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周年を祝して

ドキュメント内 大 気 海 洋 研 究 所 創 立 50 年 を 迎 えて (ページ 180-184)

第 6 章   大型研究計画の推進

大気海洋研究所 50 周年を祝して

●濱田純一

[東京大学総長]

 大気海洋研究所の 50 周年を祝して,一言ご挨拶を申し上げる.

 こんにち,地球温暖化,異常気象,生物多様性の消失,資源枯渇,海洋汚染,海洋酸性化などの地球 環境問題への取り組みが,人類にとってきわめて重要な課題となっている.地球表面の 70%を占める 海洋は独自の巨大な生命圏を擁するとともに,地球の気候を支配している.一方,気候変動は海洋生態 系に大きな影響を及ぼす.こうした海洋と大気との相互関係の中で,人類が生活する地球表層圏が成立 している.世界で 6 番目に広い排他的経済水域(EEZ)を持つ海洋国である日本は,世界の先頭に立っ てこれらの地球環境問題に取り組む責務を有している.東京大学は研究・教育の面からその取り組みに おける先導役を果たしてきたが,大気海洋研究所はその重要な部分を担ってきた.

 大気海洋研究所は,2010 年 4 月 1 日に海洋研究所と気候システム研究センターという 2 つの流れが合 流して設立されたが,その源流のひとつである海洋研究所は,50 年前の 1962 年の発足以来,海洋に関 する先進的な研究を推進し,目覚ましい成果を挙げてきた.さらに全国共同利用研究所として,学術研 究船「白鳳丸」および「淡青丸」を全国の研究者の共同利用に供し,わが国のみならず世界の海洋科学 の発展に大きく貢献してきた.もう一方の源流の気候システム研究センターは,21 年前の 1991 年の設 立以来,先駆的な数値モデルを開発・駆使して気候変動研究において大きな成果を挙げてきた.さらに 全国共同利用研究センターとして,気候研究における計算機資源の全国共同利用を推進するとともに,

国際的にも「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」に多大な貢献をするなど,大きな働きをしてき た.

 ところで 2010 年の大気海洋研究所の設立は,私にとっても非常に印象深い出来事であった.上記の ように大きな成果を挙げてきた海洋研究所と気候システム研究センターが,それぞれの活動をさらに大 きく展開するために,2007 年頃から組織統合の可能性まで含めて連携の検討を進めているのを,当時,

理事・副学長として私は注目していた.というのも,私自身,新聞研究所から社会情報研究所,そして 情報学環へという組織の展開に,所長・学環長等として関わるという経験をしてきたためである.時代 の要請にしっかり応えるために,研究教育の組織や活動のあり方を真剣に求める議論とその結論を実現 することの意義とともに,その大変さはよく知っている.したがって,海洋研究所と気候システム研究 センターの新たな展開への真剣な議論と取り組みを,敬意を持って注視していたわけである.総長室は 小宮山前総長の時代から,両組織のそうした努力を見守り,また議論の推進に必要な援助をしてきた.

私が総長になった 2009 年には議論も熟し,大気海洋研究所設立準備がいよいよ大詰めの段階に入って おり,翌年 4 月にめでたく発足することになった.こうしたことから,2010 年 7 月に柏キャンパスに新 築された大気海洋研究所棟で開催された設立記念式典には一際感慨深いものがあった.

 私と本所との関わりは,大気海洋研究所としての新しい歩みが始まり 1 年が経とうとする 2011 年 3 月 11 日の忘れえない出来事により,さらに新たな面を有することになった.東日本の各地に大災害が生 ずる中で,岩手県大槌町にある本所附属国際沿岸海洋研究センターは,本学で最大となる壊滅的被害を 受けた.これまでに国際沿岸海洋研究センターの復興,そしてそれを礎とした東北の復興へ向けて,本

vii

大気海洋研究所 50 周年を祝して

学としても可能な限りの努力は行ってきたが,本所と同センターが大きな被災を跳ね返し,活発な活動 を再開していることに,深い敬意を表する.私は,東京大学がこの大災害からの復興にどのような役割 を果たせるかは,本学の存在意義の一種の試金石であると考えている.私としても,引き続きできるだ けの貢献を行い,大学の使命を果たすために共に働く所存である.

 大気海洋研究所の活動の場が柏キャンパスであるということも大変意義深いものがある.東京大学は 柏キャンパスを,本郷キャンパス,駒場キャンパスとともに,世界のセンター・オブ・エクセレンスと しての東京大学を形作る「三極構造」の一極と位置づけている.この中で,柏キャンパスは最も若く,

さらなる強化・充実が求められている.本所が柏キャンパスの地で活発に活動されることを,私はたい へん期待している.

 東京大学は現在,中期ビジョンとして行動シナリオ「FOREST2015」を掲げている.FOREST とは,

Frontline【つねに日本の学術の最前線に立つ大学】,Openness【多様な人々や世界に対して広く開かれ た存在】,Responsibility【日本と世界の未来を担う責任感】,Excellence【教育研究活動における卓越性】,

Sustainability【それらを持続させていく力と体制】,Toughness【知に裏打ちされた強靭さを備えた構 成員】を意味する.国立大学法人化による改革は,土壌づくりと「木を動かす」段階から,「森を動かす」

段階にきており,まさに知の森の生態系をサステイナブルに発展させる時期となっている.

 このような時,本学における海洋研究と気候研究との二つの流れを合流させた大気海洋研究所が,人 類を含む多くの生物にとって本質的な意味を持つ大気・海洋を対象にした知のフロンティアに挑んでい るのは素晴らしいことであり,大変心強い.この勢いをさらに強め,人類と生物の生存基盤である地球 表層圏の統合的な振る舞いを地球規模でかつ全地球史的な視点から解明するとともに,その将来に関す る知見を得るという目標に邁進していただきたい.全国共同利用のシステムを引き継いだ「共同利用・

共同研究拠点」としても,その力を大いに発揮していただけるものと期待している.同時に,こうして 高めた普遍的な知の力を,大震災により東北で起きた現象やその実態の理解および復興という具体的・

地域的な課題にも発揮してくださることを願っている.

 私の総長としての任期の初期に新たな歩みを開始した,そして東北復興への本学の貢献における橋頭 堡でもある大気海洋研究所に,私は今後も注目していきたいし,必要な支援を惜しまない所存である.

本所が東京大学の誇りうる,世界を担う知の拠点としてますます活躍されることを切に期待して,私の お祝いの言葉とする.

viii 大気海洋研究所の 50 周年に寄せて

 1962 年 4 月に東京大学附置全国共同利用研究所として設置された海洋研究所は,当初の計画である 15 研究部門,大・小 2 隻の研究船に加え,臨海研究施設の目鼻もついて,創設期からまさに発展期に入ろ うとする時期,1973 年 4 月に,私は海洋気象研究部門を担当すべく海洋研究所に着任した.その年に三 陸沿岸の大槌町に設置された臨海研究センターは,その後,国際沿岸海洋研究センターへと発展したが,

2011 年 3 月 11 日の東日本大震災でその施設は壊滅的な被害を蒙った.地元の大槌町と共に,より魅力 的な施設への一日も早い復興を願っている.

 さて,人工衛星による宇宙からの地球観測が始まった 1960 年代,国際学術連合会議(ICSU)と世界 気象機構(WMO)が協力して,大気大循環の物理機構を明らかにして,天気予報の精度向上と予報期 間の延長をはかるべく,地球大気研究計画(GARP)を立案し,いくつかの副(地域)計画を先行させつつ,

1970 年代に実施した.それら副計画の 1 つでありわが国が主導する気団変質実験(AMTEX)が 3 年計 画(1973 〜 1975 年)として実施された.冬季,日本周辺海洋上での気団変質過程と低気圧の急激な発達 機構に関する研究である.

 AMTEX に参加する国内外諸機関の研究実施計画の調整,南西諸島を中心とした観測体制の整備等 に奔走している時期に私の海洋研への転勤が重なったため,移転に伴う諸々の準備をする余裕がなかっ た,当時,官舎住いをされていた高橋浩一郎先生(気象庁長官)がしばらく御自宅を使うようにという 御厚意に甘えた.地価急騰の時期と重なり,家さがしの苦労は苦い思い出となっている.

 しばらくして西脇昌治所長から,海洋研創設時の計画が完了する機会に,また,設立 15 周年を迎え るに先立って,各研究部門がそれぞれ 1 巻を分担執筆する海洋学講座全 15 巻を東京大学出版会から刊行 することになっており,既に大部分出揃っている,急ぐようにと尻をたたかれた.早速,前任者の小倉 義光教授(イリノイ大学)の御指導と分担執筆者の協力を得て,進行中の AMTEX にかかわる研究成果 や海洋気象分野の研究の展望等を内容とする『海洋気象』が海洋学講座第 3 巻として 1975 年 11 月に発 刊された.幸運にも,その直後の 12 月 24 日,赤坂の東宮御所で皇太子殿下(現天皇陛下)に「海洋と気 象」について御進講する機会に恵まれ,その折,出版されたばかりの『海洋気象』一冊を献本すること ができた.それから十数年後の 1987 年 12 月 11 日,再度東宮御所で「衛星リモートセンシング」について,

高木幹雄教授(東京大学生産技術研究所)らと御進講の機会を得た.当時,実施中の科研費・特定研究「宇 宙からのリモートセンシング・データの高次利用に関する研究」(1985 〜 1987 年)の成果を主要な内容 とするものであり,植木文部省学術国際局長も同席され,前例がないプロジェクターを使ってのなごや かな懇談形式に近い御進講となった.

 話は前後したが,1970 年代に実施された GARP の成果をさらに発展させるべく,1980 年代に入って,

気候とその変動の物理学的基礎を築くために世界気候研究計画(WCRP)が立案され,開始されること になった.海洋研究科学委員会(SCOR/ICSU)と政府間海洋学委員会(IOC/UNESCO)の合同組織「気 候変化と海洋に関する委員会(CCCO)」は,世界的な海洋観測が世界気象監視(WWW)に比して圧倒 的に不足しているので,世界海洋観測網を構想する前に,その中核となるような観測海域,観測手法・

大気海洋研究の国際拠点へ

●浅井冨雄

[元海洋研究所所長]

ドキュメント内 大 気 海 洋 研 究 所 創 立 50 年 を 迎 えて (ページ 180-184)