は線形写像による部分空 間の像や逆像が再び部分空間となることにある. 特に,線形写像f の像には特別な記号が割り当てられ, Imfと書かれる. また,f の原点による逆像f1(0)にも特別な記号Kerfが用いられる. 行列Aの階数 がImTAの次元に一致すること,および同次形連立1次方程式Ax=0の解空間がKerTAで表されるこ と(例22.1.3(2))を通して次元公式(例23.2.5)が説明される.

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