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年に向かって

ドキュメント内 大 気 海 洋 研 究 所 創 立 50 年 を 迎 えて (ページ 194-200)

第 6 章   大型研究計画の推進

次の 50 年に向かって

●西田 睦

[元海洋研究所所長・元大気海洋研究所所長]

 2012 年春の定年退職まで,私は本所で 13 年を過ごさせてもらった.ここでは,この間を振り返って みて思いつくことを,いくつか記してみたい.

 まず,たいへんありがたく思い出されるのは,自由に,思う存分に研究ができたことである.まこと に幸せなことであった.赴任してすぐの 1999 年から,文部科学省の新プログラム方式のプロジェクト「海 洋生命系のダイナミクス」を,塚本勝巳教授を中心に木暮一啓教授らと準備することになった.幸いこ れは採択され,2000 年から 5 年ばかり,本所の同僚および全国の多くの研究者たちとこれを推進した.

そのころの記憶は,今でも私の中で輝いている.

 赴任してすぐということで,もうひとつ思い出した.私が本所に赴任した 1999 年は今の天皇の在位 10 年ということで,記念行事がいろいろと催された年度であった.政府筋でいろいろな行事が検討さ れる中で,文部科学省関連では,魚類学を中心にした国際会議を催すのがよいのではないかという話が 出てきたようで,その具体化のお世話を本所ですることになった.そしてなぜかその係が私に回ってき た.赴任早々で驚いたが,研究仲間や研究室の皆さんの協力を得て,魚類の多様性に関する国際シンポ ジウムを企画した.盛会となったシンポジウムのレセプションでは,主催組織の長として平啓介所長が 挨拶をされた.この経験はやや特殊なものであったかもしれないが,赴任早々の私に,本所の存在意義

―海洋に関わる学術研究における日本での中心的世話役としての使命を背負った組織なのだというこ と―をはっきりと教えてくれた.

 その後,2007 年春から 4 年間,私は所長の職を預かることになった.本書の第 I 部のタイトルには「20 世紀から 21 世紀へ―激動の 20 年」とあるが,まさにこの 20 年を締めくくるにふさわしいと言ってい いくらい,じつに多くのことのあった 4 年間だった.おもなものを挙げるだけでも,柏キャンパスへの 移転,大気海洋研究所への展開,大槌の国際沿岸海洋研究センターの被災があった.ほかにも,忘れら れない,あるいは忘れてはならない多くのことがあった.何とかこれらを切り抜けることができたのは,

本所の構成員の協力・尽力のおかげと言うほかない.ふだんは目に触れない各構成員の献身的な働き(そ のときには,必ずしも結果が稔らなかった代船建造や概算要求などの準備作業を含む)が,組織を支え,将 来の発展を準備しているということを痛感した.ましてや,新たなものを創りあげる新棟建造や大気海 洋研究所設立などにおいては,よいプランを作り,それを成功裏に実施するのに発揮された多くのメン バーの知恵と労力がいかに優れており大きかったか…….いま思い出してみても,個々の局面で尽力し ていた人たちの姿が,感謝の念とともに目に浮かぶ.准教授・講師層の積極性も心強かった.こうした 構成員の誠実性と力量,そして若い人たちの積極性がある限り,本所の将来に間違いはないと確信する.

 海洋研究所の所長を仰せつかったときには,柏キャンパスへの移転を数年後に控えていた.まずはこ れを成功裏に成し遂げることが重要な使命であると考え,私なりに力を尽くした.2010 年の春に,中 野から柏に一気に移転し,外光がうまく取り込まれて明るい新棟(大気海洋研究棟)で皆が活動を開始 したのを見届けたときは,本当にうれしかった.

 一方,移転の重要性を考えたのと同時に,この機会にさらに所の積極的な展開を図る必要があるので

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次の 50 年に向かって

はないかとも考えた.2004 年の研究船移管によって,海洋研究所は教職員数も予算規模も半分近くに なってしまった.移管後も本所は誠意をもって研究船の共同利用の運営を行っているが,これだけでは どうも淋しい.それならば,この状況を逆手に取って,新たな展開を図ればよいのではないか.つま り,かつては研究船を有していたがゆえにあえて手を出さなかった研究分野へも,大いに進出していけ ばよいのではないかと考えた.そこで,気候システム研究センターとの連携について議論を開始した.

幸いなことにこの議論は生産的に進み,大気海洋研究所への発展という形に結実した.大規模な数値モ デルを駆使した地球環境変動研究という重要な手法と分野にまでレパートリーが広がったのである.シ ナジー効果も大いに期待できる.建物・施設とともに組織も拡充して次の 50 年の入口に立てたことは,

たいへんよかったと思っている.

 少し長い時間スケールで俯瞰的に見てみると,海洋研究所や気候システム研究センターが設置された 時代は,日本経済が高度成長をしていた時期,そしてその余波が残っていた時期だったことが分かる.

いまや状況は大きく変化した.日本はおそらく 1 世紀以上にわたって人口が減少し続け,従来型の経済 成長は見込めない時代に入った.世界も急速に変わっていく.これは決して悲観すべきことではないと 思うが,ただし,この流れの中で本所が活発に活動を継続し,その使命を的確に果たしていくには,大 事な前提条件があると思う.それは,発想の不断の革新である.これから,本所の役割はますます重要 になってくるはずだ.次の 50 年は,今までとは大きく異なる.それを新しい態勢で迎えることのでき るメリットを大いに生かして,斬新な発想で大気海洋科学の「知の拠点」・「理性の砦」として本所がま すます活躍することを心から願っている.

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目  次

 

写真で見る 50 年の歩み リサーチハイライト

巻頭言 大気海洋研究所創立 50 年を迎えて[新野 宏]i

大気海洋研究所の 50 周年に寄せて 

大気海洋研究所 50 周年を祝して[濱田純一]vi 大気海洋研究の国際拠点へ[浅井冨雄]viii 大気海洋研究所設立 50 周年を祝して[平 啓介]x 法人化前後の海洋研究所[小池勲夫]xii

気候システム研究センター設立前史[松野太郎]xiv 気候システム研究センター創設時の思い出[住 明正]xvi 新たな大気海洋研究の出発に向けて[中島映至]xviii 次の 50 年に向かって[西田 睦]xx

序章 発足からの 50 年間をふりかえって 

0―1 はじめに ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 4

0―2 海洋研究所 50 年間の小史 ――――――――――――――――――――――――――――――― 4  0―2―1 設立までの経緯(〜 1962 年 3 月) 4

 0―2―2 設立からの 30 年間(1962 年 4 月〜 1992 年 3 月) 5  0―2―3 海洋研究所の発展(1992 年 4 月〜 2010 年 3 月) 7

0―3 気候システム研究センターの小史  ―――――――――――――――――――――――――― 9  0―3―1 設立までの経緯(〜 1991 年 3 月) 9

 0―3―2 設立からの 10 年間(1991 年 4 月〜 2001 年 3 月) 9

 0―3―3 気候システム研究センターの発展(2001 年 4 月〜 2010 年 3 月) 10

0―4 大気海洋研究所の小史 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 11  0―4―1 設立までの経緯(〜 2010 年 3 月) 11

 0―4―2 大気海洋研究所の基本理念・基本目標・組織の基本構想 12  0―4―3 設立から現在まで(2010 年 4 月〜 2012 年 3 月) 13

(1)開所に関するイベント/(2)大気海洋研究所の組織構成/(3)大気海洋研究所の活動/

(4)東日本大震災への対応と復興/(5)淡青丸の代船建造

0―5 おわりに ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 16

xxiv 目   次 

第 I 部 20 世紀から 21 世紀へ 激動の 20 年

[1991〜2012]

第 1 章 気候システム研究センターの設立と発展 

1―1 気候システム研究センターの設立(1991 年) ――――――――――――――――――――  22

1―2 気候システム研究センターの第 2 期への発展――――――――――――――――――――  23

1―3 気候システム研究センターの移転  ――――――――――――――――――――――――――  24

第 2 章 海洋研究所の活動の展開と柏キャンパスへの移転

2―1 海洋研究所の研究組織の充実 ―――――――――――――――――――――――――――――  28  2―1―1 海洋研究所研究部門の改組 28

 2―1―2 大槌臨海研究センターから国際沿岸海洋研究センターへの改組 29  2―1―3 海洋科学国際共同研究センターの設置 30

 2―1―4 海洋環境研究センターの設置と先端海洋システム研究センターへの改組 31

2―2 新領域創成科学研究科への参画  ―――――――――――――――――――――――――――  32

2―3 国立大学法人化にともなう組織・運営体制の変化 ―――――――――――――――――  33

2―4 学術研究船の移管  ―――――――――――――――――――――――――――――――――――  35  2―4―1 移管の経緯(2001 年 12 月〜 2004 年 3 月) 35

 2―4―2 運航体制(2004 年 4 月〜) 37

2―5 大学院教育上の問題と対応  ――――――――――――――――――――――――――――――  38

2―6 海洋研究所の移転  ―――――――――――――――――――――――――――――――――――  38  2―6―1 柏移転前史 38

 2―6―2 柏移転準備の開始 40  2―6―3 要求水準書の作成 41

 2―6―4 大気海洋研究棟の建設と移転実施 42  2―6―5 移転後のフォローアップ 42

第 3 章 大気海洋研究所の設立への歩み

3―1 大気海洋研究所の設立 ―――――――――――――――――――――――――――――――――  46  3―1―1 設立の背景 46

 3―1―2 設立準備の開始 47  3―1―3 設立準備の本格化 49  3―1―4 設立準備の最終段階 51  3―1―5 設  立 52

3―2 研究組織の改組 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――  53  3―2―1 研究組織の 3 研究系への再編 53

 3―2―2 国際沿岸海洋研究センターの発展 54

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目   次 

 3―2―3 海洋科学国際共同研究センターの改組 55   3―2―4 地球表層圏変動研究センターの設置 56  3―2―5 共同利用共同研究推進センターの設置 57

3―3 研究所運営・諸活動の充実  ――――――――――――――――――――――――――――――  58  3―3―1 研究所運営面の充実 58

 3―3―2 福利厚生を通じた所内連携の強化 61

第 4 章 大気海洋研究所の組織と活動

4―1 共同利用と国内外共同研究の展開  ――――――――――――――――――――――――――  64  4―1―1 共同利用研究所から共同利用・共同研究拠点へ 64

 4―1―2 淡青丸代船建造に向けての努力 65  4―1―3 共同利用・共同研究 67

(1)学術研究船の共同利用・共同研究/(2)陸上共同利用・共同研究/(3)学際連携研究の 新設

 4―1―4 共同利用共同研究推進センターの活動 70

 4―1―5 国際学術交流協定,外国人客員教員,外国人研究員 71

4―2 教育・啓発活動の推進 ―――――――――――――――――――――――――――――――――  72  4―2―1 大学院教育 72

(1)理学系研究科/(2)農学生命科学研究科/(3)新領域創成科学研究科/(4)総合文化 研究科/(5)工学系研究科/(6)大気海洋研究所としての大学院教育 

 4―2―2 学部学生の教育 75

 4―2―3 学内外と連携した教育研究活動 75

(1)内田海洋学術基金/(2)新世紀を拓く深海科学リーダーシッププログラム/(3)海洋ア ライアンス/(4)21 世紀 COE プログラムおよびグローバル COE プログラム 

 4―2―4 教科書などの作成 77  4―2―5 アウトリーチ活動 78

4―3 東日本大震災への対応と復興 ―――――――――――――――――――――――――――――  79  4―3―1 国際沿岸海洋研究センターの被災 79

 4―3―2 震災への対応と復興への取り組み 80

(1)災害対策本部の設置と直後の対応/(2)地元復興への協力と沿岸センター復興に向けて の活動の開始

 4―3―3 震災対応研究航海 83  4―3―4 復興に向けた研究活動 84

第 II 部 この 20 年における研究活動

[1991〜2012]

第 5 章 研究系と研究センターの活動

ドキュメント内 大 気 海 洋 研 究 所 創 立 50 年 を 迎 えて (ページ 194-200)