研究報告 「連合試験選抜から大学主体の「多元入学」へ」
はじめに
1.高等教育の構造と規模
(l)高等教育機関の稽類
(2)進学率 2.大学入試の概要
(1)入学入試改革の変遷
(2)現行の大学入試の什組み 3.入試の多様化
(1)入試多様化の背景と目指す方向
(2)共通試験における多様化
(:り 個別入学の入学者選抜における多様化 4.高級中学(高校)における進路指導 5.入試広報と高人連携
(l)入試広報
(2)高大連携
6.「多元入学」の成果と課題
(1)多元入学の成果
(2)多元入学の課題 実地調査報告(2006年)
はじめに
中国や韓国の激しい受験競争が我が国にしばしば報道され,よく知られるようになって いるが,じつは台湾の受験競争も劣らず非常な熱を帯びて展開されてきた。その受験競争 が学校教育にもたらす知育偏毛や創造性育成の欠如など様々な弊害を克服しようと,台湾 でも1990年代から入学入試改革に取り組んでいる。先導的な改革試行をへて2002年から 実施された「多元入学」と呼ばれる大学主二休の入試選抜制度が,そうした入試改革におけ る一一つの回答である。。
台湾ではそれまで連合試験(聯考)によって成績順に合格先を振り分けていく入学入試 が行われ,ここには大学が学生の選抜に関与する余地はほとんどなかった。多元入学では こうした連合試験による選抜方式を一方で残しながら,大学が独白の選抜方法や判定基準 を設け,独自に募集選考する方法も取り入れ,2006年度は2割程度の学年が後者の方法 で入学するようになった。政府はさらにその割合を高めようとしている。
このように台湾では我が国のAO入試,中国の独自事前選抜などに類似する選抜方式を 含む「多元入学」という新たな大学入試が開始され,進められている。本章ではこの多元 入学についてその背景や経緯,具体的な実施方法を明らかにするとともに,そこにみられ
る我が国などとの共通性と相違点を意識しながら,成果と課題を分析整理した。
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1.高等教育の構造と規模
アジア・ニーズの 一角として1980年代以降,めざましい経済発展を遂げた台湾では,
経済発展とともに進んだ艮主化を背景に教育が人きく普及拡大した。高等教育についても 18−21歳人口に対する高等教育機関在学者の比率は,該当年齢外の在学者を含めた総在 学率でみると,1980年の16%から2005年には82%へと人幅に増えたく1当該年齢の在学 者だけをとった純在学率でも,2005年58%と,5割を越えている。わずか25年で台湾の 高等教育は,人衆化段階を駆け抜け,ユニバーサル段階へと進んだ■l)。こうした急速な 高等教育の規模拡大は,韓国のそれと非常に似通っている。
(1)高等教育機関の種類
台湾の高等教育機関は,人きく分けると,大学と専科学校の2種板に分かれるLJ専科学 校は短大レベルの機関であるが,規模からみれば,非常に小さく,機関数,学生数ともに
大学が高等教育の大部分を占めている。また,設置者からみれば,台湾のいわゆる「国れ 及び市・県立の公立セクターのほか,私立がある。公立セクターではほとんどが「国立」
であるが,全体では学生数の7割以卜を私立人草が占めている(表1)。
①大学
人学には総合大学である「大学」と単科大学である「独立学院」(ともに原語)がある.。
総合大学はいくつかの学院から構成される。学L課程(本科)の修業年限は一般に4年で ある。法律及び建築系で 一部の大学に5年の課程がある。また,歯学部が6年,医学部が7 年となっている。
また大学の一一種類として「科学技術大学」及び「技術学院」(ともに原語)がある。技 術系人材を養成する入学で,2年制専科学校卒業者を入学させる2年課程と,職業高校(高 級職業学校)卒業者を入学させる4年課程とがある。
大学院は「研究所」(原語)と呼ばれ,修士課程(碩士班)は専攻によってl〜4年,
博士課程(博士班)は修士取得後の2〜7年の年限を要する。
(∋専科学校
専科学校は中学校(原語・国民中学)後入学する5年制専科学校と■計交(原語・高級中 学)後入学する2年制専科学校とがある。中堅レベルの技術者を養成する学校である。2 年制専科課程を設けている大学もある=
表1 高等教育機関数及び学生数(2005年)
機 関 数 (構 成 比 ) :私 立 % 学 生 数 (人 )(構 成 比 ) :私 \一差(沌 入 学 14 5 (紬 5 ノ 銅 ,β 大 学 本 科 9 5 8 ,6 4 8 仲 2 .j ノ
2 年 制 7 8 ,6 8 2 「7.7ノ
7 j .7 9 仇 2 射 .2 う ち 総 合 人 草 8 9 β4 .9 ノ J j .9
単 科 入 学 5 6 (3 4 .6 ノ β2 .ノ
専 科 学 校 17 〃0 .5 ノ β2 .4 専 科
計 1 6 2 〃 0 0 .0 ノ 計 1,0 17 ,3 5 0 伽 〃.〃ノ
(往)2年制専科には、入学の専科課程在学者 ̄を含む)
(出典)台湾教台部『中華民国 教育統計 200()』2〜3日
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(2)進学率
先に述べたように190年代以降,高等教育の拡人が急速に進んだが,とくに1990年代 後半から2000年代前一半にかけて拡大は大きく一一気に進んだJ総在学率(18−¶21歳人口 に対する応等教育総在学者)でみると,1995年の39%から2005年に82%へ2倍以上に 膨らんだ。
18歳人口を分付にした高等教育進学率は台湾では発表されていない。発表されている 進学率には,普通高校である「高級中学」卒業者及び職業高校である「高級職業学校」卒 業者の進学率がある。2005年のそれぞれの進学率は,85%,76%となっている。後期[い 等教育機関にはこのほか5年制の専科学校があるが,1学年の生徒数は後期中等教育学校 で6%程度に過ぎないn また,義務教育である国民中学から後期中等教育への進学率は 2005牛95%であり,この進学率は2000年以降同程度で推移している■、じノ。
したがって,高級中学,高級職業学校のいずれの学校卒業者も8割,7割以上進学して いることからずれば,18歳人口を分杜にした場合の進学率はゆうに50%を超えることが 容易に推測され,在学率でみた場合と同様に,台湾の高等教育がユニバーサル化している
ということができよう。なお,統計データとして公表されていないが,教育部は2007年 進学率「61%」という数字を明らかにしている(2007年73月5日筆者インタビュー)。
表2 高級中学及び高級職業学校卒業者の進学率(%)
牛 19 9 0 】9 9 5 2 0 0 0 2 0 0 5 19 9 0 1 9 9 5 2 0 0 0 2 0 0 5 高 級 中 学 4 8 .6 5 6 ,6 6 8 .7 8 5 .2 (参 考 )国 民 中 学 卒 業 者 進 学 率
8 4 .7 89 .2 9 5 .3 9 4 .9 高 級 職 業 学 校 12 .9 17 ,8 3 8 .4 7 6 .1
(出典)fT湾教育湘『中や民国 教育統計 2006』35貞 2.大学入試の概要
高等教育機関の入学者選抜は人草と専科学校,技術学院とでそれぞれ別に行われている。
ここでは高等教育において人勢を占めている大学についてみていく。
台湾では長年全土共通試験によって入学入学者選抜を行ってきた。この共通試験を「連 合試験」(聯考)とよんでいるが,連合試験は1954年に開始,2001年を最後に廃止され
るまで48年にわたって実施された。この間,激烈な受験競争を抑き,その心理的圧力と ともに暗記中心,知育偏重などの教育への弊害が指摘され,受験生の能力を多面的に評価,
受験機会を複数化する多元入学へと改革された。
現在は,連合試験の流れをくんで共通試験(「指定科目試験」)の成績と本人の志望に よって大学ごとに入学先を振り分けていく「試験配分入学」(考試分発入学)と,別の共 通試験(「学科能力検定試験」)と大学ごとの試験(書類審査,面接,学科試験等)で選 抜する「大学独自選抜入学」(大学甑選入学)の2本立てによる「多元入学」(原語)制度 が実施されている。
(1)大学入試改革の変遷
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台湾の学校系統図 学年 牛齢
26
25
2′1
23
22
21
20
19
18
17
16
15
日
13
12
11
10
9
←
■1
6
5
4
(出典)台湾教育部『申♯艮H教肯統計』2()()5年版2真を≠〕とに作J鼠
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初 等 教 育
就 学 前 教 #
(丑連合試験の変遷
大学入学者選抜のための共通試験である遵介試験は,1954年に台湾大学などの公立セ クター4大学の連合入試として開始した。それまで,各大学は独什選抜に試験を行い,入 学者選抜を行っていた。その後,私立入学や専科学校が加わったが,専科学校については 連合試験への参加不参加を繰り返しながら,1972年に完全分離し,以後独自の連合試験
を行うようになった二
大字連合試験は各大学が共同して行う試験として実施されてきた。1976年政府の教育 部が入学者選抜を統轄する組織として「大学入試委員会」を設置し,そのii任委員に教育 部長(人臣)が就いたが,実施に当たっては人草が「試務委員会」を設け,各人学良が輪 番で幹事となって人草の共同実施という形には変更がなかった。その後,試験業務が煩雑 になるに伴い,1988年に入学共同利用機関として「大学入学試験センター」を設立,試 験の実施と研究を担当させることになった。1993年,同センターは財団法人となった。
試験の統轄組織は,その後1994年,政府から大学による「大学連合学生募集委員会」
に移り,再び大学の自主運営となった。大学連合学生募集委員会は1997年名称を「大学 学生募集策進会」と変え,さらに2002年現在の「大学学生募集委員会連合会」となった。
入学者選抜は,連合試験の各科目成績に各大学が独自に重み付けをし,その成績と受験 生の志望にしたがって機械的に合格者を割り振っていく(分発)という方法で行われた。
試験は,募集単位(通常は学科=原語・学系)を専攻分野によって4つのグループ(19(16 年から。当初は3 グループ)に分けて試験科目を組み合わせた。1984年以降のグループ 分けと試験科目の組み合わせは表3のとおりである(‥1)。
表3 募集単位のグループ分けと試験科目(1984年)
分 類 試 験 科 目 重 み 付 け 備 考
第 1 類 (文 , 法 , 商 ) 共 通 : 円 語 英 語
三民 仁義
数 ′1才:, 歴 史 , 地 .哩 学 科 ご と に 重 み 付 け の 科 目 及 び 比 重 (2 5 又 は 5 0 % ) を 決
試 験 の 後 専 攻 志 願 を 提 第 2 類 (理 .=., T .1.) 数 ′17 二, 物 理 , 化 学 出
第 3 類 (理 ふ . 丁一 . 農ム 数 学 , 物 」乳 化 ノ1才:,
匡 ) 生 物 ∵
第 4 甑 (農 .1.) 数 学 , 化 学 , /ヰ二物
川卜典)入学入学試験中心「我国入学入学制度改掛建議書 入学多元入学方案」1992年,85_打
②連合試験体制の見直し
1954年から一貫して実施されていた連合試験について,1980年代末から政府は改革に 乗り出した。1989年に設立されたばかりの入学入学試験センターに対し,改革の検討を5 年計画で実施するよう命じ,センターはその結果を1992年に「我国大学入学制度改革建 議書 大学多元入学方案」として提出した。
同方案は,連合試験の優れた点として,▽公止,公正,正義が保証される実施形態であ る,▽国語,英語,数学の基本学力が確保される,▽経費,時間,ガカが比較的かからず,
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